世界最高峰のフランス料理コンクール「ボキューズ・ドール」で
2013 年、日本人初の第3 位、魚部門では第1 位という栄冠に輝いた浜田統之シェフ。
活躍の場を軽井沢から大手町の【星のや東京ダイニング】に移し、
魚と山の恵みで織りなす「NIPPON キュイジーヌ」でフレンチの新たな地平を拓く。
そんな気鋭のシェフが憧れ、惚れ込んだ料理人がいるという店へ
浜田シェフ本人とともに伺った。
型にはまらない、“二刀流” の料理人
牛込神楽坂 【 ル・マンジュ・トゥー】

1 階は厨房、2 階は全14 席のダイニング。「料理にこだわりきれる席数にとどめていて、本当にいいものを出したい、という気持ちが伝わってくる」と浜田シェフ
浜田シェフが「行きたい店であり、憧れる料理人」として名を挙げたのは、神楽坂のフレンチ【ル・マンジュ・トゥー】のオーナーシェフ、谷昇さん。50 年近いキャリアを持ち、その発想と料理への探究心で、日本のフレンチを牽引してきた一人だ。
「料理はもちろん、谷さん自身がとても魅力的。料理への思いと哲学、生き方が素敵で、同じ料理人として勉強になります。僕にとって、谷さんは“宮本武蔵”のような方。フランス料理の伝統をしっかり学び、それを通して自分の表現方法を貫いている。『伝統』と『独自の表現』をもつ、型にはまらない二刀流だから、つねにクリエイティブで、料理を進化&深化させられる。全身全霊で料理に集中している感じがします」と浜田シェフ。
谷シェフの仕事は、そのものの根源を“ひもとく”ことから始まる。その一つの例が、鳥のさばき方。修業時代、骨格と肉の付き方から正しく理解することで、その技が飛躍的に上達したという。その見事な腕前に、浜田シェフも「早くきれいな鳥のさばき方は料理人として尊敬しています」と話す。
また、緻密な視点も特徴。10 年前、浜田シェフは、谷シェフに「魚は使う一日前に食材の0.05%の塩をふる」と教わったことがあった。浜田シェフはそれを「今も毎日、実践している」という。
「“面倒くさい” が、僕の料理のコンセプト」と微笑む谷シェフ。
「食材は生産者に特注でお願いしているものが多く、そこから始まり、長い時間をかけて一皿が生まれる。すべてはお客様のためといえ、味というのは最後は主観で評価されてしまう。ある意味、過酷。でも、それをおいても料理は面白い。調味料の使い方や火入れ加減などに、つくる人の感情が投影される。どう考え、どう組み立てるか。これがね、とても面白い」。

二人でゆっくり語り合うのは、この日が初めて。浜田シェフからの“宮本武蔵” という形容に、「実は、武蔵著の『五輪書(ごりんのしょ)』と小説『宮本武蔵』は大好きなんですよ」と谷シェフ
日本ならではのフランス料理を追求

『羊の背肉のロースト』。北海道の生産者との連携により、月齢15カ月のホゲット肉を特注で仕入れる。焼き上げの際に牧草の香りをまとわせる。付け合わせのレタスのブレゼも北海道のものを使う
料理人が一生を料理に捧げるなか、その趣は多様な変化を遂げる。
浜田シェフが今、取り組むのは、日本ならではの食材“魚と山の恵み”に特化したフレンチコース。東京で腕をふるう現在も長野に通い、季節の野草を自ら採取する。
一方の谷シェフは3 年ほど前から、かつて供していた料理に「回帰している」という。
「本来フランス料理は、フランスの食材で、フランス人がつくり、フランス人が食べるもの。だから、日本で日本人がフランス料理をつくるとき、日本人としてのDNA をどう表現するかが問われる。戻るべきは自分の本質。浜田さんは日本のルーツに戻り、清涼な水に恵まれたこの国に合う、“流れる水の如き料理” に挑んでいる。僕もその考え方はすごく好き」と谷シェフ。
谷シェフが、この日、浜田シェフに供したのは、“回帰” の一皿『羊の背肉のロースト』。北海道・上士幌町で育てられるサフォーク種羊を用い、フライパン焼きで火入れ。あふれ出る肉汁と澄み切ったフォン・ド・ムートンのソースが絶妙に絡み合う。

谷シェフの店には10 年ほど前から通い、料理人の講習会でも顔を合わせることが何度かあったという
料理をひと口食べ、「とてもおいしい。背肉の脂と肉の旨みがすごい」と浜田シェフ。「谷さんの料理は、日本ならではの研ぎ澄まされた感じのフランス料理。クリアなのに複雑味もあり、素材を生かし切っている。いらないものをそぎ落として、味の追求がさらに深化していて、すごいです」。
その言葉を受ける谷シェフは、「今日は本当に嬉しい」と微笑む。
「僕は浜田さんの“謙虚さ” が好きです。ボキューズ・ドール受賞後も全然変わらない。料理は人がつくるものなので、人そのものが反映される。自分で野草を採取するのもすごい。感受性が豊かでないと、そういうことはできない。浜田さんと時代を共有できることが楽しいし、料理の本質的な部分をつくる謙虚さと感受性を、次世代のシェフにも伝えていってほしいですね」。

「料理人の仕事は食材の命をいただくピュアな仕事。浜田さんの謙虚さは、今後のさらなる活躍のベースになる」と語る谷シェフに、「素直な目で見て、今後残していくべきものを見極め、やっていきたい。そのなかで“自分の一皿” をつくっていきたい」と浜田シェフ
こちらも、浜田シェフが惚れ込む最高のレストラン
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浜田 統之氏
星のや東京ダイニング
- 東京・北品川
カンテサンス - 岸田シェフの性格どおり料理は緻密な計算でつくられていると思います。フランスの3つ星【アストランス】で学んだ技術と日本ならではの食材、岸田さんの哲学がもたらす料理は完璧です。
- 東京・六本木
日本料理 龍吟 - 日本の食材に新たな可能性を見いだした料理、和食の技法にとらわれず食材と真剣に向き合う山本シェフの姿勢はいつも勉強になります。技術はもちろんのこと、龍吟で使用している食材はすべて最上級ですので日本が誇るレストランです。
- 東京・南麻布
茶禅華 - 龍吟から学んだ技術と中国料理を組み合わせた、新たなジャンルの料理だと思います。中国料理の真髄と和食の真髄を見事に合わせた料理はすべてが素晴らしい。一軒家をレストランにするなど、贅沢なづくりになっています。
- 静岡・焼津
てんぷら 成生 - 前田サスエ魚店から焼津の新鮮な魚を仕入れ、天ぷらの枠でさらに進化を続ける。またいろいろなジャンルの料理からヒントを得るなど、志村さんらしい唯一無二の天ぷらだと思います。
- 長野・佐久
職人館 - 亭主・北沢さんの料理は地元の食材を生かした料理。また山の野草や地元の無農薬野菜をふんだんに使ったコースは北沢さんならではのジャンルにとらわれない料理で、シンプルで豪快な料理です。
- 東京・北品川