阿部 淳一 氏
阿部 淳一 氏

独創的なスタイルを持ち、火を自在に操る“炒”の名料理人

【メゾン・ド・ユーロン】阿部 淳一中華

東京・赤坂の駅から長い坂道を上る途中の左側に、モダンスタイルの中国料理店【Maison de YULONG】がある。総料理長を務めるのは日本におけるヌーベルシノワの先駆けであり、また火を自在に使いこなす「炒」の天才料理人のひとりとしても知られる、阿部淳一シェフ。若くして頭角を現し、独創的かつ可憐な中国料理で訪れる人を魅了してやまない、クールななかにも情熱をうかがわせる炎の料理人のヨコガオに迫った。

Interview

炎の料理に魅せられて選んだ中国料理人への道

1980年代に香港で始まった「ヌーベルシノワ」。西洋の食材を使用したり、フレンチや日本料理といった、中華以外の料理技法を取り入れて、洋風に盛り付けるといった「新しい中国料理」だ。今でこそベーシックな中国料理のひとつとして存在しているが、【Maison de YULONG】が開店した1995年頃の日本ではヌーベルシノワを取り入れた中国料理店は少なく、ゆえに斬新な発想の料理を出す店として話題となった。その総料理長を務めていたのが、「炒」の天才料理人としてその名を馳せた、阿部淳一シェフだ。

初めて中国料理の道に入ったきっかけは、学生時代のアルバイト。料理人が厨房で炎をあげて料理をしている姿が凛々しく、料理人になることを決意したという。卒業後、18歳で東京會舘の中国料理店から料理人としての道をスタートし、数軒での修業を経て、上海の名店【上海錦江飯店】が東京・六本木に開店した【東京錦江飯店】に入店。その店の総支配人を務めていた鈴木訓氏との出会いが、阿部シェフの人生を大きく変えることとなる。

伝統に斬新な発想を加えたヌーベルシノワを追求

長い歴史を持つ中国料理の伝統はそのままに、独自の感性や斬新さを加えた【東京錦江飯店】のこれまでにないスタイルの料理やサービスは、日本の中国料理界の中でも注目されていた。阿部シェフはその画期的な店で、中国の料理人から油通しを始め、火と油、水とのバランスにこだわる「炒」の技術を体得。

その後1995年に鈴木氏が独立して開店した、【Maison de YULONG】の総料理長として就任する。フレンチのように少量多種の料理を華やかに盛り付けた繊細な中国料理に、紹興酒や老酒ではなくワインを合わせる新しい中国料理の楽しみ方を提案することで、一斉を風靡するまでになる。7年という歳月を【Maison de YULONG】で過ごしたのち独立したが、オーナーが変わった2008年に再びその腕を求められて赤坂に戻り、現在はさらに進化した独創的な料理の世界を展開している。

そんな阿部シェフの代表料理と言えば、高級食材で知られるフカヒレの姿煮。それもお馴染みの黄金色をしたフカヒレの煮込みではなく、黒く、青ネギともやしが添えられた個性的な逸品『遊龍特製 フカヒレの姿煮込み ~銀絲捲(揚げパン)と共に~』だ。

濃厚な黒の逸品『遊龍特製 フカヒレの姿煮込み』

これは阿部シェフが六本木の【東京錦江飯店】にいた頃に覚え、青山の【オーセ・ボヌール】で鈴木氏とタッグを組んで進化させた、今なお愛され続けるオリジナル。

ネギ油と青ネギを炒めた鍋に、老酒と鶏ガラスープ、中国のたまり醤油やオイスターソースなどを加えたソースをつくる。そこに戻したフカヒレを入れて20~30分弱火でコトコトと煮込み、最後は水溶き片栗粉で仕上げる。とろみを強めにしてあるのでソースは殆どなく、色は黒いが味は見ためほど濃すぎない。洋食の発想を取り入れ、添えてあるのは低温で揚げたパン。

まずはフカヒレの食感とコクのきいた、まろやかで上品な味わいを楽しみ、残ったソースは揚げパンにつけていただく。この調理法は火入れの技術が要されるため難易度が高い料理。常に研鑽を重ね、革新を続ける阿部シェフならではの料理だと言える。

一度は離れながらも、再び【Maison de YULONG】で鍋を振り始めて6年目。「今後は健康を考えた料理をつくっていきたい」と語る姿には、食材を知り尽くし、火と油を自在に操る阿部シェフの独創的な姿勢と自信が感じられた。

シェフの記憶に残るシェフ
~日本におけるヌーベルシノワの先駆者~

ヌーベルシノワの先駆けとして、時代の先端を走り続けてきた阿部シェフの料理人生に、最も強い影響を与えた人物。それは【Maison de YULONG】の初代支配人を務めた鈴木 訓氏だ。

鈴木氏と出会ったのは、東京・六本木の【東京錦江飯店】で働いていた頃。その後、阿部シェフは鈴木氏とタッグを組み、青山【オーセ・ボヌール】、【Maison de YULONG】と「ヌーベルシノワの先駆け」として、ともにその名を馳せるまでになる。
鈴木氏のすごいところは、その人脈の広さ。阿部シェフは彼を通じてイタリアンの片岡護シェフや、フレンチの大渕康文シェフほか、和洋折衷の様々なジャンルの料理人と出会った。彼らと交流しながら料理に対する姿勢やスタイル、考え方などについて影響を受け、本を見たりして研鑽を重ね、独自のスタイルを築き上げた。

「鈴木氏との出会いがなかったら、今のような料理のスタイルではなかったかもしれない」と阿部シェフは感慨深く語った。

撮影/飯田 悟 文/ヒトサラ編集部

シェフの裏ワザ

「ジューシーなエビの炒めをつくるコツ」

中国料理の下ごしらえに欠かせない油通し。特にエビは油通しをしてプリッとした食感と程よいジューシーさを出すことで、料理がより美味しくなる。そこで今回はエビを美味しくする油通しの仕方を教えていただいた。

1.エビの背に切り込みを入れて背綿を取る。
2.中華鍋に多めの油を強火で熱してエビを入れ10秒間、油通しをする。
3.80%ほど火が通ったら火からおろし、余熱で火を通す。

※背の部分を見て半生程度のなるくらいを火が通る目安にするとよい。
※エビを鍋に入れたら、ひっくり返す程度でそれほど動かさないようにし、時間に満たなくても、80%ほど火が通ったくらいでザルにあけるようにしたほうが良い。

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