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  2. シェフのヨコガオ
  3. 「茶禅華」川田智也氏インタビュー
川田智也 氏 川田智也 氏 川田智也 氏
川田智也 氏 川田智也 氏 川田智也 氏

和の心で食材に向き合い、独自の中国料理へと昇華させる気鋭の料理人

【茶禅華(さぜんか)】 川田 智也 中華

【麻布長江】で10年、中国料理一筋。最後には副料理長を務めた川田智也シェフが選んだのは、独立ではなく日本料理店【龍吟】でのさらなる修行。それは、川田シェフが思い描く理想の料理にさらに近づくための経験だった。“和”の心と技を自分の体にしみこませ、帰国後作る【茶禅華】の料理はときに優しく、ときにドラマティックな、音楽の旋律のようなコースメニュー。どの皿も、美しく、薫り高く、澄み切っている。静謐かつ、秘めたエネルギーが宿る料理を作る、川田シェフのヨコガオに迫る。

Interview

日本の食材を生かす、中国料理の作り方を求めて和の道へ

――【麻布長江】の後、今度は和食を勉強しようと思われたのは何故ですか?

 「中華の料理人になりたい」、僕がそう思ったのは幼稚園の時。親に連れて行ってもらった地元(栃木県)の中華料理店で食べた麻婆豆腐や坦々麺が美味しくて(笑)。幼稚園の卒園アルバムには、将来は料理人になる!と書いていたぐらいです。なので、調理師学校時代から西麻布の【麻布長江】でアルバイトをしたり、実際にこの世界で働くようになってからは、中国に何回も出かけては、本場の味、料理を吸収しようと夢中でした。
 でも、向こうで感動した料理を日本で再現しようとしても、うまくできるものとできないものがある。形は、それなりに見えるのに何か足りない。本場の味とは、どこか違うんですね。当然、素材の力強さの違いもある。けれども一方で、日本の食材が中国よりも状態が良すぎる点もまた、味が変わる理由の1つだと気付かされました。中華の技術で調理しても、日本料理のようにその素材の味の鮮烈さが伝わらないんです。
 そんな思いを重ねていくうちに、日本で国産の食材を使って料理を作っていくのなら、もっと日本の食材について知らなくてはいけない、それには、和食の人に教えを請うのが一番だと思ったわけです。

――数ある和食のお店の中で修業先を【龍吟】に決めたのは、どういう理由からでしょうか?

【龍吟】のご主人、山本征治さんは、繊細かつ力強い日本料理を表現できる料理人、そう思ったからです。
 自分が目指しているのは、スープのように素材の味をストレートに引き出す“シンプルで滋味深い味”と、香辛料や調味料を重ねていく“パワフルで力強い味”、この2つを兼ね備えた料理です。 山本さんの料理は、まさに自分が求める料理そのものでした。

“和魂漢才”をモットーに、日本の地で進化する中国料理

――和食の世界で学んだのは、どんなことでしょうか?

 何と言っても食材の扱い方ですね。調理法がシンプルなだけに、食材をベストの状態にしておくことが何より大切。そのための仕込みの緻密さ、温度などの状態管理、これはとても勉強になりました。

――その学んだことを、具体的にどう料理に活用されていますか?

 例えば炒飯。中国では炒める技術にばかり目がいきますが、日本人は炒飯にする前の米の状態に気を配る。米の産地から水、研ぎ方、炊き方まで、ひとつひとつに配慮するのは日本料理ならではの感性でしょう。そのひと手間で、ぐんと美味しくなりますからね。こうした素材へのアプローチは、和食の世界で学ぶことができました。
 調理方法としては炭火焼と藁焼です。スペシャリテの鳩はそのいい例ですね。だしのひきかたも繊細になりました。例えば、雉のスープ。コクを出したいと思い、金華ハムを入れるのですが、煮込まずに、鰹節のようにさっと香りだけ移す要領で仕上げています。

――川田シェフのモットーは“和魂漢才”ですが、“和”と“漢”のバランスの取り方は、どうしていらっしゃいますか?

 僕の目指す“和魂漢才”とは、和と中華のフュージョン料理ではなく、あくまでも、軸足は中華。和食の世界に入ってみて改めて感じたのは、日本と中国が、歴史的にみても深い繋がりがあるんだ、ということでした。
 豆腐も味噌も醤油も、日本の食文化を今、支えているものは、ほとんどと言っていいほど中国から伝来したもの。それらを日本の気候風土と、日本人特有の繊細な感性や知恵が、より進化させてきたんだと思います。
 僕自身の中では、この“和魂”というのは、日本の食材の豊かさ。そして生産者の思いなんです。自分をここまで育ててくれた中華料理に大いなる敬意を払いつつ、それを日本の地で更に進化させていきたい、そう思っています。

お客様を楽しませるために、創意工夫を凝らした
『ティーペアリング』

――お茶ペアリングが素晴らしいですね。これは、川田シェフのアイディアでしょうか?

 僕自身、お酒にあまり強くないので、お酒を飲めない人でも楽しめるドリンクのペアリングがあるといいなぁと、かねがね思っていたんです。その点、中国茶は実に奥が深い。青茶、白茶、黄茶、緑茶、紅茶、黒茶の6種に分類されるほど、味わいや香りの幅が広いんです。
 料理を作りながら、これにはこんなお茶があいそうだなって自然と浮かんでくる。趣味みたいなものですから。お酒もお茶も両方楽しめる、『ミックスペアリング』コースもあります。

――中国茶との出会いはいつ頃からですか?どんなところに惹かれたのでしょうか?

 中国茶に目覚めたのは18歳の時、【麻布長江】に入った頃ですね。当時はまだ見習いで、料理の手伝いもろくにできなくて、料理長に「せめて最後に出す中国茶ぐらいは美味しく淹れろよ」って言われたんです。以来、表参道の【遊茶】さんなど中国茶のお店を回るようになり、すっかり虜になってしまいました。
 初めて飲んだのは台湾の青茶。もう感動しました。香りの広がりが、それは素晴らしいんです。それまで、お茶といえば、渋くて苦くておじいちゃんが飲むもの、みたいなイメージがあったんですが。まぁ、18歳の子供でしたからね(笑)。それが、180度変わった。カルチャーショックですよ。
 それからは、暇さえあれば中国茶巡り。もちろん、産地にも何度も足を運びました。でも、知れば知るほど中国茶は難しく、それだけに魅力的です。現在、ストックしているのは30種ぐらいですね。

――今後の抱負は?

 まだ、オープンして3ヶ月余り。今は日々、滞りなくお客様に料理を楽しんで頂けるように、という思いでいっぱいいっぱいですね。厨房をもっと充実させたいし、サービスにしても、よりきちっとおもてなしできるようにしていかなくては……。
 とにかく今は、まず、チームを作り上げていく時期だと思っています。

撮影/岡本 裕介 文/森脇 慶子(2017.4.13取材)

シェフの裏ワザ

【茶禅華】流、炭火焼へのこだわり

「コ―ス料理には必ず炭火焼を入れようと思っていました」と川田シェフ。「日本の魚はみずみずしく優しい味わい。中国の魚のように揚げて炒めて、みたいな調理法だとせっかくの魚の持ち味が消えてしまうんです」。キンメやのどぐろなど脂ののった魚は特に炭火焼と相性がよく、皮はパリッ、身はふっくらと焼き上がる。スペシャリテの鳩の一皿にも炭火焼の技法が使われている。「鳩を一晩扇風機にあてて風干をし、低温の油に入れた後、藁の香りをつけて炭火で皮目を炙る。藁で香りをつけたり、炙るという技法は日本料理で学んだものですね」。

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