第47回:寿司という日本文化を守る
日本人には、旬を楽しむ文化がある。初鰹で香りを、戻り鰹で脂の旨さを。また、シンコの儚さを感じたのち、旬の冬には熟れたコハダをいただく。四季のある日本ならではの特権である。一方、四季のないハワイで、中澤氏はどう勝負するのか。そして、それに対する「旬をつくる」という驚きの言葉の真意とは。多様化する寿司が世界中に広がっていくなかで、中澤氏が伝承する新たな江戸前寿司から目が離せない。
旬をひもとく江戸っ子の粋「走り」
――寿司って、旬と密接だなって思うんですが、中沢さんはどうお考えになりますか。
中澤:そうですね。これは、日本の四季の良さですよ。とくに寿司屋には「走り」を楽しむ良さがある。戻り鰹は脂がのってるけど、香りが良いのは「走り」の初鰹。本当においしいものは、香りを楽しむおいしさがあるんですよ。だから、戻り鰹を求めて初鰹を食べても、それはおいしくないんです。こうして、求めるものの引き出しを増やすことが、「走り」の楽しみ方です。
――でも、ハワイ行かれたら四季がなくなっちゃいますよ(笑)。
中澤:そう(笑)。いや、私がまずハワイに行って一番初めにやることは、ハワイの旬をきちんとつくるということなんです。魚は基本的には産卵前のことを旬というんです。ハワイはじめ、海外の魚の産卵期を調べて、旬をつくろうと思っています。
扱う物を変えても、魂は変わらない
――寿司を守りたいとおっしゃってたと思うんですが、そのお気持ちは変わりませんか。
中澤:例えば、アメリカに行って、向こうの人が「何が好きだろう」と合わせようとして、媚びるのではなく、あくまで所作やルールも含め、日本の魂をそのまま持って行こうかな、と思ってます。江戸前寿司っていう、基本姿勢は変えずにやろうかな、と。ただ、使う物は日本以外のもので、やってみたいということですね。
――精神、心というものを、ちゃんと持って行きたいということですね。
中澤:それをまた、アメリカ人のファミリーというか、下の子たちに伝えていきたいですね。
――きちんと伝わると思いますか。
中澤:人間ですから、ちゃんとコミュニケーションを取れば、伝わっていくと思います。
職人に大事なのは「正確」なことではなく「感覚」
あるときの昼間、私がコハダの仕込みを塩を振ってたときに、アメリカでも有名なある日本人のシェフが来て、「その塩の振り方を正確に下の子に伝えられるのか、うちは缶に穴をあけて、二振り。誰がやっても正確にできるようにしている」と言ったんです。確かにそっちは正確かもしれない。ただ、手で振るのをもし下の子に教えなかったら、その子は缶でしか触れなくなる。我々、職人というのは感覚で勝負してるんです。正確かどうかというのは関係ない。だから職人の個人店っていうのは、多少誤差があっても良いんです。人に体調が良いとき悪いときがあるようにね。そういう人間らしさがないと、つまんなくなっちゃいますよ。