ON AIR No.080～No.083
1967年、青森県生まれ。スポーツ少年だった高校時代から一転、卒業後はシェフ・パティシエの道へ。本場を知りたいと渡仏、1999年パリの一つ星【ステラ・マリス】を皮切りに、三つ星【エノテカ・ピンキオーリ】【ピエール・エルメ・パリ】【ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション】など、国内外の名店で腕を磨く。2007年「NYタイムズ紙」が選ぶパンとデザート部門のBest of New Yorkを受賞。2012年帰国、【エスキス】へ。2017年、レストラン（Asia’s 50 Best Restaurants）にてアジアのベストパティシエ賞受賞され、今最も注目されるシェフ・パティシエ。
ON AIR No.080 第1回
フランス、NY、台北など各国の名だたるレストランで腕を磨き、数々の華々しい受賞歴を持つ【ESqUSSE CINq】シェフ・パティシエの成田氏。2017年、『Asia's 50 Best Restaurants』においてアジアのベストパティシエ賞を受賞し、今もっともインターナショナルに活躍するパティシエの成田氏の世界観に迫る。
――アジアベストパティシエ賞において、『和食の芸術性とフランス菓子のニュアンスを結合した』と受賞理由に書かれていましたが。
成田：自分がよく使っている言葉の中に、「わび」「さび」や「粋」という言葉の他に「幽玄」という言葉があります。よくスタッフにも伝えているのですが、自分がつくり込むもの中には、ちょっと見ただけでは分からない部分ある。でも、なぜそうなっているのかという部分を理解してもらいたい。私の手の動きをしっかり模倣してさえくれれば、スプーンに乗っているソースの量が決まっていれば、重力と遠心力に従った方向と落ちる分しか同じスピードでやったときにはソースは落ちてこない＝同じ形になる。こういう技を後輩たちに受け継げているからの受賞なのだろうと思っています。
――インターナショナルにご活躍されていて、他にも数々の受賞歴もお持ちですが、NYに渡られたときに「NYタイムズ紙」が選ぶパンとデザート部門のBest of New Yorkを受賞されていますが、これはどんな賞なんですか？
成田：大きく言うと「NYタイムズ」というのは、NYに住む人にとっては大きく影響する新聞なんですが、年の終わりにすべてにおいてジャーナリズムに携わっている人たちの票をまとめて、一冊の本が出されます。その中にすべてのジャンルにおいてNYタイムズの視点からみた’Best of New York’が選出され、その中のパンとデザート部門で受賞しました。
ON AIR No.081 第2回
【エスキス】【エスキスサンク】【アジル】と個性が違う3店舗に対し、それぞれのスタイルでシェフ・パティシエとしての仕事をこなす成田氏。女性のイメージが強い‘パティシエ’であるが、成田氏が考える‘パティシエ’の仕事とは何か。また世界のデセール(デザート)の文化を肌で感じてきた成田氏が考える、日本でのデセール文化環境について語り下ろす。
――‘パティシエ’を成田さん流に解説していただけますか？
成田：基本的にはパティシエの仕事自体はすごく重くてハードです。例えて言うと、壁を塗ることも生クリームを塗ることもさほど変わらない作業だと自分では思うんですが、どちらかと言うと男性的な世界だと思います。でも、普段の生活の中で取り入れたときに‘母親’がつくるお菓子などをイメージする方は、何となく女性的な仕事のイメージをもたれているかも知れないですね。
――やはり肉体的にはハードですか？
成田：そうですね。１つ１つの道具がとても重いんですね。なので女性にしか出来ないようなポジションは女性に任せて、逆に男性にしか出来ない部分は男性に任せて、お互いがリスペクトし合えてバランスよく仕事が流れるように自分たちは心がけています。
――特徴的だったのが、高いお皿でデセールが出てきたり、黒いカトラリーを使われていますが、何かお考えがあるのですか？
成田：他の国を見てきて感じたのが、その国の女性がその国にあるダイニングで一番美しく見える状態で食事をしていただけなかったら、そこに男性が女性をエスコートしてくる理由に欠けてしまうと思うんです。そこで日本人の女性が昔から家庭でどうやって食事をしてきたかを考えたんです。日本人の女性は背筋を伸ばしてきちんとして食事をしなさいと言われてきた。だからお皿の高さを上げることでテーブルの上に肘がつかないくらい背筋を伸ばさないと高さが合わないようにして、自然と椅子にきっちり座った状態になって姿勢も綺麗になるようにしました。カトラリーを黒にしたのは、昔から日本にある木炭の箸のように、日本人の目の色に一番キャッチ―な色で、お食事にも集中していただけると思ったからです。
ON AIR No.082 第3回
「食事には2種類あって、ひとつは空腹をみたすもの、もうひとつはガストロノミー。私はガストロノミーの世界でデセール(デザート)の果たす役割を意識してつくる」と語る成田氏。‘お茶請け’の文化でしかなかった日本のデセールとは成り立ちが違うヨーロッパスタイルのデセールを、日本でよりエレガントにいただくための秘訣、またデセールにおける成田氏が考える芸術性、オリジナリティを語ってくれた。
――ヨーロッパスタイルのデセールをどういただけばいいんでしょうか。
成田：基本的に、ヨーロッパの食事はなにかメインのものにソースを付けて食べるのがある程度のベースで、両手にナイフとフォークを必ず一緒に持ちます。でも日本の場合は、片手で箸を持ち、もう片方はお皿に添えることがルールなので、みなさんそのやり方で片方にしかフォークやスプーンを持とうとしないんですね。ただ、そのスタイルでデセールを食べようとすると恐ろしく食べづらいものになってしまうんです（笑）。なので両手にフォークとスプーンを持って、スプーンの上に色々乗せるようにソースも混ぜて召し上がっていただいた方がエレガントに見えますね。
――チョコレートにとても造詣が深いお方だと思うのですが、パプアニューギニアにまでカカオを求めて行っちゃうくらいの探求心を成田さんに与えるカカオとはどんな魅力ですか？
成田：例えば、日本の発酵食品の「納豆」は白い容器に入っているものではなく、藁で包まれた納豆菌がいる場所に大豆が入っているもので、食べることによって納豆としてはパーフェクトになるんですよね。それをチョコレートに置き換えると、今まで日本国内でチョコレートの生産はほとんどされていなかったので、パックに入ったチョコレートを溶かして何かと混ぜればチョコレートのお菓子と言われていたのが、今では機械が小型化されて小ロットで生産できるようになった。だからこそ、自分でカカオを取りに行って、自分の納得のいく発酵をしてもらった豆を日本に持って帰って使いたいと思って始めました。
ON AIR No.083 第4回
病弱だった幼少期の成田氏。数年間、病院で過ごした日々の減塩食のおかげで、食材の味をリアルに感じることができ、味覚が研ぎ澄まされたという。弱く生きていくことに嫌気がさし、自ら身体を鍛えスポーツ少年になった成田氏。お菓子職人の父に背中を押され、知り合いのお店で修行を始め、まもなく渡仏。帰国後はシェフ・パティシエとして才能を開花させ、新たなクリエイティヴィティを発揮させた。これからのパティシエ業界に必要なもの、そして五感を研ぎ澄まし、自分の生き方を楽しみながら世界を表現できるパティシエの魅力について語る。
――お父様もケーキ職人で、小さい頃からその道を目指されていたんですか？
成田：いえ、小さい頃はすごい病弱で、何年間も病院で過ごしていました。その時の病院食はかなり減塩されたものだったので、食材の味がリアルに味わえ、記憶に残っていますね。
――では、小さい頃は辛い思いをされたんですか。
成田：辛いというよりも、その時期に‘一人でいること’に対して何の不満もなくなりました。なので、ヨーロッパに行って話し相手が一人もいなくても、全く寂しさを感じませんでしたね。個として生きる力はその時備わったのかも知れないです。
――それは強いですね（笑）。
――パティシエ業界はこれからどうなっていくと思いますか。
成田：業界的にイノベーションが必要だと思います。どの程度まで自分が学ぼうという意識の中で仕事をするかにもよりますが、8時間労働という労働基準法を受け入れるのであれば、今のままでは不可能だと思います。
――最後にパティシエになりたい方にメッセージをお願いします。
成田：パティシエの仕事は、自分自身が楽しめる仕事です。自分の生き方の中で、何を食べればいいのかを考え、目から入ってくる刺激になるような芸術性の高いものを見て、いい香りや美味しそうな香りをわきまえれるようになること。そして全体を五感でしっかりと感じながら、その世界をクリエイティブに表現できる人は楽しめる職業だと思います。
