サービス・雰囲気・極上の料理が待っている 今こそ、パリのグランメゾンへ Hitosara special

エレガントな空間、極上のサービスに、世界トップクラスのシェフたちの料理。
パリの美食の真髄を味わうならば、やはりグランメゾンでの体験に勝るものはない。
長年愛されている店から、ここ数年の注目株まで、今行くべきグランメゾンを取材した。

Photographs by Taisuke Yoshida / Text & Coordinate by Yukino Kano
Design by form and craft Inc.

  • 甘みが乗ったベトラーブを塩釜でじっくり焼いて、美味しさを凝縮。
    甘酸っぱいカリンをムースリーヌとキャラメルに仕立ててアクセントにし、ベトラーブの甘みを引き立てる

    L’Arpège ラルページュ

    野菜の多彩な美しさとおいしさを
    唯一無二の表現で昇華

     パリに10軒あるミシュラン3ツ星レストランの中で、2番目に長い3ツ星歴を誇る【ラルページュ】。オーナーシェフのアラン・パサール氏は、フランス料理界における巨匠中の巨匠の一人。その名は、野菜料理の大家として世界中に名声を轟かせている。が、20年以上前からフランス料理を食べている諸氏ならご存知だろう。今でこそ、野菜で有名なパサールは、当初、肉料理でその名を馳せていた。『鳩のドラジェ』を名物に、肉の火入れの第一人者として高い評価を受け、1996年に3ツ星を獲得したのだ。

    • 夏は毎日、冬は週に2〜3度、朝収穫したばかりの野菜が、昼前にパリの店にとどく。年に50トンもの収穫があり、【ラルページュ】の顧客に、野菜セットの販売も行う

       「明確に、これが! というきっかけはなかったです。当時の自分の周りにいた近しい人たちのヴェジタリアンな考え方に強い影響を受けたのは確かだし、狂牛病の問題があったのも一要因でしょう。さらに自分自身、肉を中心にやってきた料理に限界を感じていて、新たな料理人生を切り開きたいと考える時期でもあったのです」と、当時を振り返るパサール氏。

    • 薄切りの根セロリをバターで優しくコンフィ。上に洋ナシのスライスを重ね、グリルして砕いたノワゼットを散らす。同系色の野菜や果物をとり合わせるのは、パサール氏の好み

       母は洋裁師、父は音楽家、祖父はかご作り職人。芸術家と職人が織りなすアーティスティックな環境は、パサール氏に、自然と、色彩や詩情といった美に対する感性を植え付けていたのだ。
       そんな彼にとって、四季折々の自然が生み出す多彩な色彩や形が織りなす無限とも言える野菜の世界は、肉や魚の世界に比べて、よりしっくりくるものだった。

    • こぢんまりとした客席は、木のぬくもりとラリックのクリスタルの輝きに包まれる。テーブルのオブジェは、届いたばかりのみずみずしい野菜たち

       今でこそ、世界的に健康志向が広がり、野菜料理への注目度は高い。が、当時、ガストロノミーで野菜を主役にした料理人は、文字通り皆無。今をときめく3ツ星シェフが、フランス料理の華である肉を捨てて付け合わせにすぎない野菜を選んだ! と、当時は大きな批判もあった。
       しかしパサール氏は、信念を変えなかった。野菜という素材を手に、より優しく芸術的で、デリケートかつ繊細なガストロノミー料理を次々と生み出し、その美しさと美味しさで、世の人々を虜にしたのだ。

    • リンゴのタルトは、シグニチャーデザート。リンゴの薄切りを巻いてバラの花のように仕立て、フイタージュ生地に並べて焼き上げる。見た目にも愛らしいデザート

       今では、ブルターニュ地方とノルマンディ地方に計3か所、トータル10haの無農薬菜園を持ち、400種ほどの野菜やハーブ、果物を育てている。菜園は、パサール氏の憩いの場でありインスピレーションの場。週末はほぼここで過ごし、併設シャトーの厨房で様々なクリエーションが生まれる。
       「野菜があったから、今も僕は料理人をしているんだと思う。もしあのまま肉や魚を中心にしていたら、きっと今頃違う職業についていたんじゃないかな」と、愛おしそうに野菜に触れるパサール氏。彼は、フランス料理史において初めて、野菜という食材の魅力を昇華させた、後世にその名を残す料理人となるだろう。

    • パサール氏の創造力は料理を超える。数年前から、自らの料理作品を、雑誌などのページを切り抜いてコラージュ作品に仕立てている。店のそばのオフィス内にギャラリーを作り、展示販売している
    シェフの哲学 アラン・パサール氏

    20年近くも、野菜を手に、常にワクワクしながら様々なクリエーションを行っています。味はもちろん、形や色、その魅力は実に多い。野菜というマチエールは、私に無限のインスピレーションを与えてくれるのです。

  • ヴェルサイユ宮殿敷地内にある自家菜園から届いた深い味わいのニンジンを主役にした一皿。
    松の葉や実の香りをまとわせて秋らしさを演出し、セドラという柑橘で苦味と酸味のアクセントを

    Alain Ducasse au Plaza Athénée アラン・デュカス・オ・プラザ アテネ

    常に未来を見つめる料理界の巨匠が信じる
    野菜、魚介、シリアルの果てなき魅力

     現在、世界7カ国に50以上の店を展開する、フランス料理界の重鎮アラン・デュカス氏。モンテカルロ、ロンドン、パリ、世界3都市で同時にミシュラン3ツ星店を手がける、世界唯一のシェフだ。
     巨大なグループ・アラン・デュカス、フランスの旗艦店はパリの【アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ】だ。直訳すると、“プラザ・アテネのアラン・デュカス”。パリきってのラグジュアリーホテル「プラザ・アテネ」内に、2000年から居を構えている。

    • ヴェルサイユ宮殿の敷地内に自家菜園を持つ。ヴェルサイユ宮殿は、ルイ14世の時代から菜園が有名だった。毎日、旬のとれたて野菜が厨房に運ばれ、極上の料理へとその姿を変える。今日は、ズッキーニやニンジン、ごぼうなどが到着

       正統派でモダンな高級フランス料理で3ツ星を獲得し続けてきたが、2014年、ホテル全体のリニューアル工事に合わせてこの店も改装を行い、新たなコンセプトを掲げ、新生【アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ】がお目見えした。
       新コンセプトは、“持続可能な魚介、シリアル、野菜”をテーマにした料理。グループ内のシェフとして中東の店舗で活躍していたロマン・メデー氏を新たなシェフに据え、二人三脚でメニューを一新した。

    • 身が厚く締まったヒラメはゆっくり優しい加熱でムニエールに。かぼちゃを、生や乾燥など様々な仕立てで。ソースは、ヒラメのアラとかぼちゃベースで深い味わい

       自然の恵みと食材のナチュラルな美味しさを追求する新たなスタイルの料理開発のため、デュカス氏が日本訪問時にその料理に感銘を受けたという、精進料理人の棚橋俊夫氏を数ヶ月パリに招き、精進料理の哲学や技術も組み入れたという。
       そうして誕生した、今までに例を見ないスタイルの新料理。その料理に対して初め、パリジャンはもちろん世界中からパリにやってくる食通の中には異議をとなえる者もあった。

    • 秋が旬の洋梨を、日本酒マリネ、ロティール、チップスの3つのスタイルに仕立てたデザート。シソとヴェルヴェーヌが香るアイスクリームを添えて

       フランス料理の花形といえば、やはり肉なのだ。【ラルページュ】が野菜に方向転換した時もそうだったが、フランス料理の最高峰である3ツ星店、かつ豪華ホテルのメインダイニングなのに、シリアルや野菜、イワシなどの大衆魚を主役にするなんて! という声が上がったのだ。
       この大きな変化に対し、ミシュランも慎重な姿勢をとり、リニューアル後1年目は2ツ星に降格。しかし、デュカス&メデーが率いる厨房スタッフはこのコンセプトの可能性を信じ、料理をさらに追求し、翌年、有無を言わさず3ツ星を奪回して現在に至っている。

    • 厨房の一隅には、果物や植物、野菜などをオイルやアルコール、塩水などに漬け込んだ保存瓶がずらり。これらが自家製のアロマオイルやピクルスとなり、料理の香味料の一部となる

       ひよこ豆、かぼちゃ、イワシ。文字にするとごく庶民的な食材だが、最高質のものを手に入れ、綿密に調整された完璧な調理法で極上の料理に変化させる。同時に、ヒラメやキャビアといった高級食材も取り合わせ、魚介、シリアル、野菜の魅力を、この店でしか実現できない料理に姿を変えて皿に乗せる。
       食材の自然なおいしさを、調理という人間の技術と掛け合わせた、錬金術のような料理を生み出し、常に時代のその先を睨んでいるアラン・デュカス氏。今、ようやく時代がこの店のコンセプトに追いつき、その魅力は、ミシュランはもちろん世界のベストレストラン50でも高く評価されている。

    • クラシックな優美とコンテンポラリーなエレガンスが巧みに組み合わさった、見事なまでに美しい内装。サービスも、パリの3ツ星の中でもひときわ際立つ洗練度
    シェフの哲学 ロマン・メデー氏

    魚介、シリアル、野菜に特化した、今までにない料理アプローチ。豊かな自然が生産者たちを通して我々に与えてくれる全ての恵みを大切にしながら、デュカス氏と共に、その魅力を最大限掘り下げていきたいと思っています。

  • エストラゴンの香りをまとわせた鳩のロティール、ビーツのピュレ。胸肉には、シェリーヴィネガーと鳩のジュをソースに。
    腿肉はサラダ仕立て、肝は発酵コショウを香らせ茶碗蒸し風に

    Alléno Paris - Pavillon Ledoyen アレノ パリ パピヨン ルドワイヤン

    パリの歴史を数世紀にわたって見つめてきた
    美しきレストランの新たな黄金期

     シャン・ゼリゼ大通りの中程、緑豊かな木立に囲まれた瀟洒な館がある。【パヴィヨン・ルドワイヤン】だ。その歴史を18世紀にまでさかのぼる、パリの歴史的建造物。この場所に、革命時にはロベスピエールが顔を出し、19世紀にはナポレオンがジョゼフィーヌと出会い、20世紀になると印象派の画家たちが集った。この館は、パリの歴史を見つめ続けてきたのだ。

    • 極上のムール貝を、セロリオイルとマスタードソースで。ムールの汁でつくったアイスクリームとトマトベースのクーリ、きゅうりの発酵塩漬けなどを添えた前菜

       20世紀後半から、レストランとしての名声が高まり、ジスレーヌ・アラビアン氏、クリスチャン・ル=スケール氏というトップシェフの手を経て、2014年からは、現代フランス料理界を代表する実力派料理人、ヤニック・アレノ氏が経営。【アレノ・パリ パヴィヨン・ルドワイヤン】として、由緒ある館に新たな黄金期をもたらしている。

    • フワンスの高級車ブランド、DSオートモビルズとコラボしてこの夏に完成した最新鋭の美しい厨房。厨房横に、モエ・エ・シャンドンとコラボしたシェフズテーブルもある

       パラスホテル「ル・ムーリス」を3ツ星に導き、一躍ガストロノミー界の頂点に躍り出たアレノ氏。超一流ホテルのシェフという安泰の地位を辞して自らの冒険に乗り出し、1年目から3ツ星を獲得する順風満帆ぶりがうかがえる。2017年には、10年ほど前からフレンチアルプスのリゾート地クーシュヴェルのラグジュアリーホテルで手がける【ル・1947】も3ツ星の栄誉に輝き、アレノは、史上初のフランスで2つの3ツ星を獲得する料理人となり、名実共に、フランス料理界を代表するトップシェフとなった。

    • ぶどうの抽出液やスパイス、赤ワインで二日間じっくりポジェしたイチジクは、とろけるような食感と複雑な香り。カレー風味のアイスクリーム、ミルククリームを添えて

       自分の城でアレノ氏が目指すのは、クラシックなフランス料理のコンテンポラリー化。もともと伝統的なソースの達人としてその名を馳せていた料理人だが、ソースというフランス料理の真髄を、現代の嗜好に合わせ、味のインパクトは保ちつつより軽やかに進化させる研究を、この10年来行っている。その実現を可能にする研究成果が、“食材の抽出液(エクストラクション)”と“発酵”だ。

    • アレノの料理を個性的に仕上げる、「エクストラクション」。セロリ、イチゴ、マッシュルーム、トマトなど、様々な野菜や果物の水分や風味を遠心分離機どで抽出し、ソースなどのアクセントに使う

       トマトやセロリ、きのこなどの食材に、必要なら水を足し、それぞれの食材に最適な温度で加熱して遠心分離にかけることで、食材の成分が濃縮した液を抽出。油脂分を使うことなく、深みとインパクトのある味を描きだすことができる。さらに、「発酵食品にはエネルギーがあり、テロワールを表現する力がある」と捉え、抽出液に少量の発酵食品抽出液を加えることで、ごく少量で強い印象とエネルギーを持つソースを生み出すことができるのだ。
       ソースの歴史に新たな一章を加えつつあるアレノ氏のアプローチ。クラシックな美味しさのなかに潜みつつ、食べ手に深い感動を与えるアレノ氏ならではの、技術と表現の妙。同じ時代を生きることに感謝したい料理人の一人だ。

    • 歴史的建造物らしい、典雅な美を持つ広々とした客席。大きな窓の向こうは、シャン・ゼリゼ大通り。「ここは私の夢の家。この素晴らしい館に、新たな命を吹き込みたい」とアレノ氏
    シェフの哲学 ヤニック・アレノ氏

    フランス伝統料理を深く学び、その素晴らしさを長年表現してきています。今そこに、私なりに開発解釈した“現代風ソース”の要素を加えることにより、深みを保ちつつ軽やかでヘルシーなフランス料理を考案しています。

  • 小石のように見えるのは、実はフォアグラ。味噌の風味を香らせてポシェしてグラサージュ。
    ヴィネグレットやマヨネーズとともに、繊細かつ上品に、フォア・グラの美味しさを独創的に表現

    Le Cinq ル・サンク

    5ツ星を誇るラグジュアリーホテルに
    さらなる輝きを添える名門レストラン

     2002年から【ルドワイヤン】で3ツ星を獲得し続けてきたクリスチャン・ル=スケール氏が、【フォーシーズンス・ホテル・ジョルジュ・サンク・パリ】のシェフとしてヘッドハンティングされたのは、2014年晩秋。目標はひとつ。パリを代表するパラスホテルのメインダイニング【ル・サンク】を3ツ星に返り咲かせること。さらに、その目標達成のために許された期間は1年間という、それはかなりシビアなものだった。

    • エイヒレを、米のとぎ汁や米酢でポシェ。鶏ブイヨンベースのジュと、トマトのクーリを添えて。ファッションや建築にも興味を持つシェフ、見た目のインパクトも大切にする

       業界全体が大注目した巨匠シェフの移動。大きな好奇心を持って見つめられるなか、数ヶ月後のミシュランでは2ツ星、そして翌年、失われていた3ツ星を見事に取り戻し、ル=スケール氏の威光はさらなる輝きを放った。
       「料理はファッションと同じ。常に動きがあり、スタイルが変わる。以前は“自分の家”だったが、ここは“パリを代表するパラスホテル”。よりインターナショナルな人々が集い、今現在のパリの美食とは何か?を求めてくるんだ。その期待に最大限こたえるのが私の仕事だ」。

    • 厨房で行われる作業は、どの工程を取っても非常に緻密。極めて精度の高い技術が、唯一無二の感動料理体験を生み出す

       味の追求はもちろんだが、そこに、パリのパラスの3ツ星店ならではの魅力を加える。極上のフォアグラは、本来の美味しさを保ちつつ見た目はまるで海岸で波に洗われる小石のよう。ラングスティヌは色あざやかな建築美を纏う。
       テイストとヴィジュアルのハイレベルでの共存を図るため、日々、研究開発だけを行う専門スタッフもいる。味や加熱の分析、風味の組み合わせ、デザインなどが緻密に研究され、全てにおいてバランスが取れた素晴らしい料理が生み出されるのだ。「ここはパラスの3ツ星店、車で言えばフォーミュラ1のようなもの。理想を実現できる素晴らしいチームを、私は持っている」。

    • サービスごとの厨房&パティスリースタッフは17人。ホテルの食部門のトータルスタッフは90人。彼らを束ね、このホテルをパリ随一の美食ホテルに仕立てている

       3ツ星の【ル・サンク】に加え、1ツ星の【ル・ジョルジュ】と【ロランジュリー】、ギャラリーラウンジ、バー、宴会、ルームサービスなど、ホテル全体のフードを管轄するル=スケール氏。その姿は、オーケストラに君臨する指揮者だ。
       このホテルに来た時、大きなプレッシャーがあった、と振り返るル=スケール氏。「誰もが、2年目に3ツ星を取れなければ私がクビになると知っていて、私の行動を見つめていた。あいつはパラスの居心地良さのなかで眠ってしまうのでは? という声も聞きたが、私は逆に、眠りについていたこのパラスの目を覚ましたんだよ」。

    • 発酵牛乳のアイスクリームとムースに、ホワイトチョコレートとフレッシュアーモンドをあしらったデザート。シェフ・パティシエのマキシム・フレデリック氏は、若手パティシエの大注目株

       今彼は、これまでに学んできたフランス料理の素晴らしさを、自らが考案した洗練と軽やかさとともに、次の世代に伝えることを喜びにしている。みずからSNSなどの発信も積極的に行い、今やインスタグラムのフォロワーは7.6万人。時代が求めるものへアンテナを張ることは重要だと語る。
       伝統を取得し、そこに自分の個性を加えて次に手渡す。フランス料理は何百年も、このようにして発展を続けてきたのだ。

    • 壮麗な内装の客席。美しい中庭を臨む、パリのパラスらしい豪華な雰囲気。ドレスアップを楽しんで出かけたい
    シェフの哲学 クリスチャン・ル=スケール氏

    パリのパラスホテルで3ツ星を取る【ル・サンク】に、ゲストが期待するのは、パリらしいフランス料理の美味しさと唯一無二の感動体験。我々はそれを可能にすべく、常に全力を尽くし、発展に邁進しています。

  • 雷鳥のロティールに、ベトラーブの塩釜焼きとうなぎの照り焼き、雷鳥のジュを添えて。
    赤紫が共演する料理に、強さと燻香、カカオが香る、同系色のシャトー・オー・ブリヨン1999年を合わせて

    Le Clarence ル・クラランス

    ポスト3ツ星とささやかれる
    伝統と革新が融合する美しき館

     フランクラン・D・ローズヴェルト大通り31番地。シャン・ゼリゼ大通りとセーヌ川に挟まれたシックなエリアにそびえる、かつての貴族の瀟洒な館。窓には温かな光が灯り、美しい制服に身を包む車係が立つエントランスには、CとDを組み合わせたロゴの旗が誇らしげに掲げられている。
     ワイン愛好家ならこのロゴを見れば、この建物のオーナーがすぐにわかるだろう。ここは、シャトー・オー・ブリオンやシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンを所有するクラランス・ディロンが所有するレストラン、【ル・クラランス】だ。

    • ロティールすることが多いリ・ド・ヴォーを、海苔をまいててんぷら仕立てという斬新なアプローチで。カヴィアをたっぷり盛り付け、野ウサギのコンソメを注いで

       ボルドーが誇る名門シャトーが3年前にパリにオープンした【ル・クラランス】は、招聘したシェフの名前でパリの料理界をざわつかせた。
       その名はクリストフ・プレ。かつてパリの街はずれで【ビガラード】という小さなレストランを手がけて2ツ星を獲得していた気鋭の注目料理人だ。和の食材はもちろん、世界各国の食文化に興味を持ち、独特のセンスでそれらを組み合わせた個性豊かな料理でパリジャンの味覚を唸らせていた。

    • メインダイニングと別に、アペリティフや食後のカフェを楽しむ為の美しいサロンがある。冬には暖炉に薪がくべられ、まるでボルドーのシャトーにいるような錯覚に

       それが、伝統と格式あるワインシャトーが手がける豪奢なレストランのシェフになった、というので、店とシェフのスタイルのギャップに驚く食通も少なくなかった。しかしそれはすぐに、杞憂だとわかった。
       持ち前の好奇心旺盛で自由な感性に、この館が醸し出す重厚でフランスらしいエレガンスがうまく溶け合った料理。それが、今のプレ氏の作品だ。伝統的な調理法やソースを大切にしつつ、あちらこちらに散りばめられた日本やイタリア、スペインなどの風味や香り。そのいずれもが、実に小気味よくかつ的確に利用されている。よくある、流行りだから使ってみよう、ではない、それぞれの風味の特徴を知り尽くしているからこそ可能な、個性豊かなマリアージュなのだ。

    • クラランス・ディロンが誇る、シャトー・オー・ブリオンの、歴代傑作ミレジムのボトルが飾られている。オー・ブリオン系が大充実したワインリストは見飽きることがない

       魅力溢れるプレ氏の料理を引き立てるのは、メゾンが誇るワインたち。古い年代が揃ったオー・ブリオンやラ・ミッション、希少なオー・ブリオンの白も充実。もちろん全て蔵出しだ。これら超一流ワインをグラスでサーヴィスすることも多い。ボランジェ、サロンなど他地域のトップワインメーカーとのコラボディナーも頻繁に開催し、他の店ではあまり見かけない、充実したワイン体験を楽しむこともできる。

    • さっくり軽く焼きあがったフイタージュに、とろけるようなリンゴのロティ。ひんやりしたクリームを添えて。3〜5品からなるデザートが、華やかな食事の最後をチャーミングに盛り上げる

       シャトー・オー・ブリオンに雰囲気を似せて内装を施したというサロンも必見。貴族の邸宅のリビングのような美しいウエイティングスペースでアペリティフを取り、ダイニングですばらしいワインとともにエッジのきいたガストロノミーの世界に浸る。ここではぜひゆったりと時間をとって過ごしたい。
       【ル・クラランス】は今、パリにおける次期ミシュラン3ツ星候補のひとつとみなされている。2ツ星から3ツ星に上がりかけている店の輝きは、唯一無二の眩しさ。まさにこの瞬間、体験したいレストランだ。

    • 館の一部はワインカーブになっており、シャトー・オー・ブリオンを始めとするハウスワインはもちろん、フランス中の選りすぐりのワインを購入できる。日本への発送サービスも
    シェフの哲学 クリストフ・プレ氏

    料理人として大切なのは、日々、食材に魅惑され、そこからインスピレーションを受けて料理に仕立て、ゲストに喜びと感動を与えること。常に好奇心を広げて感性を研ぎ澄まし、料理の新たな可能性を探り続けたいです。

Column

2018年世界のベストレストラン50で
ベスト・パティシエに選ばれた セドリック・グロレ氏にインタビュー

インスタグラムのフォロワー数、100万越え。
【ル・ムーリス】シェフ・パティシエとして活躍する
セドリック・グロレ氏は、今、世界中が注目するパティシエだ。

 世界から熱い視線が注がれる、【ル・ムーリス】のシェフ・パティシエ、セドリック・グロレ氏。彼のスペシャリテは、様々なフルーツの形を極薄のホワイトショコラで精密に再現し、そのフルーツのおいしさをジュレやコンフィなどに仕立てて内部にたくみに仕込んだ、”フルーツ”シリーズ。「季節が私を導いてくれます」と語るセドリック氏。四季折々の極上フルーツにインスピレーションを受けたこのシリーズは、美しいヴィジュアルと、シンプルかつ印象的な風味で、食べ手に大きな感動を与える。
 ミルフイユやパリブレストといったクラシックなフランス菓子も、彼のもう一つのスペシャリテ。「形や風味は変えない、でも素材にこだわりぬき、一つ一つのパーツを研ぎ澄ませています」。彼の伝統菓子を食べると、その完成度の高さに、ミルフイユやエクレールはこんなにおいしいものだったのか? と、ため息がでる。
 ファインダイニング【ル・ダリ】で提供するアフタヌーン・ティも人気だが、2018年春にはホテル内にパティスリーを併設し、店の前には日々長蛇の列。今、パリで最も熱いスイーツスポットになっている。

  • 世界中からマスタークラスやデモンストレーションに招聘されるセドリック氏。「旅で出会う料理や食文化にも大きなインスピレーションを受けます」。
  • 【ル・ムーリス】のアフタヌーン・ティ。パティスリーやタルト、スコーン、クッキーなど、セドリック氏自慢のお菓子を味わいながら過ごす、幸せな午後。
  • セドリックの名前を世界に広めた“フルーツ”シリーズの定番、『レモン』。本物かとみまごう精巧な作り。ブティックでは、オリジナルの美しいボックスに入れて販売。
  • ブティックでは、パティスリーのほか、マドレーヌやクグロフ、クッキーなどの焼き菓子も販売。オーヴンを併設してあり、焼きたてお菓子のいい匂いが店内に漂う。

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