1. ヒトサラ

日本人の原体験…心に沁み込む「和食」の素晴らしさを再確認できるマンガ3選

 日本発祥の料理の総称、和食。「和食」は2013年にはユネスコ無形文化遺産に登録されるなどし、今や世界的に有名な料理の一ジャンルとなっています。旬な魚や野菜を利用して季節感を大切にしたり、素材本来の味を引き出すことを重んじていたりといった特徴がありますが、もちろん肉を使った料理のバリエーションも豊富ですよね。

 そこで今回は、多くの日本人の原体験にもなっているであろう和食が登場するマンガを3つセレクト。身近すぎてときにはその魅力を忘れかけてしまうかもしれませんが、このコラムで和食の素晴らしさを再確認していただければと思います。

『ミスター味っ子 幕末編』

『ミスター味っ子 幕末編』

作品データ/『ミスター味っ子 幕末編』(1巻より抜粋) 作者:寺沢大介 『週刊朝日増刊 真田太平記』連載中、既刊3巻 ©2016 Daisuke Terasawa,Published in Japan by Asahi Shimbun Publications Inc./

 1986年から『週刊少年マガジン』(講談社)で連載され、少年誌におけるグルメマンガの先駆けとなった『ミスター味っ子』。その番外編とも言える新シリーズが、2015年から『週刊朝日増刊 真田太平記』(朝日新聞出版)で連載がスタートした本作『ミスター味っ子 幕末編』です!

『ミスター味っ子』の主人公・味吉陽一(中学生)が、幕末にタイムスリップするというSFのエッセンスを盛り込みながらも、きちんとグルメマンガの金字塔の続編として、本格的な料理を紹介していく作品になっています。

黒船のペリーに振る舞ったのは…まだこの時代にはないカツ丼

『ミスター味っ子 幕末編』

 亡くなった父の意思を継ぎ、日之出食堂を守ってきた味吉陽一は、常識に縛られない独創的なアイデアで魅せる天才少年料理人。陽一は味皇に勝利し、名実ともに日本一の料理人となったその晩、眠りについて目覚めるとそこはもう幕末の日本…!

 その時代で出会った勝麟太郎(勝海舟)から、黒船が来航していることを知らされ、日本料理を小馬鹿にしているというアメリカ人たちに、「あっと言わせる料理を作って度肝を抜いてくれ!」と頼まれるのでした。

 その依頼を引き受けた陽一が、黒船のペリー提督たちに振る舞ったのは…カツ丼!

 問題は、この時代の豚肉がまだ固くて臭いもきつく、あまり質がよくないこと。そして、パン粉や玉ネギが手に入らないこと。けれど陽一は持ち前の発想力で、パン粉の代わりに高野豆腐を砕いて使ってサクサクフワッの食感を再現し、玉ネギの代わりに長ネギを使うことで獣肉の臭みも抜いて一石二鳥に! さらには、ヤマグミの枝を牛乳に一晩つけてヨーグルトを作り、そのヨーグルトに豚肉を漬けることでやわらかくするというアイデアも披露!

 このカツ丼を食べたペリーは、

「何という柔らかさだ…!! 魚食いの日本人にこんなに柔らかく香り高い肉の調理ができたのか…!!」

「日本人というのは恐るべき可能性をもった民族らしい」

「カツ丼はたいへん美味しかった」

 と大絶賛するのでした。

日本料理代表として選んだのが“洋食から生まれた和食”

『ミスター味っ子 幕末編』

「トンカツ」の“カツ”は「カツレツ」の略で、語源はフランス語の「コートレット」と言われていますから、実はトンカツ自体は西洋料理。日本で初めてポークカツレツが登場したのは明治時代、ある洋食店が提供したのが起源と言われています。

 しかし、そんなトンカツを卵でとじ、ご飯の上に乗せて丼料理とするという日本ならではのアレンジが加えられているので、カツ丼は“近代和食”と言えるのではないでしょうか。

 さて、陽一がアメリカ人を見返すための日本料理として選んだのが、まだ幕末の時代には存在しないはずのカツ丼だったわけです。『ミスター味っ子』ファンならば当然ご存じと思いますが、カツ丼と言えば『ミスター味っ子』第1話で陽一が味皇に振る舞った料理であり、陽一自身も「俺の一番得意な肉料理」と豪語している逸品。

 つまり、カツ丼は『ミスター味っ子』シリーズにおける原点回帰とも言える和食だったわけですね。その時代では手に入らない食材は創意工夫で代用し、さらにはアメリカ人が美味しいと思えるようなアレンジを加えるなど、陽一の発想力は健在で、進化したカツ丼となっていた点も見逃せません。

 前述したようにトンカツは西洋料理であり、卵でとじてご飯に乗せるというアレンジで日本料理に昇華させたのがカツ丼ですから、陽一はあえて洋食と和食の良さをどちらも兼ね備えたカツ丼を、アメリカ人に食べてもらいたかったのだろうと深読みすることも…。“洋食から生まれた和食”であるカツ丼を、日本料理代表として振る舞ったのは、意味深いように感じます。

 懐石料理といった伝統を重んじる和食ももちろん大切にしていくべきですが、洋食から着想を得た“近代和食”とも言えるカツ丼も立派な和食。ですから、このエピソードからは、「和食」の懐の大きさや振り幅の広さが学べるのではないでしょうか。

 余談ですが、本作の作者である寺沢大介先生は、寿司マンガ『将太の寿司』も代表作に持っているマンガ家です。グルメマンガ家のなかでも、特に和食愛溢れる大御所と言える寺沢先生が送る『ミスター味っ子 幕末編』は、和食の真髄がそこかしこに詰め込まれているので、和食の心を学ぶのにうってつけの作品と言えるかもしれませんね。

『忘却のサチコ』

『忘却のサチコ』

作品データ/『忘却のサチコ』(1巻より抜粋) 作者:阿部潤 『ビッグコミックスピリッツ』連載中、既刊10巻 ©阿部 潤/小学館

 幸せ絶頂の結婚式中に、新郎に逃げられてしまった文芸誌のアラサー編集者・佐々木幸子。逃亡した新郎のことを忘れるために、美味しい料理を食べたときだけ訪れる“忘却の瞬間”を求め、あらゆるグルメを食べまくるコメディーマンガです。

 サチコが“忘却の瞬間”を追求するようになったきっかけとなったのは、第1話で登場したサバ味噌煮定食でした。そう、サチコは和食きっかけで「忘れるために、美味しいものを食べる」喜びを知ったのです…!

サンマ塩焼の中骨を抜き取ってきれいに食べる方法とは?

『忘却のサチコ』

 今回、紹介したいのはサチコがサンマ塩焼定食と格闘するエピソード。

 旬の味を求めて、「秋といえばやっぱりこれでしょ」と注文したのがサンマ塩焼定食で、ハフハフ・もぐもぐと食べたサチコは「脂がジュワっと広がって… 旬よ、これぞ旬の味よ!!」と心の中で絶賛。けれど、同じくサンマ塩焼定食を食べていた相席相手の見知らぬ高年男性が、中骨以外何も残ってない状態できれいにサンマを食べていたのに対し、自分の皿の上のサンマの骨は乱雑になっていたため、ショックを受けるのでした。

 自分もサンマをあんなふうにきれいに食べたいと考えたサチコは、その後も何度かサンマの塩焼と格闘する(食べる)のですが、元来不器用なサチコはなかなかきれいに食べきることができず…。しかし、再び定食屋で高年男性と出会ったサチコは、サンマをきれいに食べるコツを伝授してもらえることになったのです。

 高年男性が教えてくれた方法は意外と簡単。

「まずは秋刀魚の、背と腹を箸でほぐすように、全体的におさえます」

「次に、しっぽをちぎって… 頭をつまみます」

「そしたら、ゆっくり骨を引き出すだけです」

 スーっと簡単に中骨だけが引き抜けて感動を覚えたサチコ。けれど感動の波は、中骨なしのサンマを食べてから、さらに押し寄せることになるのです。中骨がないぶん、肉厚な身を一気に食べることができ、脂のジューシーさを何倍にも増して感じることができたんですね。そして、その旨味を一気に味わいたいという誘惑に駆られ、サチコは口をあんぐり空けて豪快にサンマを食らうのでした。

旬の素材を活かす和食、その旨味を最大限に活かす食べ方

『忘却のサチコ』

 前述したように、本作の記念すべき第1話でサバ味噌煮定食に出会ったサチコは、

「なんて奥が深いの…和食!! なんて鮮やかなの…日本国!! 日本に生まれてよかった――ビバ日本!!!」

 と心の中で和食を称えまくって、和食の素晴らしさを再確認していました。

 そんな彼女が旬な味を求めて注文したサンマ塩焼定食。和食は旬な食材を活かして提供する料理が多いですが、そのなかでもサンマ塩焼は旬の時期に食べてこその料理と言えるのではないでしょうか。

 そもそもの素材の味をストレートに味わう刺身や寿司ほどではないにしても、サンマ塩焼も文字通りサンマに塩を振って焼くのみという、シンプルな調理方法。旬の素材を信じ、その素材のポテンシャルを最大限に引き出すための和食と言っていいでしょう。

 さらに、相席の高年男性から中骨のきれいな抜き方を教わったことで、その旬の旨味を何倍にもなったかのように味わうことができたのです。もちろんこの方法を知っていた人からすれば今さらな情報だったかもしれませんが、サンマが好きでよく食べるという人でも、意外に知らない技なのではないでしょうか。

 食事中の作法とは別に、こういった“食べ方の技”を身に付けることで、和食のさらなる深淵を覗けるのかもしれませんね。

 ちなみに、この高年男性がサチコにサンマをきれいに食べるコツを教えたのには、深い理由があったことが、このエピソードの最後で語られます。自らの知恵や知識を伝えていくことの大切さを噛み締められるエピソードとなっていますので、ぜひ本作を読んで確かめてみてください。

『深夜食堂』

『深夜食堂』

作品データ/『深夜食堂』(1巻より抜粋) 作者:安倍夜郎 『ビッグコミックオリジナル』連載中、既刊21巻 ©Yaro Abe 2004/小学館

 繁華街の路地裏にある食堂を舞台に、群像劇が繰り広げられる『深夜食堂』。営業時間が深夜0時から朝7時頃までのため、常連客たちから「深夜食堂」と呼ばれるこの店は、メニューに書かれているのは豚汁定食と酒のみ。しかし、マスターは「あとは勝手に注文してくれりゃあ出来るもんなら作るよ」というスタンスで、毎回様々な料理を振る舞っています。

 マスターが作るのは、特上の素材が使われるわけでも、とびきり斬新なアイデアが詰まっているわけでもなく、ごくごく普通の料理。ですが、それゆえにどこかで食べたことのある懐かしい味が溢れていて、この店に集まるワケアリの客たちは、ほっこりした気持ちで心と胃袋を満たしていくんです。

マスターのこだわりおでんは、牛すじ・大根・玉子の3種のみ

『深夜食堂』

 この作品はエピソードごとに様々な人物が店を訪れますが、今回は第5夜「牛すじ大根玉子入り」で登場した、恰幅のいいまゆみちゃんにスポットを当ててみましょう。

 マスターいわく、「店(うち)のおでんは牛すじと大根とゆで玉子の三つに決めてるんだ。あれこれ具材をそろえるのが面倒だし、オレが好きだからね」とのことで、まゆみちゃんはその匂いに釣られてお店にやってきます。

 まゆみちゃんのおでんの食べ方は、まず牛すじでビール一本空け、大根で冷や二杯飲み、ゆで玉子の黄身を半分 出汁でといてぐびっと飲むのがお決まり。……というのが一皿目の食べ方で、二皿目の牛すじ、大根、玉子で丼めし三杯食べるそうなんです。

 ある日、おでん三皿目を完食し、四皿目のおかわりを注文したまゆみちゃんは、「明日からダイエットするの! お願いだから今日は好きにさせて!!」とマスターに懇願。どうやらイケメンの医者に「もう少しやせられた方がいいですね」と言われ、やせる決意をしたようなのです。

 ですが、結論から言うと、まゆみちゃんのダイエットは成功しません。しばらくは店に来なくなりますが、再び現れたときはリバウンドで以前よりも太っていて――というのを何度か繰り返し、横幅が増していくまゆみちゃん…。

 このエピソードの最後に再び来店して、「牛すじ 大根 玉子入り!」「明日からダイエットするからお願い!」と懇願する彼女に、もうマスターは何も言わないのでした。

ヘルシーな和食、低カロリーなおでんはダイエット向き料理?

『深夜食堂』

 おでんと言えば、煮物料理に分類される和食。

 ただ、牛すじと大根と玉子だけのおでんは、一般的なおでんよりも具材の種類が少ないですよね。さつまあげ、はんぺん、ちくわ、つみれ、コンニャク、がんもどきといった定番具材はあえて入れていないわけですが、その三銃士のような絞り込んだセレクトがまゆみちゃんにはツボだったのかもしれません。

 少数精鋭だからこそ、白飯をかっこみたくなるまゆみちゃんの気持ちもわかるというもの。また、牛すじ・大根・玉子の3つだけでもまゆみちゃんの胃袋を刺激してやまなかったのは、おでんという煮物料理の魅力の高さを証明しているとも言えそうですよね。

 医者にダイエットを勧められていたのであれば、やはり食べ過ぎは控えるべきなのでしょうが、具材の芯まで味が染み込んだおでん三銃士がクセになってしまうのも致し方ない気も…。とても幸せそうな顔をしておでんを頬張るまゆみちゃんを見れば、読者のみなさんの“おでん欲”も触発されることでしょう。

 ――ところで、一般的な洋食に比べると和食はヘルシーだとよく言われますし、おでんも低カロリーでダイエット向きと言われることも多いですよね。当然、具材によってカロリーは変わりますので、おでんならばいくら食べても大丈夫というわけではありません。ただ例えば、牛すじ・大根・玉子のうちの「牛すじ」を「コンニャク」に変えるだけでも、かなり低カロリーになりますし、ダイエット中にガッツリ食べても罪悪感は薄そう!

 まゆみちゃんは3つの中でも特に牛すじが好きっぽいですし、そもそも「深夜食堂」のおでんは牛すじ・大根・玉子しか入っていないので、選択肢は他になかったわけです。ただ、みなさんがもしダイエット中におでんを食べるなら、なるべく低カロリーな具材を選んで、お腹いっぱい食べて満腹感を得るというのも、一つの手かもしれませんよ。

※情報は記事公開日時点のものです

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