カウンタースタイル、自然派ワイン、そして臨場感あふれる料理にこだわり、
止まり木として、多くの人の愛される学芸大学の【オステリアバル リ・カーリカ】。
こちらでオーナーを務める堤亮輔シェフ自身もまた、
彼と思いを同じくする、カウンタースタイルのお店に惹かれるといいます。
今回は、堤シェフがおすすめする、毎日でも通いたくなるワインバーをご紹介します。
「【リ・カーリカ】は対面で料理をつくるカウンター主体の店なのですが、そういう店をやりたいと思っていたとき、『対面キッチンのイタリアンがあるよ』と知人に教えてもらったのが、下北沢の【クオーレ・フォルテ】と、その地階にある【フェーガト・フォルテ】でした。訪れたら、快く迎えてくれ、気持ちいい接客をしてもらった。そこから始まり、今も共感し、刺激を受ける要素が多いお店です」と、堤シェフ。
1階と地階で店名は別にしつつも、同じ料理がいただける【クオーレ・フォルテ】と【フェーガト・フォルテ】。いずれの店も、印象的な長い一枚板のカウンターを配し、完全なオープンキッチンのスタイル。しかも、すべての調理設備をカウンター側に配しているので、料理人は常にお客様のほうを向き、調理をしながら接客もするという趣向。2店のオーナーである羽賀大輔さんが最初に店を開くときには、まだこのようなスタイルのイタリア料理店は少なく、「そこを一新したくて、また、対面で接客したくて」新しい店舗づくりに踏み出したと言います。
その考えは、堤シェフが同じ時期に抱いていた思いと重なります。「料理人は、食材やワインとお客様をつなぐコーディネーターであり、料理やワインの背景や実像を語るパフォーマーでもあると思うんです。僕の店も、羽賀さんの店も、料理人がお客様のほうを向いて料理をし、ワインを提供するつくりになっています。なぜそうしているかと言うと、お客様を楽しませたいから。食材やワインについて語り、調理の臨場感を目の前で伝え、仕上げて提供するという流れから、料理のストーリーが見えてきます。そういうストーリーを表現するのが料理人であり、それが実現できるのが対面スタイルだと思うのです」
キッチンをフルオープンとし、料理人が料理やワインについて語り伝えながら、もてなすスタイル
イタリアの郷土料理を羽賀シェフ独自の一皿に仕上げた『豚バラ肉のポルケッタ』
堤シェフと羽賀シェフのもう一つの共通点は、ワインへのこだわり。ブドウ栽培と醸造において、できるだけ自然な状態でつくられた良質でおいしいイタリアワインを探し、提供しています。
「羽賀さんは、ワインの趣向を伝えるトークも上手。『このワインの生産者は笑顔がすごくキュートなんですよ』なんて言いながら、グラスを出してくれます。イタリアに足を運んで、実際に生産者に会って、その風土を自分の目で見ているから、そういうことができる。それで最初に惹きつけて、その後に品種などの話をするので、いっそうおいしく味わえます。また、ワインに合わせる料理も絶妙です」。
この日、堤シェフが賞味したのは、『豚バラ肉のポルケッタ』。ハーブで味付けした豚肉をローストするイタリアの郷土料理の一つですが、こちらで供されるポルケッタは、肉の厚みも焼き方も、本家イタリアを凌駕するほどの豪快さです。
「時間をかけて塊の肉で仕込んでおいて、それを目の前で一人分切って、サッと焼いて出してくれる。おいしさはもちろん、対面キッチンでの調理の見せ方も考え込まれている料理だと思います」と語る堤シェフに、この日、羽賀さんがペアリングしたワインは、イタリア北部ピエモンテ州でつくられたもの。醸造家のストーリーから始まり、カウンターをはさんで、ワインと料理についての話がなごやかに続きます。
人をもてなす基本の一つは、自分を正直に表現するということ。二人はその思いを共有し、東京のグルメシーンに新たな魅力を紡いでいます。堤シェフが注目するという、もう2つの店も、芳賀さんや堤シェフの店と同じく山手線の外側にあり、カウンター席が中心。商圏と住宅街の境に存在し、暮らしの中に取り入れやすい寛ぎの場という身近さも、大きな魅力でしょう。