-
L’Arpège ラルページュ
野菜の多彩な美しさとおいしさを
唯一無二の表現で昇華パリに10軒あるミシュラン3ツ星レストランの中で、2番目に長い3ツ星歴を誇る【ラルページュ】。オーナーシェフのアラン・パサール氏は、フランス料理界における巨匠中の巨匠の一人。その名は、野菜料理の大家として世界中に名声を轟かせている。が、20年以上前からフランス料理を食べている諸氏ならご存知だろう。今でこそ、野菜で有名なパサールは、当初、肉料理でその名を馳せていた。『鳩のドラジェ』を名物に、肉の火入れの第一人者として高い評価を受け、1996年に3ツ星を獲得したのだ。
そんな肉焼きのスペシャリストが、野菜の世界に大きく舵を切ったのは、新たな世紀を迎える頃だった。-
「明確に、これが! というきっかけはなかったです。当時の自分の周りにいた近しい人たちのヴェジタリアンな考え方に強い影響を受けたのは確かだし、狂牛病の問題があったのも一要因でしょう。さらに自分自身、肉を中心にやってきた料理に限界を感じていて、新たな料理人生を切り開きたいと考える時期でもあったのです」と、当時を振り返るパサール氏。
-
母は洋裁師、父は音楽家、祖父はかご作り職人。芸術家と職人が織りなすアーティスティックな環境は、パサール氏に、自然と、色彩や詩情といった美に対する感性を植え付けていたのだ。
そんな彼にとって、四季折々の自然が生み出す多彩な色彩や形が織りなす無限とも言える野菜の世界は、肉や魚の世界に比べて、よりしっくりくるものだった。 -
今でこそ、世界的に健康志向が広がり、野菜料理への注目度は高い。が、当時、ガストロノミーで野菜を主役にした料理人は、文字通り皆無。今をときめく3ツ星シェフが、フランス料理の華である肉を捨てて付け合わせにすぎない野菜を選んだ! と、当時は大きな批判もあった。
しかしパサール氏は、信念を変えなかった。野菜という素材を手に、より優しく芸術的で、デリケートかつ繊細なガストロノミー料理を次々と生み出し、その美しさと美味しさで、世の人々を虜にしたのだ。 -
今では、ブルターニュ地方とノルマンディ地方に計3箇所、トータル10haの無農薬菜園を持ち、400種ほどの野菜やハーブ、果物を育てている。菜園は、パサール氏の憩いの場でありインスピレーションの場。週末はほぼここで過ごし、併設シャトーの厨房で様々なクリエーションが生まれる。
「野菜があったから、今も僕は料理人をしているんだと思う。もしあのまま肉や魚を中心にしていたら、きっと今頃違う職業についていたんじゃないかな」と、愛おしそうに野菜に触れるパサール氏。彼は、フランス料理史において初めて、野菜という食材の魅力を昇華させた、後世にその名を残す料理人となるだろう。
シェフの哲学 アラン・パサール氏
20年近くも、野菜を手に、常にワクワクしながら様々なクリエーションを行っています。味はもちろん、形や色、その魅力は実に多い。野菜というマチエールは、私に無限のインスピレーションを与えてくれるのです。
-
Column
2018年世界のベストレストラン50で
ベスト・パティシエに選ばれた
セドリック・グロレ氏にインタビュー
インスタグラムのフォロワー数、100万越え。
【ル・ムーリス】シェフ・パティシエとして活躍する
セドリック・グロレ氏は、今、世界中が注目するパティシエだ。
世界から熱い視線が注がれる、【ル・ムーリス】のシェフ・パティシエ、セドリック・グロレ氏。彼のスペシャリテは、様々なフルーツの形を極薄のホワイトショコラで精密に再現し、そのフルーツのおいしさをジュレやコンフィなどに仕立てて内部にたくみに仕込んだ、”フルーツ”シリーズ。「季節が私を導いてくれます」と語るセドリック氏。四季折々の極上フルーツにインスピレーションを受けたこのシリーズは、美しいヴィジュアルと、シンプルかつ印象的な風味で、食べ手に大きな感動を与える。
ミルフイユやパリブレストといったクラシックなフランス菓子も、彼のもう一つのスペシャリテ。「形や風味は変えない、でも素材にこだわりぬき、一つ一つのパーツを研ぎ澄ませています」。彼の伝統菓子を食べると、その完成度の高さに、ミルフイユやエクレールはこんなにおいしいものだったのか? と、ため息がでる。
ファインダイニング【ル・ダリ】で提供するアフタヌーン・ティも人気だが、2018年春にはホテル内にパティスリーを併設し、店の前には日々長蛇の列。今、パリで最も熱いスイーツスポットになっている。