





日本の食材に新たな魅力を見出す
フランス人イノベーター
【& éclé(アンドエクレ)】 オリヴィエ・ロドリゲス氏 フレンチ
フランスの2つ星、イタリアの3つ星レストランで腕を磨いた後に訪日。そこで目の当たりにした日本の食材の質の高さに魅了され、あまつさえ自身のスペシャリテの軸に据えたオリヴィエ・ロドリゲスシェフ。日本に拠点を構えた “外国人”ならではの視点でみた日本の食材の魅力、ひいては日本の飲食業界の可能性を氏に伺いました。
日本の食材に新たな魅力を見出す
フランス人イノベーター
フランスの2つ星、イタリアの3つ星レストランで腕を磨いた後に訪日。そこで目の当たりにした日本の食材の質の高さに魅了され、あまつさえ自身のスペシャリテの軸に据えたオリヴィエ・ロドリゲスシェフ。日本に拠点を構えた “外国人”ならではの視点でみた日本の食材の魅力、ひいては日本の飲食業界の可能性を氏に伺いました。
――フランスの【ル・シャンテクレール】【レ・ジャルダン・ドゥ・オペラ】(ともに2つ星)から、イタリア【エノテカ・ピンキオーリ】(3つ星)へとジャンルチェンジされたきっかけは何だったのでしょうか。
キャリアをスタートさせた【ドン・カミーヨ】や【ル・シャンテクレール】はフランスの南東部に位置し、イタリア料理の影響を少なからず受けていたエリアであったこともありますが、一番は単純に興味があったから。これは日本人の方がフレンチやイタリアンを学ぶ動機と同じで、それ以上の特別な意味はありません。
途中でジャンルを変更したという点については、外国料理を現地で学ぼうとする際に海を越える必要がある日本と、陸続きの我々とでは捉え方が違うのかもしれませんが何の不思議もないと思っています。
日本においても北と南とでは取り扱う食材や料理が異なるように、北から南すべてをひっくるめてフランス料理と定義されることのほうが料理人としては大ざっぱな括りだなと思うのです。そういった意味では、フランス北部よりよっぽど近くの料理を学んだことになりますよね。ようはどんなジャンルを学んだかよりも、学んだことをどう咀嚼するかのほうが一シェフとして重要だと思っています。
――2000年に【エノテカ・ピンキオーリ】の東京支店の赴任のタイミングで来日されたそうですが、それまで日本の料理についてどんな印象をお持ちでしたか。
知識も印象もほぼなかったです。【エノテカ・ピンキオーリ】という確固たるブランドがあり、そのフィロソフィーを伝えることこそが大前提なので、日本に関する知識がないからと赴任そのものに戸惑うことはありませんでしたが、やはり現地の食文化や食材は知る必要がある。ですから、来日間もなくは未知の食材と文字通り向き合い、積極的に他のお店へ料理を食べに行きました。そこで気づかされたのは、日本の食材の質の高さ。きめ細かく奥深き味わいに一気に興味がわきました。
厨房に目を向けると、スタッフの優秀さに驚かせられました。私の印象では、フランスやイタリアでは数人の天才で厨房を切り盛りする一方、スタッフ全体の平均値をとれば日本のほうがレベルは上。さらには厨房だけでなく、サービススタッフやお客様のレベルの高さにも驚きました。日本の飲食店が概ね、平均以上のクオリティを保っている理由もこういったことが背景にあるのかなと思いました。
――2015年7月に満を持して【& éclé】をオープンしました。ネオビストロを謳った同店のなかでも、日本人にとって何よりも馴染みの深い食材である「お米」をスペシャリテの軸に据えた『クーリシャス』が注目を集めています。
2005年に「マンダリンオリエンタル東京」内にオープンした【シグネチャー】でメインシェフを務め、2007年から退任までの間にミシュランの1つ星を獲得したことで、私自身の名前を知ってもらうきっかけにはなりました。ただし、【&
éclé】では、ミシュランクオリティのガストロノミー技術を使った料理を“より多くの人に気軽に楽しんでもらう”のがコンセプト。これを実現するためには価格設定はもとより、普段、高級フレンチを口にしない方にとってもキャッチーなメニューが必要だと考えました。
試行錯誤を重ねて辿り着いたのが、「お米」を使った料理。この食材に私流のアレンジを加えることで、日本人にとって馴染み深い味わいでありながら、今までになかった料理を生み出せると確信しました。
――『クーリシャス』には、玄米や黒米、赤米などメニューすべてに異なる「お米」を使用していますね。
一般的に日本では「香の物(漬物)」や「止め椀(味噌汁)」などと一緒に提供される、いわゆる白米を使った「ご飯」が王道。ですが、私は「お米」とあらためて向き合い、白米以外での提供の仕方、従来と違う方法でこの食材のポテンシャルをさらに引き出せないかと考えました。
そこで日本中を見渡してみると、全国には数多くの種類の「お米」があり、それぞれ色や味わいに個性がある。それならば、「お米」を肉や魚、野菜と同等に捉え、日本ならではの旬の野菜をたっぷり使って仕上げるフレンチソース“クーリ”とシリアル、これらと相性の良い銘柄を組み合わせて調理してみようと思ったわけです。
フランスやイタリアにも多くの日本人シェフが活躍していますが、彼らは自国の人間では思いつかないような発想をもって、時にその国の料理の新機軸を打ち出し、食文化の発展にまで寄与しています。今回の私のアプローチもそうですが、自国の食材や料理だからこそ気づけない新たな切り口を提案することは我々“外国人”の役目なのかもしれません。
――15年という時間を過ごし、あらためて日本の食材、日本の料理についてどういった印象をお持ちですか。
私が注目している食材は「お米」に限ったことではありません。【エノテカ・ピンキオーリ】や【シグネチャー】時代のツテで、標高1,000mの肥沃な土地で旨味を凝縮させた長野県塩野入さんの「カラフルミニ野菜」、植物性堆肥を使用して身体に優しく濃い味わいの野菜をつくる千葉県・山武市の飯島さんの完熟にんじん「ひとみ五寸」、函館魚市場の名目利きである川村淳也さんの海産物、滋賀県古株さんがつくるチーズ「つや子フロマージュ」なども仕入れています。
この素晴らしい食材をどう調理していくか。基本的にこれらの食材は日本にいるすべての料理人に平等に振り分けられるわけですから、調理法には個性が必要。ですからフレンチやイタリアン、さらには和食といった窮屈な枠にとらわれず、私自身の経験と腕をもって、唯一無二のオリジナルの料理に仕上げていきたいと思っています。
――お話を聞いているとジャンル以上に、シェフのオリジナリティが今後は重要だと感じられます。
勘違いしてほしくないのですが自身のベースとなる料理は必要で、1つのジャンルを極めること、伝統を踏襲することも一つの個性です。それを踏まえたうえで、料理人として個々が理想を追求するうえで、皆が1つのジャンルに終生とどまっていなくてはならない理由はないと思うのです。特に一人ひとりのスキルが高い日本の飲食業界において、他の店との差異化を図るためには、シェフ自身の個性を打ち出していくことが今後ますます必要となってくるはずです。 店名である【& éclé】は、フランス語の「éclectique(折衷的)」を用いた造語です。私自身の経歴を肯定し、さまざまなスタイルやアイデアを融合させた、世界で私だけのスタイルを日本の飲食業界に発信し続けること。こういった考えをもつシェフが増え、切磋琢磨することで、日本の飲食業界はもっと大きく発展していくものだと思っています。
撮影/中込 涼 文/ヒトサラ編集部
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