アジアが、世界が注目するバンコクの最旬レストラン | ヒトサラ
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Gaggan
一挙手一投足に驚きを禁じ得ないアジアNo.1のコース料理
午後6時前、細い路地の奥に続々と高級車が集まっていく。どん詰まりのその先に待ち受けるのはそう、「アジアのベストレストラン50」で3年連続でトップの座を守る【Gaggan】である。舞台となるのは、ガラス張りになったサンルームのような空間。1階にはテーブル席があり、吹き抜けになった2階にはキッチンを囲む劇場型コの字カウンター。【Gaggan】の特等席といえば、このカウンターだ。ゲストが揃うと、一斉にスタートするコース料理。そして、ゲストは歓喜するのである。シェフ、ガガン・アナンド氏のプレゼンテーションと、想像をはるかに超えたインド料理に。
全20品以上が供されるコースは、そのほとんどがフィンガーフードという構成。【エル・ブジ】出身のシェフだからこそのテクニック、発想はまさに圧巻。たとえば、昆布出汁のメレンゲに大間のマグロをのせ寿司に見立てたり、チリジュースをホワイトチョコレートでコーティングしたり。そして、そこに仄かなスパイスをきかせるのである。シェフの一挙手一投足に目を奪われ、プレゼンテーションに耳を傾け、そして味わいに感嘆する。驚きとおいしさ、楽しさが溶け合うディナー。アジアNo,1の理由はまさしくそこにある。 -
Nahm
シェアして楽しむクラシカルなタイ料理
「料理人は普通、前を向いて進んでいくもの。けれど、私の場合はその逆。自分の料理は後ろに向かっています」冗談でもなんでもなく、それがシェフ、プリン・ポルスク氏の本心。そして、この店の根幹をなす哲学でもある。
【Nahm】のエグゼクティブシェフ、デイヴィッド・トンプソン氏との出会いを機に、ブーランジェリエから料理人に転職し、タイ料理の道を歩み始めたポルスク氏。100年前の古書からレシピを学び、クラシカルなタイ料理を追求するスタイルは、トンプソン氏と同じ手法を取っている。そんな彼の原動力となっているのは、両親や祖父母、兄弟とともにテーブルを囲んで夕食を楽しんだ幼い頃の記憶だった。
「うちは農家の大家族でした。皆んなで食卓を囲み、料理をシェアしながら、幸せの時間を共有する。それがタイ料理の醍醐味」
レストランとはいえディナーも2名以上なら炒め物やサラダなどはシェアが基本。「アジアのベストレストラン50」の頂点にも輝いた経歴を持つタイ料理レストラン。そこはタイの食文化に立ち返る一軒といえるかもしれない。 -
Suhring
ひと皿ごとに展開されるツインズシェフのストーリー
多くの人が思い描くドイツ料理のイメージそのままに供されたアミューズがすべてを表現しているようだった。ミニチュアのビールジョッキとドイツパンなどが盛られたひと皿。と、思わせた遊び心ある料理である。良い意味でドイツ料理へのイメージを揶揄したようで、思わず笑みがこぼれる。そして、期待に胸が膨らむのだ。次はどう来る? と。
「ドイツ料理の概念を覆したい」シンプルにいえば、それがツインズシェフ、トーマス・ズーリングとマティアス・ズーリングの想いだ。ミシュランの三ツ星店などで修業したふたりは、そこで学んだガストロノミックなテクニック、素材使い、組み合わせで、あらゆるドイツ料理を変幻自在につくり出す。そのアイデアの源泉となるのは、ふたりの幼い頃の記憶や思い出だ。祖母がつくってくれた料理、あるいは森で楽しんだピクニック、サマースクールの校外学習…。先のアミューズも、パニーニのようにアレンジしたアイスバインも、ふたりのドイツでの体験をもとにアレンジされたものだ。そして、そんな料理に寄り添うドイツワインや温かなホスピタリティーがこれまた痛快。ドイツの森を思わせる緑に囲まれた館で、バンコクの最先端に触れた。 -
Bo.lan
料理の本質と向かい合うサステナブルなタイ料理
クラシカルなタイ料理という観点から見れば、【Bo.lan】と【Nahm】はよく似た店だ。100年以上も前の古書やレシピブックをもとに料理をつくり、古典的なタイ料理のあり方を後世に伝えたいという気持ちが双方には共通している。確かにそれは、それぞれのシェフがかつてロンドンにあった【Nahm】で修業したことも多いに関係あるだろう。それを踏まえたうえで、【Bo.lan】という店を説明するならば、よりサステナブルな思想が組み込まれているレストランだということだろう。料理人と生産者と自然。そしてそこに関わる全てのもの。「そのひとつが崩れれば、バランスを失ってしまう」と、シェフであるドゥアンポーン・ソンヴィサヴァ氏とディラン・ジョーンズ氏夫妻は、そのあるべきサイクルの紡ぎ役のひとつを担い、そのバランスを大切にしたいのだという。野菜はタイのオーガニックなものを極力使用。生産者から直接仕入れたココナッツは搾りかすを豚農家へ届け、飼料として使う。タイ料理はもちろん、【Bo.lan】で料理の本質を改めて感じさせられた。
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Eat Me
エッジのきいたフュージョン料理とアート空間
これまでイノベーティブなレストランというイメージが少なかったバンコク。だが、2017年の「アジアのベストレストラン50」に計8店がランクインするなど、一躍アジアの美食都市に名乗り出た。そんなアジアで今、最も旬と思われるバンコクにおいて、15年以上前からトップレストランのひとつとして走り続けてきたのがここ【Eat Me】だ。店内は1階がバースペース、2・3階がレストランエリアとなり、それぞれのフロアが異なるコンセプトで構成。奇抜なアートが飾られたギャラリーのような空間はどこかとがっている印象だ。
それにもまして、料理のエッジがまたきいている。オーストラリアンフードを謳いながら、シェフは日本への関心も高く、築地からバンコクへ週に2、3度は魚を仕入れ。かと思えば、地中海の深海のエビを使ったり、タイ料理のエッセンスも取り入れたり。しかし、それが違和感なくまとまり、受け止められるのだ。それは、シェフの食材への探究心と理解力があってのこと。オープンから15年。そのエッジは今なお鋭い。 -
The House on Sathorn
新旧の対比が美しい歴史的建物とフュージョン料理
クールなスタイルで高感度な欧米人に人気を集める「HOTEL W」の隣。かつてはロシア大使館の建物として使われていたというコロニアルな館が【The House on Sathorn】の舞台だ。築120年になるというその建物は、イノベーティヴな「HOTEL W」とのコントラストにより一層その存在感を強くさせ、まずはゲストの心を惹きつける。そして、料理が運ばれてくると今度はそのクラシカルな空間との対比に、ゲストは驚かされるのである。シェフ、ファティ・トゥタク氏の出身地であるトルコや、シェフが世界を旅してきたなかで感じてきた味や香り、色彩といったインスピレーションが渾然となったモダンなフュージョン料理。それが時にターキッシュであったり、時にアジアンであったり、フレンチとは異なるカラーで皿を彩るのである。シェフが特等席とすすめるカウンターに座れば、誰もがその世界観と料理のプレゼンテーションに酔いしれることになるはずだ。
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Le Du
「温新知故」なタイのモダンキュイジーヌ
盛り付け、プレゼンテーション、ワインのラインナップ…。そんなディテールのみを切り取れば確かにタイのモダンキュイジーヌと捉えられても何ら不思議はない。が、その実、シェフのスタイルはタイの古典的で家庭的な料理への深い愛情に基づいている。
「世界的に見ればタイ料理の認知度はまだまだ低い。食材だっていいものがいっぱいあるのに、目を向けられていない現状がある」
ならば、どうするか? 料理をコースにして、カトラリーはナイフとフォークにする。ワインとのペアリングも提案する。欧米人にも受け入れられるよう、その糸口をつくったのだ。
それを実現できるのも当然シェフの力であってのことだ。学生時代から料理に情熱を抱いたシェフは、アメリカの料理学校を主席で卒業。ニューヨークでは数多くのミシュランスターのもとで修業を積んだ実力派である。
とりわけイサーン地方の伝統料理であるアリの卵を使った一品は秀逸だ。魚を発酵させた伝統的調味料プラーラにハーブというクセのある食材を使いながらも、盛り付け、味、香りともにしっかりとレストランのレベルへ押し上げている。この店の実力を推し量るにはこの一品で充分、といっても過言ではない。
バンコクのトップレストラン事情 ヒトサラ編集部が現地へと向かい、その目と舌で確かめてきたバンコクの美食店の数々。そこで感じ取ったリアルなバンコクのグルメシーンとは?
今回、ヒトサラスペシャルの番外編として、シンガポールに続く第2弾で向かったのは、タイの首都バンコク。なぜ、このタイミングでバンコクかといえば、もちろんそれには世界的な権威でもある「アジアのベストレストラン50」の発表があったからに他ならない。そう2017年2月の最新の発表ではバンコクの8店ものレストランが名を連ねたのである。これは日本に次ぐ多さであり、アジアのグルメシーンに旋風を巻き起こしたといっても過言ではない数だ。実際、【Gaggan】は3年連続No.1。トップ5の【Nahm】もランクアップし、初登場のレストランも4店。バンコクの底力を見せつけた格好になった。そして、特筆すべきはその8店の多様性。タイ料理が3店並ぶものの、その他はモダンインディアン、フレンチ、ニュージャーマン、アジアンフュージョン…。これは一体何に起因するのだろうか?

それにはバンコクがアジアのグルメシーンに大きな影響を与える存在になったとはいえ、まだアジアのトップにはいないことを示しているのではないだろうか。洗練という意味では前回のシンガポールに分がある、食の奥深さでは中国にも敵わない。もちろん、東京の総合力にも追いついていない。バンコクのグルメシーンは、まだ発展途上という都市の未完成度にも似た何かがあるのだ。だからこそ、バンコクはまだ何ものにも染まっておらず、語弊があるかもしれないが、怖いもの知らずのルーキーのようなフレッシュさが感じられるのだ。実際、取材して感じたのは、それぞれのレストランが色んな方向にベクトルを向けていることだ。【Gaggan】の自由度とエンターテイメント性はすばらしく、【Suhring】のファミリーを迎え入れるような温かさとニュージャーマン料理はバンコクのハイライトとなり、【Eat
Me】の15年以上続けてきた前衛性にも驚かされた。その一方で【Nahm】【Bo.lan】などのように、タイ料理の原点に立ち返ろうとするレストランもあった。全体的に小さくまとまっておらず、レストランとしてのホスピタリティという意味では、やや荒削りな部分もあるが、そこを含めてのバンコクの魅力だといえるだろう。
さて、2017年末には『ミシュランガイド』バンコク版の発刊も控えているそうだ。この勢いを持続し、バンコクがアジアのグルメシーンにどんな影響を与えていくのか。その動向からしばらく目が離せそうにない。
