至福の逸品~dish stories~ vol.19

活穴子を小粋に味わう 江戸の夏「穴子の小鍋」~穴子料理 ます味~

ふっくらと焼き上げた身にツメを塗って味わう寿司が人気の穴子。鰻に並ぶ夏の風物詩であり、「西の鱧、東の穴子」としても知られる。江戸の昔から穴子料理の専門店があったといわれている。稚魚は「南海の妖精」として珍重されている「のれそれ」。今回は、ビタミンが豊富で脂質をほどよく含む、穴子の種類や栄養、味わい方についてご紹介しよう。

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撮影/岡本 裕介

江戸前を代表する夏の味覚「穴子」

夏の味覚であり、西の鱧に対する夏の風物詩としてあげられる穴子は、実はウナギ目アナゴ科に属する魚類の総称。鰻に似た、細長くぬるぬるした海水魚で、150種以上があるといわれている。生息地も砂泥地から深海まで種類によって異なるが、日本では主に「マアナゴ」と呼ばれる、浅い海の砂泥底に生息しているものが食用として使われている。孵化して間もない、20㎝くらいの透けた稚魚のことを「のれそれ」(別名:南海の妖精)と呼ぶ。のれそれが、海流にのって流れることで成長していき、1年以内に体が変化して、小さな「めそこ」、成魚の「穴子」へと育っていく。産地は内湾(東京、瀬戸内)のものと、外湾(九州)のものに大きく分かれている。硬さや味わいは季節によっても変化するが、一般的に外湾の穴子は荒海でもまれながら育つため、弾力と食べ応えがあり、活きがよい。比べて江戸の穴子は穏やかな内湾で育つため、身は繊細で柔らかく、味も上品だ。

【ます味】で使われるのは、江戸前穴子と、対馬や日本海でとれた、3年ものの穴子。九州・川辺で獲れた真穴子は、荒海で育つため、頭を落としてもなお暴れるほどイキがよい。

脂とのバランスが秀逸な、栄養に優れた白身

白身が特徴で、脂はあるものの鰻よりは少ないため、味わいはあっさりとしており、蒲焼や寿司、天麩羅のほか、ローストやグリルなど、和洋さまざまな料理に使われる。ビタミンAやE、脂質を多く含み、エイジングケアや生活習慣病にもよいとされるなど、栄養的にも優れた食品だ。そんな穴子料理の魅力を存分に堪能できる店がある。かつては江戸に存在し、戦時中の空襲で消滅してしまった穴子料理の専門店を、「自らの手で再現したい」と、ご主人の増井 司さんが21年前に開いた【穴子料理 ます味】だ。料理はすべてコースのみ。これまで培ってきた料理の技術を踏襲し、先付から刺身、お食事まで穴子づくしとなっている。すべてが穴子のみ…と聞くと、飽きがくるのではないかと思うが、そこは銘店【辻留】で16年の経験を持つご主人の腕。懐石料理の技術を駆使して作られるコース料理は一つとして同じものがなく、一品ごとに異なる食感や味わいを楽しむことができるよう工夫されている。

6月~8月に旬を迎えるアップルマンゴー。リンゴのように赤くなるのが特徴で、果汁が多く、とろけるような濃厚な味わいとほどよい酸味が人気。

穴子の旨みを存分に味わい尽くす、『穴子の小鍋』

最初の先付から、ご飯ものまで、穴子をあらゆる味わい方で楽しむ、【ます味】のコース料理。なかでもメインとなるのが南部鉄の小鍋を使ってつくる『穴子の小鍋』だ。穴子の骨と水でとった「穴子の出汁」に、ほんの少し醤油をたらしてつくった鍋汁。ここにゴボウと洗いネギ、穴子を加えて煮込む。ゴボウやネギの旨みが染み込んだ、素朴かつ滋味豊かな穴子本来の味を、まずは堪能する。次に運ばれてきたご飯を鍋のなかに加え、煮込んでおじやをつくる。待つ間は、コースで出てくる「白焼」の尻尾部分を残しておき、おじやになる直前の煮詰めた汁に白焼をつけていただく。わさびの風味が際立ち、濃厚な汁がしみこんで味に深みが増した白焼には、料理に合うようにつくられた日本酒『ます味』がよく合う。最後は旨みの染み込んだおじやを、そのまま煮詰め、おこげにして香ばしさを楽しむのも一興だ。戦争の空襲で無くなってしまった江戸の穴子専門店の味は、【ます味】によって再現され、世界中から訪れるファンの舌を魅了し続けている。

鍋を食べ終わった後の汁に、ご飯を入れておじやをつくる。待っている間に、少し残しておいた白焼にワサビをのせ、汁につけていただくと、3通りの味わい方が楽しめる。

常連客が勧める逸品 ~穴子の白焼~

常連客が勧める逸品 ~穴子の白焼~

穴子の白焼(コースのなかの一品)
炭の火加減を見ながら、両面を短時間で焼き上げる、穴子の白焼。ふっくらと焼き上がるのは身が生きているという証拠。それには活け穴子をいかに素早くさばくことができるかということがポイントとなる。焼き上げた穴子は、瀬戸内の荒塩もしくは卸ワサビとネギで味わうほか、鍋を食べた後の煮つめ汁にワサビを付けた白焼をつけて味わうのが通。

[穴子料理 ます味]の料理メニューを見る

季節の一品 ~穴子素麺~

季節の一品 ~穴子素麺~

穴子素麺(コースのなかの一品)
コースの〆に登場する穴子ご飯。夏は穴子素麺に変更することができる。素麺の上に細切りにした穴子の蒲焼、キュウリ、ネギ、大葉、ミョウガ、水菜をのせ、海苔と胡麻を振りかけていただく、涼を感じる一品。希望があれば、温麺にも対応してくれる。穴子ご飯と並ぶ季節限定の隠れた人気メニューだ。

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このページで紹介したお店

穴子料理 ます味

穴子料理 ます味 【東京・四ツ谷三丁目】

【営業時間】
月~土 17:00~22:30(L.O.21:00)(要予約)
火~土 12:00~13:30(L.O.13:00)(要予約)
【定休日】
日・祝
【TEL】
03-3356-5938

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編集後記

東京の下町風情が色濃く残る街、四谷三丁目。細い路地に銘店が多く佇むビルの地下1階に、江戸時代から戦前まで存在していた穴子専門店を再現すべく、21年前に暖簾を掲げた【穴子料理 ます味】がある。ご主人の増井さんは懐石料理の【辻留】で16年の修業を積んだ方。過去の文献を読んで興味を持ち、東京から九州まで穴子を食べつくす旅をして、産地で変わる穴子の種類や味わいを学んだという。お店で提供される穴子料理は、先付の肝の佃煮から始まり、薄づくり、白焼、小鍋、ご飯もしくは素麺に至るまで、すべてが異なる食感と味わいに驚く。細部にまでこだわるご主人、増井さんの心意気を味わい尽くしに再訪したい。

穴子料理 ます味

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