昨年、ヒトサラが出版したレストランガイド 『100人のトップシェフが選ぶベストレストラン東京』で
多くのシェフたちから支持を集めた3名のシェフに、 プロとして衝撃を受けた店、
最近出会った良いお店を中心にざっくばらんに語ってもらいました。
プロも一目置く、 トップシェフたちの深く鋭い視点に注目です。
「お店の人が出す空気感、会いに行きたい人がいる。
料理と同じくらい、人も大事な要素。」(杉田)
――皆さんは、どのような基準で自分が行くレストランを選ばれることが多いのでしょうか。
山本:
自分の店では、僕らは非日常を提供する側にいます。だから、休みの日はその反動か、しっかりオフになりたい。癒しを求めて、肩肘貼らずにだらっとできる。最近は、そういうのがありがたいです。
杉田:
私も、どちらかといえばリラックスできる、自分が幸せになれるような店を選びます。カウンターで仕事をしている人間なので、料理もですけど、人を見てしまいます。それを含めて味わいに行く、という感覚が強い。
川手:
僕は、レストランに行くとき、何かインスピレーションを求めたいという思いも強くあります。自分にはないものを勉強したくて、例えば、雑誌で見た料理がどういう風につくられているのか、どんな事を考えてつくられたのか、っていうのはすごく興味があります。でも、山本さんは、休みの日でもちゃんとレストランに行って、常に仕事のことを考えている、ていうイメージが強かったので、少し意外でした。
山本:
僕も料理人なので、もちろん勉強したいという気持ちもあるんですけれども、40 歳を過ぎたくらいから休日はリラックスしたいなぁ、と。それに最近は、一大プロジェクト(※1)があるもので、オンオフをはっきり分けないと、平日に戻ったときにちゃんと頭が回らないんです。だけど、休日に外食しない日はないですよ。
杉田:
私も休みは100% 外食ですね。
川手:
僕は、オフの日は子供と一緒に料理をつくったりします。何も考えずに、和食だったり、お好み焼きつくったり。家族といられる時間がそういうときしかないので、僕にとってはそれがオフになっているのかもしれないです。
杉田:
……なんか川手さん、かっこよすぎません?
川手:
いやいや、勘弁してください(笑)。
一同:
(笑)
※1 2018年8月、【日本料理 龍吟】は東京ミッドタウン日比谷へ移転する
「これまで考えていたクリエイティブ、ということを
凌駕するほどの圧倒的な料理観を味わった」(川手)
――これまでの料理人人生の中で、「衝撃を受けた」というほどのレストランていうのは、あるんでしょうか。
山本:
一軒、僕は香港にあります。その店を知ってから、香港に行ってその店に顔を出さなかったことは一度もない、っていうくらい。【セレブリティ・キュイジーヌ】というすごい名前で(笑)。そこの、ロンコンガイ(龍崗?)の丸揚げが、僕の中では一番おいしい料理。当時うちで働いていたフランス人のベテラン女性スタッフにも食べてもらったんですが、「これ、フランス人が食べたら、ブレス鶏(※2)のファンがいなくなりますよ」って。
一同:
おいしそう……。
川手:
僕は、ベルギーの【ヘルトフ・ヤン】が椅子から転げ落ちるくらいの衝撃でしたね。 ヘルトフ・ヤンシェフの料理は、 それまでに思い描いていたクリエイティブ、ということを凌駕する圧倒的な料理観でした。だしの取り方、野菜の使い方、どんなに小さな作業でも全部に意味があるんです。それでいて、チームづくりもすごくて、調理場だけで20人以上もいるんですよ。
杉田:
その人数で料理をつくって、クオリティが保てるのってすごいですね。
山本:
僕もお会いしたことあるんですが、センスの塊みたいな方ですよね。
川手:
そうなんです。ヨーロッパのシェフは、日本と違って監督的な動きになる人が多いのですが、あんなに長い時間調理場に立ってるシェフはそういない。根っからの職人気質です。
杉田:
私は同業の先輩になるのですが、人形町【喜寿司】さん。まだ私が小僧の頃、たまたまイベントで隣で握らせていただく機会があって、その時に「僕はお鮨を握るとき、左手(利き手)の小指がどの角度で曲がっていると、色気があるかっていう事だけを考えてるんだよ」って教わって。お鮨ももちろんおいしいんですけど、さらっとシンプルに言えてしまう職人のかっこよさみたいな部分に衝撃を受けちゃって。元々憧れの方だったのが、よりこういうかっこいい色気のある職人になりたいな、って強く思うようになりましたね。
※2 仏のブレス地方で飼育される高級ブランド鶏
「" 広く" ではなく" 深く" 考える。鮨も同じだと思うので、
そういう考え方のお店に惹かれます」(杉田)
――最近、訪れた店の中で良かったお店はありますか。
杉田:
最近でよかったのは、名古屋の【天風ら にい留】さん。彼いわく「天ぷら屋にとっての衣は、鮨屋にとってのシャリと同じ」。衣をちゃんとつくることで、食材の一つ一つが生かされているんです。天ぷらですけど、その食材をきちんと味わわせてくれる。揚げる、というシンプルなことをとことん突き詰めていて、それが非常においしいんです。
山本:
……杉田さんが、しゃべってる話がおいしいですよね。料理をしっかり捉えていて。
川手:
行ってみたいな、と思いますよね。
杉田:
本当ですか? よし、紹介マージン取ろうかな。
一同:
(笑)
山本:
最近マカオで、川手さんも含め大人数で中国料理を食べる機会があったんですけど、そこの点心の完成度がすごい高くて、おいしかったですね。何て名前のレストランだったかなぁ……?
川手:
たしか【ジェイド・ドラゴン】ですよね。あそこは、僕も「ここまでおいしいのか!」って思いました。僕らのグループが40 ~ 50 人くらいいましたし。
山本:
ああ、それ!【ジェイド・ドラゴン】! あれだけの人数の客を相手に、あのレベルの料理をばんばん出せるって僕ら料理人から見ると結構すごいことなんですよ。うちじゃあんな芸当はできません(笑)。
川手:
僕は最近でよかったのが、レストランではないんですが、【ミクソロジー】というバーです。ミクソロジストって、リキュールなどカクテルの元になる材料から自分でつくる方をそう呼ぶんです。その店のミクソロジストの南雲さんという方は、お茶の勉強などもされていて、この前いただいたお抹茶のカクテルが絶妙においしかった。新しい世界観があるんじゃないかな、と思いますね。
「宝物を出すように、大事に料理を提供する。
それができているお店はなかなかないですよね」(山本)
――「衝撃を受けた店」、「最近良かった店」とお伺いしてきましたが、そのほかにどんな理由でもオススメされるお店はありますか?
杉田:
僕が食べ物の中で一番おいしいと思うのは、新橋【しみづ】の清水さんが蒸したアワビなんです。やり方を聞いてみると、何も変わったことはしないんですけど、そのシンプルさの中で、きっと清水さんにだけ見えているものがあるんですよね。行けば行くほどその深さに驚かされる。清水さんには職人としてのかっこよさを感じます。
川手:
僕が【ル・ブルギニオン】で働いている16 ~ 17 年前からずっと通わせていただいているのが【赤坂璃宮銀座本店】、譚シェフのお店ですね。譚シェフは本当に憧れの人で、料理一筋、という言葉を人にしたような方なんです。行けば必ず、鳩の丸揚げもありますし、僕の大好きなスープがある。ずっと変わらず僕のナンバーワンのお店です。
山本:
25 年くらい前から、それこそ僕らが調理師学校とかに通っている頃から日本の中国料理を支えている、雲の上の存在ですよね。日本で、譚さんを知らない料理人はいないというほどでしたし。
川手:
譚シェフとは一緒に食事させていただく機会があって、プライベートでも料理の話しかしませんからね。
山本:
中国料理といえば、【茶禅華】は、ぜひ皆さんに経験してもらいたいですね。元々、【龍吟】にいた川田シェフ、彼がどんな料理するのか楽しみだったんですけど軽く想像を超えてきました。お茶に対する造詣が深く、お茶が料理にもたらす影響などを熟知していて、そのティーペアリングがすごい。それに一つ一つ、宝物である我が子を託すように大事に料理を出すんですよ。レストランの基本だと思いますが、それが完璧にできているお店はなかなかない。……あれ?結局、僕が挙げた店3軒、中国料理しか出てこなかったですね。
一同:
(笑)
川手:
もう一軒だけいいですか。【ヴィラ・アイーダ】さん。小林シェフは畑をやりながら野菜をつくって、それをお店で出す、というある意味、究極の形をやっていらっしゃって尊敬しています。。やりたいことが明確で、それを支える技術とセンスも持っている。それを和歌山という地で発信していて、僕はすごいと感じていますし、皆さんにもそれを体験してもらいたいな、って思いますね。
「話題の店のスタンプラリーをするのではなく、それぞれの店で
料理に向き合えば、いい店が見つかると思います」(杉田)
――最後に、料理人の皆さんから見て、他店に「ぐっとくる」要素をお聞きし、「良いレストランとは?」という事について考えていきたいと思います。
山本:
料理のクリエイションに加えて、その先にあるその人が背負っている使命感が見えたり、揺るぎない覚悟が伝わってくると、僕は「あぁ、すごい」という気持ちになります。料理って極端に言えば、レシピさえなぞらえればほかの人でもできるんです。でも、オリジナルの凄さは、絶対唯一無二。そこにしかつくり手が伝えたい純粋な思いや志は宿りません。
杉田:
山本さんが冒頭でおっしゃったように、レストランは非日常や、店の世界観を味わいに行く場所でもありますよね。それは、例えば頑固なオヤジが黙々と鳥を焼き、やさしい女将さんがいる昔ながらの焼鳥屋のようなものかもしれないし、ディズニーランドのようなものかもしれない。「神は細部に宿る」という言葉がありますが、その世界観が細かなところまで行き届いてる店は、私から見た「いい店」なんだと思います。
山本:
今の話で思い出したんですが、そういえば最近、ディズニーランドに行きました。
一同:
えっ!
山本:
あれだけの人が熱中できる魅力を発信するのは、ずっと変わらずにすごいなって思います。
杉田:
お客様の期待を裏切らないんですよね。レストランも同じことで、“びっくり” させるにしても、お客様が期待する世界観の通りの“びっくり” させ方をするほうがいいと思うんです。僕は僕、山本さんは山本さん、そして川手さんは川手さんだから出せる世界観があって。だから例えば、僕が突然、カウンターで女装して出てくるとかっていうやり方は……
山本:
いや、そしたらホンマにびっくりですよ(笑)。
杉田:
(笑)。極端ですけど、まったくもって私がやるべき“びっくり” ではないですよね。
山本:
日本語には、「目からウロコ」という“びっくり” したことを表現する素敵な言葉がありますよね。杉田さんは、鮨職人で魚扱ってるだけに……。
杉田:
……あの、それ私が“びっくり” って言った部分を全部、「目からウロコ」に書き換えて、私が言ったことにしてもらっていいですか。
一同:
(笑)
川手:
僕はフランス料理人なので、フランス料理というフォーマットを打ち破るレストラン、しかもポリシーをもった打ち破り方をしていると、もう「参りました」って思います。例えば、【カンテサンス】や【NARISAWA】。前に進むってすごい勇気が必要だと思いますし、信念をもって前に進まれる方は本当に尊敬しています。
杉田:
お二人とはまた違う意見になってしまうんですが、いい店っておそらくいっぱいあるんですよ。だけど、話題店のスタンプラリーになってしまうと、それぞれの店の良さに気づけないのでは、と思うことがあります。本当に店や料理と向き合えば、もっと良いと思える店はいっぱいあると思いますし、それを見つけるのも、レストランに通ったり食べに行く楽しみではないかと思います。
座談会中に登場したシェフ推しレストラン
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山本 征治氏
日本料理 龍吟
- 香港・セントラル
名人坊 Celebrity Cuisine - 鶏の丸揚げが、僕の中ではいちばんおいしくて、あの鳥の食感、香り、状態、どれをとっても絶妙なんです。あの鶏肉が扱える香港という地に、憧れるほどです。
- マカオ・コタイ地区
Jade Dragon - 点心の完成度が抜群。温度帯や料理の状態が極められていました。そして、全体にやさしい味わいで、自分がイメージする中国料理とは一線を画していました。
- 東京・南麻布
茶禅華 - 眠っていた脳が覚醒するようなコース。川田シェフが一つ一つ、宝物のように大事そうに料理を出すんですよ。お茶と料理のペアリングは本当に見事。ぜひ体験してもらいたいです。
- 香港・セントラル
-
杉田 孝明氏
日本橋蛎殻町すぎた
- 東京・人形町
喜寿司 - 小僧の頃に、【喜寿司】の旦那の一言に衝撃を受けました。鮨がおいしいのはもちろん、何より職人としての振る舞いや生き方に憧れています。
- 東京・新橋
しみづ - 清水さんの鮨は、非常にシンプルなのに行けば行くほど深い。蛸を茹でるだけで、世界一おいしいと思える。きっと清水さんだけに見えてるものがあるんだと思います。
- 愛知・名古屋
天風ら にい留 - 私は、鮨が好きで鮨職人を選びましたが、初めて鮨と同じような感覚で最後まで楽しめた天ぷらでした。最後まで、素材の一つ一つの味を大事にしています。
- 東京・人形町
-
川手 寛康氏
フロリレージュ
- ベルギー・ブルージュ
ヘルトフ・ヤン - 彼しか生み出せない料理が十数皿、息もつかせぬ間に続きます。「どうしたらこんなに完成されつくした料理がつくれるのか」、椅子から転げ落ちるほどの衝撃でした。
- 東京・日本橋
コードネーム ミクソロジー トウキョウ - 蒸留機などを使い、カクテルの材料になるものからつくるミクソロジーカクテルのお店。バーの新しい世界が楽しめるので、ぜひ色々な方に体感していただきたいです。
- 東京・銀座
赤坂璃宮 銀座店 - 私の憧れでもある譚シェフは、料理人から見ても" 料理一筋" だと思えるほどの方。壺に入ったスープが好きで、ずっと通っています。僕のナンバーワンのお店です。
- 和歌山・岩出
ヴィラ・アイーダ - 小林シェフが自ら畑を耕し野菜も料理も自分でつくっていて、野菜の知らなかった魅力、食べ方を教えてくれます。ぜひ色々な方に体験していただきたいです。
- ベルギー・ブルージュ