1. ヒトサラ

【酒蔵監修】
日本酒には「旬」がある!
四季を彩る日本酒の嗜み方

日本酒には「旬」がある。そう聞いて、どんな季節を思い浮かべますか? ちょっと敷居が高いイメージがある日本酒ですが、日本の四季に応じた楽しみ方を知れば、一気に身近な存在になるはず。2017年、東京国税局酒類鑑評会の3部門で優秀賞を獲得した「甲斐の開運」を製造する酒蔵「井出醸造店」の皆さんに話を聞きました。

酒は冬につくる!「寒造り」でひもとく日本酒の製法

井出與五右衞門社長(右)と初沢則孝杜氏 写真:井出醸造店 井出與五右衞門社長(右)と初沢則孝杜氏
まず、この酒蔵について教えてください。
社長・井出與五右衞門(よごえもん)さん 約300年前、当家11代目が味噌・醤油の醸造を開始し、創業しました。そして江戸末期の1850年ごろに、16代目当主の井出與五右衞門が日本酒の醸造を開始し、今に至ります。私で21代目となります。
とても長い歴史があるんですね。どのような酒造りをされているのでしょうか。
井出社長 すべてのお酒は冬につくります。「寒造り」と呼ばれる方法で、温度が低く雑菌の少ない環境で醸造できることと、秋にできたお米を品質を変えずに仕込むことができることが主な理由です。2000年といわれる日本酒づくりの歴史の中で、先人たちが試行錯誤を繰り返して成立した伝統的な仕込み方です。
初沢則孝杜氏
具体的にはどのような作業になるのですか。
杜氏(とうじ)・初沢則孝さん その点は、製造の責任者である私からご説明します。10月、醸造に使う器具はもちろん、壁や天井などすべてを清掃するところから酒造りは始まります。仕込みにかかるのは11月から。原料になる米は、麹菌を増殖させるために使う「麹米」と、蒸したあと直接仕込みに使われる「掛け米」に分かれます。まず、麹米でつくった「米麹」と酵母などを仕込み水に入れます。麹菌の働きで米のデンプンが糖に分解され、それを酵母が食べて発酵し、アルコールがつくられます。酵母を増殖させたうえで、掛け米と米麹を数回に分けて仕込み、そこから20~30日でお酒ができあがるのです。そこから3月にかけて繰り返し仕込みを行っています。

良い日本酒の条件は「水」

おいしい日本酒づくりの条件はなんですか。
井出社長 良い日本酒を形づくる条件の一つは、その土地の風土、とりわけ水だと思います。三大産地と呼ばれる兵庫の「灘」、京都の「伏見」、広島の「西条」は、きれいな地下水があったがゆえに美味しいお酒ができたと言われています。ですから、富士山の伏流水に恵まれたこの土地は恵まれていると思います。もちろん、麹や酵母という微生物をどこでアクティブにして、どこで力をそぐのかも大切です。そこはやはり、杜氏の観察力ということになりますね。
井出與五右衞門社長
難しい点はどこにありますか。
井出社長 一生懸命やっても100点は取れないことでしょうか。同じ田んぼで同じ品種の米をつくっても、夏の気候は毎年変わり、米の出来は変わってきます。「今年のお米はどうだろう」と不安を持ちながら、洗米時間を調整するなどその年の傾向をつかんで酒造りを行います。
そういう意味では、農業の延長と考えることもできます。今年は90点でも、反省点を生かしてものづくりに邁進していく。そこをどこまで突き詰められるかが、酒造りの真髄ということになるでしょうね。

【冬】やっぱりお燗が身体においしい

甲斐の開運 天下山麓富士の山(本醸造)
では、四季のお酒の楽しみ方を教えてください。まず冬はいかがですか。
井出社長 やっぱりお燗酒じゃないでしょうか。冷えた身体を温かいお酒であたためるというのは、小さなことですが幸せのもとですよね。鍋料理なんかともとても合いますよ。基本的に、醤油や味噌などの発酵食品とお酒の組み合わせは絶妙です。冬は海産物がおいしい季節ですから、醤油とわさびでお刺身を食べたり、鍋をつついたりしながら飲む燗酒は最高。そうした料理を引き立てるのが日本酒なんですよ。
初沢杜氏 私もお燗酒はもっと見直されていいと思っています。食べ物がおいしくなります。お燗にすると少しアルコール度も下がりますし、身体への吸収が早いのでやわらかく酔えます。じつは下戸なんですが(笑)、そんな私にとっても二日酔いしにくいお燗酒はぴったりです。
写真:甲斐の開運 天下山麓富士の山(本醸造)
キレがありのど越しスッキリ。じんわり旨みが広がるのが特徴。720ml 1,188円

【春】フレッシュな生酒を春野菜と

甲斐の開運 しぼりたて生原酒
草木が芽吹く春に楽しみたいお酒は
井出社長 春は生酒がいいでしょうね。日本酒は絞った後、「火入れ」という加熱工程を経て貯蔵されます。これは、味に変化をもたらす酵素の働きを弱めるためです。火入れを経ていないのが「生酒」で、フレッシュな味わいが楽しめます。中でも、とくに春におすすめなのが、無濾過の原酒。濾過はお酒にとって重要な工程ですが、布で濾すことで香りや味が取れてしまう面もあります。無濾過生原酒は、お蔵でしぼったものに近い、重厚な味わい。やや苦みのある菜の花やたらの芽、ふきなどの春野菜ともよく合います。原則、生酒は春に全量を瓶詰します。品質が変わりやすいので、購入したらなるべく早いうちに飲んでいただきたいですね。
写真:甲斐の開運 しぼりたて生原酒
数量限定の無濾過の生酒。要冷蔵。720ml 1,234円

【夏】「あえて常温」が新定番!?

甲斐の開運 純米生酒
暑い夏には、やはり冷酒でしょうか。
初沢杜氏 いえ、私はどちらかというと常温のお酒をおすすめしたいと思います。夏は冷たい飲み物・食べ物を摂る機会が増えますが、量が過ぎるとお腹を壊してしまいやすいですし、食欲も減退しがちです。そこで、もろきゅうや冷や奴など、水分が多い冷たいおつまみと一緒に、20℃くらいの常温の日本酒を合わせると身体にやさしく楽しめますよね。
井出社長 私が若い頃には、夏でもお燗で日本酒を飲んでいるおじさんがいましたよ(笑)。もともと、冷たいものは身体によくないというのが日本人の考え方。ドイツでビールをあまり冷やさないように、常温ならではの日本酒のおいしさというのもあると思います。あとはやはり、旬の野菜と一緒に味わうと、日本酒の味わいがさらに引き立つと思います。
写真:甲斐の開運 純米生酒
やわらかく芳醇な香りと、火入れをしないで仕上げたフレッシュな味わいが特徴。720ml 1,404円

【秋】熟成を終えた「秋上がり」を楽しむ

甲斐の開運 純米生酒
秋は、日本酒にとっては特別な季節なんだそうですね。
井出社長 じつは、冬の仕込みを終えてから秋にかけての「貯蔵」が酒造りの最終段階なんです。常に温度を管理しながら、酵素の働きでゆっくりゆっくり熟成させます。昔ながらの酒蔵は、白壁で漆喰というイメージですよね。夏の暑さからお酒を守りながら貯蔵するためにそうしたつくりになっているんです。現代ではそれが冷蔵によって実現されています。9月になって気温が下がってくると、お酒から粗さが抜けて、丸くて、ふくいくとした味や香りが楽しめるようになります。これを「秋上がり」と言います。夏を越えて、「乗ってきた味」を楽しむという意味では、やはり秋こそ日本酒の旬ということになりますね。
写真:甲斐の開運 特別純米 北麓
日本酒本来のしっかりとした味わいとフルーティーな吟醸香が味わえる。 720ml 1,620円
2017 インターナショナル・ワインチャレンジ 日本酒 純米の部 銀メダル受賞
2017 東京国税局酒類鑑評会 純米燗酒の部 優秀賞受賞

四季とともに日本酒を楽しもう!

作り手が、思いを込めて長い時間をかけてつくる日本酒。自然の恵みを生かす、日本人の英知が結集しています。四季の移ろいとともに変わるその楽しみ方に、少し興味がわきましたか? ここで挙げた飲み方は、ほんの一例。あなた流の日本酒の楽しみ方を見つけて、豊かな暮らしを送ってください。

取材協力
井出醸造店
編集
佐藤史親
撮影
中村慎吾

※記事中の商品の価格は、すべて実勢価格です (2018年4月現在)

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