第151回:魯山人の精神を受け継ぐお料理とは
水が一番大事だとおっしゃる松下さん。長野県出身で農家を営む実家は、いまだに水道代が一切かからない、井戸水で生活をされている天然水に恵まれた土地だとか。生みたての鶏卵はもちろん、冬はジビエなど自給自足の生活。今回は、そんな自然豊かな場所で育った彼の繊細な味覚や素材を慈しむ心、料理に対する溢れる想いとともに、【紀尾井町福田家】のお料理について一品ずつ丁寧に解説していただいた。
美味い不味いは十中八九、素材の質にあり
――伝統を現代に受け継ぐって言えば簡単なことなのかもしれないですが、なかなか難しいと思うんですけど、どういったところに留意されていますか。
松下:まず献立の中に「前菜」という項目は、魯山人が美食倶楽部の時代に項目を設けて作られたというのを伝え聞いていますので、前菜は大事にしていますね。その当時はタニシですとか魚の骨煎餅とか、廃物利用ですよね、それを集めてやられていたようですが、今回はとても寒い日でしたので、先付に温かい『のどぐろのかぶら蒸し』と言いまして、カブをすりおろしたものに卵白を混ぜて、のどぐろの上に被せて蒸したものなんですが、ちょっと温かいものを食べてホッとしていただいて、それからお料理に入っていくと。 前菜にはフォアグラ、さんまの煮びたしですとか、バイ貝、あと対馬のアナゴですね、唐揚げにしたものなど。産直でとれたてのものを中心にお出ししています。
現代の料亭に魅せられて
――最後、ご飯を見せて解説してくださる、あのスタイルはいつごろからなんですか?料亭ですと、お客様の前に料理人がでるのは、失礼という時代は終わったのでしょうか。
福田:彼が料理長になってからですね。うちの祖父(会長)の時は、重たい大皿料理を仕方なく、当時の料理長が持っていったら、雷の如く怒りましてね。男は座敷に出るもんではないと。今の時代は変わってきていますから、それを喜んでくださる方の方が多いので。
松下:最初は人前に出るのは苦手だったのですが、喜んでくださるんですよね。あのご飯も、鯛を煮つけて、身をほぐして、骨から外して、さらにご飯に戻して、全く骨のない状態の鯛の煮付けの炊き込みご飯ですね。その場でほぐすと、タイムラグができて、どうしてもご飯が冷めてしまうんですよ。それを先にやり、炊きたての状態を見ていただく。伊勢海老のお出汁は無添加の信州田舎味噌を仕入れ、大豆の濃い豆乳に、黒七味を少しだけ忍ばせます。
――おいしそうですね。解説を聞いているだけで食べたくなります。