第09回:チャンピオンになった「独学者」
次世代の若き料理人たちがその腕前を競う、日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」。2013年、その記念すべき第1回の選考会において、フランス料理のシェフでありながら『親子丼』を最終審査で出し、初代チャンピオンの栄冠を手にしたのが、新橋【ラ・フィネス】のオーナーシェフ・杉本敬三氏だ。誰に師事することもない杉本シェフは、どのようにしてそれほどまでの技術やセンスを身につけたのか。また、みずからをもって「独学者」と自認する、その独特の料理哲学とは。「RED U-35」出場の経緯や開業の裏話など、料理人・杉本敬三の素顔に迫る。
『親子丼』で優勝したフレンチのシェフ
――【ラ・フィネス】オープンの翌年に「RED」に出場して優勝されました。フレンチのシェフが『親子丼』で勝負するというのは、面白いですね。
杉本:ほかの出場者は、組織に属する料理人で、背負うものが大きい分、ふざけたことができないじゃないですか。僕が背負っているのは自分だけなので、遊べるところは遊びたいと思っていました。鶏肉と卵を使いたい。じゃあお米が合う。そこに相性のいい白トリュフを合わせ、『親子丼』にしました。そして『親子丼』といえば「つゆだく」だと思い、コンソメでつゆだくにしました。
――高級感満載ですね。
杉本:しかも鶏肉はフリカッセ、お米はベシャメルソースを入れたピラフにするなど、いわゆるフランス料理の初歩的な技術ばかりを詰め込んだので、そこも面白いかなと。
最終審査でまさかの失敗?
――コンテストの最終審査の最中に、調理を失敗してしまったとか。
杉本:そうなんですよ。オーブンの調子が悪かったようで、温度計が壊れてたんですね。90度のスチームで火を入れたのに、思いっきり水が沸騰して泡が出てきて(笑)。ふだんと違う厨房、道具、環境で仕事するときって、やっぱりいろんなアクシデントがあるんですね。だからというか、ほかの出場者は細かく調理時間のスケジュールを立てるんですが、じつは6人中2人しか時間内にできなかったんです。僕は練習も1回もせず、スケジュールをいっさい立てずにぶっつけ本番で、それで思った以上に早く出来たので、「これはもう1回できるな」って思って。でそれで急遽新しいものをつくり直したんです。
賞金の使い道
――賞金の使い道はどうされたのですか。
杉本:「RED」では、優勝した作品は必ずお店で出すことになっていました。ただ、料理を出していた2カ月間で、白トリュフを5キロくらい買うことになって。白トリュフはキロあたり70~80万円するんですね。
――それだけで、ほとんど賞金はなくなってしまう(笑)。
杉本:そうです(笑)。でも僕自身もクオリティの高い料理だと思っていましたし、お客様に還元するという意味で使わせてもらいました。残ったお金でお店のお皿も買わせていただきました。