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  3. 「鮨 ます田」増田励氏インタビュー
増田励 氏 増田励 氏 増田励 氏
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名店【すきやばし 次郎】で修業を重ねた
気鋭の鮨職人

【鮨 ます田】 増田 励 寿司

鮨の名店【すきやばし 次郎】で9年間の修業を重ね、やがて小野二郎氏に「抜群の味付け」とまで評された増田励氏。2014年の1月に自身の店をオープンさせたこの気鋭の鮨職人の仕事の流儀について迫りたい。

Interview

7年間は鮨を握らせてもらえず雑用を繰り返す毎日

――ご自身の地元・福岡県小倉市の老舗【天寿司】を経て、【すきやばし 次郎】の門を叩くまでの経緯を教えてください。

 鮨職人として生きて行こうと考え、地元で一番の店で修業を積みましたが、親方から「鮨で勝負するなら東京に出るべき」と忠告をもらったのがきっかけ。2か月ほど銀座の名店と呼ばれる鮨屋を食べ歩き、衝撃を受けたのが【すきやばし 次郎】の握りでした。個人的な意見ですが他の店とは味の次元が違った、そして自分の目指す味の延長にあると感じました。すぐに修業先としてこの店を選びましたが、最初は門前払い。何度かお願いして、ようやく入店を認められたのは3か月後のことでした。

――【すきやばし 次郎】に9年ほど勤めたそうですが、修業はかなり厳しかったとか。

 同期に3人いましたが皆すぐに辞めて行きましたね。先輩にあたる方や私の後に入店した者でも3カ月もたなかったり、もっと早いと数日で見切りをつけるといったケースも目にしました。理由は各々あるのでしょうけれど、「あの【すきやばし 次郎】で働ける」と夢を抱いて入店するも、なかなか鮨を握らせてもらえないというギャップが大きいのかもしれません。ただ、私はきついとは思わなかった。仮に入店間もなくして「握ってみろ」と言われて【すきやばし 次郎】で鮨を握れる人間がどれくらいいるのか。9年間の下積みはこの店で握れる自信を培う時間だと割り切っていました。

――独立をしようと考えたきっかけは。

 もともと30代になったら独立しようと考えていましたが、いよいよ自分の握りで勝負したいという気持ちが熟してきたからかもしれません。実際に【すきやばし 次郎】で鮨を握らせてもらえるようになったのは、店を辞める1、2年前で、それも毎日というわけではありませんでした。しかし、誤解を恐れずに言えば鮨は握りではなく下ごしらえが重要。もし職人の腕が握りで決まり、数をこなしたほうが良いというのであれば、銀座の高級店よりも回転寿司の方のほうが実力は上ということになる。そういったことを理解してきたタイミングでもありましたね。

【すきやばし 次郎】という土台にどう自分の色を重ねていくか

――2014年1月30日に南青山に店をオープンしました。

 カウンター6席と最大6名までの個室で構成される小さな店ですが、おかげさまで多くの方に贔屓にしていただいています。【すきやばし 次郎】で修業し、独立した職人という評判を聞いて訪ねて来てくれる方もいらっしゃいますが、そういったお客様にいかに満足してもらえるかというのもこの店の責務だと思っています。暖簾分けの店ではありませんが、世界的な老舗鮨屋の名を汚さぬよう、修業で培ったことすべてを一貫に込めています。

――一方で、すし種に「きす」や「かすご(本鯛の稚魚)」を使うなど、【すきやばし 次郎】にはないオリジナリティも発揮しています。

 修業時代に「教わったことしかやらないのは、見習いと同じ」と言われてきましたからね。【すきやばし 次郎】の伝統を踏襲し、そのファンの舌も満足させながら、どうやって自分の色を出していくのかはこれからの課題です。具体的に言えば、すし種もそうですが、シャリにも一工夫を加えています。酢の分量など味付けは【すきやばし 次郎】流ですが、乾燥米をブレンドし、ふっくらプチプチした食感は当店のオリジナルです。

――今後、【鮨 ます田】をどういった店にしていきたいですか。

【すきやばし 次郎】で学び、自分自身でも鮨屋において重要だと考えているのが「気づき」です。お客様と対面して料理を提供するジャンルだからこそ、特にこの部分が職人には求められるものだと思っています。すし種も、カウンター越しのお客様も日によって個性が異なる千差万別のもの。培ってきた経験や技はあくまでお客様との距離を縮める初歩であって、本当に満足していただくヒントはお客様を目の前にしたその場で感じ取っていかなくてはならない。「どんなネタが好きなのか」から「どういった接客を好むのか」まで、その鍵を握るのが「気づき」です。私も含め、スタッフ一同この部分にまだまだ成長の余地があると思っています。

撮影/飯田 悟 文/ヒトサラ編集部(2014.6.5 取材)

シェフの裏ワザ

【鮨 ます田】流のシャリの炊き方

酢をしっかりと効かせた味つけは【すきやばし 次郎】流。 そこに、乾燥度合の異なる2種の米をブレンドし、独特の食感を生み出した【鮨 ます田】オリジナルのシャリ。老舗の薫陶を受けながら、教わったことのコピーに留まらない店主のこだわりを形にしたシャリのつくり方を教わった。 1. 乾燥度合の異なる米2種をブレンド。割合は6合の米に対して、乾燥度合の強い米を4合分(※米は小粒のものを使用する) 2.羽釜で強めの火加減で炊く。ゲストの来店の30分前に炊き上がるようにする 3.【鮨 ます田】の場合、すし酢と塩をしっかりと効かせ、後味はふっくら、プチプチ。「口の中でほろりとほどけながら、2、3粒が残る」イメージ

家庭で再現したい名店の一皿

玉子焼き

「満足に焼けるようになったら独立できる」という格言が残るほど、鮨屋で重要な役割を担う玉子焼き。甘くて濃厚、そしてカステラのようなふんわりとした食感の【鮨 ます田】の玉子焼きは、しっかりと酢を効かせたこの店の鮨の最後を締めるのにふさわしい逸品。今回はこの名店の玉子焼きのレシピを公開します。
  • 材料(2人前)

    芝エビ 800g
  • 大和芋 芝エビの1/3から1/2の量
  • 砂糖 190g
  • 塩 1g
  • みりん 適量(500cc前後)
  • 卵 8個
  1. つくり方

    1.芝エビを裏ごしする
  2. 2.1に大和芋を加え、粘り気がでるまでしっかりと混ぜ合わせる(30分程度)
  3. 3.砂糖、塩、みりんを加える
  4. 4.卵(黄身多め)を混ぜる
  5. 5.弱火で最初はなるべく薄く、何層も重ねあわせるように1時間かけて焼き上げる

増田 励

1980年、福岡県小倉市生まれ。17歳から福岡・小倉の鮨の名店【天寿司】で修業。その後、調理師専門学校を卒業し、鮨屋のほか、割烹【万惣】で日本料理の基礎も学ぶ。2か月銀座を食べ歩き…

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