独自の日本料理を築きミシュラン1ツ星に輝く【割烹すずき】の鈴木氏と、彼のもとで修業した【六雁】の秋山氏。
現在では、それぞれの立場で日本料理を牽引しているお二方に、『シェフがオススメするお店』を機に、
「料理人の舌」の重要さ、そのプロの舌を機軸にお店をおすすめすることの可能性について、語っていただきました。

――ヒトサラでは、「シェフがオススメするお店」というサービスを始めました。そこには、料理人の方々への舌への信頼があります。
鈴木:
料理といえば、食材選びからはじまるけれど、僕が重要視しているのは、食材が育った土壌、生産者、あとは自分の舌だけ。自分の舌を頼りに食材をどうアレンジしていくかが、料理にはいちばん大切だと思うね。
秋山:
そうですよね。食材の旬は短いので、料理人の腕はもちろんですが、それを生かすも殺すも、まずは舌ですね。
鈴木:
料理人は、プロだからもともと舌が肥えていて当然なのだけど、常に美味しいものを求めていけば、もっと進化していくと思うんだよね。
秋山:
僕は高校を卒業して、何もわからないまま、おやじさん(鈴木さん)のところにお世話になったので、いろいろ味付けを学ばせていただきました。それがあるから今があります。
鈴木:
(秋山)能久君がうちを卒業して、いろいろなマスコミなどで取り上げられるようになったのを見て、僕が教えたことが間違いではなかったと思ったよ。いいセンスしてるし、それだけいい舌を持っているということなんだな。
秋山:
ありがとうございます。確かに舌って、鍛えれば鍛えるほど変わっていくものですよね。プロの料理人には他のお店に食べに行くことは特に重要で、「こういう味付けもあるんだ」と新しい世界が広がります。
――お二人は、どのような感じで、他のお店に食べに行かれているんですか。
鈴木:
食べ歩きは意外とするほうなのだけど、自分の専門の和食以外のジャンルに行くことが多いかな。例えば、【オステリア メグロ】は、食材の扱い方が上手で、僕がいま気になっているお店。ここの服部さんとは、いっしょに築地に行って、魚の選び方を勉強したりしているんだ。
秋山:
僕もそうですね。ジャンルが違うと、同じ食材でも扱い方が違う場合も多いし、刺激を受けますよね。僕がいつも教えをいただいているのは、牛込神楽坂の【ル・マンジュ・トゥー】の谷シェフです。人間的にも素晴らしく尊敬しています。
鈴木:
自由が丘のスパニッシュ【エル ペスカドール】も、たまたま入ったんだけど、気に入ってしまったね。パエリアが美味しいし、オーナーが気さくで気持ちもいい。

鈴木氏オススメの【オステリア メグロ】

秋山氏オススメの【ル・マンジュ・トゥー】
――お二人にとって、良い店を見抜く方法はあるんでしょうか。
鈴木:
先ほども話したけど、料理人はお客様にお金を託していただくのだから、自分の舌を鍛えるためにも、美味しいものを常に求めていくべきだよね。和食なら、最初の『付き出し』でもう決まる。料理のスタートでコケたら、次に良いものは絶対出てこないと思うんだけど、意外と「付き出しだから」と手を抜く人はいるのよ。
秋山:
料理にはその人の姿勢が表れますものね。
鈴木:
あと、ダクト周りや鍋なんかの調理器具が綺麗に磨いてあるかどうかは、つい見るね。清潔な料理人ほど綺麗で繊細な料理をつくると思う。
秋山:
あとは、サービスも大切ですよね。例えばおやじさんは、お客様からの予約の電話の最後に「美味しい料理をつくってお待ちしています」と言うんですね。電話をくださっているお客様は、この言葉に心を打たれるんです。そこからスタートして、お店に入った時のスタッフのお出迎えの仕方、笑顔などで、食べる前に既に「良いお店だな」と感じることができます。
鈴木:
確かに。お店の入り口の雰囲気とかを見て、「いい感じだな」と思うようなお店を探しているね。
秋山:
僕はお店に入ったら、まずはあえて「料理人です」と素性を明かします。素直に美味しかったら、「レシピを教えてください」とか堂々と聞いてみます。
鈴木:
その姿勢はいいよね。「今度、君のお店にうかがうよ」と言うと「来ないでください」と断られる場合もあるんだ。自分の舌に自信のある料理人なら「ぜひ来て、僕の料理を味わってください」と返してくれる。やっぱりそういう料理人がいるお店は、明らかに僕らの舌を刺激してくれるよね。料理に真摯に向き合っている料理人のつくる料理は、やっぱり美味しい。反対に言えば、「プロの料理人の舌がすすめるお店」は絶対に間違いはないと思うね。