四谷【すし匠】の中澤氏がハワイに築いた城。
地の魚で握る江戸前の凄み
【すし匠 WAIKIKI】がオープンして2年。店主・中澤圭二氏に話を聞くと、ハワイで店を始めたばかりの頃のことをこう笑って振り返る。
「正直、甘かった部分が少しありました。こちらの魚でも、捕り方、仕入れ、手当てを、少しずつ改善していけば、いい魚を使えると思っていましたからね。現実は違ったものでした」
あてが外れたのは、魚が食べる餌のこと。餌が異なれば、身質が変わるのは当然、捕り方、手当てなどを改善しても、どうしても望むようなネタにはならなかったという。寿司屋としては悲観的な話しに聞こえるだろう。が、しかし、中澤氏は、そのハワイのネタに真っ向から挑んでいる。たとえば、かつてハワイの王族しか口にできなかったというモイ。熟成をかけただけでは味が淡白な魚を中澤氏は、発酵させた「飯」に2週間漬け込んで和がらしを忍ばせて握る。あるいは、スメルトというワカサギにも似た魚は、軽く酢と塩をして2枚漬けにしてシンコ風に。ハワイの独特の魚を見事な江戸前鮨にしてみせるのである。
鮨職人としての腕の見せどころと言わんばかりに逆境へと立ち向かい、今はその環境を楽しんでいるようにさえ見える。その証拠に中澤氏の江戸前の仕事、鮨は、あっという間にハワイの美食家たちに受け入れられた。
この道40年になろうとする中澤氏。その氏の挑戦する心が、鮨と肴のひとつひとつに感じられるのだから、【すし匠 WAIKIKI】は、食べていて実にエキサイティングなのである。