第90回:天ぷら職人の手しごと
仕事が嫌いだと豪語する早乙女氏。「あんなもんやりたくねぇな。」…仕事の大変さを知っているからこその一言に重みを感じた。カウンターに入ったその瞬間から魚と油に夢中になり、誰にも負けたくないとひたすらがんばる。その集中力の高さ、そして江戸前の粋な職人の生き様が宿るこだわりの天ぷらはまさに芸術。この55年間、一日たりとも休んだことがないという早乙女氏の手しごとに迫る。
蒸す、焼く=揚げる
――正直、一般的な天ぷらとはちょっと違うもののような気がします。早乙女さんから見る天ぷらってどんなものでしょう?
早乙女:一番有利な調理の仕方だね。煮るだけ、焼くだけ、生で食うだけ、それって調理法が単一なんですよ。天ぷらは“蒸す”のと“焼く”のが同時にできちゃう。これにね、油の旨さが加わっちゃうの。これ天下無敵でしょ!ひとつの調理でもう他のものを寄せ付けないほどの優位性を持っていますよ。
――なるほどね。きれいに揚がったとか、軽く揚がったとか、そういうことではなく。
早乙女:衣を境に何をするかということ。蒸すことと焼くことを仕掛ける。するとその反応が出てくるんです。普通の油はね、だいたい180度で発煙するけどサラダ油は230度まで発煙しない。そのパワーを使うか、ごま油の旨さを使うか。そのバランスで仕事を仕分けてるんですよ。
研ぎ澄まされた感性
――“生より生を感じさせる天ぷら”を揚げる人といわれていますが、テクニックですか?
早乙女:いやテクニックなんて5年、10年で取得できる。絵描きさんに一流の教育と一流の材料をそろえても、出来上がりに3000倍の差がつくこともある。自分の生き様が江戸前でなかったら江戸前の表現はできないんですよ。だからあたしゃ夜通しの銭も持たずに1円残らず銀座にバラ撒いてくるんです(笑)。結局いつも自分がハラハラドキドキするようなところに居たい。感性を刺激したい。安定にどっぷりと浸かっていたくはないんです。
――ま、だから若々しくいられるっていうのもあるかもしれない。
早乙女:俺こそが江戸前に生きているんだ。手段として天ぷらを使っているってね。
――かっこいいじゃないですか。