クッキングパパ

家族と料理がつむぎだす“偉大なるマンネリ”という名の日常

作品データ/『クッキングパパ』 作者:うえやまとち 『モーニング』連載中、既刊138巻(2016年9月現在)

先見の明!「おにぎらず」のネタ元は20年以上前の本作!

 一昔前は「男子厨房に入らず」なんて言葉を盾に料理を作らない男性が多かったようですが、今では男女共にキッチンに立って料理をする時代。

 むしろ、美味しい料理を作れることは、男女を問わず、大きな特技として認められるようになりました。

 しかし、今から30年前となるとまた話が違います。

 まだ“主夫”なんて言葉が生まれていないころに誕生したマンガこそが『クッキングパパ』。

 堂々とした大きな体に一度見たら忘れられない立派なアゴを持った荒岩一味を主人公に、その家族や彼が勤めている金丸産業の同僚たちなどが、美味しそうな料理を“作っては食べ、作っては食べ”を繰り返しているうちに、2016年8月現在、何と137巻まで発売されている超長寿マンガとなっているのです!

 ちなみに、2014年の秋頃から流行し始めた“おにぎらず”というアイディア料理をご存じの方は多いでしょうが、この料理のネタ元はクッキングパパに掲載されたオリジナル料理。

 1991年に刊行された第22巻に掲載されていて、20年以上も前のレシピが人気になったということで話題になりました。

 その他にも昨今、人気となった台湾かき氷も20年以上も前に紹介されているなど、主夫の概念も含めて考えてみると、かなり時代を先取りしていたことになります。料理界においての先見の明は同作が随一かもしれません。

 1992年にはその人気もあってかアニメ化もしておりましたので、マンガを読んでいなくてもアニメを観たことがあるという方もいるのではないでしょうか。

 さて、アニメに登場していた頃の荒岩一家はサラリーマンにして料理上手の一味に、新聞記者でバリバリのキャリアウーマンだけど家事はちょっと苦手な妻の虹子、そして小学生の長男・まことに、生まれたばかりの長女・みゆきの4人家族。

 そこで荒岩家のイメージが止まったままになっている方々には衝撃的かもしれませんが、マンガの中ではまこともみゆきも成長し、まことは今や沖縄の大学を卒業し、さらには大阪の企業に就職が決まり、みゆきも中学生に成長。

 特にまことは一味に顔や体格は似なかったものの(一味は一味でそのオトコらしさでモテます)、料理上手で何事にも一生懸命な性格もあって、幼なじみのさなえにえつ子、さらに沖縄の大学時代のアルバイトで知り合ったあゆみも彼に好意を抱くというモテモテ状態に♪

 その中でもえつ子は、親友のさなえを応援しながらもまことへの好意が抑えきれず、中3の夏にはまことに告白して玉砕。まことの親友であるみつぐと付き合うも、いまだにまことへの恋心がくすぶっている素振りがあるので、外見上はさわやかだけど内面はドロドロの四角関係ができあがっているのも、ある意味、見どころです(笑)。

 まことはまことで、大学時代はさなえと東京・沖縄という遠距離恋愛をしていたにも関わらず、就職先は東京でも地元でもなく大阪を選ぶというマイペースっぷり。まことの恋愛関係を追うだけでも、かなり昼ドラ的楽しさを味わえる状況となっているのです!
      

“仲のいいご近所さん”を温かく見守るような境地で…

 まことの恋愛模様はさておき、かなりの長寿作品となった『クッキングパパ』。なぜ、これほどまでに長く人気を保てるのでしょうか。

 作者のうえやまとち氏は毎週の忙しい連載の中でも、レシピを紹介する料理は実際に自分で作って写真を撮って試食をするというコダワリを持っているそうですが、おそらくそれだけが理由ではありません。

『クッキングパパ』は同じように長寿料理マンガとなった『美味しんぼ』と違って、派手な料理対決などは一切ありません。ただただ、荒岩一家を中心とした人々の生活やその中で生まれる悩み、それを解決したときの喜び、それに似合う料理を紹介していくという一話完結のストーリーがほとんど。

 けれど、その生活や日常というのは、読者である私たちが生きているリアルな人生そのもの。後輩に初めての子どもが生まれる…、義理の父のことをまた一つ知ることができた…、そんな日常に生まれた喜びを一味たちは素直に料理として表現しています。

 ですから、まるで現実世界の“仲のいいご近所さん”の生活を見ているような感覚を覚え、親近感が湧いてくるようにもなるんです。

 そして、ときには驚くようなアイディア料理が紹介されますが、そのほとんどは作って楽しく、食べて美味しいというもの。日常のスパイスになるような料理が中心なのです。

 日常の中で、食事は決して欠かせないものですよね。それが、美味しくて笑顔に溢れるものならば、どんな日常にだって幸せを見い出せるはずでしょう。

 そんな幸せな日常を過ごす“ご近所さん”の生活を穏やかなまなざしで見つめて、いいアイディアがあれば真似をする。これこそが『クッキングパパ』を読んでいる読者の目線であり、また読者が求めるものなのです。

『クッキングパパ』のストーリーは、誤解を恐れずに言えば、マンネリズムの極地でもあります。

 けれど、そのマンネリこそが日常そのものであり、また偉大であると教えてくれて、そのマンネリを読者も受け入れているからこそ、ここまで長く愛されることになったのでしょう…!

 みなさんもマンネリの中で変わらない自分にやきもきしたりする前に、一度立ち止まってみてマンネリの中の幸せとは何かを考え直してみるのもいいのかもしれませんね。
      

<文/牛嶋健(A4studio)>

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