
江戸料理をこよなく愛する女将が魅せる、
粋な鍋料理
【御料理 山さき】山崎 美香氏日本料理
神楽坂は毘沙門天の向かいの路地に潜む、鍋料理のお店【山さき】。なじみの客であるかのような感覚にいざなってくれる女将の優しい笑顔と、しっとり落ち着く空間、そして何よりもほかでは食べることのできない、絶品の鍋料理が愉しめるとあって、気の置けない仲間たちとやってくる常連客があとを絶たない。独立後5年でミシュラン一つ星を獲得した、女将、山崎美香氏の細やかなおもてなしとは。
江戸料理をこよなく愛する女将が魅せる、
粋な鍋料理
神楽坂は毘沙門天の向かいの路地に潜む、鍋料理のお店【山さき】。なじみの客であるかのような感覚にいざなってくれる女将の優しい笑顔と、しっとり落ち着く空間、そして何よりもほかでは食べることのできない、絶品の鍋料理が愉しめるとあって、気の置けない仲間たちとやってくる常連客があとを絶たない。独立後5年でミシュラン一つ星を獲得した、女将、山崎美香氏の細やかなおもてなしとは。
日本に生まれてよかった──どこか懐かしい、優しさ溢れる和食に出会った時、ふと、そう思う瞬間が、誰しもあるのではないだろうか。数ある名店がひしめく、ここ神楽坂で揺るぎない人気を誇る江戸料理、「ねぎま鍋」で有名な【山さき】の鍋料理も例外ではない。
腕をふるうのは、山崎美香氏。大塚にある1935年創業、老舗江戸前料理店【なべ家】で約8年の修行を経て【山さき】をオープンし、わずか5年目でミシュランの星を獲得、その後もミシュランを毎年獲得し続けている名物女将だ。彼女がお気に入りのジオ・ポンティの椅子やリトグラフに囲まれたおしゃれなお店も、今年で11年目になる。
昔から料理の世界に入りたいという願望はありつつも、世間や親の勧めもあり、企業に就職していたという山崎氏。ただ料理人になる思いは断ちがたく、30歳を目前に「このままでいいのか?」という自問から、転機が訪れたという。
「料理人としてのスタートが遅かったので、修行先は、小さいところで何でも携われる、厳しいお店を選んだんです」と山崎氏。もともと京料理に興味があり、食べ歩きが趣味だった彼女。だが、「京料理は、繊細な出汁が美味しいけど何か物足りない……」と半ば飽きはじめていたころ、この“江戸料理”に出会ったという。
“江戸料理”といってもピンとこない人のほうが多いだろう。実は、日本の食文化が花開いたのは、江戸時代。この頃の料理本は数多く残されていているのだ。料理法や故事来歴などを記した日本最初の豆腐百科『豆腐百珍』を初めて現代訳にしたのが、修行先だったなべ家店主、福田氏だというから、筋金入りの江戸料理畑で育ったことになる。「江戸近郊の野菜や江戸前の新鮮な魚介を使い、素材の旨味を引き出すことを重視した組み合わせなど、多くのバリエーションを楽しめるのが江戸料理の醍醐味なんです」と江戸料理の魅力を語る目はとてもキラキラしていて、料理への情熱、そして柔らかい笑顔の奥にある芯の強さを感じた。
また、江戸料理は見ために華やかな料理が多いのも特徴。胡椒や薬味が意外なところで使われたり、お出汁を濫用せず、素材の出汁こそが旨みになることから、シンプルに水と酒、醤油と砂糖のみを使った煮しめなど、近海で採れたお刺身でも使えるほど新鮮な素材を、贅沢に使うのが江戸前の粋なこだわりの一つなのだ。
今回ご紹介するのは、晩春から梅雨にかけてのジメジメとした空気を一気に吹き飛ばしてくれる、さっぱりとした旬の鍋料理、「相並の梅干し鍋」だ。塩だけで漬けた紀州の梅は、香り高くクエン酸も豊富。
お鍋は、鰹、昆布でたっぷり採った一番出汁と二番出汁の合わせ出汁を使い、醤油と塩で味を整え、親指ほどの大きな梅干しをゴロンとひとつ。丁寧に切り込みを入れ、葛でとろみをつけた相並を、エプロン姿の家庭的な女性スタッフたちが、ちょうどいいタイミングで、フツフツと沸き立つお鍋に浮かべてくれる。続いて、香り高いウドやセリを。野菜は関東で採れる季節感のあるものを添える。
「わざわざお店に足を運んでもらうのだから、家と同じ、ごった煮ではつまらない。一番美味しい時にみんなで鍋を囲んで味わってもらうことが、私たちの幸せなんです」と山崎氏。ここ【山さき】ではひとつのテーブルごとにお給仕がつき、すべての食材をベストタイミングで味わい尽くせるのが魅力なのだ。
続いて、油で揚げた相並と白い山ウドがお鍋に浮かぶ。先ほどの梅干しも程よく煮たところでほぐしていく。最初のさっぱりとした相並から一気にコクと酸味のある滋味深い味わいが口いっぱいに広がった。この変化こそ、飽きのこない江戸料理を愛する山崎氏ならではの、組み合わせが活きたオリジナルメニューなのだ。もちろん〆は、極上の汁かけ飯を。
「旬のものを使う」、「素材の持ち味を生かす」、「親切心や心配りをもって調理する」という三つの大原則をもつ、懐石料理の教え。これを、創業明治35年の茶懐石文化の担い手、【辻留】の先代である辻嘉一氏の著書『懐石伝書』(婦人画報社)から教わり、感銘を受けたという。
なるべくいい材料だったり、旬のものを使うようにしたりという基本から応用まで、この本から学んだことに【山さき】流の解釈を加えることで、どんどんオリジナル料理が生まれたのだ。
御飯と御味噌汁の365日のバリエーションが掲載されていたりと、初めて見た時にとても感動し、以来これを参考に日々勉強しているのだとか。“毎日食べられる料理”がテーマという山崎氏にはピッタリの一冊だという。これを聞き、これから生まれてくる新たな料理に思いを馳せた。
撮影/Matt Mammoto 文/ヒトサラ編集部
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