【cenci】
坂本シェフが通う京都・二条の街の中華料理店

【イル ギオットーネ】勤務時代は海外プロモーションや東京・丸の内店の立ち上げを手がけ、同店の店長をつとめること9年。2014年、平安神宮で親しまれる京都・岡崎の地に【cenci】を開業。イタリアンの枠にとらわれず、京都ならではの食材がもつ魅力をいきいきと一皿の上に表現する坂本健シェフが、休日に家族やスタッフと訪れる街の中華料理店がある。シェフが「楽しく食べて満たされる店」と語るその店の魅力について語っていただいた。

撮影= 西尾温(人物)、外園佳代子(店舗) 取材・文=外園佳代子

【チェンチ】坂本健シェフが通う
京都・二条の四川料理店

地下鉄東西線・二条駅の3番出口から徒歩1分ほど。目の前は公園、静かな住宅街のなかの一画にある。

 【cenci】からも自宅からも近くて、初代シェフ・渡辺敏博さんの頃からの行きつけ。関西圏はもちろん、全国からお客さんがやってくる京都・二条の【大鵬(たいほう)】といえば有名ですよね。タクシーの運転手さんもよく推薦しているそうです。

 自店の定休日に家族でゆっくりというシチュエーションが多いですが、うちのスタッフたちともちょくちょくおじゃましています。お腹いっぱいおいしい中華を食べたいときに「じゃあ行くか!」と、あうんの呼吸でしょうか(笑)。休日にそれぞれオフモードで、気持ちよく満腹欲求が満たされていく、なんとも幸せなひとときです。
 

「だいたい月2回くらいのペースで食べたくなります」と坂本シェフ。 客席から見える厨房は、活気あふれる空気とおいしい香りに満たされている。

昔ながらの大衆の味と
洗練されたメニューが共存する店

18種類のスパイスとラー油、山椒油の力強いパンチを、ほんのり甘いピーナッツがよりいっそう引き立てる『会津地鶏のよだれ鶏』1760円(税込)。やわらかな肉質をもつ会津地鶏に合わせる秘伝のタレは、自家発酵の豆板醤、黒酢、樽熟成した醤油など、【大鵬】のこだわりが光るブレンド。四川仕込みの特製だれをたっぷりと蒸し鶏に絡めながら、板春雨で最後のひと口まであますことなく味わいたい。自家製の『ザーサイ』660円(税込)との相性も抜群。

 かならずオーダーするのは『会津地鶏のよだれ鶏』ですね。これを食べたいがために通っている、といっても過言ではないかな。自家製の『ザーサイ』とともに、僕が席についた瞬間に出てくるほどのヘビロテです(笑)。会津の地鶏を使っていて、やわらかくて弾力があって、しみじみおいしい。四川仕込みの秘伝のたれをたっぷりと絡ませながら豪快にいただきます。大人が食べてもかなりのパンチがありますが、小学生の息子もペロリと一人前を完食するくらいの大ファンで、毎回シェフを驚かせています。
 

牛100%のガツンとした肉の存在感に高知県産の葉ニンニクを合わせた『大鵬 麻婆豆腐』(中)1760円(税込)。日本でおなじみのにがり豆腐ではなく、中国の昔ながらの製法による石膏(せっこう)豆腐は「ぐうぜんに出会った」(渡辺シェフ)という、銀閣寺そばの豆腐店から毎朝届けられるもの。中国らしいワイルドな調味料と、食材そのものの旨みを心ゆくまで堪能できる。豆板醤と塩、醤油のシンプルな味付けが “すっぴんの豆腐の味”を引き出している。

 ここのユニークな特徴が、昔ながらの大衆中華を食べにくるお客さんと、黒板のおすすめメニューやコースを頼んでゆっくり過ごすお客さんとが共存していること。2代目の幸樹さんになってから、より食材にこだわり、独特の世界観を表現されている。トップレストランの味を見事に中華に落とし込んでいるなと感じます。一方で、いわゆる大衆の味、八宝菜や皿うどんやラーメンなどを食べにくる常連さんの席も、変わらずにある。大衆中華の色を残していることで、とてもいい雰囲気に保たれているんです。丼だけを一人でサッと食べて席を立つお客さんのとなりで、僕たちがワインをあけていたり。そういった懐の深さも、しぜんと足が向く理由の一つです。
 

カリッと揚げた豚ロース肉のダイレクトな旨みと、山芋やレンコン、セロリのシャキシャキとした食感が楽しめる『四川重慶式黒酢すぶた』1650円(税込)。シイタケ、ネギ、キクラゲなど豊富な野菜は岩手県の自然栽培ものを中心に、高知県産や地元の京野菜も自由自在。本場・四川省の「江津肉片(ジャンシンローピエン)」をベースに、すっきりとした黒酢の風味が記憶に残る一品。3種類ある酢豚のうち、坂本シェフの定番はこちらの四川重慶式。 白ワインながら赤ワインの製法で醸造された、坂本シェフお気に入りのナチュールワイン『RADIKON』(右)7700円(税込)。初めて口にした人は「これがワイン?」と驚く、まるで紹興酒を思わせるような味わいが特徴だ。農家の手でていねいにつくられた、素朴かつメッセージを秘めた一本は、ブドウ本来のエネルギーに満ちている。ほかにも、イタリア・サルデーニャ島のワイン(左)など、めずらしい銘柄が数多く揃う。

チームワークが生む心地よい空気感に
元気をもらう

 オープンになっている厨房を見ると、たくさんのスタッフがじつに楽しそうに、いきいきと働いている。ご家族を中心に、「あっ、いいチームだな」と直感でわかります。初代のお父さまも笑顔で料理されていて、心地いい空気感が伝わってきます。【cenci】に置きかえてみると、お客さんから言われていちばん嬉しい言葉って「いいチームだね」なんです。あらゆることがうまく回らないと、なかなか言ってもらえないと思っていて。だから、【大鵬】のスタッフ陣が笑顔全開で働いている感じ、すごくいいなといつも刺激をもらっています。

 おもしろい食材を手みやげに持って行ったり、これからは海より川魚だよね、という会話から琵琶スズキやフナが新たにメニュー化されたり。ときには、プラスチックごみ削減のために僕たちができることは?といった環境問題についてシェフと語り合うこともあります。もちろん、おいしいワインで心地よく酔ってリラックスする時間も大好きですよ。
 

今回のトップシェフ
 
坂本健シェフ


1975年、京都生まれ。大学在学中に欧州旅行の際にイタリア料理の美味しさに出会い、料理人の道へ。伝説の名店【イル・パッパラルド】で3年半務め、基礎を叩き込まれる。笹島シェフの独立に伴い、2002年に【イル・ギオットーネ】に移籍。2005年の【イル・ギオットーネ 丸の内】開店の際には、笹島シェフと交互に店舗をマネージメントするポジションに。9年間料理長を務めた後、2014年に満を持して独立、【cenci】をオープンする。

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