第06回:「This is」って何? からの、フランス留学
『悪ガキ』の乗りこんだ学校で待ち受けていたのは、食のエリート同級生たちだった。 フランス料理を食べたこともない、学校の授業もちゃんと出席したことがない。フランス語の前に「This isって何?」、だけどフランス留学をするためには成績優秀は必須。 絶体絶命のピンチに持ち前の負けん気はどこまで通じるのか? 【オー・ギャマン・ド・トキオ】木下シェフが駆け抜けた、フランスまでの遠い道程、 そして二つ星レストランに「タケ」の名のメニューが載る日まで。
「This is」って何ですか?
木下:フランス語の授業もあり、先生が、これが「This is」、これが「I have」の表現ですと、英語と比較しながら説明してくれるのですが、僕はその「This is」がわからない。今までの自分だったら、そこで帰ってしまってたと思います。でも負けたくなかったので、学校にあまり行ってなかったことを先生に伝え、「それでもついていきたい」と言ったら、毎日居残りで教えてくれました。そして生まれて初めて100点を取ったんですね。そこで自信がつくと急に、フランス語の勉強やフランス料理の歴史がすごく面白くなってくる。そのうち、クラスの子たちからも「これどうやって作るの?」と聞かれるようになってきて。褒められて伸びるタイプなので、みんなに頼られるとぐんぐん力がついて、卒業するときには主席だったんです。
フランス語の先生はディスコ仲間
――それで卒業後はリヨン郊外にある辻調理師専門学校のフランス校に留学された。授業は全部フランス語ですか?
木下:フランス語です。とにかくみんな勉強していました。夜12時くらいに全部の授業が終わると、すぐに次の日の準備を始め、ベッドに戻るのが1時とか1時半。さらにそこから自分の勉強をします。ただ、僕は勉強にもいろいろあるだろうと考え、卓上よりも外に出てしまおうと決めたんです。寮は田舎町にあって、そこには昔の僕と似たようなヤンキーがいるわけです。夜こっそりと寮を抜け出し、片言のフランス語で話しかけて仲よくなり、毎日のようにディスコに遊びに行くようになりました。授業は朝6時半くらいからなので、僕はほとんど寝ずに酒の臭いがぷんぷんで(笑)。おかげで文法は無茶苦茶なのに、フランス人の先生にはヒアリングと喋りは天下一品だと言われました。