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至福の逸品〜dish stories〜 vol.26

江戸の秋を告げる、日本の伝統食『蕎麦』 〜神田まつや〜(東京・神田)

てんぷらや寿司に並ぶ日本を代表する料理であり、江戸のファーストフードとしても知られる蕎麦。喉ごしと独特の香りを存分に楽しめる新蕎麦の時期は、各地の蕎麦処がこぞって「新蕎麦」の文字を掲げる11月だ。美味しい蕎麦の基本は、「挽き立て」、「打ちたて」、「茹でたて」の三たて。地域によって「かえし」の味付けや蕎麦の打ち方が異なる『新蕎麦』の意外なる始まりと、滋味深い味わいについて追及した。

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撮影/大鶴倫宣

11月、江戸の秋を彷彿とさせる新蕎麦の時期

長野をはじめとする各名産地で、蕎麦好きが待ち望む時期がやってきた。てんぷらや寿司に並ぶ日本を代表する食であり、また、昔から江戸のファーストフードとして愛され続けてきた蕎麦。旬は夏と秋の2回あるが、秋に収穫された蕎麦の方が香りや味がよいことから、「新蕎麦」は秋に収穫した粉で打った蕎麦と定義されている。土壌や気温、日照時間によって出来が左右されるが、日本の土壌は蕎麦の品種改良が進んだこともあり、今では北海道、東北、本州、四国、九州と栽培地は全国に広がっている。
日本における蕎麦の歴史は古く、文献を紐解けば、奈良時代には既に食されていたようだが、当時は農民や庶民が飢饉をしのぐために栽培しており、挽いたそば粉を練って「そばがき」にしたり、「そば焼き」にしたりして食していた。それが現在のような「蕎麦切り」になったのは16世紀末〜17世紀初頭。その後、江戸を中心に急速に発展していくこととなる。

11月、江戸の秋を彷彿とさせる新蕎麦の時期

飢饉しのぎの食から栄養価の高い庶民食へ

元は急場しのぎのために作られた蕎麦。だが実は優れた栄養食品という側面も持っている。日本最古の医学書「医心方」にも記載があるように、蕎麦には、血流をよくするルチンや、食欲増進や疲労回復によいビタミンB1 、B2 、アミラーゼやレパーゼといった、消化の促進をうながす酵素などが豊富に含まれており、タンパク質やビタミン、ミネラルを豊富に含む優れた栄養食品として古くから愛されてきた。蕎麦に添えられているネギも蕎麦中のビタミンと融合し、体内での消化吸収をより促進してくれる。簡単・安価に食せる江戸を代表する食品ともいうべき蕎麦は、知らずのうちに人々を健康へと導く、理に叶った庶民食だったのである。
もとは「そばがき」から始まった蕎麦が麺状になったのは17世紀中期からだが、その製法には、つなぎや粉の配合など、様々な種類がある。つなぎに水を使用し、100%のそば粉を使って打つ十割蕎麦、つなぎに二割の小麦粉を混ぜた二八蕎麦が代表的だが、100%のそば粉に二割の小麦粉を混ぜた「外二割」という配合の蕎麦を打つ、江戸の老舗蕎麦処がある。夜20時の閉店時間まで客の絶えない【神田まつや】だ。

(左)そばがきは、ねりが甘いと粉っぽくなってしまう。そのため、力を入れてしっかりと練り上げるのがポイントなのだそうだ。(右)蕎麦を延す時には均等に。気候や湿度によって卵水の量や濃度を変えている。

定番の『せいろ』で、新蕎麦の旨みを堪能

蕎麦は原料の質と粉の挽き方が味を決めるといっても過言ではない。新蕎麦の時期を迎えた【神田まつや】の蕎麦は、茨城産のものを専門農家から仕入れ、指定の製粉会社に細かく指定注文して製粉する。出来上がった蕎麦は、卵水に小麦粉を混ぜたものをつなぎに、木鉢で良く揉み込み、練って弾力を出してから均等に打っていく。細麺で仕上げることで、喉ごしの良さを引き出すのがポイントだ。蕎麦を味わう「つゆ」は、冷・温で出汁の種類から使い分ける。せいろやざるは、本節と宗田節を混ぜ合わせた出汁に甘味の強いみりんと醤油、砂糖でつくった「本かえし」で、かけなどはサバ節でとった出汁をベースに汁の味を決めていく。麺と汁のどちらかが突出することなく、程よい塩梅で仕上げることにこだわる。
出来たての新蕎麦は、まず何もつけずに口の中に入れて噛みしめ、口中いっぱいに蕎麦の香りと旬の味わいを堪能するのが醍醐味。続けて濃いめの汁をつけてツルッといただけば、シコシコとした喉越しの良さが江戸の粋を感じさせてくれる。昔も今も変わらないスタイルを貫く【神田まつや】の蕎麦。老舗ならではの伝統を守り続けている。

せいろには敢えてわさびをつけず、蕎麦本来の風味や、かえしと合わせた時の味わいを楽しんで欲しいと小高さん。最初に少し汁を口にし、つけ具合を調整すると、より美味しく蕎麦を味わうことができるという。

常連客が勧める逸品 〜こだわりの焼鳥〜

常連客が勧める逸品 〜こだわりの焼鳥〜

焼鳥(肉6カン)   800円
脂のノリがよく、身そのものに味わいがあるのが特徴の、茨城・筑波産「あかね鶏」を使用してつくる『焼鳥』。串刺しではなく、肉6カンに白ネギ4本が添えてある。塩なら沖縄・石垣の塩、タレは蕎麦の返しを甘めに煮詰めたタレをからめていただく。コクがあり、甘さ控えめのタレが、肉の旨みを引き立てている。

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蕎麦前   〜ゆ ば〜

蕎麦前   〜ゆ ば〜

生ゆば  700円
蕎麦前として人気の定番メニューである生ゆば。ここでは、2枚仕上げで間に豆乳が残されているのが特徴の「日光ゆば」を現地直送で仕入れ、提供している。出汁のきいた土佐醤油と、おろし立ての山葵でいただく湯葉に合わせる日本酒は『菊正宗』。きりっと辛口で料理の味を邪魔しない、和食に合う酒だそうだ。

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このページで紹介したお店

神田まつや

神田まつや 【東京・神田】

【営業時間】
【月〜金】 11:00〜20:00
 
【土・祝】   11:00〜19:00
【定休日】
【TEL】
03-3251-1556

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編集後記

下町の風情が漂う外観に、老舗の貫録を感じる、明治17年創業の蕎麦処。そろそろ新蕎麦の時期。せっかくなので、取材前に食事をしようと取材時間よりも30分早く店に到着。閉店時間ギリギリだったので、間に合わないかと思ったが、蕎麦をいただくことができた。店内には年齢層の幅広い客が集い、酒やつまみ、蕎麦を楽しんでいる。客として江戸の空間ごと堪能した後に、【神田まつや】として継承すべきこと、蕎麦へのこだわりなど、さまざまな話を伺った。父の後ろ姿を見て修業を重ね、鍛錬を続けている4代目の「伝統にあぐらをかかず、昔ながらのスタイルを守っていきたい」という言葉に感じる老舗の重み。下町の風情あふれる店をふらりと訪れ、江戸の粋スタイルでつまみや蕎麦を楽しみたいと思った。

神田まつや

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