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進化し続ける食の都の最前線 マカオの
TOPレストラン
Hitosara special

元ポルトガル領のひなびた港町からアジア屈指のカジノリゾートへ。
そんなマカオにいま、世界最高峰の味覚が集結中。
空間も料理も桁違いの迫力にあふれるマカオの食を体験して欲しい。

Photographs by Billy Ha, Takuya Suzuki / Text by Miyako Kai, Taketoshi Onishi /
Cordinate by Miyako Kai / Design by form and craft Inc.

月掲載
  • おなじみのメニューを最高のひとさらに昇華させた『錦繍酸辛湯』。メニューは26品にもおよぶコースのみ。
    アンドレ・チャン氏が「僕にとって史上最高の出来」というワインとドリンクのペアリングも、ぜひお試しを

    Sichuan Moon シチュアンムーン

    夢のような美食体験で堪能する
    24の風味が奏でる四川料理の美

     豪華絢爛なカジノホテル「Wynn Palace」で、名シェフ、アンドレ・チャン氏をカルナリーディレクターに迎えて2019年2月にオープンした四川料理店【Sichuan Moon】。26品にもおよぶディナーは、驚きと至福の食体験になる。
     たとえば紅白の重箱に、絵画のように配された8種類の前菜『88富貴涼菜』。「8つの冷菜には、四川が持つ多彩な風味を1つも重複させずに取り入れた」とアンドレ氏。四川料理の奥深さを垣間見せられて、これから始まる食事への期待に胸が高鳴ってくる。
     続いて運ばれたスープも圧巻。皿には、ネギの輪切りのように見える大根のリングの中に、卵黄、空豆、黒キクラゲが詰められて、バルサミコ酢のキャビアと一緒に、花のように並べられている。サーバーが、白胡椒と花山椒の風味が染みこんだスープを注ぎ込んだ後、緑のネギ油と赤いチリ油を振りかけ、水玉模様を描いた。
     目の前で仕上げられたスープは、飲んでみると確かにおなじみの「酸辛湯」。バルサミコキャビアが口の中で弾けると、酢の味わいが深まる。すべてのハーブの味が高純度で抽出されていて、味覚の軽やかなハーモニーが鳴り続けている。
     「酸辛湯といえば、安いイメージでしょ。黒トリュフやフォアグラも加えたから高級というのではなく、基本材料だけで、極上の一皿を作ることにこだわった」と満足げに教えてくれるアンドレ氏。これにペアリングされた『Keller Limestone Riesling Kabinett 2017』を口に含むと、チリで痺れた舌の感覚が一瞬で蘇り、バルサミコの酸味の奥行きがさらに広がる。このリスリング、【Sichuan Moon】が世界で2カ所目になる、希少な「ゴールドカプセル」だと言う
     コースの1つとして供された『川江枇杷茶』は、有機烏龍茶を、ポルトガルのポートワインのワイナリーにある枇杷製の樽で熟成させたもの。こくのある味わいの中に、微かにポートの甘い香りが漂ってくる。
    「このお茶が飲めるのは、世界中で【Sichuan Moon】だけ。ポルトガル領だったマカオを象徴するお茶でしょ」とアンドレ氏。
     こんな驚きが26品にわたり延々と続く。なんと5時間を費やし、五感を総動員するインテリジェントでめくるめくような美食体験! 「四川料理と言えば、辛いだけという残念な認識が世間にはある。本来の四川料理は24種類の風味で構成されていて、辛味はそのたった3つに過ぎない。信じられないほど奥行きのある料理なんだ」とアンドレ氏は語る。アンドレ氏は【Sichuan Moon】のオープンのために、リサーチ、試作、食材探しに1年を費やした。魔法のようなペアリングも、レシピ開発と同時並行で9ヶ月間かけて完成させたからこその完璧さなのだ。
     「マカオの『Wynn Palace』という立地を反映することも大事だった」。四川省は内陸であり、伝統的には海鮮は存在しない。一方、マカオは海の恵みが豊かな珠江デルタに位置し、近年の発展で世界中の食材が入って来るようになっている。そしてこのホテルの華やかさもプレゼンテーションに反映した。
     「同じ正統的な四川の調理法で作っても、立地により違うものが生み出される。マカオでしか味わえない【Sichuan Moon】の料理を体験しに来てほしい」とアンドレ氏は締めくくった。
     この店の予約が取れたら、マカオ行きの予定を立てる。そんなデスティネーションダイニングが、マカオに誕生したことは確実だ。

    • 四川料理には「1箱1風味」という言い回しがあり、箱の数だけ違う味がある。この「88富貴涼菜」は、カリカリに揚げた冬虫夏草、豚の耳のテリーヌ、鴨の舌など8種の前菜を美しく並べた
    • オリーブの種で作った炭で四川省貢嘎山脈の氷河水を沸かして茶を淹れるティーマスター。後ろの壁に飾られているのは、貴重なプーアール茶の数々。茶器も国宝級の職人の手によるものばかり
    • 高貴な輝きを持つ重箱は、アンドレ氏が長年、器づくりを任せている寺内信二氏が手がけたモダン有田焼。「シンジ、こういうのが欲しいんだけど、って思い立ったらすぐに連絡するんだ」とアンドレ氏は笑う
    シェフの流儀 アンドレ・チャン氏

    一流のフレンチレストランには必ず一流のワインセラーが用意されていることに着想を得て、【Sichuan Moon】には中国茶ステーションを設置。ポート樽熟成の枇杷茶など稀少価値が高い中国茶コレクションを揃え、ティーマスターの流麗な点前が常に見られるようにしている。

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