各地で名声を博した、あの美食店が東京へ | ヒトサラ
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HAL YAMASHITA東京
- 日本の心を料理に込める山下春幸エグゼクティブシェフ。新しい料理にも貪欲で、赤味噌のデミグラスに続き、最近は「米粉と擂り白胡麻でベシャメルを作っています」。ここに白出汁で炊いた野菜を合わせれば“和”が香るクリームシチューに
- 『瞬間スモークサーモンと貝柱のタルタル 土佐酢ジュレとキャビア』。仕上げにリンゴの木のスモークで香り付け
- 『特選神戸牛の生雲丹巻き スモークアブリューガキャビアを添えて』。年間8万皿が出る、山下氏のスペシャリテ
- 【HAL YAMASHITA】オリジナル日本酒は灘で特別吟醸した生もとづくりの1本。アルコール控えめで食中酒に最適
- スタイリッシュな店内。和紙を使った壁など、和食に合う設えを細部までシェフ自らがこだわって演出した
HAL YAMASHITA東京
03-5413-0086 住所:東京都港区赤坂9-7-4東京ミッドタウンガレリア
ガーデンテラス
営業: 11:00~15:00
(11:00~13:00と13:15~15:00の2部制)、
17:30~L.O.22:30
休日:月曜(月曜が祝日の場合は翌日休)和食の可能性を世界に
伝える、「新和食」の先駆先駆者となるには勇気が必要だろう。ましてや長い伝統に培われた日本料理の世界で、新しいことに挑むには相応の逆風が吹く。だからこそ、それに耐え得る覚悟が必要なのだ。
自らのスタイルに「新和食」という言葉を掲げ、今や世界が知る【HAL YAMASHITA東京】山下春幸氏は勇気と覚悟を持って和食の新境地を開拓してきた料理人。原点は生まれ育った神戸にある。
「神戸にいると日常がフュージョンで世界各国の料理が揃っていた」
そんな街で氏が自身の店を開いたのは13年前。当時はまだ「ワイングラスで飲む日本酒にも世間では反発があった」と笑うが、「何より、海もあって山もある、食材に恵まれた土地であることは私にとって非常に大きかった」と言う。
神戸時代から氏は食材にこだわり、生産者とも密に繋がってきた。それは今も同様。素材の持ち味を最大限、引き出し、魅力を真っ直ぐに伝える。それが氏の目指すところで、そのために今一度、和食を見詰め直し、あらゆる技法、調味料を駆使して再構築する。そうして広がる和食の可能性こそが氏の言う新和食なのだ。
「古典落語と同じです。食材同士の取り合わせや器の使い方などは私流ですが、根本は和食。創作落語のように全く新しいことをしているわけじゃない。言ってしまえば、日常の食卓に味噌汁とハンバーグが並ぶこともある、家庭料理の究極型が私の料理かもしれません」
先駆者は和食の多様性を発信する伝道師でもある。 -
目白 旬香亭
- 熊本県の名門・大塚牧場から届く「あか牛」を使用する『ビーフカツレツ』。低温の油でじっくりと揚げることで素材の旨みを内部に凝縮する。肉自体のおいしさを味わうために、ワサビ醤油で味わうのがシェフのおすすめ
- 長く【旬香亭】を支え続ける古賀シェフ。まるで食材と語り合うかのような丁寧な仕事が持ち味
- 裏が透けて見える透明なレタスは、減圧調理器の効果。軽快な食感を残しながら、上質な甘みも併せ持つ
- 重厚な風情が漂っていたかつての赤坂店とは異なり、家族でも気軽に訪れられるオープンな雰囲気
- 減圧調理で旨みを閉じ込めた牡蠣にチーズをまぶして焼き上げた『牡蠣のチーズ焼き』は冬期だけの限定
減圧調理で素材が活きる
シンプルかつ奥深い洋食フレンチの技法や和の要素、斬新なアイデアを取り入れた洋食で知られる【旬香亭】。鬼才・斉藤元志郎オーナーシェフの生み出す独自の料理には熱烈なファンも多く、本店が赤坂から静岡へ移転した現在もなお、食通たちの来訪が減ることはない。そんな名店が東京再上陸を果たしたのは2014年末のこと。厨房を任されたのは、長年斉藤氏の右腕として活躍してきた古賀達彦氏だ。目白店を「今までさまざまな技法を取り入れてきた【旬香亭】の集大成」と位置づけながらも、心がけるのは「シンプルに、基本に忠実であること」だと語る古賀シェフ。日本人に馴染み深い洋食というジャンルだけに、奇をてらうことなくゲストの期待に応える味を提供するのが信条なのだ。
では、そんな正統派のレシピで、どうして味に違いが出るのか。その答えは、徹底した素材選びと下拵えにある。とくに減圧調理器を使用する素材の下処理は【目白 旬香亭】の味を決定づける大きな要素だ。減圧調理とは調理器内の気圧を下げることで食材の細胞を壊すことなく熱を入れ、旨みを内部に閉じ込める手法。手間もコストもかかるが、驚くほどシャキシャキの野菜や濃厚な旨みを内包する魚介など、その違いは歴然だ。
料理自体はおなじみの一皿、ただしそのおいしさは未知の領域。丁寧な仕事に支えられた、一食の価値ある洋食である。 -
東京 青柳
- その確かな技術と食材使いで、斬新な日本料理を数多く生み出してきた小山氏。包丁使いに限らず、小山氏の一挙手一投足には一流の料理人の技と矜恃が込められている
- 試行錯誤すること約5年。苦心の末、完成した『鯛の淡々』は食材の持ち味を最大限に引き出した逸品
- この日のお造りには、故郷から直送される鳴門の鯛のほか、大間のマグロ、アオリイカが供された
- 『イカ このわた』は食材を見極め、1週間ほどかけて塩漬けに。『大根 唐墨』は得も言われぬ濃厚な旨みを凝縮
- 杉の一枚板のカウンターなど、店主の小山氏が設計した店内は趣の異なる4つの個室からなる
ひと品ひと品に込められた
一流の技が恍惚の味を生む小山裕久氏といえば、徳島にある明治時代創業の日本料理店【青柳】の3代目であり、言わずと知れた日本料理界の重鎮だ。和食の真髄を日本のみならず世界に広めてきた伝道師としても名を馳せ、とりわけフランスでの活躍は顕著。2004年にフランス共和国農事功労章シュヴァリエ、2010年には同じくオフィシエを日本人としては唯一受章するなど、絶大なる功績を残し、今なお日本料理の普及に尽力する料理人である。
そんな小山氏が、ここ東京で【青柳】の看板を背負い、標榜するもの。それが、自分にしかつくれない、ここでしか味わえない日本料理の在り方だ。「包丁使いひとつで、違いを生み出せるのが真の料理人。ツマの大根だって、一流の料理人が切れば立派な刺身になる」。そんな確固たる信念を集約した料理に、名物の『鯛の淡々』がある。原型は故郷の郷土料理「鯛のあら炊き」。昆布出汁と酒だけで鯛の頭を炊き、味付けは僅かな白醤油のみを加えた料理だが、その味わいは感動的ですらある。目の前に差し出された時に立ち上る香りは余りに芳醇で、口へ運べば力強くも上品な味わいと、鯛の旨みから引き出される酸の立った風味が食べ手を圧倒する。しかも、鯛の状態を見極め、数滴の白醤油と数秒の火入れの加減だけで、それを引き出すのである。一流の料理人の極意が込められた、まさに究極のひと皿。決して大げさではなく、この一品を味わうためだけに、【青柳】へ訪れる価値があると断言できる。 -
ワインショップ&ダイナーFUJIMARU浅草橋店
- 浅草橋より徒歩5分ほど。屋形船を見下ろす神田川沿いの店は、7席のカウンターと12席のテーブル席、スタンディングスペースからなる。「お客さんにつくっていただく、楽しい雰囲気こそが店の宝」と山田シェフ
- 『石黒農場の「ほろほろ鳥」のレアグリル』。シェフ自ら農場を訪れ絶賛。だからこそ味付けも極力シンプルに
- レストランの横にはワインショップを併設。こちらで購入したワインをお店で格安で味わうことができる
- 日本で初めてマタギを社員にしたプロ集団・ELEZOがつくる『シャルキュトリーの盛り合せ』
- 「ゲストの顔が見える空間に面白さを感じます」と山田シェフ。ソムリエでもあり、ワインにも精通している
ワインと食材への愛が溢れる
大阪発、楽しい名酒場へ昼1時からがっつりワインとフレンチを堪能するグループがいるかと思えば、隣の席では階下のセレクトショップで買った洋服の裾直しの待ち時間にシャンパンを一杯という紳士、さらには神田川を望むスタンディングスペースで語るカップルの甘い時間に、シェフ目前のカウンター席でワイン談義を楽しむ常連まで。ワインと美味を媒介に、各々の客が自由に、そして楽しげに店の空気を形づくる。それこそが、大阪で都市型ワイナリーやワインショップ&レストランなどを次々と成功させた【FUJIMARU】の東京進出店。
ワインと食の素晴らしさをさらに多くの人へ広め、“ワインを日常に”をコンセプトに、連日昼からの通し営業で、多くの美食家を虜にしているのだ。
厨房を仕切るのは、【ヌキテパ】、【グレープガンボ】、ハンガリー大使館の公邸料理人、パリの【ズ・キッチン・ギャラリー】など、数々の名門・名店で腕を磨いた山田武志氏。世界を知る氏が日本の食材の素晴らしさに立ち返り、現在追い求めるのは、生産者の想いまでをひと皿ひと皿にのせた料理。
「岩手の石黒さんのホロホロ鳥は温泉を利用した飼育で…、三重の尾鷲港から届く魚は毎回楽しみで、マタギ集団のELEZOの肉はびっくりしますよ……」
それぞれの食材の産地を訪れた氏の食材への愛が、シンプルな調理となって食膳へと運ばれてくるのだ。そう、ワインと食材への愛こそ、この店の源なのだ。 -
Furuta
- 『フカヒレと天然トラフグの白子の上湯スープ煮込み』。金華ハムと鶏肉のみで仕立てる上湯スープは、香味野菜などを加えず雑味を極限までそぎ落とした、贅沢な味わい。じっくりと直火で炙ったトラフグの白子の旨みが寄り添う
- 『鳥取産松葉ガニの春巻き』。名物の春巻きは、季節によりアユやマツタケを使うなど、内容が異なる
- 『春キャベツと桑名のハマグリ 煮込みそば』。キャベツの優しい甘みが上湯スープに溶け合う
- 先鋭的な中国料理で名を馳せた古田氏だが、それも真摯に食材と向き合ってきた成り行きである
- 目の前がオープンキッチンとなった檜の一枚板のカウンター。1日8人だけに許される美食空間だ
数々の名声を得た中華の名手が
銀座で第二の料理人生を歩むいったいどれだけの食通が全国各地から足を運んだことだろう。数々の美味で名声を得てきた岐阜の中国料理の名店【開化亭】。そのオーナーシェフである古田等氏が、【開化亭】時代、休日を利用して月に一度開催していたのがシェフズテーブルだ。自宅のアトリエにゲストを招き、あらん限りの食材を駆使して料理を振る舞う。楽しめるのは毎月ひと組。まさに美食の宴と呼ぶに相応しきものだった。
【フルタ】は、そのシェフズテーブルが原型になった店。おまかせコースで3万円~と値は張るが、何しろ使う食材が度肝を抜く。大振りの干しアワビにフカヒレ、時には熊の手まで…。高級食材を惜しげもなく使った料理が、オープンキッチンで次々と調理されるのである。
が、古田氏の真骨頂といえば、その素材のいかし方にこそある。この日の料理を挙げれば、名物の春巻きは、鳥取産松葉ガニの身をカニ味噌とともに包み、塩とオイルで味を添える。あるいはキャベツとハマグリの煮込みそばは、湯がいたキャベツに極上の上湯と合わせ、煮ハマグリをのせるだけ。それなのに体中に駆けめぐる得も言われぬ旨みは例えようがない。「完成型をイメージできない料理に、美味しいものはない」。驚くことに、古田氏は料理をつくる際、試作をしないのだそう。シンプルだが、着地点へと一直線に突き進む料理は、類い希なるセンスと技術力によるものだ。月に一度だった美食体験。今は岐阜へと足を運ばずともここ銀座で手に入る。
※このページのデータは、2016年2月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。