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  3. マカオのトップレストラン9

進化し続ける食の都の最前線 マカオの
TOPレストラン
Hitosara special

元ポルトガル領のひなびた港町からアジア屈指のカジノリゾートへ。
そんなマカオにいま、世界最高峰の味覚が集結中。
空間も料理も桁違いの迫力にあふれるマカオの食を体験して欲しい。

Photographs by Billy Ha, Takuya Suzuki / Text by Miyako Kai, Taketoshi Onishi /
Cordinate by Miyako Kai / Design by form and craft Inc.

月掲載
  • おなじみのメニューを最高のひとさらに昇華させた『錦繍酸辛湯』。メニューは26品にもおよぶコースのみ。
    アンドレ・チャン氏が「僕にとって史上最高の出来」というワインとドリンクのペアリングも、ぜひお試しを

    Sichuan Moon シチュアンムーン

    夢のような美食体験で堪能する
    24の風味が奏でる四川料理の美

     豪華絢爛なカジノホテル「Wynn Palace」で、名シェフ、アンドレ・チャン氏をカルナリーディレクターに迎えて2019年2月にオープンした四川料理店【Sichuan Moon】。26品にもおよぶディナーは、驚きと至福の食体験になる。
     たとえば紅白の重箱に、絵画のように配された8種類の前菜『88富貴涼菜』。「8つの冷菜には、四川が持つ多彩な風味を1つも重複させずに取り入れた」とアンドレ氏。四川料理の奥深さを垣間見せられて、これから始まる食事への期待に胸が高鳴ってくる。
     続いて運ばれたスープも圧巻。皿には、ネギの輪切りのように見える大根のリングの中に、卵黄、空豆、黒キクラゲが詰められて、バルサミコ酢のキャビアと一緒に、花のように並べられている。サーバーが、白胡椒と花山椒の風味が染みこんだスープを注ぎ込んだ後、緑のネギ油と赤いチリ油を振りかけ、水玉模様を描いた。
     目の前で仕上げられたスープは、飲んでみると確かにおなじみの「酸辛湯」。バルサミコキャビアが口の中で弾けると、酢の味わいが深まる。すべてのハーブの味が高純度で抽出されていて、味覚の軽やかなハーモニーが鳴り続けている。
     「酸辛湯といえば、安いイメージでしょ。黒トリュフやフォアグラも加えたから高級というのではなく、基本材料だけで、極上の一皿を作ることにこだわった」と満足げに教えてくれるアンドレ氏。これにペアリングされた『Keller Limestone Riesling Kabinett 2017』を口に含むと、チリで痺れた舌の感覚が一瞬で蘇り、バルサミコの酸味の奥行きがさらに広がる。このリスリング、【Sichuan Moon】が世界で2カ所目になる、希少な「ゴールドカプセル」だと言う。
     コースの1つとして供された『川江枇杷茶』は、有機烏龍茶を、ポルトガルのポートワインのワイナリーにある枇杷製の樽で熟成させたもの。こくのある味わいの中に、微かにポートの甘い香りが漂ってくる。
    「このお茶が飲めるのは、世界中で【Sichuan Moon】だけ。ポルトガル領だったマカオを象徴するお茶でしょ」とアンドレ氏。
     こんな驚きが26品にわたり延々と続く。なんと5時間を費やし、五感を総動員するインテリジェントでめくるめくような美食体験! 「四川料理と言えば、辛いだけという残念な認識が世間にはある。本来の四川料理は24種類の風味で構成されていて、辛味はそのたった3つに過ぎない。信じられないほど奥行きのある料理なんだ」とアンドレ氏は語る。アンドレ氏は【Sichuan Moon】のオープンのために、リサーチ、試作、食材探しに1年を費やした。魔法のようなペアリングも、レシピ開発と同時並行で9ヶ月間かけて完成させたからこその完璧さなのだ。
     「マカオの『Wynn Palace』という立地を反映することも大事だった」。四川省は内陸であり、伝統的には海鮮は存在しない。一方、マカオは海の恵みが豊かな珠江デルタに位置し、近年の発展で世界中の食材が入って来るようになっている。そしてこのホテルの華やかさもプレゼンテーションに反映した。
     「同じ正統的な四川の調理法で作っても、立地により違うものが生み出される。マカオでしか味わえない【Sichuan Moon】の料理を体験しに来てほしい」とアンドレ氏は締めくくった。
     この店の予約が取れたら、マカオ行きの予定を立てる。そんなデスティネーションダイニングが、マカオに誕生したことは確実だ。

    • 四川料理には「1箱1風味」という言い回しがあり、箱の数だけ違う味がある。この「88富貴涼菜」は、カリカリに揚げた冬虫夏草、豚の耳のテリーヌ、鴨の舌など8種の前菜を美しく並べた
    • オリーブの種で作った炭で四川省貢嘎山脈の氷河水を沸かして茶を淹れるティーマスター。後ろの壁に飾られているのは、貴重なプーアール茶の数々。茶器も国宝級の職人の手によるものばかり
    • 高貴な輝きを持つ重箱は、アンドレ氏が長年、器づくりを任せている寺内信二氏が手がけたモダン有田焼。「シンジ、こういうのが欲しいんだけど、って思い立ったらすぐに連絡するんだ」とアンドレ氏は笑う
    • 花をテーマにしたインテリアにマッチする、イタリアのムラノガラスで作られた数百の蝶が舞うシャンデリアが見事。ゆったりしたダイニングルームの奥にはティーラウンジが
    シェフの流儀 アンドレ・チャン氏

    一流のフレンチレストランには必ず一流のワインセラーが用意されていることに着想を得て、【Sichuan Moon】には中国茶ステーションを設置。ポート樽熟成の枇杷茶など稀少価値が高い中国茶コレクションを揃え、ティーマスターの流麗な点前が常に見られるようにしている。

  • オープン以来、一度食べたら忘れられないと評判の一品が、有名な広東省中山の石岐鳩をレモングラスでスモークして仕上げた鳩。
    メニューは8品のおまかせコースのみで、「珍、湯、鮮」など、漢字一字しか記入されていないので見てのお楽しみ

    Yi イー

    2人の若手シェフが生み出した
    中国料理の最先端を味わいつくす!

     きらびやかな巨大カジノリゾートが並ぶコタイ地区でも、ひときわ目を引くのが故ザハ・ハディド設計の高層ホテル「Morpheus」。奇想天外で見事な世界観に浸る楽しさはエントランスをくぐり、21階に上がってレストラン【Yi】に足を踏み入れても、少しも衰えることがない。黄金に光る龍のウロコをイメージしたインテリアは、バカラの特注グラスや、淡いピンクの花とコーディネイトされて、意外なほどに優雅でフェミニン。龍に守られているかのように、各テーブルは半個室のような作りになっていて、落ち着いて食事に集中できる。
     2018年7月のオープン以来、多数のリピーターを惹きつけている【Yi】の魅力は、中国料理店では珍しい、シェフおまかせの8品のコースメニュー。「おしながきを見ても、何が出てくるかは検討もつかないように、敢えて書いているんだ」と笑うのは、【Yi】を率いる2人のシェフの1人で、マレーシア出身のウィルソン・ファム氏。
     ウィルソン氏と、香港出身のシェフ、アンジェロ・ウォン氏がタッグを組んで、厳選した地元と世界の食材を使い、広東、上海、潮州、四川、客家など、中国の多彩な地方料理のエッセンスを巧みに融合しながら再構築して生み出す、特定の地方料理の枠を遙かに超えた新感覚のクリエイティブ・チャイニーズが、この【Yi】の真骨頂。
     たとえば「鳩料理の最高傑作」との呼び声も高いのが、代表料理ひとつ『鳩のレモングラスロースト』。この鳩、皮のカリッとした食感の後に、鳩の濃厚でレバー風の風味に、スモークの香ばしさとレモングラスの爽やかさが混ざり合って、鳩の肉のうま味が強烈に引き出されている。
     その秘密は、世界中の鳩を試した末にシェフが選んだ、広東省中山市の名産・石岐鳩。この料理には生後23日の鳩がぴったりなのだそう。これをレモングラス入りの自家製タレ「滷水」でマリネし、酢を塗って8時間吊して乾燥熟成させ、ローストしてから高熱で揚げ、最後にレモングラスと一緒にスモークし、最後まで皮が破れないように仕上げる、というとにかく複雑な工程を完成させるまで、試行錯誤の末、半年以上の期間を費やしたという。「普通は大きい鳩を調理してカットするからジューシーさが逃げてしまうけれども、この鳩は小さめだからカットが不要。そのまま手で掴んで食べてみて」とアンジェロ氏。
     スタートからフィニッシュまで、最先端の中国料理の美味しさを最大限に発揮させた、斬新なるご馳走がひたすら続く【Yi】。迫力たっぷりのザハの建築に引けを取らない、新世代チャイニーズを堪能しに出かけよう。

    • 香港人のアンジェロ・ウォン氏(左)は広東料理の名店【Howard’s Gourmet】などで活躍。マレーシア人のウィルソン・ファム氏(右)は、同じマカオの【Jade Dragon】出身。アンジェロ氏は調理技術と食材、ウィルソン氏は味付け、盛り付けとサービスの指揮をそれぞれ担当。メニューはすべて2人で協力してつくる
    • ノコギリ蟹の肉を、車海老のムースで包んで、その外側をアーモンドで飾った『揚げ蟹爪』は、3種の食感と風味のハーモニーを一度に楽しめる。インテリアの要になっている金の鱗にも似せてみたのだそう
    • ティーマスターによる中国茶のセレクションが見事で、とくにプーアール茶は種類が豊富。アンチエイジング効果がある美顔茶、デトックス作用がある養生茶などのオリジナルブレンドを試すのも楽しい
    • 圧倒的なザハの建築と完全に一体化した、ダイナミックなインテリアは、非日常を楽しめる空間。ディナータイムにはロマンチックな雰囲気も漂う
    シェフの流儀 ウィルソン・ファム氏(左)
    アンジェロ・ウォン氏(右)

    1つの料理に複数の地方料理の要素を混在させながらも、それぞれのアイデンティティをしっかり保つことを重視している。そのため、ウィルソン氏は客家系マレーシア人、アンジェロ氏は潮州系の香港人として、広東、客家、潮州、東南アジアの味覚を担当。そのほかに上海、台湾、四川など、中国のさまざまな地域出身のシェフを集めたチームで料理をつくるので、それぞれの地方料理の味がぶれず、まとまりのある美味しさを生み出せる。

  • 一級品のカル―パを蒸して、カリッとさせた豆鼓とガーリックのソースをかけた『金蒜翡翠星斑珠』。
    鮮やかなグリーンでガルーパの皮のピンクを引き立たせながら、味と食感のバラエティを増す芥蘭(中国ブロッコリー)は、龍の鱗に見立てた包丁技も見事

    The Eight エイト

    マスターシェフの確かな技が冴える
    広東料理の頂点を極める人気店

     歴史の古いマカオ半島側で、燦然と輝く奇想天外なデザインの高層ホテル「Grand Lisboa」は、三ツ星レストランが2軒という食の質の高さでも知られている。
     そのひとつが広東料理店【The Eight】。ホテルのエレベーターを降り、中国で縁起のいい数である「8」をあしらったエントランスへ。レストランの自動扉がすっと開くと、いきなり視界が暗くなり、デジタルな金魚たちが泳ぐ廊下、そしてその先には赤と黒の華麗なる世界が広がる。店の中心に浮かぶ巨大なクリスタルボールの背後には、悠々と泳ぐ見事な手刺繍の金魚たち。有名デザイナー、アラン・チャン氏が手がけたインテリアは、オープン12年を経ても少しも色褪せず、確実に食の楽しみを盛り上げてくれる。
     もちろん4年連続三ツ星獲得中の実力は、期待をひとつも裏切らないどころか、来る度に美味しいものを食べて新しい味を開拓する楽しさを教えてくれる良店だ。
     さっそくその広東料理の頂点を極めた自慢の料理をいただこう。見ただけで食材の質と調理の腕前が伝わる蒸し魚には、この道50年のシェフ、ジョセフ・ツェー氏が選び抜いたフィリピン産のガルーパを使用。「ガルーパには3色、皮の色がある中で、このピンクの皮のタイプが最高」とツェー氏。長年、香港の最高級広東料理店を任され、2015年からマカオのエイトへ。香港では中国料理でもっとも権威ある調理学校の講師も務めていたツェー氏は、まさにマスターシェフ。しかし伝統のアップデートは欠かさない。
     このガルーパ、フワフワなのに、きちんと締まった肉の食感もある。添えられたソースはガルーパの骨をベースにして紹興酒を少し。皿には、陳皮とニンニクを加えた豆鼓ソース、包丁技に目が惹きつけられる刻み干し生姜とネギ、芥蘭のみ。ミニマルなのに何も過不足がない迫力だ。魚自体がこれだけの味なら、何もつける必要がないけれども、好みで添えられた薬味を組み合わせて楽しむのもいい。
     「水槽から生きた魚を取り出して絞めて、すぐ調理するシンプルな蒸し魚は、今も昔も広東料理の基本メニュー。従来は丸ごと一匹で作るものだけれど、少人数で来るお客様のために、切り身でも出している」とシェフ。1匹を6枚に下ろすため、予約状況を見つつ、サービス係が他のお客にも同時に勧めるなど厨房と連携して、一匹丸ごと調理するのと変わらない品質を保つ努力をしている。「三ツ星というのは僕だけの手柄ではなく、チーム全体の努力の賜物。毎日オープン前のミーティングでは、今日はどんなゲストが来るか、何をお勧めするかを確認して、最高のパフォーマンスができるように綿密なサービス計画を立てるんだ」。
     一品料理はもちろん、すべて当日手づくりされて本気の調理で仕上げる点心も、間違いなく美味しく、洗練されている。さらにカジノホテルの直営レストランならではのお得感のある価格設定。当然、人気が高いので早めの予約をお勧めする。

    • 八角、桂皮、醤油、氷砂糖、紹興酒でマリネしたアンガス牛を5時間スロークックした『黄金雪花牛』。薄い衣を付けて軽く揚げて、力強い風味と癖になる食感を出す。なんと醤油にはキッコーマンを使用しているそう。キンモクセイと蜂蜜でマリネした蓮根をアクセントにして、サワークリームを添えている
    • 蟹爪を載せた茶碗蒸し風は伝統的広東料理だが、こちらは太陽卵の卵白のみを使った珍しいタイプの『魚湯蛋白蒸』。卵白と蟹殻スープの割合や調理時間、サーブまでに蓋を開けたり閉めたりして蒸気を調節することで、完璧な柔らかさの食感を生み出している
    • 海老蒸し餃子の『藍天使蝦金魚餃』はシェフ厳選のニュージーランド産淡水海老「クリスタルブルーシュリンプ」を使用。味のアクセントに少しのゴマ油だけを加えてシンプルに蒸している。ハリネズミ型叉焼包『脆香叉焼包』は、シェフがハサミで100本の針を切り出し、底をカリッと焼くことで美味しさがさらにアップ
    • 香港人デザイナー、アラン・チャンの傑作インテリア。中国で縁起のいい「8」をさまざまなモチーフにしている。金魚は「お金が余る」という広東語と発音が同じことから、こちらもラッキーアニマルとして愛されている
    シェフの流儀 ジョセフ・ツェー氏

    「食材の美味しさがもっとも大事」と語るツェー氏の強みは、旬の中でもさらに細かい最高のタイミングを、食材ごとに把握して仕入れて、調理できること。「ホワイトアスパラガスなんて1週間でまったく変わるからね」。「シェフのオススメメニュー」にはそんな最高の旬食材が並ぶそうなので、ぜひお試しを。

  • 海鮮の乾物は広東料理を代表する美食。戻し方ひとつとっても、何通りもやり方があり、シェフの長年の経験と技術がはっきり現れる。『海参魚蓉羹』は、ナマコと鯇魚と言う川魚、大根、生姜、湯葉などをじっくり煮込んだスープで、体がぬくぬくと温まる優しい味わい

    Wing Lei Palace ウィンレイ・パレス

    人気シェフが腕をふるう
    豪華で優しい広東料理

     ここ10年以上、マカオのファインダイニングのレベルアップに大きく貢献し、広東料理シェフに限らず、香港やマカオのあらゆる分野のシェフから敬愛されているマスターシェフが、タム・クウォックファン氏。
     そのタム氏が2018年、「City of Dreams」の【Jade Dragon】から活躍の場を移したのが、華やかなカジノホテル「Wynn Palace」の広東料理店【Wing Lei Palace】。美しいゴールドとジェイド(翡翠色)をテーマカラーにしたインテリアと、ダイニングの奥にある全面窓から眺める、音楽に合わせて踊るドラマチックな噴水のパフォーマンスが、さすがマカオと思わせるスケールの大きさ。
     そんな環境に合わせて、タム氏の料理もさらにパワーアップ。「広東料理にいちばん大切なのは、高熱の炎をすばやく巧みに操る調理技術と、品質の高い食材」とタム氏。「最近のお客にとっては、健康志向に加えて、どこのどんな肉や野菜、シーフードを食べているかを知ることが重要。新たな食材を試してみたいという好奇心も旺盛になっている」
     豪華さとほのぼのした優しさが同居しているタム氏の自慢の味が、『ナマコと川魚のスープ(海参魚蓉羹)』。タム氏のお母様の出身地である広東省・順徳の味覚を生かした一品だ。広東料理の中でも重要な地位を占める順徳料理でよく使われるのが、川魚。鯉の一種を使ったフィッシュボールを、大根、浅葱、生姜、そしてなめらかさとやわらかさをつくり出すために湯葉も加えて調理した滋養豊かなスープには、味わい深い食感を楽しむために高級食材のナマコも加えられていて、しみじみと心と体を温めてくれる。体に良くて美味しい、広東料理の真髄だ。
     長年タム氏の代名詞になっているのが、ライチの木を使ってスモークした『叉焼豚』。「【Wing Lei Palace】のキッチンにも、ライチの木のオーブンを作ったよ。中国から毎月どっさり、ライチの木片が送られてくるんだ。『叉焼豚』には陳皮も使って、味わいの奥行きを広げている」とタム氏。
     【Wing Lei Palace】でも、もちろん新たな代表料理が生まれている。「生後20日未満の鳩は、しっかり料理しても肉は柔らかくてジューシーなままなんだ。これを腐乳でマリネしてから、皮が赤黒くなるまで揚げたのが『紅焼太子鴿』。鳩は皮が薄いからすぐに火が通るんだ」。この日数の鳩は一般のマーケットでは売られていない特別注文だと言う。
     「【Wing Lei Palace】に始めて来る方には、スープ、焼きもの、蒸しもの、揚げものなどから、僕のシグネチャー料理をたっぷり揃えたテイスティングメニューがお勧め。お客の人数や集まりのタイプによっては、取り分けているうちに料理が冷めないように、ひとり分をこちらで分けてサーブするようにしている。とにかく熱々のうちに食べるのが、最高だからね」。マカオきっての人気シェフの料理、ぜひゆったり楽しんで欲しい。

    • 明るくてフレンドリーな人柄と料理にかける情熱で、シェフのファンがとても多い、タム・クウォックファン氏。【Wing Lei Palace】は2019年「アジアのベストレストラン50」に36位で初登場
    • タスマニア産蜂蜜でマリネしたイベリコ豚をライチの木でスモークした『蜜汁黒豚肉叉焼』。さまざまな木でのスモークを試してみた結果、ほんのりとした甘さと上品な香りが焼きものに加わり、いちばん美味しく仕上がるのがライチの木だったという
    • ホロホロに煮込んだオーストラリア和牛の頬肉を胡椒スープでいただく『胡椒湯蘿蔔和牛臉頬』は、クリアスープが完璧な仕上がり
    • ダイニングエリアの奥には「パフォーマンス・レイク」と呼ばれる人工湖があり、20分おきに噴水ショーが始まるのでお楽しみに
    シェフの流儀 タム・クウォックファン氏

    新しいキッチンでは、まず自分のスタイルをスタッフに理解してもらうことから始めた。牛肉なら日本とオーストラリア、魚は天然もののみなど、求める食材の水準を保つように産地を決めている。同時に、たとえば苦瓜なら台湾、日本、中国南部など、産地にバラエティをつけることで、ゲストの食体験にも幅が生まれる。

  • 華やかさとじんわりと体を包む優しさ、そしてケルヴィン・オー氏ならではの面白い仕掛けもある魚の浮き袋のスープ『藍子魚燴花膠』。シンプルなスープ皿はNarumiの特注品で、料理を綺麗にみせてくれるところが好きだそう

    Jade Dragon ジェイド・ドラゴン

    世界の高級食材も地元の味覚も、
    あざやかに使いこなした絶品料理

     マカオの広東料理が熱い。マカオの巨大カジノリゾート「City of Dreams」にある【Jade Dragon】は、2014年から星付きレストランとなり、ついに2019年三ツ星を獲得。率いるのは39歳の香港人シェフ、ケルヴィン・オー氏。2009年の「City of Dreams」創業から館内の広東料理店のコアメンバーとして活躍していたオー氏は、2017年から総料理長に就任。若手シェフの台頭で有名店がどんな色になりつつあるのだろうか。
     マカオの最高級レストランの魅力のひとつには、そのゆったりしたスペースがある。テーブル同士がとても離れているため、隣の席を気にせず落ち着いて食事ができる。【Jade Dragon】では、黒、金、銀を基調にしたシックなチャイナテイストのインテリアに、迫力あるクリスタルのシャンデリアや蒔絵風の装飾が贅沢に施されて、各テーブルには、名前の一部になっているジェイド(翡翠)の箸置きやナプキンホルダー、そしてクリスタルの精巧な龍が飾られている。
     そこでテーブルに運ばれてきたのが、新生【Jade Dragon】の素晴らしい幕開けを実感させてくれる『魚の浮き袋とゴマアイゴのスープ』。「魚の浮き袋」とは、フカヒレ、ナマコ、アワビとともに広東料理で頻繁に使われる海鮮で、一般的には乾物を指す。動物愛護の問題で、フカヒレの使用を取り止めるレストランが多く、それに変わって、最近広東料理店でよく使われているのが、この浮き袋。独特のムチムチとした食感で、コラーゲンたっぷりなため高級美肌食材としても人気が高い。
     表の主役はこの「魚の浮き袋」。しかしこのスープに忘れられない個性を加えるために、オー氏が選んだのは、地元食材である海水魚の「ゴマアイゴ」と「陳皮」。地味な食材であるこの二つには、実は共通点があると教えてくれるオー氏。「ゴマアイゴと陳皮にはとてもいいアフターテイストがあるんだ」。口に含んでみると、ゴマアイゴの骨を使ったスープに、蟹も含めたさまざまな海の幸のうま味と、湯葉と魚の浮き袋からのぬめりが溶け込んだ、滋味豊かな味わいに包まれた。
    25年熟成させた陳皮の爽やかさと優しい渋味、ゴマアイゴの身の甘味がふわっと口の中で湧き上がって、まるでゆったりと続く打ち上げ花火のような情緒がある。「慌てて食べないで、ゆっくりこれを味わってね。このスープを飲んだことが思い出になるように」とオー氏。伝統的な調理法を駆使しながら、ひと味違う地元の味も含めて、個性と複雑性あふれる味覚の組み合わせをさらりとデザインするオー氏。このスープを飲めば、彼の実力と豊かな感性がはっきり伝わって来る。
     さあ、シェフの創意工夫をしっかり舌で味わおう。

    • シェフのケルビン・オー・ヤン氏。2019年「ミシュランガイド香港マカオ版」で三ツ星を獲得し、「アジアのベストレストラン50」で27位にランクインした若手実力派の代表格
    • マカオの隣の珠海にある斗門区で獲れる最旬の蟹と茸をたっぷり詰めて揚げ、オーストラリア産黒トリュフを振りかけた『黑松露焗釀蟹蓋』。ローカルと海外食材のミックスが、【Jade Dragon】らしい
    • オー氏が使うさまざまな食材。左上は『魚の浮き袋とゴマアイゴのスープ』の材料で、陳皮や魚、蟹、乾物がずらり。時計回りに、蟹とトリュフ、日本の赤貝やホタテ貝、アイスランドのレタスやトマトなど、世界中からの美味がどっさり
    • エレガントな大人空間のインテリア。11室の個室があるので、さらにゆったりと食事を味わうことができる。キッチンはガラス張りになっているので、忙しく働くシェフたちの様子を眺めるのも楽しい
    シェフの流儀 ケビン・オー・ヤン氏

    伝統的な調理法でヘルシーな調理を心がけているオー氏。世界中の食材で、いちばん好きなものは? と尋ねると、迷わず「陳皮」と答えが返ってきた。深みのある香りを堪能して欲しいとのこと。師匠でもある前シェフのタム氏のときとの変化が見えたのが食器。華やかなデザインから、シンプルなものになり、随所に現シェフの個性が発揮されている。

月掲載
  • Aurora オーロラ

    素材の滋味を引き出す。
    日本料理に通じる料理哲学

     どこか和食を連想させる味わい。マカオにあってイタリアや南フランス、もしくはシェフの生まれたポルトガルなど、地中海各地の要素を取り込んだ料理を供する【Aurora】での第一印象が、それだ。鯛は素材の良さを引き出すため塩とレモンで15分ほどマリネするのみ。鰈のソテーは骨から取った出汁をソースにし、素材を余すところなく使い切る。牛頬肉の赤ワイン煮込みも、素材の旨みを引き出すため余計な調味料は極力控える。それらはひと口味わえば分かるほど、淡い味わいながら食材が持つ滋味を存分に引き出す料理なのだ。
     「大切にしているのは旬と鮮度」とシェフのHelder Amaral氏。火曜日と木曜日にヨーロッパや日本などより空輸する鮮魚は、クオリティが自身の眼鏡に達していなければ、容赦なく送り返してしまうという。
     素材が良ければ、余計な仕事はしない。そんな氏の料理哲学は見た目もシンプルが特徴的なのだが、ソースや盛り付けにドットを多用する美的感覚により、それがリストランテの華々しさを纏うから不思議だ。タイパより対岸のマカオ半島の高層ビル群を望む【アルティラ マカオ】の10F、和食のように繊細な地中海料理が実に面白いのだ。

  • 雅吉Aji アヒ

    “ニッケイ”料理に
    マカオの要素をプラス

     新たなる食都として近年、世界中から注目を集めるペルーの首都・リマ。日本から渡った日系人を源にする味わいも数多く、彼の地で独自の発展を遂げた新ジャンル“ニッケイ”は今や一大ブームでもある。なかでも日系2世の若きシェフ、ミツハル・ツムラ氏がシェフを務める【MAIDO(まいど)】は、『世界のベストレストラン50』にも選出されるほどの人気店であり、その知名度はもはや世界レベル。この店を目的に、遠路はるばる各国のグルマンが南アメリカを目指すほどの過熱ぶりだ。
     そしてここからが本題。2018年2月、わざわざペルーへ行かずとも彼の地の味が楽しめる姉妹店【雅吉Aji】がマカオに誕生したのだ。さらにマカオで発展した独自の味わいも出色。レッド・チリを利かせたニッケイスタイルのバーガーはカツオの代わりにマカオでは地魚・ガルーパを使い提供してみたり、ペルーの郷土料理・タマル(ペルー風ちまき)は、ラーメンスープを煮詰めて味付けしてみたりと、和+ペルー+マカオ、その化学反応は、もはや未知なる味覚体験。食べて味わい、驚き、気がつけば笑顔に、それこそがこの店の醍醐味なのだ。

  • The Tasting Room ザ・テイスティングルーム

    混じり気なしのフレンチで
    マカオに新風を

     かわいい蝶をあしらった皿に、花のように盛り付けられる美しい料理の数々。それこそが長くフランスや香港で活躍し、ここマカオでもシェフ・Fabrice Vulin氏が守り続けるフランス料理の世界観だ。
    「提供したいのは100%フランス料理。ここに来たらアジアではなく、フランスの風を感じて欲しいんだ。気持ちはフランス料理のアンバサダーかな。だけどね、ウニやピジョン(鳩)は、日本のものを使っている。フランスからだと、どうしても輸送に時間がかかるからね」。
     郷に入っては郷に従えではないが、フランス料理の姿勢は貫きながらも時に柔軟に、時に旬を大切に、料理に季節を落とし込む。単純に見える料理に忍ばせた手間を惜しまない仕事もまた氏の真骨頂。旬のアスパラガスは、その日の朝に仕込んだもののみを使用し香りを引き立たせ、脇を固めるザリガニは調理寸前まで活きていたものに軽く火入れする。一見、味の手数は少なく見えるが、芯の部分に魚のエキスを潜ませたり、アスパラの根元はビスクソースで包んでみたりと、ひと皿で幾重にも重層的に味わいが押し寄せてくるのだ。
     店名【The Tasting Room】の名にも違わず、壁一面を埋めるワインセラーより、その日の料理に合わせたソムリエ厳選のワインとのマリアージュで至福のときをぜひ楽しんでいただきたい。

  • Golden Flower ゴールデンフラワー

    クリアな一滴のスープに
    巨匠の矜持が現れる

    「心を込める、それがいちばん大切です」。
     清代の役人・譚宗浚が編み出した料理であり、その後、高級官僚の家系で代々継承されてきた譚家菜の継承者とされるリュウ・グォヂゥー氏は沈黙の後、ゆっくりとそう教えてくれた。
     そしてチキンをベースにしたふたつのスープを使った料理を差し出した。濃湯(ノンタン)と清湯(チンタン)。どちらもチキンをベースにしたスープでありながらアプローチの違いで全く別物の料理になって登場する。濃湯は鶏の脂肪がクリーミーになるまで煮込み、清湯は脂を取っては澄まし取っては澄ましを繰り返しクリアな一滴となる。
     濃湯を使った蟹と魚の浮袋のチキンスープ煮は、鶏から出る旨みが浮袋に染み渡る力強い味わい、対して貝と合わせた清湯はじんわりと儚い滋味が口中に広がる。
    「見えないもの、事こそ、料理ではもっとも大切」。取材中も言葉少なだが、その分、言わんとしていることは十二分に伝わってくる。
     北京出身で、北京ホテルで長年勤務。譚家菜の後継者として、エリザベス女王や各国首脳などの国賓をもてなしてきたリュウ・グォヂゥー氏が譚家菜の調理法を駆使し、さらには山東、そして後に赴いた四川料理のエッセンスまでを取り入れるという【Golden Flower】。澄んだ一滴のスープに、手間を惜しまず、妥協せずの巨匠の矜持は如実に現れるのだ。

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