「恋し浜ホタテ」を扱う綾里漁協と直接取引している、貴重なレストランがイタリアン料理【ノイ マーレ】だ。大船渡市の中心部に位置する商業施設「キャッセン大船渡」に店舗を構え、お洒落な店内では女性客を中心に家族連れなど、幅広い層で賑わっている。新鮮な「恋し浜ホタテ」を贅沢にパスタやピザなどに使い、素材の良さを損なわずに、さらにうまみを引き出した職人技を駆使して仕上げた逸品は、一度食べたらやみつきになりそう。店主が「恋し浜ホタテ」に惚れ込んだその理由、魅力を取材した。

アンチョビの塩気とホタテの甘味による絶妙なコラボーレーションが味わえるパスタが止まらない

「恋し浜ホタテ」を贅沢に使用した『ホタテのペペロンチーノ』1,280円(税抜)

「私は大船渡出身で、恋し浜ホタテはブランド化する前の子供のころから当たり前に食べていた慣れ親しんだ地元の味。絶対使いたいと思っていました」
 と話すのは、大船渡市にあるイタリアン料理【ノイ マーレ】のオーナー新沼崇久さん。20年以上飲食業に関わってきた新沼さんが2014年に【ノイ マーレ】をオープンするにあたって、核となる食材のひとつとして「恋し浜ホタテ」を迷わず選んだ。
 店名はイタリア語で「ノイ マーレ=僕らの海」という意味。そこには海とともに生きる大船渡の人間としての心意気もつまっている。
「海は誰かのモノじゃなくて、海はみんなのものという発想が根底にあります。大船渡の海だって、私たち地元の人だけのものじゃない、みんなのもの。ただ、大船渡の海で育った人間として、この海の魅力を発信していく役割がある。そんな想いからこの名前をつけたんです。恋し浜ホタテは、大船渡が誇るご当地自慢の一つ。私の想いとぴったり重なったんです」

JR大船渡駅より徒歩2分と好立地に位置する商業施設「キャッセン大船渡」の一角にある

 店舗が入る「キャッセン大船渡」は、東日本大震災からの復興を目指して、津波で被災した大船渡市の中心部に建設された商業施設。飲食店や和菓子などの店舗が入り、多くの賑わいをみせている。そのなかで【ノイ マーレ】は気軽に食べられるイタリアン&洋食を提供するレストランとして、女性客を中心に家族連れなど幅広い層から支持を得ている。店内は、イタリアをイメージした配色と、センスがきらりと光る小物が並んで明るく華やかでお洒落な雰囲気。

 観光客も訪れるようになり、オススメメニューを聞かれると自信をもって「恋し浜ホタテ」を使ったメニューを推薦するという。
「店側の視点でいうと、恋し浜ホタテは肉厚で扱いやすいし、ビジュアル的にインパクトのある料理とか見て楽しい料理を作りやすいんです。味わいに関しては、まず肉厚なので食べ応えがあるでしょう。それと口の中にジュワッと広がる甘味もクセになりますね」
「恋し浜ホタテ」を初めて食す観光客は口々に喜びを表す。それを見るのが新沼さんの心が温まる瞬間だという。
「みんな間違いなく美味しいって言ってくれます。楽しそうに食事しているお客様を見るのは、何度も見てもたまんないすね」
 感慨にふける新沼さん、実は「恋し浜ホタテ」を養殖する佐々木さんとは同級生。学生時代からせっせと家業を手伝う佐々木さんの姿を近くで見ていた間柄で、佐々木さん同様に当時は、「恋し浜ホタテ」のポテンシャルに気が付かなかったひとりでもある。
「飲食業をやっていた縁で、各地のイベントに関わることがあって、そのとき恋し浜ホタテを提供すると、すごいリアクションがあるんですよ。大きいですねぇって驚く。自分はこれが子供のころから当たり前だと思っていたから、こっちの方がその反応にビックリしちゃって。そんなにすごいホタテなんだって、他所から教わったようなもんです(笑)」

高圧窯で焼かれ、外はサクサク、中はモチモチの『ホタテのピザ』1,280円(税抜)

【ノイ マーレ】では「恋し浜ホタテ」を使ったメニューが多彩にある。もちろん刺身や焼きホタテなどのシンプルなメニューもオススメだが、せっかくなのでイタリアンで人気の看板メニューを披露してもらった。
 最初は『ホタテのペペロンチーノ』。
「恋し浜ホタテ」と小松菜を具材にシンプルに仕上げた一品。ホタテの肝からとった出汁がうま味の要。パスタを食すたびに濃厚なホタテの風味が広がる。小松菜との相性も抜群。ホタテのポテンシャルを最大限に引き出した料理だ。
 次は『ホタテのピザ』。
 高圧窯で香ばしく焼かれ、外はサクサク、と中はモチモチの食感。トッピングされたアンチョビの塩気と、「恋し浜ホタテ」の甘味が絶妙なコラボーレーション。さらにブリーチーズが加わってマイルドな仕上がりに。肉厚の身の歯ごたえを感じてもらうため、ボリューム感たっぷりに粗くカットされたホタテのビジュアルも豪華な印象。満足感が得られるメニューだ。

オーナーの新沼崇久さん(左)とシェフの山下聖人さん

「生産者の思いを伝えたい」という新沼さん。
大船渡をはじめとする三陸地方は山海の幸の宝庫。もちろんホタテも極上だが、アワビ、カキ、サンマなど魚介類や野菜もおいしいと語る。
「恋し浜ホタテの佐々木とはたまたま同級生でしたが、私は仕事柄、多くの生産者さんと付き合いがあります。佐々木も学生の頃から熱心に取り組んでいましたが、彼だけでなく、どの漁師や農家さんもみな情熱的な働き者なんです。暑くても寒くてもコツコツと作業して、ひたすら良いものを作ろうとしている。そんな食材を扱う飲食店は、彼らの思いを伝える役割があると思っているんです」
【ノイ マーレ】のある大船渡市は東日本大震災で大きな被害を受けた地域のひとつ。多くの生産者がそうだったように、新沼さんも困難を乗り越えて今に至る。当初、【ノイ マーレ】は「復興大船渡プレハブ横丁」で仮設のような店舗で開店した。そこからコツコツと常連客を増やして、2017年5月、現在の地に移転してリニューアルオープンした経緯がある。生産者に対して、復興に向けて、一丸となって災禍に屈しなかった同志という気持ちもある。
「いろいろありましたけど、なんとか元気にやっています(笑)。今はただ、全国の方に恋し浜ホタテをはじめ、三陸の恵みをあじわってもらいたい。それだけですね。多くの方が遊びに来てほしいです」

ノイ マーレ(Noi Mare)

電話 0192-47-4715
営業時間 <時短営業>17:30~23:00
定休日 月曜日

日本でも有数な独特の形状をなす三陸海岸は漁業だけでなく、一度は見ておきたい景勝地

初めて目にすると思わず「おー!」と感嘆の声を上げてしまうほどの奇岩

 多くの入り江を有する三陸海岸は、漁業に最適な地というだけでなく、独特の地形から多くの景勝地が形成され、全国から観光客を呼んでいる。そんな三陸海岸を代表する景勝地が「穴通磯」。大船渡市末崎半島の南東、約6キロの海岸線・碁石海岸にある。この海岸の始まりは約1億3000万年前の海。その砂粒の固まった層と泥の固まった層が交互に堆積した岩盤が長い年月をかけてせりあがってできている。「穴通磯」はもろくなった岩の基底部分が海水の浸食によって3つの巨穴が空いた。三陸の大自然が造った造形美で、展望台から鑑賞するだけでなく、観光船も運行しているので巨穴をくぐって見学も可能。地元では「くぐると幸せになる」という言い伝えがあるとか!?

大自然が長い時間をかけて生み出した造形美。神秘の力を感じながらぼんやり眺めてしまう

 碁石海岸にあるもうひとつの見どころスポット。巨大な岩が向かい合うように切り立つ、高さ約30メートルの断崖絶壁に挟まれた「乱曝谷」。左側に見える崖は「雷岩」と呼ばれる巨岩。この洞穴に打ち付ける波が空気を圧縮することにより、ドーンと雷のような音が聞こえる。そのため「残したい日本の音風景百選」に選ばれている。波が穏やかな日には観光船で、乱曝谷を通ることもできる。
 これらの景勝地がある碁石海岸は三陸復興国立公園のエリア内に位置する。同公園は2015年に創設され、南北約250kmの海岸線を有する。入り組んだ地形のリアス海岸に海鳥の繁殖地や、多様な海岸植物、野生生物を観察することもできる。エリア内には大船渡をはじめ宮古や釜石など、日本有数の水揚げを誇る漁港もあり、三陸地方は観光とグルメがたっぷりと楽しめる。

今日も太平洋から昇る朝日が三陸海岸を赤く染める

写真/海保竜平 取材・文/内山賢一

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