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グローバルな食のパラダイスへ 香港の
TOPレストラン
Hitosara special

意欲的な東西融合や伝統復活など、シェフの挑戦を歓迎するダイナーが集まるのが、活気溢れる食い倒れの街・香港。
世界中から集まるシェフも食材も高水準な国際都市で、本場の広東料理はもちろん、
今の香港で食べるべき最先端レストランをご紹介します。

Photographs by Miyuki Kume, Billy Ha, Takuya Suzuki / Text by Miyako Kai, Shinji Yoshida
Coordination by Miyako Kai / Design by form and craft Inc.

月掲載
  • アーモンドの木で燻製した脂の載ったサバやパイクパーチの魚卵の濃厚な風味と、
    瑞々しいグリーンアスパラガス、レモンジュースの酸味のコンビネーションが抜群の『Saba with Loire Valley Asparagus and Hen Egg』

    Belon ベロン

    ミニマル。正確無比。自由自在。
    冴え渡る若きシェフの技を堪能

     数々の映画の舞台にもなった、香港・中環の世界一長い屋外エスカレーターの途中にあるSOHO地区。ヨーロッパ、中東、アジア各国のレストランが並び、立ち飲みする西洋人でにぎわうバーがひしめきあった多国籍エリアだ。
     そんな一角にある、すっきりとした木目の外観と、窓からうかがえるアールデコ風の幻想的な照明に照らされて食事を楽しむゲストたちが醸し出す、幸せそうな雰囲気に吸い込まれそうになるレストランが、「ネオ・パリジャン・ビストロ」と称される【Belon】だ。
     2015年にオープンし、2018年にはミシュラン一ツ星を獲得するほか「アジアのベストレストラン50」にも初登場。2019年には「世界のベストレストラン」でも96位に初ランクインするなど、評価はうなぎ登りで、有名シェフたちもオフに足繁く通う店。その原動力は、【Belon】を率いる若きエグゼクティブシェフのダニエル・カルバート氏の情熱。彼の料理は一見シンプル。真っ白な皿に、飾りの要素はなく盛られて、シェアしながらいただくビストロスタイルだ。しかしその料理は、最高の旬の食材を揃えて、シェフの技とひらめき、ディテールへのこだわりでまとめあげたものであることが一目で分かるもの。
     たとえば脂の載りきったサバを主役にした『Saba with Loire Valley Asparagus and Hen Egg』。すぱっと切られた食材の断面だけでも小気味が良く、食材の美味しさを一切漏らさないようにというシェフの心意気が感じられる。口に含むと、青魚ならではの風味とともに、さまざまな味覚が次々と口のなかで弾けて混ざり合い、バランスに迷いがなく、ぴったりツボにはまっている。高品質、潔く正確、手抜き無し。「美味しいから、とにかく味わうこと!」と、カルバート氏に言われているような安心感の中、純粋に食を楽しめる爽快さが舌の肥えた人たちを惹きつけるのだろう。
     そんな【Belon】で、新しいシグネチャー料理になることを予感させる一品が登場した。「スイートブレッド」とも呼ばれる「リー・ド・ヴォー」は、「子牛の胸腺」という部位で、成長するとなくなる白い内臓肉。これを、ペースト状にした編み笠茸とボタン海老でくるみ、ブリオッシュ生地でさらに包んで焼き上げている。「ヴァン・ジョーヌ(黄ワイン)」と呼ばれる特殊な白ワインを使ったオランディッシュソースを加え、香り豊かな子牛のブイヨンソースを注いで仕上げるこの一品は、なじみのある味から逸脱していないのに、食感も風味も組み合わせもすべてが珍しくて、意欲的な料理をいただく食の楽しさが堪能できる。
     「ブリオッシュのドウをベストリーのようにして、スイートブレッドに巻くので、香りも風味もすべてが染みこんでくれるし、普通のパンとは食感が違うのもいいでしょ。スイートブレッドとブリオッシュの食感が似ていてとても合うんだ」とカルバート氏。
     香港以前は、ヨーロッパやニューヨークで修業したカルバート氏。たとえばフォアグラと福岡産あまおうを組み合わせた一品は、苺の旬が終わったら、山梨産の巨峰に入れ替わり、その後は黒トリュフなど、フォーマットは引き継ぎながらも、自由自在に旬の食材を使いこなしている。「いくらでも素晴らしい食材が見つかるから、アジアで働くのは楽しいね。【Belon】はフレンチレストランかと言われると、どうだろう、旬の食材を僕なりの調理で出す、それだけなんだ。何料理かは好きに呼んでくれていいよ」
    ひたすらキッチンで新メニューの開発と、既存メニューのブラッシュアップに心血を十分に注いでる自信がにじみ出る。頼もしい若きシェフのますますの活躍に注目していこう。

    • イギリス出身。ロンドン、ニューヨーク、パリの名店で修業後、2015年に香港の【Belon】へ。2016年からエグゼクティブシェフに就任。休日もキッチンで自家製サワードウの面倒を見に来るという根っからの料理好き
    • リー・ド・ヴォー(子牛の胸腺)を編み笠茸とボタン海老のペーストでくるみ、ブリオッシュで包んで焼いた『”Ris de Veau en Brioche” with Morel Mushrooms and Yellow Wine』は、シェフ会心の新作料理
    • デザートのように見えるのは、フランスのキャスティン社のフォアグラに福岡産あまおうを組み合わせた『“Terrie de Foie Gras” with Fukuoka Strawberries and Champagne』。あまおうの爽やかな甘味と、シャンパンの芳香で、フォアグラがとびきり優雅に
    シェフの流儀 ダニエル・カルバート氏

    調理の中でカルバート氏が重視するのが、「不変性」。たとえばローストチキンなら、必ず毎回、完璧と言える同じ仕上がりになるように、調理温度や時間などを徹底的に実験し尽くしている。そんな努力を経て名物料理になった品々も、「以前のメニューに縛られたくない」とメニューから外す。若々しい外見の裏に、頑固一徹の熱血シェフの姿が見えてくる。

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