丁寧さへの追及が生んだ、独自の中華
【御田町 桃の木】小林武志氏中華
オープンしてわずか5年でミシュランの星を獲得した【御田町 桃の木】の小林 武志シェフ。彼が伝えたいのは「体にやさしい中華料理」。本当の意味での美味しい中華料理を食べていただきたい、その一心で日々料理を追及し続ける小林シェフのヨコガオに迫った。
丁寧さへの追及が生んだ、独自の中華
オープンしてわずか5年でミシュランの星を獲得した【御田町 桃の木】の小林 武志シェフ。彼が伝えたいのは「体にやさしい中華料理」。本当の意味での美味しい中華料理を食べていただきたい、その一心で日々料理を追及し続ける小林シェフのヨコガオに迫った。
ミシュランが認めた名店【御田町 桃の木】。このお店の料理人である小林
武志シェフは、中国全土の料理に詳しく、その高い技術力が評価されている。
小さな頃から母親の料理の手伝いをすることが日課だったことから、料理に対して抵抗なく育ってきたという小林シェフ。調理師を目指し始めたのは中学・高校時代だったという。大阪の辻調理師専門学校へ進学した頃は、「こういうきれいな料理をつくりたい」とフランス料理に強く魅かれていた。しかし、授業や調理実習で和食や中華など、様々な料理を経験していくうちに、次第に心は中華料理へ。「学生がつくった中華料理がすごくおいしかったんです。食べておいしいし、見たこともない料理がたくさんある。ぜひ中華料理をつくってみたい!」中華料理に目覚めた時期のことを思い出し、小林シェフは目を輝かせて語ってくれた。
そうしてジャンルを中華料理に決め、自己研鑽を重ねてきた小林シェフ。伝統的な中華料理を丁寧につくり、わかりやすい味を追及して確立したのが、“素材の味をそのまま生かす中華料理”というスタイル。
「もっとおいしくしたい、もっと皆さんにわかりやすい味にしたい」と、いつも料理のことを考えているのだそうだ。たとえば、『梨とアボカドのニンニク醤油ドレッシング』。梨の甘み、噛み締めたときのザクっという歯ごたえとジュワっと出るジュースの食感、アボカドのねっとりした食感など、まったく異なる素材の特長を引き出しつつ、にんにくと醤油のドレッシングであっさりとまとめている。一見驚きの組合せだが、これは、素材の味を生かし、わかりやすい味を追及した結果として完成したもので、決して奇をてらってできた料理ではない。
王道の料理に少しずつ色々な考えが加わり、独自に発展して、完成されていく小林シェフのつくる料理。
色々な発想が料理の発展・完成につながり、お客さんが「おいしい」と喜んでくれたり、良い驚きをもってくれる料理になるのが何よりも嬉しいという。
こうして日々発展し続ける小林シェフの料理。その完成系が代表作、『黒酢の酢豚』だ。「中華料理をナイフとフォークで召し上がって頂くのも楽しいんじゃないかと思っていたときに、ちょうどこういうスタイルの酢豚が完成したんです。」
一般的な酢豚とはちがい、大きな肉の固まりを、ナイフとフォークを使って食べる料理だ。豚バラ肉を特製の醤油ダレでやわらかくなるまで煮込み、片栗粉をつけ、油で揚げて、最後に特製の黒酢ダレをつけて完成。外はカリカリとして、中はやわらかくジューシー。肉の旨み、黒酢のまろやかな甘みと酸味がバランス良く絡み、さらに、散りばめられたザクロのフルーティーな酸味がアクセントとなり、料理全体をまとめている。何ともやみつきになる味だ。特製の醤油ダレと特製の黒酢ダレが味のよしあしを決めるという。
ワインにも強いこだわりを持つ小林シェフ。もともと、『黒酢の酢豚』はワイン好きなシェフが、「ワインに合うように」という思いも込めて完成した料理なだけに、ワインとのマリアージュによって中華料理のより深い味わいを生み出している。
今もなお発展し続ける、小林シェフの料理。次はどんな驚きが隠されているのか、完成が待ち遠しい。
小林シェフに影響を与えた人物、それは、現場に出て初めてのお店である吉祥寺【竹爐山房(ちくろさんぼう)】の山本
豊シェフだ。
現場での最初の師匠なので、非常にたくさんのことを教わったという。調理師学校で8年講師をしていた小林シェフは、現場よりも講師の自分たちの方が料理についてたくさん勉強していると自負していた。しかし、実際は現場の人たちの方がもっと勉強していることに気づかされたという。
特に山本シェフは熱心だった。「こばちゃん、もっと勉強しなきゃダメだよ」と山本シェフから漢方の本を差し出されたとき、「料理について、技術面、素材の知識、あらゆることに精通しているのが料理人。いろんな本を読んでたくさん勉強しなくては」と気づき、また同時に、どういう勉強をするべきかという方向性が見えた瞬間だったという。
撮影/岡本 裕介 文/ヒトサラ編集部
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