1. ヒトサラ

野菜好きな人も野菜嫌いな人も! 美味しい「野菜料理」でほっこりするマンガ3選

 メインディッシュの食材として真っ先に思い浮かぶのは、肉や魚ではないでしょうか。野菜料理がメインとされることは少ないため、野菜はどちらかと言えば料理における“名バイプレーヤー”といった印象かもしれません。けれど、近年は健康志向の高まりなども受けて、野菜中心の食生活を送ろうと心がけている方もいらっしゃいますよね。

 そこで今回は、野菜の魅力を存分に伝えてくれる、美味しい野菜料理が登場するマンガを3つセレクト。野菜中心の料理でも、肉や魚をメインに据えた料理に負けずとも劣らぬ存在感があるということを、お伝えしたいと思います。

『にがくてあまい』

『にがくてあまい』

作品データ/『にがくてあまい』(1巻より抜粋) 作者:小林ユミヲ 全13巻 ©小林ユミヲ/マッグガーデン

 野菜嫌いのアラサー女子・江田マキは、大手広告代理店でバリバリ働き、後輩女子たちからは羨望の眼差しを浴びる存在。しかし、マキは美人なのに失恋続き…。そんなマキが行きつけのバーで出会ったのがイケメン高校教師・片山渚でした。料理上手の渚は菜食主義者で、実は…

『にがくてあまい』は野菜料理をテーマに、“男に恵まれない女(マキ)”と“女に興味のない男(渚)”を描いた食ライフ・ラブコメディ。正反対な二人の奇妙な同居生活は、果たしてうまくいくのか…!?

野菜嫌いのマキもそのとろける甘みに感動した冬野菜の雑穀スープ

『にがくてあまい』

 美人で仕事も順調なマキでしたが、プライベートでは失恋続き。行きつけのバーで飲んだくれていると、そこに現れたのが渚でした。渚に絡んで愚痴を吐きまくるマキは泥酔してダウン…仕方なく渚はマキを背負って彼女のマンションまで連れていくのです。

 翌朝、マキが目覚めると、渚はキッチンを借りて朝食を料理中。渚が作っているのは、ゆっくり火をかけてダシをとった昆布と椎茸のスープに、玉ねぎ、にんじん、押し麦、ブロッコリー、セロリがたっぷり入った冬野菜の雑穀スープでした。

 しかし、その雑穀スープを出されたマキはヒィーッと声をあげ、「やだっ 絶対ムリだから」と拒否反応を示します。というのも、マキは大の野菜嫌い。

 そんなマキでしたが渚の剣幕に押し切られて、雑穀スープを恐る恐る口にしてみると、「すごくおいしい!!」、「スープと野菜が全部一緒に口の中でとろける!!」、「野菜ってこんなに甘かったの?」とパクパク…スプーンが止まらないほどに。

 スープにとてもコクがあるのに、味付けが塩だけであることに驚くマキに、「野菜が本来持ってるパワーだ」と渚。

「(マキが)苦手な野菜を皮ごと茎もろともまるっと食べられた 作った人の愛がおしみなく注がれてる証拠さ!!」と、その有機野菜を称賛する渚の言葉を聞き、マキは父親の顔を思い浮かべるのですが…さて、その理由とは?

料理上手の菜食主義者がレパートリー豊富に野菜料理を振る舞う

『にがくてあまい』

 この出会いがきっかけで、マキは渚が同性愛者であることを知りながら、彼の部屋に押し掛ける形で同居生活をスタートさせます。マキは渚と言い争いをしながらも、心の中で「でも こんなに居心地のいい人間は初めてかも…」と感じたからなのですが、それはマキが“野菜”に対して一歩、歩み寄った瞬間でもあったんでしょうね。

 野菜と言うと、肉や魚と違ってメインディッシュの主食材になることが少ないので、料理の脇役と思っている人も少なくないでしょう。ですが上質な野菜であれば、野菜メインのスープなどでも、甘さや濃厚なコクが感じられるということですね。

 ――ここで、どうしてマキが父親の顔を思い出したのか、説明しておきましょう。実はマキが高校生の頃、父親が脱サラをして有機野菜農家を営むようになり、父娘関係が悪化したことで、野菜嫌いに拍車がかかっていたんです。

 ですから、母親が送ってきてくれた野菜入りのダンボールを、マキは食べもせず放置していたのですが、渚が作った雑穀スープに入っていたのは全部、そのダンボールの中の野菜だったんですね。

 塩だけで味付けした雑穀スープに驚いたマキは、野菜がもともと持っている旨味に気づかされますが、その野菜たちは自分が毛嫌いしている父親が作った有機野菜だったと聞かされ、もう一度驚くことに…。

 先入観のないフラットな感覚で、美味しいと感じた野菜たち。マキはこのたった1杯の雑穀スープで、野菜の本来持っている甘みといった美味しさに気づかされ、父親が仕事(有機野菜農家)に賭けていた想いの強さに気づかされ、一見厳しい(にがい)けれど本当は優しい(あまい)渚の人間的魅力に気付かされたんでしょうね。

 いずれにしても、実家が有機野菜農家を営むゆえに野菜嫌いに拍車がかかったマキと、料理上手の菜食主義者のため野菜料理のレパートリーを豊富に持っている渚。この二人が織り成す物語が、野菜料理の奥深さを堪能するのにうってつけなのは言うまでもありませんね。

『きのう何食べた?』

『きのう何食べた?』

作品データ/『きのう何食べた?』(3巻より抜粋) 作者:よしながふみ 『モーニング』連載中、既刊14巻 ©よしながふみ/講談社

 几帳面な性格の弁護士・筧史朗(シロさん)と、朗らかで人当たりのいい美容師・矢吹賢二(ケンジ)――2LDKアパートで一緒に暮らす同性カップルの日常を、“食”をテーマに描いていくのが『きのう何食べた?』。穏やかな関係性の二人のやりとりと、倹約家で料理上手の史朗の安上がりレシピが見どころとなった作品です。

 実際、史朗の料理シーンは毎回丹念に描かれ、本作をそのまま料理レシピ本のように活用できるほど。かつて太ってしまったことが史朗が料理を始めるきっかけであり、品数多めの好バランスの食事を作ることが趣味のようになっているため、健康志向の食生活を送りたい方にうってつけの料理がたくさん登場します。

実家で大量にもらったモチを使って…野菜たっぷり具だくさん雑煮

『きのう何食べた?』

 高校時代に同性愛者であることが両親にバレてしまったこともあり、現在は両親との仲が悪いわけではないものの、実家にあまり足が向かなかった筧史朗。でも、その年の元日は、何年かぶりに実家で過ごしていました。

 そんな筧家の正月に、お隣さんである瀬尾家のママと幼い子供たちが訪ねてくるのですが、自分の両親がその子供たちを可愛がる様子、そして子供たちも両親に懐いている様子を目の当たりにし、史朗は少々驚きながらも、心の中でこう納得するのです。

「そうか きっとこの人達(両親)はもう 孫の代わりにお隣の子を可愛がる事に決めたんだ…」と。

 史朗の両親は、実の息子が同性愛者のため孫の顔が見れないということを受け入れ、近所の子供たちを孫のように可愛がることで、気持ちに折り合いをつけようとしていたのでしょう。

 ――矢吹賢二と住むアパートに帰ってきた史朗は翌日、モチを大量に母親から持たされていたため、そのモチを使って雑煮を作ることに。モチと鶏もも肉のほかに、大根、にんじん、白菜を入れた「野菜たっぷり具だくさん雑煮」。朝食はゆずの皮、昼食はゆずこしょうとアレンジをきかせつつ、夜は普通に焼いたモチを食べたりして大量にあったモチの数を減らしていく二人ですが…さすがに1月4日になると賢二が「モチ以外の炭水化物が食べたい!!」と泣きながら懇願。

 4日の朝は二人仲良くパンを食べるのでした。

野菜ふんだんな“正月の家族の味”を同性カップルでほっこり堪能

 お正月に雑煮を食べるというご家庭は多いでしょう。ただ、どの家庭でもモチは入れると思いますが、そのほかの具材は地域や家庭ごとに違いがあるもの。つまり、雑煮は各家庭ごとに違う“正月の家族の味”と言えますよね。史朗が作った野菜をふんだんに盛り込んだ雑煮は、筧家のレシピだったのかもしれません。

 同性愛者であることを受け入れてくれている両親、そしてそんな母親から大量にもらったモチをパートナー(賢二)と食べるために、“正月の家族の味”である雑煮にした史朗。

 史朗はお隣の子供を可愛がる両親に少し複雑な心境を抱きながらも、両親に感謝をし、賢二と雑煮を食べることにしました。その雑煮には、たっぷりの野菜だけでなく、史朗の様々な想いもギュッと詰まっていたように感じます。

 ちなみに単行本には、このエピソードの後のページにアレンジ方法も紹介されています。モチの代わりにご飯を入れれば、具だくさん雑炊になると解説されていて、お好みで卵でとじることも書かれていました。お手軽に「雑炊」と「卵とじ雑炊」という、2種の違う料理に変身させられるというわけですね。

 そもそも雑煮は汁物(スープ)に属する料理ですが、多種多様な具材を入れても成立する料理。特に今回史朗が作ったものは、何種類もの野菜が入ってコクが増していたでしょうから、モチを入れても良し、米を入れても良しという、完成度の高いヘルシーな汁物になっていたということでしょう。

『甘々と稲妻』

『甘々と稲妻』

作品データ/『甘々と稲妻』(2巻より抜粋) 作者:雨隠ギド 『good!アフタヌーン』連載、全12巻 ©雨隠ギド/講談社

 高校教師・犬塚公平は妻を亡くし、男手一つで幼い娘・つむぎを育てていますが、もともと味オンチで料理も苦手だった彼は、悪戦苦闘の毎日を送っていました。けれど、ひょんなきっかけで、学校の教え子である飯田小鳥とご飯を作り、公平、つむぎ、小鳥は3人で食卓を囲むことになっていきます。

 亡き妻の得意料理だったイカと里芋の煮物に挑戦したり、大勢で餃子パーティーをしたりすることで、大切な人たちと食事をともにする喜びを描いた『甘々と稲妻』。今回は、公平が小鳥と協力して、ピーマン嫌いのつむぎでもピーマンが食べられるようにと試行錯誤したエピソードにフィーチャーしましょう。

幼い娘に苦いピーマンを美味しく食べてもらう秘策はグラタン!

『甘々と稲妻』

 ある日、同僚の先生や母親(つむぎの祖母)からたくさんの野菜をおすそ分けしてもらった公平は、どうにかつむぎが苦手なピーマンなどを食べられる料理を作ろうとチャレンジ。まず、ハンバーグのタネを使ったピーマンの肉づめを作りますが、つむぎは警戒心丸出し。なんとか一口かじりますが、ピーマンの苦味に泣いてしまうのでした。

 相談した小鳥から「子供の舌って敏感で 苦かったりすっぱいものは 危険なものかも! って判断しちゃうんですって」と助言を受け、小鳥の提案したグラタンを作ることに。小鳥曰く、「野菜をちっちゃくコロッコロに切って 皆大好きベシャメルソースで隠しちゃうって作戦です」とのことでした。

 ピーマン(緑・赤)だけでなく、かぼちゃ、にんじん、アスパラ、玉ねぎ、じゃがいも、そらまめ、ズッキーニといった多種多様な野菜を、一口サイズに切ってグラタンの具材としてイン!

 いざ、実食…………つむぎは「おいしーい!!」、「なーーんじゃーー こーーれーーっ」「この…タレ!」「ソース!」とテンション高めで喜び、小鳥の作戦どおりベシャメルソースにハマります。そのままの勢いで、(一口だけでしたが)ピーマンも食べられたのでした…!

いい意味で野菜の味をごまかせる…野菜嫌い克服の第一歩目に最適

 フランス発祥の料理であるグラタンは、中にいろいろな具材を入れられるので、大量に野菜をもらった際に用いるのに、うってつけの料理だったんでしょう。今回のエピソードでは、ピーマン嫌いのつむぎが克服できるようにとグラタンを選んだわけですが、確かにベストなチョイスだったように思えますよね。

 実際、こむぎは苦いピーマンをがんばって一口飲み込むことに成功! 残りのピーマンはチーズの下に隠して、公平に「おとさんっ ハイ アーーン♡」と食べさせるというオチでしたが、ピーマン克服の第一歩となったことは間違いなさそうです。

 野菜スープや雑煮などは、野菜本来の旨味をしっかり味わうための料理ですが、グラタンは濃厚なベシャメルソースの味で、ある程度野菜の苦味などをごまかせる料理。

 例えば野菜スープはどんなに美味しく出来上がっていても、野菜が主役として主張しているのは間違いないし、どうしたって野菜と真正面から向き合う必要がありますから、野菜嫌いの方は臆しちゃうもの。“騙されたと思って食べてみて”と言われても、野菜嫌いであれば“騙されたくない”気持ちが先行して、なかなか勇気が出なくてもムリはありません。

 でもグラタンの場合、もちろん具材として入れる野菜の美味しさも重要なファクターの一つですが、ベシャメルソースに包まれることによって、ストレートに野菜の味を感じなくてすむことでしょう。ですから野菜が苦手な子供や野菜嫌いな大人に、野菜の味に慣れてもらうのに最適のはずですよ!

※情報は記事公開日時点のものです

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