20 代という若さながら豊富な知識を武器に、スイーツによる表現の世界を深めんとする
麻布十番【ビストランテ エレネスク】のシェフパティシエ・高橋壮幹さん。
日本全国のスイーツも熱心に食べて周るその姿勢は、" 求道者" とも呼ぶにふさわしいほど。
そんな若き偉才のパティシエに聞いたのは、スイーツのなかでも独自の専門性を持つチョコレート菓子。
「衝撃を受けた」と話すショコラトリーを教えてもらった。
多彩な味わいが集うショコラ。「つくり手の一粒一粒への思いが伝わってくる味わいばかり。チョコレート専門でやっているからこそのプロの仕事だと思います」と高橋さん
高橋さんが初めて【ル・プティ・ボヌール】のショコラを口にしたのは、高橋さんが大阪のパティスリーに勤めていた2年前のことだったという。
「廣嶋さんのショコラの美味しさは、パティシエ仲間の間でも評判。大阪では当時、ショコラ一本でやっている個人店はほとんどなく、その点もかっこいいな、と思いました。実際に味わってみると、見た目のきれいさ・味の構成・クオリティの高さとも衝撃的で、ギリギリまで追求したお菓子をつくっていると感じ、ずっと尊敬しています」と高橋さん。
【ル・プティ・ボヌール】のミニマルな空間の中央にあるショーケースには、約55種のショコラが整然と並ぶ。スペシャリテである『マシュ・マカロン』は、マカロン型のチョコレートの中にフルーツ風味のマシュマロを閉じ込めた、珍しいお菓子。ライチ&フランボワーズ、パッション&マンゴーなど、味の組み合わせも心躍るものだ。
だが、高橋さんが一番好きだと話すのは、ドミスフェール(半球型)の『完熟もも&レモン』。「コーティングが薄く、中のガナッシュも柔らかくて繊細。外と中の食感の境目が極限まで一体化している。ここまで攻めてるチョコレートはない。チョコレートの甘みとももの華やかな香りを引き立てつつ、レモンの酸味と爽快感で後に甘さがひかないようにすっきりと切る表現も素晴らしいです」。
大阪での修業時代にも、大阪谷町にあった廣嶋さんのお店をよく訪れたという高橋さん。2018年1月の東京移転オープン時には、ショーケースの端から端までを「大人買いした」とのこと
高橋さんお気に入りの『完熟もも&レモン』。「最初は甘いもものショコラを食べている感触があり、その後にレモンの爽快感ですっきりと甘さを切る表現が一粒の中に凝縮されている」
写真中央に並ぶシリーズが、廣嶋さんのスペシャリテ『マシュ・マカロン』。マカロン型チョコレートの中にフルーツソースと果汁を泡立てたマシュマロが入り、繊細な果実感あふれる味わい&フォルムがキュート
廣嶋さんも、大阪時代に高橋さんのスイーツを味わう機会があった。
「高橋さんはお菓子がすごく好きなんだということが、ケーキからも人からも伝わってきました。歴史を掘り下げるために、今はフランスでもあまりつくられない古典的レシピ『ガトーピレネー』を山に籠って薪で焼いてたり…」という廣嶋さんの話に、高橋さんも微笑む。
「それぞれの原型や背景を知ることで、スイーツを通じて伝えられることが増える気がするんです。廣嶋さんからも、愛情を込めてつくったお菓子を楽しんでもらいたいという思いが伝わってくる。そういう、つくり手としての思いを共有できている点も嬉しいです」。
互いをリスペクトする二人が考えるもう一つに、「パティシエがつくったお菓子を日常的に楽しんでほしい」という思いがある。
「フランスでは、ショコラトリーは高級店という位置づけではなく、ふらっと入って数個買って帰り、食後に1粒楽しむという感じです。暮らしの中にチョコレートが自然に溶け込んでいて、日本でもそういう楽しさを伝えていきたい」と廣嶋さん。
高橋さんも、お菓子をつくって届ける仕事の大前提がそこにある、と言う。
「チョコレート菓子はフランスで育った文化ですが、日本でもやっと成熟し始めている印象があります。パティシエがつくったお菓子を、今までハレの日に食べてきた方にも日常的に楽しんでもらいたい。例えば、バレンタインデーをきっかけに、普段も側において楽しんで、美味しさや幸せを感じてもらえると嬉しいですね」。