『にがくてあまい』
野菜嫌いのアラサー女子・江田マキは、大手広告代理店でバリバリ働き、後輩女子たちからは羨望の眼差しを浴びる存在。しかし、マキは美人なのに失恋続き…。そんなマキが行きつけのバーで出会ったのがイケメン高校教師・片山渚でした。料理上手の渚は菜食主義者で、実は…
『にがくてあまい』は野菜料理をテーマに、“男に恵まれない女(マキ)”と“女に興味のない男(渚)”を描いた食ライフ・ラブコメディ。正反対な二人の奇妙な同居生活は、果たしてうまくいくのか…!?
野菜嫌いのマキもそのとろける甘みに感動した冬野菜の雑穀スープ
美人で仕事も順調なマキでしたが、プライベートでは失恋続き。行きつけのバーで飲んだくれていると、そこに現れたのが渚でした。渚に絡んで愚痴を吐きまくるマキは泥酔してダウン…仕方なく渚はマキを背負って彼女のマンションまで連れていくのです。
翌朝、マキが目覚めると、渚はキッチンを借りて朝食を料理中。渚が作っているのは、ゆっくり火をかけてダシをとった昆布と椎茸のスープに、玉ねぎ、にんじん、押し麦、ブロッコリー、セロリがたっぷり入った冬野菜の雑穀スープでした。
しかし、その雑穀スープを出されたマキはヒィーッと声をあげ、「やだっ 絶対ムリだから」と拒否反応を示します。というのも、マキは大の野菜嫌い。
そんなマキでしたが渚の剣幕に押し切られて、雑穀スープを恐る恐る口にしてみると、「すごくおいしい!!」、「スープと野菜が全部一緒に口の中でとろける!!」、「野菜ってこんなに甘かったの?」とパクパク…スプーンが止まらないほどに。
スープにとてもコクがあるのに、味付けが塩だけであることに驚くマキに、「野菜が本来持ってるパワーだ」と渚。
「(マキが)苦手な野菜を皮ごと茎もろともまるっと食べられた 作った人の愛がおしみなく注がれてる証拠さ!!」と、その有機野菜を称賛する渚の言葉を聞き、マキは父親の顔を思い浮かべるのですが…さて、その理由とは?
料理上手の菜食主義者がレパートリー豊富に野菜料理を振る舞う
この出会いがきっかけで、マキは渚が同性愛者であることを知りながら、彼の部屋に押し掛ける形で同居生活をスタートさせます。マキは渚と言い争いをしながらも、心の中で「でも こんなに居心地のいい人間は初めてかも…」と感じたからなのですが、それはマキが“野菜”に対して一歩、歩み寄った瞬間でもあったんでしょうね。
野菜と言うと、肉や魚と違ってメインディッシュの主食材になることが少ないので、料理の脇役と思っている人も少なくないでしょう。ですが上質な野菜であれば、野菜メインのスープなどでも、甘さや濃厚なコクが感じられるということですね。
――ここで、どうしてマキが父親の顔を思い出したのか、説明しておきましょう。実はマキが高校生の頃、父親が脱サラをして有機野菜農家を営むようになり、父娘関係が悪化したことで、野菜嫌いに拍車がかかっていたんです。
ですから、母親が送ってきてくれた野菜入りのダンボールを、マキは食べもせず放置していたのですが、渚が作った雑穀スープに入っていたのは全部、そのダンボールの中の野菜だったんですね。
塩だけで味付けした雑穀スープに驚いたマキは、野菜がもともと持っている旨味に気づかされますが、その野菜たちは自分が毛嫌いしている父親が作った有機野菜だったと聞かされ、もう一度驚くことに…。
先入観のないフラットな感覚で、美味しいと感じた野菜たち。マキはこのたった1杯の雑穀スープで、野菜の本来持っている甘みといった美味しさに気づかされ、父親が仕事(有機野菜農家)に賭けていた想いの強さに気づかされ、一見厳しい(にがい)けれど本当は優しい(あまい)渚の人間的魅力に気付かされたんでしょうね。
いずれにしても、実家が有機野菜農家を営むゆえに野菜嫌いに拍車がかかったマキと、料理上手の菜食主義者のため野菜料理のレパートリーを豊富に持っている渚。この二人が織り成す物語が、野菜料理の奥深さを堪能するのにうってつけなのは言うまでもありませんね。