新年の幕開けすき焼き
数ある鍋料理の中でも特に人気が高く、新年や祝い事など、人が集まるハレの日に食べることが多い「すき焼き」。各地でつくり方が異なり、関東風・関西風など地域性あふれるのも魅力のひとつです。そんなすき焼きを食べに、老舗のすき焼きの店を訪れてみませんか?
数ある鍋料理の中でも特に人気が高く、新年や祝い事など、人が集まるハレの日に食べることが多い「すき焼き」。各地でつくり方が異なり、関東風・関西風など地域性あふれるのも魅力のひとつです。そんなすき焼きを食べに、老舗のすき焼きの店を訪れてみませんか?
【江知勝】東京・本郷
地域によっても違いがあるすき焼きは、出汁に醤油、砂糖、みりんや酒などを加えた割下に、野菜や肉を入れて煮込む「関東風」と、最初に肉だけを焼いて味わってから野菜や豆腐を加え、醤油や砂糖を入れて野菜や豆腐の水分で煮込む「関西風」とに大別されます。
数ある関東のすき焼き店のなかでも、老舗の名店として知られているのが、130余年の間、その暖簾と味を守り続けてきた、東京・本郷にある【江知勝】。 すき焼きは肉の良し悪しが味を決めるといっても過言ではない料理。それだけに、肉の質にはとことんこだわり、【江知勝】ではA5等級国産黒毛和牛の雌牛、あるいは去勢済の牛のみを使用しています。
肉は産地には敢えてこだわらず、長年付き合いのある指定業者に依頼。仕入れる際には、肉専門の料理人が、肉の質やキメの細やかさ、また脂のノリ具合を触って確かめながら決めていきます。こうして仕入れたももやロースのほか、ざぶとんなどの稀少部位も含めた20種以上の肉から、『黒毛和牛 すき焼』や『しぐれ煮』など、適した料理に合わせて使い分けているのです。
肉とともに味の要となるのが割下です。関東風のすき焼きに欠かせない割下は、予約人数分を女将が前日につくり、一晩寝かせてから使います。蕎麦の「かえし」や鰻の「たれ」のように継ぎ足しはしないが、醤油ベースで関西風に比べると濃いめに仕上げた濃厚な味わいは、出汁や日本酒を加えたり、差し引いたりと、店を営むなかで微調整を繰り返し、独自に生み出したこだわりの味。ここに春菊やネギ、シイタケ、白滝、焼き豆腐を加えて煮込み、最後に肉を入れます。
肉は赤身がほんのりと残っている程度で引きあげ、卵をつけていただくのがコツ。肉と脂の質、キメの細かさに合わせて厚めに切った肉に濃厚な割下と野菜の旨みがしみ込み、絡んだ卵のまろやかさが程よい甘みを引き立てる現代のすき焼きは、高級料理としての品格さえ漂います。
しかし「しょせん鍋物」と【江知勝】の先代が言うように、すき焼きは大人数で鍋を囲み、皆でつつきながら楽しく盛り上がる、もともと日本を代表する庶民のごちそう料理。ハイカラな文明開化の香りがする日本の伝統料理を、肩肘張らずに仲間と味わいたいものです。
【いし橋】東京・神田
醤油と砂糖で味付けられた家庭料理は、日本人になじみ深いもの。肉じゃが、親子丼、すき焼きの割り下も然り。昨今、一般的な鍋料理のように家庭の食卓に浸透しているすき焼き。ミシュランの星も獲得した神田の老舗【いし橋】は、関東すき焼きの基本である汁気の多い鍋で“煮る”すき焼きとは一線を画しています。
創業明治5年。肉屋直営店として開業し、明治12年から割り下の秘伝レシピを歴代の女将が継承。「鍋は繊細。家庭で食べているのは“すき煮”です」と語るのは5代目店主の石橋伸介さん。焦げやすい醤油と砂糖の鍋を少ない割り下で“焼く”ため、専属の仲居さんが付きっきりで全ての調理工程を担います。
温めた鍋に牛脂を引き、割り下を広げて一枚一枚を丁寧に焼きます。最初は割り下を濃いめにして肉だけを焼き、後に豆腐や春菊や白滝などザクも投入。鍋が煮詰まってしょっぱくなること、さらに溶き卵に味が移ることを加味して徐々に割り下を薄め、絶妙な味を保ちます。
最後にかけるサバイヨンソースは泡のように軽く、アスパラガスをふんわりやさしく包み込みます。グリーンとホワイトのアスパラガス、それぞれの良さをシンプルに味わう、そんな贅沢をしてみませんか。
赤と白、霜降りのコントラストが美しい桜色の肉を卵にくぐらせて口に運ぶ、最初の一口こそ至福の瞬間。卵の濃厚な味わいと割り下の優しい風味が黒毛和牛の旨さを引き立たせ、ふんわりとした甘味が口いっぱいに広がります。 胃を刺激する鍋の芳香。甘辛い味付けが秘める安心感。変わらない場所で、変わらない味に満たされます。
【モリタ屋 東京丸の内店】東京・丸の内
どのエリアが“境界線”かの議論はさておき、砂糖と醤油で焼く関西風、割り下で煮込む関東風のすき焼きが存在するのは周知の事実。「関東風も良いけど、今日は関西風のすき焼きでも食べるか」。そんな思いに駆られたことがあるすき焼きファンならお気づきかもしれませんが、実は東京で関西風すき焼きを謳う店は、至極少ないのです。
「何が“障壁”になっているのか私も分かりませんが、確かに東京エリアで関西風のすき焼き専門店を探すのは苦労するかもしれません」。そう語るのは、地元・京都で老舗として名高い【モリタ屋】の唯一の関東支店【モリタ屋 東京丸の内店】の店長、矢嶋氏。丸ビル35階という、東京駅からすぐという立地も相まって、全国の関西風すき焼きのファンを中心に連日、予約の絶えない店です。
関西風すき焼きの違いを「肉の味がストレートに伝わる」と説明する矢嶋氏。当然、この調理法に“耐えうる”肉質がこの店の魅力のひとつです。それもそのはず、牛肉の卸売として創業し、現在は直営農場も持つ【モリタ屋】。自社生産の希少銘柄「京都肉」ほか、長年培ってきた確かな目で厳選したA5の黒毛和牛をすき焼きで供してくれます。
1人前75gと大判なのも「肉の味をくまなく味わってほしい」という店の自慢の現れ。“焼く”ことでふくよかな香味もプラスされた「関西風すき焼き」をご堪能あれ。
【雅山GARDEN】東京・麻布台
日本三大牛に数えられる山形の米沢牛。昼夜の寒暖差が程よいサシを生み、飼料となるリンゴが身肉に甘みを加えるとされるこの牛肉に魅了された一人がこの店の先代オーナー。
「米沢牛の美味しさを余すことなく伝える調理法を考え抜いた末に至ったのが、『塩すき焼き』だったようです」と、その跡を継いだ胡子秀樹 総支配人は、生誕秘話を説明します。
ポイントは、“米沢牛の美味しさを余すことなく”という部分。米沢という産地だけに飽き足らず、最もポテンシャルの高い生後35か月の雌牛のみを使用。肉を絡める鶏卵も同郷で相性の良い山形産のものを仕入れているそうです。
テーブルに運ばれたA5ランクの米沢牛は、まずは雌牛の牛脂をなじませた鍋で、香り付けのネギと一緒に焼きあげます。ここで3~4種類のものを、肉質やサシの入り具合で調合を変えるという塩で軽く味付けし、仄かに色が付いたタイミングで引きあげ、溶き卵に浸して食します。
2枚目以降は自慢の塩ダレで野菜とともに軽く煮こみ、同様に溶き卵に絡める。口にすれば、肉、塩ダレ、鶏卵の味が一糸乱れず順序良く、隊列を組んで広がります。米沢牛のポテンシャルが高いからこそ成り立つ、肉の味を前面に押す繊細な味付けの塩ダレ。さっぱりした後味も特徴で、これが旧来のすき焼きを食した後で感じ得ない“明日も食べたい”リピーターを続出させている理由のようです。
PICK UP
パプリカやししとうなどの唐辛子類が旬を迎え、ビールのお供、枝豆も欠かせません。トビウオやスズキ、シマアジも収穫期。
秋の味覚の王様、松茸が店頭に並びます。サンマの水揚げがはじまり、たっぷりと脂がのった戻り鰹の季節です。
収穫の秋、里芋類やカボチャなどがおいしくなる季節です。サンマに脂がのり、イワシやニシン、イカがなども旬を迎えます。
ズワイガニ漁、サクラエビの秋漁、さらに山の幸ジビエの狩猟が解禁。サツマイモやカボチャなどの甘味もピークです。
鍋に最適な冬野菜の白菜や大根、春菊がおいしい季節です。海の幸もカキやホタテが旬を迎え、魚は脂がのって旨味が増します。
年が明け、旬を迎える魚が一年で最も多いのがこの時期。アマダイやアカムツ、イカやアカガイが出まわります。
ホタテやタラ、あんこうなど鍋に入れたい魚が豊富。蕾菜やアスパラ菜などが花芽を伸ばし、春の訪れはすぐそこです。
富山のホタルイカ漁が解禁。あさりや蛤などもおいしく、潮干狩りのシーズンを迎えます。山菜が出始めるのもこの頃。
アスパラガスやたけのこが出まわり、新タマネギや新ジャガイモの収穫も始まります。真鯛や鰆も獲れ、春到来です。
初鰹が最盛期を迎えます。野菜は、絹さややスナップエンドウなどの豆類がおいしい季節となります。
キュウリやピーマン、空芯菜やつる紫などの夏野菜が出始めます。海の幸は鮎やキス、トビウオ、マアジが旬を迎えます。
スズキやトビウオ、真アジに加え、鮎やハモも旬真っ盛り。茄子やズッキーニ、ゴーヤーなどの夏野菜が食卓を彩ります。