シェフのヨコガオ

撮影/吉田 祥平
文/杉浦 裕

伝統の「摘草料理」を
進化させる老舗の4代目
美山荘 中東 久人 氏

 料理を、食文化のことを
 一生考えていたい 

Interview

京の奥座敷・花背で100年以上の歴史を誇る【美山荘】。
摘み取った季節の草花や旬の野菜に魚を取り入れた美しい「摘草料理」は、
どのように守られ、どのように進化していくのか。
4代目当主・中東久人さんのヨコガオに迫りました。

子供の頃から豊かな食材と自然と触れ合えたのは、
料理人として幸福なことでした

――【美山荘】は、今では創業120年を超える老舗ですが、中東さん自身が、家を継ぐ決心をされたのは、いつ頃からだったんですか。
 子供の頃から決めていたというか、決まっていましたね。こんな山の中ですから、他の選択肢があるようには思っていなかったという感じでしょうか。  料理は、幼稚園くらいからしてましたしね。家に帰ってきて、この辺にゲームセンターも何もないですし、遊ぶ言うたら、川か山か調理場かみたいな感じでしたね。暗くなったら外では遊べないので、調理場にちょこちょこっと来て、なんかすることある?とか言って、つくしのはかま取りとかね、芋の型抜きとかを普通にやっていましたね。
――英才教育ですね。
 いやいや、そういうことではなくて、本当に遊びの一環みたいなものです。つくしって、いつ採れるんだとか、鮎ってこうやって釣るんだ、へえ、面白いなとか、そういう子供レベルの話です。  でも、今思えば、料理人としては、それが良かった部分もありますね。食材をすごく日常的に触れていたのですが、それが仕事という感覚でやっていたわけではなく、遊びとしてやっていたことは良かったな、と。食材に触れるっていうことは、私にとっては義務でやらされている仕事ではない感覚で、今までこれたのは、料理人としては幸せなことですね。
食事の「事(こと)」の部分を、非常に意識しています

――高校卒業後、ヨーロッパに渡ります。フランスでサービスの仕事から始めた理由は何だったんですか。
 食事の「事(こと)」の部分を、僕はすごく意識していたんです。それを含んだ上で、食文化だと思うんですね。日本も食文化という言葉はよく言われるようになってきましたが、まだまだフランスほど食事を楽しんでへんなと僕は思ってたので、ぜひともそのレストランでの楽しみ方を見たかったんですよね。 例えば、今でこそ、フランス料理でも日本の懐石みたいに10皿くらいのコースが主流になりつつありますけど、私が行った20年前はまだアミューズから始まりアントレ、メインがあっても2皿ぐらいで、チーズにデセールっていうくらいの皿数でした。なのに、お客さんが4時間くらい楽しんではるわけですよね。
――その答えは見つかりましたか。
 端的にいえば、フランスの方が、スタッフとお客さんの距離感が近いですよね。私自身、山の中、自然の中で店をやることが決まっていましたので、そのスタンスは非常に参考になりました。自然をどう生かして楽しませるのかと考えたとき、日本の高級店のやり方より、その距離の近さのほうが、良いおもてなしになるのだということを学んだと言えましょうか。  京都から1時間かけて、ここまで遠くまで来てくださっているお客さんとしたら、どんなやつがこの山に草花を摘みに行って、料理をしてんねん、顔が見たいって思われるでしょうし。そんなこともあって、帰国してから、カウンターを作ったり、お客さんとの距離を縮めようという感じでやってます。
一歩進むたびにわからないことが出てくるんですが、それを理解しないと奥深い料理はつくれない

――中東さんのキャリアも関係しているのでしょうが、海外の方々と交流も積極的ですよね。
 まあ、少なくともグローバルな観点でみれば、日本料理というオリジナルの料理をやっているということでしょう。日本料理の技術や考え方をきちっと論理的に理解して、それを彼らに教えてあげると感動してくれはりますからね。『たまごの味噌漬け』など【サンドランス】で教えてあげたら、結構そのまま出してたりしたこともあって。  一方で、フランス料理は、やはり物事の捉え方も素晴らしいと思いますし、技術力やそれに付随する器具・機械とかトップをいってることは事実ですから。やっぱり日本料理の中でどう使っていこうかということは考えます。今までできなかったものが、、この機械だったらできるなみたいのがあったりしますんで。海外で仕事をするというのは、我々がやろうとしてる日本料理というものをもっともっとブラッシュアップをさせるためのヒントがあります。
――日本料理をきちんと論理的に説明できるようにしているスタンスが現代的です。
 そうなんです。結構フランス料理で「これええなぁ」と思ったところはそういうとこですよね。日本の料理人って、昔から「こうなるもんはこうなるねん、見て盗め」とか「舐めて覚えろ」というやり方が主流だったんですけどね。お客さんから返ってきたものを舐めてもそれがすべてで、僕が最高やと思った出来立てを食べさせてやった方が、そいつらはもっと理解すると思いますから。だから、「これをこういう風にしたら美味しいねんな」って理解したら、多分できるんですよ。だから、うちのスタッフには、そうやって教えてますね
――でも、論理的に説明するのは、大変な作業ですよね。
 わからないことだらけですからね、何か一歩前へ進むと、わーっとわからないことがでてきて、それを理解しないと奥深い料理というのはできないと思うので。いろいろと調べたり教えてもらいに行ったりしていると、時間なんかないですよね。ゴルフなんか行ってる時間あるかいみたいな(笑)。やっぱり頑張っている料理人で、趣味を持っている人は多分いいひんなと思いますよ。大御所ですが、【菊乃井】の村田さんにしても、我々世代のまとめ役をやってくれている【木乃婦】のたくちゃん(高橋拓児さん)にしても、趣味ないなーって、いつも言うてまして。  でも、こうも思うんです。僕はもう料理であるとか食文化についてのことを一生考えていたらいいのやと思うととっても気持ちが楽になるな、と。
(2016.6.24取材)

シェフの裏ワザ

【美山荘】流、野趣へのこだわり

花背の自然を味わったもらうために、「夏の鮎の時期は、できるだけ鮎尽くしにしたい」という中東さん。花背は通称・鯖街道のルート上にあるので、『お凌ぎ』を鯖の巻寿司にしても、地域の文化から外れないが、中東さんはここでも、鮎を選択。ただ一般的な鮎の姿寿司としてしまっては、コースの中で見た目も単調になるので、贅沢に2尾を使い、巻寿司として提供。ここにも、野趣にこだわる姿勢が見えます。

美山荘(京都・花背)
【営業時間】
12:00〜19:00 (完全予約制)
定休日:不定休
【電話番号】
☎お問い合わせ番号:050-5263-6808
平均予算:25,000円
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