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  冬の札幌、
旅の主役になる
レストランへ
Hitosara special

言わずと知れた食材の宝庫・北海道。
「食材頼みで職人が育たない」などと言われたのは昔の話。
今札幌では、力強い北の食材を繊細な技で光らせる
素晴らしい料理人が腕を振るっている。
食材×技術。その両輪がピタリとはまった5名店。
いざ、美味を味わうために冬の札幌へ!

Photographs by Atsushi Tanabe / Text by Natsuki Shigihara
Design by form and craft Inc.

  • 店主の思いを込めた店名、「壽」は縁起の良いこと、「山」はたくさんの意。
    2019年3月に、繁華街を離れ閑静な住宅街である現在地に移転した

    壽山 すやま

    北海道の力強い食材を
    伝統的な京料理に落とし込む

     食材のレベルが高い地域は、料理技術が発展しにくい。かつてはそんな話がまことしやかに言われていた。確かに、そのまま切って出せば十分おいしいものに、手間暇をかける必要性は薄い。事実、食材の宝庫である北海道では「北海道の食通は日本料理を食べに飛行機に乗る」といわれた時代もあったという。
     その流れを変えた立役者がこの【壽山】の店主・高橋秀人氏だ。炉端の街・釧路で生まれ育ち、東京と京都の名門で正統派の日本料理を学び、札幌で板場に立ちながら構想を練り続けた。独立は2010年、40歳の頃。北海道の食材と伝統的な日本料理の両方を知り尽くした上で、満を持してのスタートだった。「北海道の食材が良いのは周知の通り。それだけに料理人に求められることは多い」と話す高橋氏。
     「脂が乗りすぎていたり、大味だったりと、そのまま食べておいしい食材が、必ずしも日本料理に合っているわけではありません。そこで伝統を崩さない範囲で、どこまで挑戦できるか」
    穏やかながら高橋氏の言葉には確かな熱が宿る。
     そうして導き出されたひとつの答えが、北海道の食材と京野菜の組み合わせだ。ホッケやキンキ、シシャモ、スルメイカといった旨みの強い北海道の魚介を取り入れ、そこに伝統的な京野菜を合わせることで軌道を戻す。その絶妙な塩梅が、唯一無二の北海道らしさと伝統的な茶懐石の融合を実現しているのだ。食べ疲れず、単調になり過ぎず、お腹いっぱいになり過ぎないこと、そして自分を出し過ぎないこと。高橋氏は全体の構成に対しそう意識する。一歩引いた控えめな主張が、存在感のある食材を活かし、食後の余韻を生む。
     札幌でも日本料理を楽しめるようになったのではない。札幌でしか楽しめない日本料理がここにはある。

    • 茶懐石の伝統に則った構成。写真は小樽のシャコ、タラの白子など季節の素材を美しく盛り込んだ『八寸』
    • 「主張し過ぎない」という料理理念と同様、一歩引いた落ち着いた雰囲気の店主・高橋氏
    • 「日本料理の大切な要素」と語る器は、京焼と骨董が中心。器と料理の調和も見どころのひとつ

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