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  3. 「瓢亭」髙橋義弘氏インタビュー
髙橋義弘 氏 髙橋義弘 氏 髙橋義弘 氏
髙橋義弘 氏 髙橋義弘 氏 髙橋義弘 氏

世界にその名を馳せる
京料理の老舗の若き15代目

【瓢亭】 髙橋 義弘 京料理

創業450年、ミシュラン3つ星にして京料理の陣頭に立つ【瓢亭】。
世界各国のグルマン達の耳目を集めるこの名店を率いるのが15代目の髙橋義弘氏です。老舗の重圧を感じさせることなく、天衣無縫な仕事ぶり光る、この若き主は今何を見て、どこへ進もうとしているのか。そのヨコガオから紐解きます。

Interview

伝統とは知識と美意識の集積であり、しがらみではない

――名のある老舗の主となる、という決意はいつ頃から意識されたのでしょうか。

【瓢亭】に生まれ、幼い頃に自宅で卵を焼いたりはするものの、あくまで物づくりが好きということの一環。料理人になり跡を継ぐのだろうなとは考えていましたが、それに対するプレッシャーなどは特に意識せずに育ちました。その後も義務教育を終えて、早々に修行に入る、なんてこともありませんでしたし、生まれ育った京都から一度離れて、知見を広めたいと東京の大学に通うことも許してもらいました。大学卒業後、金沢の料亭【つる幸】さんのもとでお世話になり、いよいよ当店に戻るわけですが、振り返れば、自分の選んだ好きな道を通って自然と今いる場所に辿りついたという印象です。

――いざ15代目を継いだことで、現在その重圧などは感じていますか。

 代々受け継がれてきた【瓢亭】の味や空気感を楽しみにしているお客様がいて、そういったニーズや期待にしっかり応えていかなくてはならないという思いはあります。また一方で、時代とともに変わっていく環境に順応し、それに即した新しいものを私が提供していかなくてはならない、とは考えていますね。
 15代続けてきたお店ですから根本からすべてを変えるのは難しいですが、一方で、過去にこうだったから続けていかなくてはならない、といったルールは基本ありません。伝統とは知識と美意識の集積であり、指針。決して、意固地に守り続けるもの、しがらみではないのです。名物である『朝がゆ』や『瓢亭玉子』にしても、それまであったものでなくお客様の要望に応えようと生まれたもの。目の前にいるお客様に対して、「当店ならどうおもてなしできるだろうか」という自問自答の連続で今があるのです。

変化はお客様に気付かせぬよう【瓢亭】風になじませる

――新しいことへの挑戦という点において、先代は和食の根幹であり、お店の味を象徴する出汁について、それまでの鰹節から鮪節に変えました。

 先代はそれまでの鰹節の匂いが気になり、「旨味」と「甘み」が強い鮪節にしました。過去の【瓢亭】の味と決別する、これは14代目としてとても勇気のいることだと思う一方で、料理人として常に上を目指そうとするうえでの英断だったと思います。
 実は私も、先代の出汁とは鮪節と昆布の比率を変えているのです。「ウチはこうだから」と満足せず、今あるべき姿は何かを日々自問していくのは料理屋として当然の姿勢。『明石鯛へぎ造り』に添えている「トマト醤油」についても、「繊細な香りや味が好まれる現代ならこの味も必要」と私が判断してつくったものなのです。

――食材の輪郭がより際立つ「トマト醤油」は、まさに今求められている味だなと思う一方で、【瓢亭】らしいなという印象を持ちました。

 意識しているわけではないので説明は難しいですが、新しいものを提供する前には、先代ほか当店の従業員から広く意見を取り入れます。その中で徐々に研磨され、“当店らしく”なっていくのかもしれません。
 あわせて、新たな料理、味付け、サービスを提供しようと考えた時、奇を衒うこと、新しさそのものをウリにするようなことはありません。良いと思ったものに対して、当店であればどのようにアプローチできるか。それが今までにないものであれば、【瓢亭】として違和感がないよう、滲ませて、馴染ませていく。夏が終わり突然冬になってしまうとびっくりしてしまうでしょう。同様にお客様に「変わったな」と、唐突に思われないよう意識しています。

――今後の【瓢亭】をどういったお店にしていきたいですか。

「【瓢亭】とは、こういった店である」という明確な定義はありません。時代の移り変わりや、お客様のニーズに応じて、私たち家族を支えてくれる従業員とともに日々、柔軟な姿勢でお客様が良いと思っているものへとゆっくり進化させていく。四季折々の味があるように、時代ごとの【瓢亭】があって然りだと思うのです。

撮影/黒岩 正和 文/ヒトサラ編集部(2015.10.26取材)

シェフの裏ワザ

【瓢亭】15代目流の食材へのこだわり

日本各地、さらには海外にまで出向き、シェフとの交流や食育活動なども意欲的な髙橋義弘氏。そんな折には、現地で調達した食材を使うことも多いそうです。氏が海外に赴いた際、よく手にしていたのがトマトで、昆布に次いでグルタミン酸が多い、という点に着目して生まれたのが「トマト醤油」。慣習などにとらわれず、今あるもので最大限のおもてなしをする、という思いがこの調味料からもうかがえます。

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