ミラノから日帰りで叶う、エキサイティングな食体験 北イタリアの
トップレストラン
Hitosara special

“世界一のレストラン”に輝き続けたモデナのレストラン【オステリア・フランチェスカーナ】ほか、
世界トップレベルのガストロノミ―レストランが集まる北イタリア。
クールで、アーティスティックでエキサイティングな新しいファインダイニングの体験を楽しみに、
今日も人々は、そのレストランを目指して旅に出る。
ミラノを拠点に、今、のりにのっている、レストランを取材した。

Photographs by Tadahiko Nagata / Coordination&Text by Masakatsu Ikeda / Design by form and craft Inc.

  • 『ラザーニャ・クロッカンテ』蝦片のような食感のノンフライ三色パスタは、
    一度ゆでたスパゲッティをシート状にのばしてからオーブンで焼いてあり、クリーミーなラグーソースにつけて食べる

    Osteria Francescana オステリア・フランチェスカーナ

    この店の席を目指して世界から予約が殺到
    モデナの観光名所となったガストロノミーの名店

     ここ数年、世界のファイン・ダイニング界はこのレストラン抜きに語れないだろう。2011年にミシュラン3ツ星、2016年、2018年には世界ベストレストラン50で世界一に輝いたマッシモ・ボットゥーラ氏率いる【オステリア・フランチェスカーナ】だ。大学卒業後に料理人の道を目指したボットゥーラ氏はモデナ郷土料理から始め、ニューヨークに渡ってイタリア料理店で働いた後はアラン・デュカス氏やフェラン・アドリア氏の元で修行。現在の独創的な料理は一時期「イタリア料理の破壊者」と呼ばれたこともあったが、多くの批判を実力でねじ伏せてきた遅咲きの苦労人だ。
     ボットゥーラ氏の料理は一見難解だがほとんどの料理は伝統的イタリア料理をベースにした新解釈だ。ボットゥーラ氏がつねづねいうのは「伝統料理は郷愁の眼差しでなく、批判的眼差しで見つめ直さなければいけない」ということ。つまりこの伝統的レシピは本当にこれでいいのか? と考え直すことが最も重要だ、と言い続けている。『ラザーニャ・クロッカンテ』もそうした料理のひとつで、これはボットゥーラ氏の少年時代、兄弟たちで争って食べたのはラザーニアの一番上の焦げてカリカリになった部分だったという思い出に由来。濃厚で重いラザニアを軽く、クリスピーなフィンガーフードに仕上げたものだ。
     また、ボットゥーラ氏は現代アートへの造形も深く、多くの作品から料理のインスピレーションを得ている。代表的なドルチェ『ウップス・落ちたレモンタルト』は、スタッフが盛り付けの最中に、タルトを落として割ってしまった時に生まれたアイディアで、ボットゥーラ氏は「いいじゃないか、そのまま盛り付けよう」とひらめいた。実はこれは中国の現代アーティスト、アイ・ウェイウェイ氏が漢時代の壺を落として割る、という作品がアイディアとなっていたのだ。
     今年の「世界のベストレストラン50」では殿堂入りを果たし、ランキング対象外となったボットゥーラ氏はモデナに対する郷土愛が非常に強い。料理にはバルサミコやパルミジャーノ、モルタデッラ、コテキーノなど地元の食材を多用するのはもちろんのこと、地元食材の素晴らしさを強調している。地方にこそ豊かな郷土料理や食材があるのがイタリア料理の特徴だが、まさにそうした多様性を表現、世界に発信しているのがマッシモ・ボットゥーラ氏なのだ。

    • 『パルミジャーノ・クリームのトルテッリーニ』さすがのボットゥーラ氏でも伝統的パスタはアンタッチャブルな存在。モデナ伝統の手打ちパスタ、トルテッリーニを最高級のパルミジャーノ・クリームと一緒に食べる。世界最高のトルテッリー二
    • 今年の夏の新作ドルチェは『冷たいババ』。甘いブリオッシュ生地にリモンチェッロをたっぷり含ませ、カスタードクリームとトマトを合わせた「ドルチェ・サラート」な味わい
    • 【オステリア・フランチェスカーナ】は全38席。これはボットゥーラの代表的料理の一つ『サイケデリック・ステーキ』の題材にもなった、ダミアン・ハーストの作品が飾られた部屋
    • キッチン脇にあるシェフズ・テーブルは通常は予約不可能で、ボットゥーラ氏と親しいスペシャルなゲストのみに開放される
    シェフの流儀 マッシモ・ボットゥーラ氏

    イタリア料理と日本料理は、食材重視という点で非常によく似ており、ソースが素材を隠してしまうフランス料理や中国料理とは異なる。だから日本人はイタリア料理が好きだし、私の元でも多くの日本人が働きましたがみな素晴らしい仕事をしてくれました。いまわたしはフードロスに取り組みチャリティ・レストラン【レフェットリオ】を世界で展開していますが、次は日本にもオープンできればいいですね。

  • 『ムール貝とナス、スカンピのスパゲッティ』魚介類のパスタは【ダ・ヴィットリオ】のスペシャリティ。
    これはムール貝のソースにパスタをからめ、エビとナスのソテーをトッピング。ナスとバジリコのクリームが夏らしい清涼感を醸し出す

    Da Vittorio ダ・ヴィットリオ

    1966年創業、家族経営の老舗にして
    イタリアを代表する魚介料理店

     ミラノから最も近い3ツ星【ダ・ヴィットリオ】が誕生したのは今から半世紀以上前の1966年のこと。ヴィットリオ・チェレア氏とブルーナ夫妻が、当時のベルガモには珍しかった魚介料理専門店として創業。当時のミラノ周辺部では今と違って魚を食べる習慣がほとんどなかったが、ヴィットリオ氏はヴェネツィアの漁師と契約を結んで新鮮な魚介類を日々調達することに成功すると、その噂は瞬く間に知れ渡ることになる。1978年にミシュラン1ツ星獲得。やがて成長したエンリコやロベルトら5人の子供達がレストランを手伝うようになり2010年にはついに3ツ星獲得。ヴィットリオ氏はその栄誉を見ることなくこの世を去ったが、以来【ダ・ヴィットリオ】は9年連続で3ツ星を維持しており、ケータリングやホテル、パーティスペースも拡張。現在イタリアで最も成功しているレストランとなった。
     現在の【ダ・ヴィットリオ】はイタリアを代表する家族経営レストランの典型にして極致だ。チェレア家の長男、通称キッコことエンリコがシェフ、次男のフランチェスコはレストラン・マネージャー、三男のロベルトはドルチェ、そして長女のロッセッラがレセプション、次女のバルバラが姉妹店のカフェ担当と子供達全員が父親が築いた道を歩んでいる。
     【ダ・ヴィットリオ】の料理は現在も魚介類中心だが、キッコが遊び心を加えた料理もコースの中に登場する。特に『カルタ・ビアンカ』というメニューはイタリア語で白紙委任状を意味し、エンリコ氏のおまかせスペシャル・メニューに相当。
     そのメニューの中でも、トマトソースを使ったショートパスタ『ヴィットリオ風パッケリ』は必ず登場する永世定番で、50年間作り続けている【ダ・ヴィットリオ】の味。ソースに使用するのは3種類のトマトとパルミジャーノ・レッジャーノ、バジリコ、唐辛子のみ。トマトの心地よい酸味とチーズのコクはシンプルだけどいくら食べても飽きない。これはチェレア家の食卓にも常に登場したであろうヴィットリオ氏の味であり、さらに次の世代へと伝えてゆくイタリア家庭料理の原点だ。彼とともにレストランと5人の子供達を育てたブルーナ夫人が挨拶に訪れた。すでに80才を超えているのというのに夜遅くまで大変ですね、と話しかけると「この店はわたしたち家族の家だから疲れるなんてことはないのよ」という。
     ヴィットリオの時代から料理は進化し続けているとはいえ、根本にあるホスピタリティは創業当初からいつも変わらない。それこそが家族経営ならではの魅力であり、イタリアにはそうしたレストランがまだ数多く残っている。父から子供達にバトンを渡し、夢を叶えた究極系がこの【ダ・ヴィットリオ】なのだ。

    • 『アラゴスタ』300gの伊勢海老を使ったリッチな料理。伊勢海老を生姜、ニンニク、タイム風味のバターで調理して丸ごといただく。ソースにはイタリアンパセリ、ペコリーノ・チーズ、オリーブのクランブル、プッタネスカ・ケチャップとともに
    • 『豚バラ、セロリ、青リンゴ』豚バラ肉は軽く燻製したあとに真空低温調理。仕上げにスパイスをのせてかりっとグラティネしてある。外はかりかり、中はほろほろの食感。セロリのカンディート青リンゴ風味と、青リンゴのソースの甘みが心地よい
    • ベルガモから車で10分ほどの郊外にある【ダ・ヴィットリオ】。全10室の客室やプール、テニスコート、などのほかVIP用にヘリポートも完備。敷地内には広大なブドウ畑もある
    • 【ダ・ヴィットリオ】自慢のカンティーナ。ピエモンテ、トスカーナ、ヴェネトなど地元イタリアを代表する銘醸ワイン以外にも、シャンパーニュやブルゴーニュの超絶ワインが眠る
    シェフの流儀 (左)エンリコ・チェレア氏
    (右)ブルーナさん

    イタリア料理は家庭料理です。【ダ・ヴィットリオ】の料理もその延長線上にあります。わたしは料理に関する多くのことを両親から学びましたがまだまだ研究しなければいけないことが山ほどある。特にドルチェは常に進化し続けているので【ダ・ヴィットリオ】のドルチェも進化をやめてはいけない、と思っています。

  • ヴェネツィアン・ガラスの手法を料理に取り入れた『カプチーノ・ムリーナ』。
    これは『イカスミのカプチーノ』の進化系で、下にはイカスミのスープが隠されている

    Le Calandre レ・カランドレ

    史上最年少で3ツ星獲得
    早熟の天才シェフが異彩を放つ

     2002年にマッシミリアーノ・アライモ氏は28才7ケ月という史上最年少で3ツ星を獲得、これは今だに破られていない記録だ。以来【レ・カランドレ】は17年連続で3ツ星を維持しているが、これはイタリアでは24年連続で3ツ星に輝く【ダル・ペスカトーレ】に次ぐ最長記録でもある。リータとエルミニオ・アライモ夫妻が営んでいた【レ・カランドレ】は当時1ツ星だった1994年に若き2人の息子たちに店を譲る。18才でシェフとなったマッシミリアーノ氏は自由な発想で独自の料理を創造する天才肌、一方兄のラッファエッレは実務的なマネージャータイプと、二人の個性を見極めていた両親の慧眼は見事にあたったのだ。
     マッシミリアーノ氏の料理は彼の明るく、やんちゃな人柄をよく表している。彼が3ツ星を獲得した当時は少年のような風貌もさることながら、子供が画用紙に絵を描くような、自由な料理がイタリア中を魅了したのだ。それは45才となった今も変わらない。彼の料理はいつも楽しく、明るく、美しい。店の雰囲気も3ツ星とはいえカジュアルできさくな雰囲気。それは全てマッシミリアーノ氏の人柄ゆえだろう。
     彼の代表料理に『カプチーノ・ムリーナ』がある。これはすでに20年近く作り続けている『イカスミのカプチーノ』を進化させた料理で、マスカルポーネとジャガイモのピューレの上にビーツ、ほうれん草、イタリアンパセリ、ウニなどのソースでヴェネツィアン・ガラスの代表的な文様「ムリーナ」を描き、下には温かいイカスミのスープをしのばせてある。息を呑むような美しさもさることながら、スプーンでそっと混ぜながら口に運ぶと、どこか懐かしい磯の香りが立ち上る。そう、これはヴェネツィアの魚市場の香りだ。見た目は現代アートのように斬新でも、味はきちんとしたクラシックなイタリア料理。マッシミリアーノ氏の遊び心の究極形ともいえる見立て料理だ。
    「ゲストにメニューを説明する時間はわすか3分、しかしその3分はとても重要で、レストランとゲストとの出会いの時間なのです。わたしたちは技術や優秀さを誇示するのが仕事ではなく、ゲストにあった料理を組み立て、喜ばせるのが仕事なのです。」
     見立て料理といえばもう一品『アランチーノ・フリアービレ=壊れやすいアランチーノ』を食べたが外見はシチリアのライスコロッケ、アランチーノにそっくり。ヒヨコ豆で作った衣は気持ちいいほどにサクサク。中にはリゾットを詰め込んだ料理なのだが、実は小麦粉を使わないグルテンフリーでもある。時にスナッキーな味でゲストを楽しませながらもヘルシーかつ現代的。素材に関しても常に時代を考え、現代イタリアでも深刻な社会問題となっているグルテン・アレルギー問題にも取り組んでいる。
     常に食材が最優先、というマッシミリアーノ氏の最新のプロジェクトは農学者とコラボし、アフリカでイタリアの小麦や野菜、オリーブなどを栽培し、イタリア料理を通じて労働を生み出すとともにイタリア料理をアフリカにもひろめることだ。「シェフは料理を作っていればいいという時代は終わった。これからはシェフが考えてアクションする時代になる」とは「ガンベロ・ロッソ」の創設者である故ステファノ・ボニッリ氏の言葉だが、マッシミリアーノ氏はチャリティ・ディナーはじめ行動を起こすシェフとしても知られている。そうしたプロジェクトを陰日なたとなって支えているのがラッファエッレ氏であり、イタリア料理界最強コンビといわれるアライモ兄弟の、つまりは【レ・カランドレ】の強さなのだ。

    • 『アランチーノ・フリアービレ』とはさくさくのアランチーノという意味。非常に軽い食感はパン粉ではなくヒヨコ豆の粉を使っているから。シチリアの代表的ストリートフード「アランチーノ」とヒヨコ豆を使ったスナック「パネッレ」の組み合わせ
    • 『黒米のフェットゥチーネ、アスパラガス、ボッタルガ、サバのソース』黒米で作ったグルテンフリーのフェットゥチーネは、噛みごたえがありマグロのカラスミによくあう
    • 『アーモンドミルクのモッツァレッラ』外見はモッツァレッラそっくりだが実はアーモンドミルクの球体キャンディで、割ると中からリコッタの泡が出てくる
    • テーブルクロスのないダイニング・ルームはあくまでシンプルでミニマル。一見ナプキンに見えるのは実はゲスト用のスマホカバー。これも【レ・カランドレ】流の遊び心
    シェフの流儀 マッシミリアーノ・アライモ氏

    史上最年少28才で3ツ星を獲得した天才マッシミリアーノ・アライモ氏は、45才となった現在もイタリアのトップを走り続けている。「食材には目に見えないものがあります。ミントの葉をにぎりつぶしたら葉はぼろぼろになるけれど香りは手のひらの中に残るでしょう?わたしはそうした目に見えない食材を大事にしたいのです。」

  • トランプを形取った4種類のパスタ『ミスキアーレ・カルタ(カードをまぜろ)』。
    師匠マルケージ氏の料理を発展させたオルダーニの真骨頂で、パスタの下には魚介類が隠されている

    D'O ディー・オー

    マルケージ氏の遺伝子を受け継ぐ
    ダヴィデ・オルダーニの注目店

     1980年代に活躍したグアルティエロ・マルケージ氏は「近代イタリア料理の父」と呼ばれ、史上初めてイタリアにミシュラン3ツ星をもたらした。それはフランス料理以外で史上初の3ツ星でもあり、それまで一般的には家庭料理と思われてきたイタリア料理の地位を大きく向上させたのだ。マルケージ氏は2017年末にこの世を去ったが、当時彼の元で働いた若手料理人たちは「マルケジーニ」(=マルケージ・チルドレン)と呼ばれ、現在はミラノを中心にイタリア料理界を引っ張るトップシェフとなっている。【ディー・オー】オーナーシェフ、ダヴィデ・オルダーニ氏もその一人で、当時マルケージ氏から受け継いだ料理を新解釈で再現、多くのイタリア料理ファンをひきつけている。
     オルダーニ氏はかつてはプロ・サッカー選手を目指していたが怪我で断念。料理人の道を目指してマルケージ氏の扉を叩いたという異色のキャリアを持つ。若い頃は【アクアパッツァ】の日髙良美氏とともにマルケージ氏の厨房で働き、切磋琢磨した間柄だ。
     オルダーニ氏が提案する料理は「クチーナ・ポップ」。つまり見た目は楽しくてポップ、なおかつラグジュアリーな高級食材ではなく身近な食材を使ったガストロノミーだ。元サッカー選手であり、アスリート向け料理にも取り組んでいることから料理はつねにヘルシーかつローカロリー。とくにミラノはファッションの街でもあるだけに体型を気にした男女が多く、ヘルシー料理のニーズが高いのだ。
     これぞ「クチーナ・ポップ」という料理が『ミスキアーレ・カルタ(カードをまぜろ)』というパスタ料理だが古いマルケージ氏料理のファンならばピンとくる人もいるかもしれない。これは80年代に一世を風靡した、マルケージ氏の分解パスタ料理『オープン・ラヴィオリ』の進化系なのだ。マルケージ氏はパスタ生地にさまざまなハーブを練りこんで三つ葉のクローバーを描き、魚介類などの上にそっと重ねた。それはいままでのパスタ料理の概念を打ち砕く革新的なプレゼンテーションだったが、オルダーニ氏はこの名作を踏襲。パスタをトランプに見立てその下には帆立や舌平目などを隠してある。「カードをまぜろ」とはよく混ぜてから食べてくださいという意味でもあり、ゲストを驚かせ、そして楽しませる仕掛け満載の料理なのだ。

    • 『ズッキーニ』という料理はその名の通り食材はズッキーニのみ。クリーム、マリネ、花のクラッカーと、身近な食材を様々なテクニックの調理法で味わう
    • 『子豚、フェンネル、フィル・エ・フルー・ソース』サルデーニャ伝統の子豚のローストをイメージ。サルデーニャでよく使われるフェンネルや地元のリキュールを甘口のソースにした
    • イタリアにしては珍しく、料理人全員がトックをかぶった機能的な厨房。料理はポップだがスタッフは全員真剣そのもので緊張感が漂う
    • ミラノ郊外コルナレードにある【ディー・オー】。店名のD’Oとはオーナーシェフ、ダヴィデ・オルダーニ氏のイニシャル
    シェフの流儀 ダヴィデ・オルダーニ氏

    「マテリア・ポーヴェラ」つまり日常に使用する何気ない普通の食材にこそ、地域性が現れると私は思います。高級食材ではなくなにげない、しかし選び抜いた地元の食材を使い、いかに美味しくしかもローコストな料理を作るか? そこが料理人の技術だと思います。ラグジュアリーでもグラン・メゾンでもない、ポップな料理をわたしは目指しているのです。

  • 『フォアグラとうなぎ』モデナの伝統的食材であるウナギにフォアグラをあわせ、発酵ビーツのジュースで酸味をプラス。
    仕上げはすき焼きソースのフィルム。イタリア人の誰もが「このソースはなに?」と聞いてくるのが面白くて、と徳吉氏

    TOKUYOSHI トクヨシ

    いまイタリアで最も注目される
    日本人シェフ徳吉洋二氏

     【TOKUYOSHI】こと徳吉洋二氏の名前は独立前からイタリア料理界では知れ渡っていた。2005年に【オステリア・フランチェスカーナ】に入店するとすぐにその実力が認められてセコンドシェフに抜擢。以来マッシモ・ボットゥーラ氏の右腕として9年間共に働き2011年の3ツ星獲得にも大きく貢献。【オステリア・フランチェスカーナ】の壁にはその時スタッフ全員が記したサインがいまも残っているのだが、徳吉氏の名前もその中にある。2014年に【オステリア・フランチェスカーナ】を去り、翌年【TOKUYOSHI】をオープンした際も「あの徳吉のレストランだ! 」ということでミラノ・ガストロノミー界を中心に話題になり、同年11月には1ツ星を獲得。これは日本人オーナーシェフとしてはイタリア史上初の1ツ星獲得となる、エポックメイキングなできごとだった。
     オープン当初徳吉氏は「クチーナ・コンタミナータ」を標榜していた。これは「干渉を受けた料理」という意味で、日本とイタリアお互いが素材やテクニックなど相互干渉しあう徳吉料理の世界を端的に表現していたのだ。オープンして4年が過ぎ、現在は「クチーナ・コンタミナータ」というより「徳吉料理」ともいうべき独自の世界を構築している。とはいえ、料理から伝わってくるのは徳吉氏のアイデンティティ。日本人としての出自、イタリア料理人としての矜持、モデナやミラノなどの地方料理の影響や素材などを自由な発想で組み合わせてあるのだ。
     例えば土鍋で登場する『リゾ・アッラ・ピロータ』は本来はマントヴァの郷土料理。リゾットのように米をブロードで炊くのではなくゆでたあとに具と混ぜる日本の混ぜご飯に似た料理だ。徳吉氏はイタリアの米を土鍋でぱらぱらに炊いてから生タイプのサルシッチャ・ブラとカタツムリ、ペコリーノ・チーズをまぜ、木の飯碗で提供する。サルシッチャの脂やペコリーノが米に溶け出し、さまざまなハーブと渾然一体となり思わずおかわりしたくなる。日本とイタリアの共通項を探し、最適なイタリア料理の手法で楽しませるのが徳吉氏の真骨頂だ。
     彼の料理は日本人にとってもイタリア人にとっても斬新かつ新鮮。日本の伝統や絵画、文化を料理にとりいれているが根底にあるのはやはり長年培ったイタリア料理であり、「いろいろなものをとにかく混ぜてしまうのがフュージョン。わたしのクチーナ・コンタミナータは日本とイタリアがお互いに影響を受け、影響を与えている料理です」と徳吉氏。確かにそのコンビネーションは自由自在だが、実際口にすると「なるほど! 」と納得できるはず。料理の中に秘められた徳吉氏のアイデンティティを探す、そうした知的作業がまた楽しいのだ。

    • 東京に今年の2月オープンした【アルテレーゴ】同様、徳吉グリーンとも呼ばれるブリティッシュ・グリーンで統一された店内。年内には全面改装予定で来年早々には新しいインテリアとなる
    • 『ズッキーニのエスカベーシェ』ズッキーニの中にはエビが挟んであり、イカスミやイタリアンパセリで彩色した徳吉グリーンの料理。イカのブロード、イカとラルドのセビッチェ・タルトとともに
    • 日本の土鍋を使った『リゾ・アッラ・ピロータ』。ブラのサルシッチャ、カタツムリ、ペコリーノ・チーズをまぜて1人前づつ木の器に盛る。マイクロスプラウトを使った緑のソース、トッピングにはさまざまなエディブルフラワーを
    • 「イチゴが大好き」という徳吉氏のドルチェは、イチゴのソルベとロビオラ・チーズを使ったチーズケーキ。牛の模様はカカオのソース、野菜の炭の粉とホワイトチョコレートで描かれている
    シェフの流儀 徳吉洋二氏

    僕は日本人なのでイタリアの伝統料理がDNAに染み込んでいるわけではない。あくまでも日本人。だからこそ、いま少なくなりつつある伝統料理をきちんと作れるイタリアのおばあちゃん(ノンナ)と積極的にコラボレーションしています。それはもちろん僕自身も勉強になりますが、そうした文化を残していきたいのです。

  • 『ニシンのラヴィオリ』は滑らかな手打ちパスタ生地で、自家製マヨネーズであえたニシンを包んだもの。
    ポロネギとフェンネルの温かいブロードと一緒に食べる

    Ristorante Cracco リストランテ クラッコ

    現代イタリア料理界のエース
    カルロ・クラッコ氏注目の新店

     “マルケージ以降のイタリア料理界”を語る上でカルロ・クラッコ氏の名前は外せない。ダヴィデ・オルダーニ氏らとともにマルケージ氏の下で働き、マルケジーニ(=マルケージ・チルドレン)を筆頭として3ツ星獲得に貢献。その後もフィレンツェの名店【エノテカ・ピンキオーリ】やマルケージ氏がフランチャコルタに移転した後の新店【アルベレータ】でともにシェフとして3ツ星を獲得するなど活躍。その後ミラノに自分の名前を冠した初のレストラン【クラッコ】をオープンし、ミシュラン2ツ星を獲得。料理番組「マスターシェフ」の審査員を務めるなど華々しい活躍を見せてきたのだ。その【クラッコ】は満を持して2018年に春にミラノのシンボル「ガッレリア」内に移転。それはミラノ市との共同プロジェクトでレストラン【リストランテ・クラッコ】はじめバールやイベント・スペースなど複合施設を備えた【ガッレリア・クラッコ】として再スタートを切った。
     新生【リストランテ・クラッコ】は1877年に完成した鉄とガラスの大伽藍「ガッレリア」中心部にある。1階がクラシックなカフェとドルチェ、2階がレストラン、そしてガッレリアを見下ろす最上階のイベント・スペースは1920年代のインテリア。設計者の名前をとり「ジュゼッペ・メンゴーニ」と名付けられた。さて、その【リストランテ・クラッコ】は3つの小部屋と2つのプライベートルームから構成されており、水色と黄色を多用したミッド・センチュリー・ヴィンテージのスタイル。料理はカルロ・クラッコ氏の過去の名作から最新料理までが味わえる。
     クラッコ氏の代表的料理といえば卵黄をのみをつかった手打ちパスタが有名だ。これは卵黄を大豆の粉と砂糖でマリネし、15日間かけて水分を抜いてからシート状に伸ばしたもの。透き通った黄金色のパスタは見た目もゴージャスだが味わいもリッチ。これにチーズのフォンドゥータや白トリュフをあわせるのがクラッコ氏の十八番だが、この季節は夏らしくトマトを練りこんだ赤銅色のパスタで、ほのかな酸味が心地よい。
     もう一品手打ちパスタを選ぶなら『ニシンのラヴィオリ』だ。これは自家製マヨネーズであえたニシンを詰めたラヴィオリで、ポロネギとフェンネルからとったブロードに浮かべたスープ・パスタ。ややスモーキーで北欧を思わせるニシンと、南イタリアを感じさせるブロードとの出会いが新鮮。『ウォーヴォ・イン・ネロ=黒いタマゴ』も代表作の一つ。【リストランテ・クラッコ】はタマゴが持つ素材として可能性を追求、さまざまな手法で料理に取り入れておりこれはポーチドエッグを竹炭をつかった黒いパン粉をまぶしてフリット、ナイフを入れるとなかからはとろりと半熟の卵黄が流れ出す濃厚な料理。イクラのトッピングで鶏卵×魚卵というコンビネーションが味わえる。
    「ガッレリアは最もミラノらしい場所ですが近年は観光地化が進んで、必ずしもミラノらしさ、上品さ、お洒落、洗練、とは言い難かった。わたしはこのプロジェクトを機会に昔のガッレリアを取り戻したいのです。」とクラッコ氏。ガレリアの新たな新名所はイタリアにおけるガストロノミーの中心地、ミラノにおいてもっとも重要なエリアとなりそうだ。

    • 赤銅色に輝く手打ちパスタは、小麦粉を使わず卵黄とトマトのみで作った生地を使った『卵黄のマリネとトマトのスパゲッティ』。トマトソースにレモンの酸味をプラスした爽やかな料理
    • 真っ黒い球体?これはポーチドエッグに黒いパン粉をまぶしてフリットにした『ウオーヴォ・イン・ネロ』でナイフを入れると中から濃厚な卵の黄身が溢れ出す
    • 【リストランテ・クラッコ】は元々ガッレリア内部でオフィスとして使用されていた空間を改装しており、宮殿で食事しているかのような時間が過ごせる
    • レストラン奥にあるのは「イル・フモワール」と呼ばれるアール・デコ・スタイルのシガーバー。当時のインテリアを忠実に再現し、ガレリアを見下ろしながら食後酒を楽しむこともできる
    シェフの流儀 カルロ・クラッコ氏

    いままでミラノはフードツーリズムという観点においては必ずしも魅力ある場所ではなく、観光とガストロノミーは相容れない存在だった。でもこれからはそれではいけない。このガッレリア再生を機にミラノはイタリアにおけるフードツーリズム拠点となって、多くの人にミラノのレストランを味わってほしい。わたしもそのひとり、やりますよ。

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