第24回:“ムッシュ”との出会いから現在まで
ムッシュこと坂井シェフから学んだのは、人としての魅力だという岸本シェフ。知人の紹介でフランスへ渡り、人口300人ほどの小さな村の一ツ星レストランで、その料理人の感性にさらなる磨きをかける。そして帰国後、坂井シェフとの全国行脚で見えてきた、生産者とつながることの大切さ。人との縁に恵まれたシェフが、いま考えるのは、世界につながる「個人の表現」。その言葉の裏側にある思いを探る。
“ムッシュ”から感じた人としての魅力
――坂井さんの背中を見て修業なさったと思うんですが、どこにいちばん感銘を受けたんでしょうか。
岸本:イベントとかフェアに連れてってもらうんですが、ムッシュは仕込みからちゃんとやるんです。色々とインタビューもあるから、「やっとけよ」っていう時もありますけど、基本自分でやります。あと綺麗ですよね、料理が。ほんとに丁寧な性格をもっている人です。
――料理への向かい方が真摯だったんですね。
岸本:人もすごく大事にしています。最初に叩き込まれるのは、業者さんに対しての口のきき方や挨拶。「そこ置いといて」というようなのは、一切嫌います。自分たちの大事な食材を運んできてくれる人に、「何を生意気な口をきいてんだ」って。
――最終的には接客に繋がるということなんすかね。
岸本:そういうことだと思います。それは、常に言ってましたね。
いまにつながるフランスでの目標
――フランスでは、ロワールにあるプティプッシーニという人口300人の一ツ星のお店に行かれます。そこでは何を得られましたか。
岸本:まず本物のフランスに触れたことがひとつ。あとは、シェフが市場に買い出しに行ってたんですよね。毎日ではないにしろ、2日に1回とか。それが運ばれてくると、「ランチまでに間に合わせるぞ」っていうんで皆でそれを掃除して、新鮮な、まさに味の鮮度を出していたシェフでしたね。そこは、今でも目標にしている部分があります。
――それを直接体験されて、で同時にフランス語も少しずつ分かるようになってきたんですよね。
岸本:それはもう朝起きてから寝るまで、全部フランス人ですから。自分も、パリよりも地方、日本人がいない所で修業したい、というのはあったので少しずつ覚えていきました。
厳しい世界で腹を括る
――料理人を目指す方々に対して、メッセージをひとついただけますでしょうか。
岸本:本当に大変だと思うけども、石の上にも3年。何かを自分のものにしようと思ったら、色んなことを犠牲にしなきゃならないし、そこには努力しかない。言い訳なんかどうだっていいよって話ですよね。最高のパフォーマンスができるかできないかだけだと思います。なので、厳しい世界と腹を括って、生産者の方が一生懸命育てた素材で、人が喜ぶような本物の料理をつくる料理人になっていただきたいですね。自分も、まだまだそこを目指してます。