にがくてあまい

“野菜”と“笑顔”と“一物全体”で恋は成就…する?

作品データ/『にがくてあまい』 作者:小林ユミヲ WEBコミック『EDEN』連載、全12巻

野菜嫌いも魅了される美術教師・片山渚の野菜料理

 毎日、忙しく働いていると、食事の内容に気が回らなくなることもありますよね。けれど、インスタント食品がメインの食事を続けていると待ち受けているのは、化粧がノらないお肌…。

 そんなときに食べたいのが、野菜食。

 ミネラルやビタミンが豊富なうえに食物繊維もたっぷり。肉を摂取しなければコレステロール値も減るので、言わずもがなダイエットにも効果的です。

 ということで、野菜食が気になる方にオススメのマンガが『にがくてあまい』。2016年9月に川口春奈さん&林遣都さん主演で実写映画化された作品です。

 主人公の江田マキは広告代理店に務めるバリバリのキャリアウーマン。しかし、外面はいいものの、自宅は汚部屋で大の野菜嫌い…。

 そんなマキがとあるバーで超セクシー系イケメンの美術教師・片山渚と出会い、その日のうちに二人でマキの自宅に。

 しかし、一夜をともにして愛し合う…………という展開にはならず、朝を迎えもマキは手を出されることはなく、そればかりか勝手に部屋を片付けられて、さらには動物性の食品を一切使わない野菜料理「冬野菜の雑穀スープ」を食べさせられるのです。

 そう、何と渚は女嫌いのゲイなうえにヴィーガン(菜食主義者)であり、『にがくてあまい』は本邦初のベジタリアン・コミックだったのです!

 渚はマキに言います。

「野菜ギライもたいがいにしないと そのキタネー肌 もっとヒドいことになるぞ」と。痛烈です。

 マキは仕事や後輩の面倒、彼氏との関係などを理由に「食べ物なんかに気をつかっているヒマなんてないの」と言い返しますが、渚はさらにこう語り掛けるのです。

「ちがうだろ?生きていくための資本はまず身体だろ?自分の身体すら面倒みれない人間に一体なにができんのよ?」

 耳が痛いと思う方もいるのではないでしょうか。

 確かに生きていくことの基本は食べること。食べてエネルギーを入れないと、人間は動けませんし、もちろん働けもしませんからね。そして食事の仕方で、自分から身体を傷つけては元も子もありません。

 マキの野菜嫌いは、脱サラして突然、農業に目覚めた父親が原因でした。父親に反発して、高校卒業と同時に東京に当時の彼氏を頼って飛び出していったマキは、野菜そのものがイヤな思い出になってしまっているのです。

 そんなマキに渚はこう説きます。

「にがい思いを反すうしながら生きてくよりは それを上手いこと料理にして… 自分の栄養にしてスッキリ消化しちまった方が楽だぜ」

 まさに野菜料理&人生の真理!

 こんなこと言われたら惚れてしまいますよね。けれども、渚はゲイ…。マキは渚をあきらめきれず、なかば脅しながら、渚の住む長屋に転がり込み、物語は動き出していくのです。
      

大事なのは食べてくれる人の笑顔

 マキと渚の同棲(?)生活には多くの人物が関わってきます。

 まずはマキが反発して飛び出した彼女の実家の両親。それに渚の教師としての後輩でかわいい顔とお尻をした馬場園あつし。マキと渚が知り合ったバーのマスターであるヤッさん。

 そんな登場人物たちがほろ苦い思い出を胸に抱えてがんばっている姿は女性のみならず男性も共感できるシーンが多く、またコメディシーンもかなり笑えます。

 マキがいよいよ決心して、渚に付いて来てもらって実家に帰る場面なんて笑いと感動が絶妙なバランスで両立しており、本作のハイライトとなっています。

 実家に帰ったマキは、家を飛び出した後どうやって過ごしてきたのかを両親に語ります。頼っていった元カレとはすぐに別れてしまい、勉強をしつつキャバクラで働いていました。そこに客としてやってきたデザイナーのツテで現在の仕事に就いたけれど、誰かの力にばかり頼ってきていたと涙を流しながら告白。

 そんな江田家にて渚は油あげ入り野菜餃子を作り、家族の大切さを思い出させるのです。この油あげ入り野菜餃子のまたおいしそうなこと!

 これを食べたマキとマキの父の笑顔を見て渚は「親子だなぁ」と納得。また、マキが渚の作った野菜料理をおいしそうに笑顔で食べてくれるということに、渚自身も喜びを実感するのです。

 さらに物語が進んでいく中で渚は慕っているアラタから、こんなことを言われます。

「おまえのつくったごはんを満面の笑みで食べてくれる人がテーブルの向こうにいる… それがいつしか当たり前になってるってことなんじゃないか」

 物語の序盤で渚はマキにマクロビオティックの思想のひとつである“一物全体”について語っていました。一物全体とは“食べ物はできるだけ丸ごと食するのが一番いい”という考え方。つまり、ありのままをできるだけ受け入れたほうがいいということです。

 野菜が苦手だったマキがいつしか渚の野菜料理が大好きになり、女嫌いの渚はマキに野菜料理を食べさせていくうちに彼女の満面の笑みが好きになっていく…。つまり、キライだったものもありのまま受け入れていくうちに、好きになるのです。

 健康も食事も恋愛も、全てはありのままを受け入れることから始まります。にがいものもあまいものも全部、栄養にしていく…。そんな気持ちを持つことが大事なのではないでしょうか?
      

<文/牛嶋健(A4studio)>

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