外国人最年少で仏ミシュラン一つ星を
獲得したシェフ
【KEISUKE MATSUSHIMA】 松嶋 啓介氏 フレンチ
25歳でフランス・ニースに出店、さらに外国人として最年少で仏ミシュラン一つ星を獲得。今なお活発にグローバルな活動を続ける第一人者は、何を考え、どこに向かっているのか?一時帰国した松嶋啓介シェフのヨコガオにシリアスに迫った。
外国人最年少で仏ミシュラン一つ星を
獲得したシェフ
25歳でフランス・ニースに出店、さらに外国人として最年少で仏ミシュラン一つ星を獲得。今なお活発にグローバルな活動を続ける第一人者は、何を考え、どこに向かっているのか?一時帰国した松嶋啓介シェフのヨコガオにシリアスに迫った。
――松嶋さんは、外国人最年少でフランスのミシュランの星を獲ったことでも知られていますが、ミシュランを獲るにも、店がなければならないわけです。日本人の料理人として、何の後ろ盾もなくフランスに店を開いたことが画期的だったと思います。
そもそも前の世代の日本人シェフたちがフランスで修業してきた内容の次のことをやらなければ、結果も評価もないのはわかっていたので、「じゃあ、何をやってないかな」と逆に調べていましたから。フランスでの修業先を探す際にもフランス人と同じ土俵に立つために、日本人が誰も修業したことがないところをあえて探して、手紙を送ってみたりしてましたね。
ただ、ニースに自分の店を出したのは、ぼくが当時フランス語を喋れるようになっていたので、それだけのことだと思いますね。でも、確かに誰も他の料理人はやろうとしなかったことですが、非常識を常識に変えることは、楽しいことなんです。世の中のカリスマと呼ばれる人たちだって、だいたい非常識ですしね。
ミシュランにしても、「獲れるのは当たり前じゃん」と思っていました。それがいつかという時間の問題は別として。今ここでフランス人の三つ星や二つ星のシェフから料理を目いっぱい教えてもらっているのだから、自分が一つ星を獲れない方がおかしいと思っていたわけです。だけど、それも当時の日本人の常識の中では考えられないことだったんでしょうね。
――その自信の源を、松嶋さんはどこで身に付けたものなのでしょうか。
日本で最初に働いたのは酒井一之シェフの下なのですが、師匠から何か突出した能力を付けなければいけないということを植え付けられていたのは大きいと思いますね。僕の場合は、それが南仏料理なんですが。
だから、自分がフランスで修業する時に、どこかに地域を絞ろうと思ったわけです。で、来てみたら南仏がたまたま肌に合って、南仏だけに絞って修業していたんですが、自分は、地中海料理、南仏の料理では、たぶん日本で一番知っている、いやフランス人のなかでも「困ったら、ケイスケに訊けばいいんじゃない?」ってほかの料理人に言われるようになるまで突き詰めたわけですよ。
――実際の店の運営に関して、「オーナーシェフは、アートディレクターでなければならない」ということもおっしゃっていますよね。
フランスでいう「シェフ」というニュアンスが、日本ではなかなか伝わらないので、そういう言い方になってしまう部分はありますね。シェフは、店を総合的につくりあげなければならないわけですから。
あくまで飲食業をやっているので、僕はお客さんとの繋がり方とか関わり方みたいなことを大事にすべきだと思うんです。食を通して、お客さんがサービスを通して、シェフとも絆を結ぶはずなんですよね。仲良くなって、何度も来てもらえれば、いろいろな料理を食べてもらえるチャンスはいくらでもできるんです。それくらいの自然な感じでお客さんと付き合うのが、日本に限らず、世界中で下手になってきている気はしますよね。お店側が「どうだ、俺の料理は」みたいなスタンスで出すところがあまりにも多いような気がしています。レストランの本質を考えると、それはなんかさびしいなって思うことも多いですね。
――確かにそういう見方もできますね。
レストランがそもそもなぜできたかっていうことさえ、今は知らない人が多いんじゃないですか? 先日、フランスを代表する5人のシェフに選抜された際のインタビューで、「シェフにとってガストロノミーとは何か」って聞かれたんです。そのときに、「その国、その一時代を表すものであったり、その文化のメッセージを表すものだ」と答えんです。「レストランでの食事は常に政治と共にあったり、いろんな大切な時代の変化とともにある」と。なぜかと言うと、何か時代にとって大切なことを決める時には、必ず会食がともにあって、その時の会話で決まることが多いわけです。
「レストラン」という語源にしても、回復するっていう意味ですし、やっぱり来て、楽しかったよ、美味しかったよ、元気になったよって言ってもらえることが本来の意味です。そうやってきちんとレストランをやっていれば、信じられないくらい色々な人と出会えますし、お客さんともお互いに得になる仕事の話はしますから、世界はどんどん広がっていきますよね。なので、最近は「evocation=喚起する」ということをテーマにしていますね。
――料理においては、具体的にどんなところに繋がっていますか?
自分も日本のお店では一時期やっていたんですけど、日本の食材のみを使ってフランス料理と言うのはやめようと思っていますね。例えば、ノルウェイ産サーモンとアメリカ産の米で、寿司だと言われると、日本人だったら「へ?」ってなるわけじゃないですか? それが文化ですよね。
古臭いと言われるかもしれないけど、フランス料理を名乗るんだったら、フランスの気候風土、文化歴史が伝わるような料理を出すべきだと最近は考えていますね。でも、古臭いと思われないように、テクスチャーやデザインを軽くしたり、わかりやすく変えていきながら、出していきたいな、と。ただ、根底に流れるフランス料理のアート的な感覚はなくすことなくね。グローバルな時代だからこそ、自分が生まれた土地だとか、自分が惚れた土地だとかを大切にするべきだと考えています。そういった地域文化の浸透に関しては、料理は重要な役割を果たしているんです。人間形成するために、料理って一番大きく影響しますから。
撮影/松井 康一郎 文/ヒトサラ編集部(2015.9.22取材)
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