地元・福井県坂井市竹田地区【la clartē(ラクラルテ)】シェフも惚れた甘えびの世界

甘えびの料理と聞いて思い浮かべるのは、お寿司や、刺身など圧倒的に和食のメニューを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

けれど今、甘えびの魅力は日本料理の世界だけでなく、フレンチやイタリアンの世界にまで及んでいる。福井県坂井市竹田地区にある【la clartē(ラクラルテ)】シェフ、松下ひかりさんもそんな地元の甘えびに魅了された一人だ。

松下さんは福井県坂井市竹田地区出身。林業をいとなむご主人とともに生まれ故郷に戻ってきて、幼稚園だった建物をレストラン【la clartē(ラクラルテ)】にリノベーション。間伐材など廃棄されてしまう木材を燃料にした、特注の薪焼きオーブンでつくる薪火料理が話題となり、今や県外から訪れるファンも多い。

そんな松下さんは、どんな甘えび料理を作ってくれるのだろうか。

【ラクラルテ】オーナーシェフ、松下ひかりさん

「山のなかですし、当初は海のものを使わなくてもいいかなと思って野菜や手作りのソーセージ、肉類を中心にメニューを作っていました。けれど、やはり福井の素晴らしさを、料理を通じて知ってもらえたら。そんな気持ちになって、2年くらい前から甘えびなどを初めとした魚も使うようになりました」と松下さん。

食材は無理に福井のもので揃える必要を感じてはいなかったけれど、人との繋がりを大切にしていったら、おのずと福井で愛情込めて育てている農家さんや、いい食材を扱う仲買さんとの関係性が強くなっていった。その繋がりの中で、福井の食材の素晴らしさを再認識し、意識的に使うことを考えたと話す。

甘えびは、卵を抱いているメスが身も大きくおいしい。

甘えびも、そんな人との繋がりからたどり着いた食材の一つ。

「食材をお願いしている仲買さんから、隣町の甘えびをおすすめされて使ってみたんです。甘えびって福井の人にとってはすごく馴染みのある食材。福井のアイデンティティといってもいいかもしれないくらい身近なものですよね。私も小さいころお刺身をよく食べていました」と松下さんは振り返る。

甘えびの魅力は、生で食べるときのねっとりとした食感とほんのり感じる甘味、そして火を通して揚げたり焼いたりすると一気に引き出される香ばしい香り。「薪オーブンで殻を焼いて作るビスクも人気があります。甘えびは料理によっていろんな魅力を引き出せるのが面白いですよね」と頭の中にはすでにさまざまなアイデアがあふれている様子。

今回、編集部からの「甘えびの料理をお願いします」というお題に、創意工夫あふれる3品を作ってくれた。

調理法の違いで引き出された甘えびのポテンシャル

彩りも鮮やかな『甘えびのカルパッチョ』

まず登場したのが『甘えびのカルパッチョ』。

殻を剥いた甘えびをオリーブオイルとビネガーであえてさっぱりと仕上げ、地元の名産黒ラッキョウと塩漬けの紫蘇の実をちょっと加えることでコクをプラス。さらに、バジルとオイルであえたクスクスの上に、ミニトマトやラディッシュ、セロリのみじん切りで野菜のフレッシュ感を加えた。

「甘えびらしいねっとりとしたおいしさを感じるのは生です。それを一皿の満足感が出せるフランス料理らしい仕立てで考えました」と松下さん。

メインの食材となっている甘えびのほんのりとした甘みと独特のテクスチャー、ときおり見せる黒ラッキョウのパンチのある旨味、フレッシュな野菜やクスクスのプチプチとした食感が絶妙に混ざり合い、一体感となっている。

さまざまなものと合わせているけれど、最後に残る口の中の記憶は甘えびの甘やかな味と食感なのだ。

薪オーブンでじっくり40分焼いた『甘えびのケークサレ』

続いて松下さんが「うちのシグニチャーでもある、薪オーブンを使った一品を作りたい、そう考えたメニューです」と持ってきてくれたのは、『甘えびのケークサレ』。

焼き立てのケークからはふわっ、と甘い香りが立ちのぼる。一口食べると、まろやかでやさしい味わい。聞けば生地にモッツァレラチーズをたっぷりと使っているのだという。そこに卵と牛乳と小麦粉に砂糖をほんの少し。チーズと甘えびが持つ塩気だけで仕上げ、余分な塩分は加えていない。

ケークの中で蒸されたような状態の甘えびは、ふわふわとしてケークの生地に馴染んで溶けてしまう。食べると甘えびの香りだけが余韻として残る。甘えびの繊細さと優しさが伝わる一品だ。

この日、近隣の農家さんから買った野菜の数々

3品目を料理する前に、松下さんは見て欲しいものがあるといって、取材陣をキッチンに案内してくれた。目の前には、とれたての山盛りの野菜が!

「本当に近いところにいる農家さんから野菜をいただいています。近所のおばちゃんが道の駅に出す前に、うちに寄ってくれて必要なものある?って言ってくれるんですよ。近くにこれだけの野菜があるって恵まれていると思うんですよね。福井は海の幸も豊富だけれど、畑の恵みも素晴らしい。最後の一品は福井が育んだ野菜と、甘えびをいっしょに料理しますね」と笑顔で調理を始めだした。

色とりどりの野菜と揚げた甘えびが主役の【バーニャカウダ】

そして登場したのは、こちらのバーニャカウダ。色とりどりの野菜は、一つ一つの魅力を引き出す方法で茹でたり焼いたりと調理をされて盛りつけられている。そこに合わせるのは、揚げた甘えびだ。合わせたソースは甘えびの頭や殻を白ワインで煮出して取った出汁に、牛乳を加えてつくったもの。

揚げた甘えびは、運ばれてくるそばから香ばしい香りを湛えている。殻が柔らかい甘えびは、揚げれば頭から尾まで殻ごと全部食べられる。それがまた濃い味わいとなって口に広がっていく。野菜にえびのソースをつければコクが加わり、野菜の旨みや甘みをより深く引き出していく。

今回三種の甘えびの料理をいただいて、調理方法によって、引き出される甘えびの魅力は本当に多様で全く違うということに驚いた。

「甘えびは、蟹よりも旨みが濃いと思います。料理してみて、調理法によって出てくる表情が全然違うのが楽しいし、汎用性が高いですね」と話す松下さん。

甘えびの料理は事前に予約すれば提供が可能。ぜひ、訪れて新しい甘えびの世界に触れてみてはいかがだろうか。

ロデオ

la clarté(ラクラルテ)

電話 050-5384-4985
住所 福井県坂井市丸岡町山口64-31
営業時間 ランチ 11:30~15:00 (L.O.14:00) /カフェ ~16:00 ※ディナーは予約制です。
定休日 日・水

撮影/志賀直人  取材・文/山路美佐

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