至福の逸品〜dish stories〜 vol.08

冬のごちそうジビエ「鹿肉のロースト」Bistro×Ristorante A-cube

食通の誰もが心を踊らせ、待ちわびるジビエ料理。
ジビエってなに?―そんな人にも、ぜひ今日から足を踏み込んで欲しい。ジビエとは狩猟で得た天然野生鳥獣の食肉のことで、古くから狩猟によって食料を得てきたヨーロッパの人々にとっては、かかせない冬のごちそうだ。晩秋から冬にかけてたっぷりと栄養を蓄え、旬を迎えたジビエがもつその魅力にとくと迫ってみよう。

撮影/Matt Mammoto

季節にぴったりな他では手に入らない逸品

三軒茶屋駅より世田谷通りを約10分ほど歩き、路地に入ると住宅街にひっそりと佇む。こんなところにお店?というまさに穴場なお店。本場北イタリアはベルガモの、1つ星レストラン「Frosio(フロジオ)」にて修業を積んだシェフがお届けする、旬のジビエと本格イタリア料理が味わえる「Bistro×Ristorante A-cube」へ行ってきた。

晩秋より冬にかけて旬を迎えた希少価値の高いジビエが楽しめるとあって、近所のファンや郊外からそれを楽しみに集まってくるという。ジビエとは一言でいうと、食用にされる野生動物のこと。代表的なものに、シカ、イノシシ、キジ、雷鳥、山ウズラ、野ウサギなどがある。それぞれ特徴が異なり、時期や産地、餌によって大きく変化するため、取り扱うには十分な知識と経験が問われるとあって、本当においしいジビエに出会うのはかなりの食通でないと厳しいかもしれない。

そんな中、辿りついたこのお店。北イタリアでの3年半に渡る修行を含めた18年間の料理人経験のある伊藤隆志シェフ。一頭をさばける実力派シェフならではの絶品料理が味わえる。今回はイノシシをいただいたが、以前一緒に働いていた知り合いから仕入れる千葉の野生イノシシは小さいものだと半頭買いし、各部位にさばき、余すことなく使い切るという。

その魅力はなんといっても鮮度と状態のよさにある。「ジビエは香りが強くクセがあるイメージが強く敬遠されがちですが、すばやく見事に下処理された国産ジビエは臭みも脂っこさもなく、肉そのものの旨味がたっぷりつまってるんですよ」と力強く語ってくれた。いかに腕利きの猟師に出会えるかがポイントだという。時期や仕入れによっては、雷鳥なども手に入るんだとか。

ローストをはじめサルシッチャ(腸詰)、カルパッチョ、そしてラグーにしてパスタに絡めても楽しめるジビエ。自然の恵そのものであるそれは、まさに冬のごちそうだった。

春から仕込んだ千葉の野生イノシシのハムはちょうど食べごろ。売り切れ御免の人気メニューだ。/【瓜坊の自家製サルシッチャ アーリオオーリオソースの有機人参を練りこんだタリタオーニ】瓜坊とはイノシシの子どものこと。そのソーセージが、イタリア産の唐辛子とにんにくをふんだんに使い香り豊かな濃厚ソースとモチモチのパスタがよく絡み、鼻からぬけるアーモンドの芳ばしさがたまらない

こだわりの焼き加減が味を左右する

今回いただいた「鹿肉のロースト〜赤ワインソース〜」の、この分厚いことといったらすごい。良質な肉の旨味そのものが凝縮され、外はしっかり焼かれているのに中はしっとりとしたレア感がたまらない。このやわらかさと舌触り、噛むほどに広がる爽やかなコクのある深い味わいはぜひ試してもらいたい逸品だ。

松の実に似た香りで少々苦味がある杜松(ねず)の実や、山ブドウを乾燥させたものを使った味つけは、ほどよい酸味がジビエにとてもよく合うんだそう。そして、鹿の骨からとったダシが決め手の赤ワインソースで、野生鹿肉ならではのワイルドな味が表現できるという。

鹿肉は赤身が多いので、ラードを使うことで味がしっかり浸透する。片面をフライパンでしっかり焼き付け、220℃のオーブンで3分。オーブンから出し、裏返してじっくり休める。この“休める”ことによって、究極のロゼに仕上がるんだとか。この、ロゼ=「火が入っている生さ」が類を見ないやわらかさと味わいを引き出しているのだ。

付け合せのグリルは西東京・小平より「江戸東京野菜」を使用。この伝統野菜は、歴史の中で、東京近郊で栽培され、江戸時代より市民の食生活を支え続けている。今が旬の世田谷のブランド野菜「祖師谷の大蔵大根」なども扱う/見て美味しい、食べて美味しいがモットーの伊藤シェフが織り成す創作心から生まれる料理はまさに芸術

常連客が勧める逸品 〜シェフおまかせスペシャル前菜〜

常連客が勧める逸品 〜シェフおまかせスペシャル前菜〜

シェフおまかせスペシャル前菜
1,575円

日替わりで楽しめるアイディア満載の逸品。健康食品(大豆)とビーツで作る“泡”にハマっているというシェフ。塩麹を使ったバーニャカウダソースが野菜グリルをさらにおいしくし、プロシュコット(ハム)の燻製がアクセントに。

ジビエを引き立てる旨い酒 〜赤ワイン〜

ジビエを引き立てる旨い酒 〜赤ワイン〜

ジビエによくあう赤ワイン
ほか約150種 

フランス産赤ワインをメインにイタリアやニューワールドが揃う。メインの「ジビエ」とともにいただきたい、ピノノワール(赤ワイン)など、好みに合わせて常時10種類のグラスワインから選べるうれしいラインナップ。

編集後記

取材に行く時は、お店の扉を開くときになぜかとてもドキドキする。そして今回もその高揚感とともにお店に入った瞬間の雰囲気が、なんとなくとても気に入ったお店。
美術を専攻していた伊藤シェフは、たまたま北イタリアへ旅行へ行ったことがきっかけで、見て、食べて、その魅力にハマり、独学でイタリア語を勉強したとのこと。ミシュランの星付きレストランへ自らアポ取りを行い、修行をさせてもらうというその熱意や当時の話を伺っていると、エネルギーに満ち溢れていてとても素敵な人だな、と思った。その勢いはおさまることなく、毎月イタリアの20州各地の伝統料理を出したり、オリジナルの創作レシピにも力を入れている。色鮮やかなデザートや、いまハマっている“泡”はとても美しく、驚きと発見のあるメニューだ。素材の持ち味をいろんな形でムダなくイタリアンに消化してゆく、その発想に引き込まれるファンが多いのでは。

ホールスタッフではなく、シェフ自ら直接お客様の気分・好みを聞いて旬の食材と合わせたオーダーメイドも可能というサービス精神あふれるこの隠れ家的なお店、とってもおすすめ。

編集担当:K.T

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