うまかぁ、福岡。名店めぐり | ヒトサラ
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もつ幸
- 1階はカウンター席、2階と3階は座敷席の構成で、一人客も家族連れも大歓迎の同店。17時の開店前から店前には行列が出来はじめ、オープンと同時に活気に包まれるのは、もはやこの店の日常だ
- 小腸、センマイ、赤センマイ、ハツの4種のもつを使用する『もつ鍋』。鶏ガラスープで炊く、水炊き風だ
- 鍋の〆にはちゃんぽん麺。大量のすりごまを麺が隠れるほど投入するが、これがコクと旨みを倍増させる
- もつ鍋の手順は各テーブル、店のスタッフが担当。その手際の良さや絶妙な火入れの加減も腕の見せ所だ
- 初代の松尾夫妻がつくりあげたオリジナルのもつ鍋を、現在は息子の一豪氏が受け継ぐ老舗
鶏ガラスープで煮込み
酢醤油で味わうもつ鍋今や押しも押されぬ博多の名物であり、庶民に愛される味といえばもつ鍋。なかでも地元のタクシー運転手であれば十中八九がこの店の名前だけで場所がわかるという人気店が、1978年創業の【もつ幸】だ。
元は夫婦二人ではじめたという同店。他店がしょうゆベースや塩ベースのスープで味わうのに対し、こちらは鶏ガラのスープで煮た具材を自家製の酢醤油で味わうオリジナルスタイル。それもそのはず、出自は中洲のスナックでつまみとして出していた小鍋仕立てのもつ鍋であり、まさに酒の肴として誕生した逸品なのだ。そのすっきりとした味わいは評判となり、その後専門店として営業。以来、40年近い年月を重ねるわけだが、夫婦でつくりあげた味わいは今なお色褪せることなく輝き、二代目・松尾一豪氏がさらに磨きをかける。
「もつが届くのは毎日12時頃、鮮度が重要だから当日に仕入れます。そしてベースの鶏ガラスープは朝の10時から仕込んでいるんです。時間はかかりますが、丁寧にした処理した分だけ旨みは増しますね」
この手間を惜しまぬ情熱と、鮮度抜群のもつこそが店のベースだと松尾氏。さらに鍋に浮かべた餃子の皮はもちとろの食感で楽しませ、追加の水餃子もファン多し。〆のちゃんぽんに至っては極限まで煮詰めたスープと麺を絡めたのち、大量のすりごまをかけて味わうオリジナル。何から何まで独創性あふれるもつ鍋こそが真骨頂なのだ。唯一の無二の鍋、一度試していただきたい。 -
鮨 行天
- 鮨家の家系に生まれ、常に鮨が生活の一部であったという行天氏。それでも悩みに悩み、自分探しの海外生活を経て、鮨で生きていくことを受け入れたという。その後は東京の一流店で学び、若くして同店を開店させる
- 青森三厩産の『本マグロ』。行天氏曰く「大ぶりの巨体よりも食べ盛りの中高生ぐらいのマグロは美味ですね」
- 『サヨリ』は〆るのではなく、塩と酢に0.5秒くぐらせる。コーティングさせるイメージで旨みを引き出す
- 全10席の空間は余計な装飾を削ぎ落し、まるで茶室にでも招かれたような趣き。簡潔にして美意識が貫かれる
- 毎朝市場に通い、仕入れる魚介。本当に良いものをそれまでの常識や潮流に流されず、自らの目利きで選び抜く
全身全霊でつくりだす
三ツ星鮨屋の芸術握り居合いの達人。ふと、そんな言葉が行天健二氏の所作を見ていると思い浮かぶ。ゲストとの間合いを詰め、自らは一点に集中し、ここぞの空気を掴む。その瞬間、ふわりと差し出された握りは、ゲストの目前でゆっくりと沈んでゆく。そう、シャリがわずかに空気を含み、静かに音もなく沈むのだ。すかさず頬張れば、シャリとネタは渾然一体となり、口福を運んでくれる。その絶妙な口溶けの加減の素晴らしさ。これこそが「ミシュラン・ガイド福岡・佐賀2014」にて、わずか2店舗しか成し得なかった三ツ星に輝く【鮨 行天】の握りなのだ。
無論、魚の産地や、シャリ、酢へのこだわり、器や酒、さらには修業の店まで、氏のこだわりは尽きず、この店に一切の妥協はない。それでもしかし、店や氏のこだわりなどはゲストには関係ないと行天氏は一刀両断する。
「いや、失敗と挫折の繰り返しです。いかに自分の身の丈に合った店にできるか。鮨は心を込めているか、すぐに握りに現れますからね」
質問をする度、禅問答のように回答が帰ってくる。それは、鮨は感じるものなのだと、伝えているのかもしれない。何も考えず、味わえばわかる。そこには紛れもない本物の握りが現出するのだから。
楽な方にいかないよう、毎日を一生懸命に。福岡の鮨の名店。そこには若き職人の美味が宿る。 -
博多味処いろは
- 白濁したスープは門外不出で家族しか知らない大切な味。臭みのないまろやかな味わいで、骨付き鳥をコーティングするように煮込まれる。それを自家製ポン酢で味わうのが【いろは】のスタイル
- 本日のスープをチェックする四代目・原田隆史氏。毎日繰り返されるこの作業こそが鍋の味を最も左右する
- こちらも代々伝わる自家製の『辛子明太子』。あまり辛くせず酒を利かせた味わいで酒肴としても最適
- タレントや著名人のサインで埋め尽くされる1階フロア。店はほかに個室や大広間なども備える3階建て
- 水炊きのスタートで供される鳥スープ。まずは濃厚なスープで店のこだわりを感じてほしい
鳥の旨みを凝縮させた
シンプルな水炊き最初はスープのみ。テーブルごとに専属の仲居さんが担当し、温まったスープに薬味のネギと少量の塩・柚子胡椒を入れ、味見させてくれる。その一口で胃はふっと温かくなり、じんわりと鳥の濃厚な滋味が口に広がる。そして、この一杯だけで店の自信が一気に伝わってくる。
「佐賀の麓どりは臭みが少なく、旨みが強い。そして赤鶏らしい味わいで水炊きには最高にあいますよ」
現四代目店主の原田隆史氏は、使用する鳥について何も隠すことなく教えてくれる。炊いた時には身が崩れず、かぶりつけば身離れよし。さらに皮の歯ごたえよく、脂の旨みも申し分ない。これは5年ほど前、諸事情によりそれまで使用していた鳥が使えなくなり、結果、何種も試食を重ねてたどり着いた自慢の鳥。スープも原田氏が、毎日、つきっきりで5~6時間かけて丹念にアク取りし、守り続ける味。
「水炊きといっても、この味しか知らないですからね。若くして父が体調を崩し、店を継いだので本当にこの味しか知らないんですよ」
そう言って笑うが、だからこそぶれず、一本道を歩んできた。昭和28年から続く老舗水炊き店【いろは】。これこそが博多で長く愛される水炊きの味。
スープで炊いた骨付き肉、続いてもも肉でつくるミンチ、さらにその旨みを丸ごと吸って旨みを倍増させるキャベツ、〆の玉子がふわふわの雑炊まで、鳥の旨みを余すところなく味わえる怒涛の構成。味わうたびに旨さが倍々に増えていく、その感動を体験されたし。 -
La Maison de la Nature Goh
- 「自分の仕事を見てもらうフレンチから、誰が食べてもおいしいフレンチに変えたいと思ったのは、ワインバーでの経験が大きかった」と店主の福山氏。料理が残された皿を見て、氏の料理観は大きく変化していった
- 『蕪のブランマンジェ ズワイガニとウニのジュレ』。前菜で供される定番の品は季節により食材が変化
- 店はカウンターとテーブル席という18席の構成であったが、2015年10月に増床しプラス16席に
- 『八女猪の藁焼きロースト』。猪が育った場所で採取された藁やみかんを味付けに使用。滋味あふれる一品に
- ソムリエセレクトのワインは、ボルドーでも飲みやすいもの、しっかりしたものと分かりやすい味わいを追求
安くて旨くて大満足フレンチを
おまかせ6000円コースで実現「自分の中で美味しいと思うものから、いつからか食べ手のことを考えた料理に変わったんですよね。お皿に料理が残ってたりすると悲しくなっちゃうじゃないですか。だから残されない料理にしたいんです」
今や連日満席で賑わう西中洲の人気店【La Maison de la Nature Goh】のオーナーシェフ・福山剛氏はそう言って、豪快に笑う。この笑顔だ。氏のパワー溢れる巨体と笑顔に、引っ張られるように、この店では、どの席を見ても満開の笑顔が咲いている。
かつては料亭や夜の店が軒を連ねた街・西中洲。そんな西中洲を一躍大人の集える美食の街へと変えたのが、何を隠そう福山氏であり、【La Maison de la Nature Goh】と言われている。
自身が学んだ福岡の名フレンチ【イル・ド・フランス】での経験と、次に経験を積んだ小さなワインバーでのカウンター越しの接客&料理という時間が、氏にゲストの笑顔が見たいと強く思わせる料理をつくらせたという。
「店を始めた13年前は何が正解なんて全然わからなかった。まだ、この辺りに今のようなレストランはほとんどなかったですからね。だから誰が食べても美味しいと思えて、それが安ければ尚良し。そうしておまかせ6品で6000円というコースが生まれました」
しっかりと地に足の着いたフレンチながら、これだけの価格を維持できるのは、コースをおまかせに絞った成果。結果、クセのない福山氏のフレンチは、評判が評判を呼び、オープンからほぼ満席という偉業を続けている。 -
レザン・ドール
- シェフの手塚卓良氏の料理は野菜が主張する、臨場感ある味わいが特徴。メニューがない分、オーダーが入ってから食材の状態を見極め、プレゼンテーションや盛り付けも都度変化を加えていく
- サービスマンが説明するのでメニュー名はなし。こちらはアミューズで供された、インカの目覚めのニョッキ
- 長崎平戸産の黒アワビをカリフラワーのソースにて。アンディーブのスライスがアクセントを加える
- 店の一角にはワインバーを併設。食前酒や食後酒を楽しむこともできるうえ、バー利用のみもOK
- 産地まで赴き生産者の顔が見える食材を多用する手塚シェフ。シンプルかつ香り立つ料理が真骨頂だ
サービスマンの目線でつくる
究極の居心地の良さと美味大人の街・西中洲の一角、瀟洒なビルの奥にひっそりと佇む小さなグランメゾンが【レザン・ドール】。実はこの店、メニューもなければワインも基本はおまかせ。席へたどり着くまでのアプローチも余計なものを排したつくりで、厨房やワインセラーなど、レストランでよく見えてしまう光景がすべて隠されている。
「サービスマンから見た店づくりがコンセプト。席に座っていただき、これから何が起こるのか、期待に胸をふくらませていただく仕掛けでもあります」
店主でありソムリエの石井秀樹氏は、元は【ホテル日航福岡】のレストランで支配人として活躍。そんな自身の経験から生み出されたのが、“サービスマンの目線からの店づくり”であったのだ。
余裕のある空間に贅沢に配されたテーブルに腰を下ろすと、隣客の目線や会話が気にならない。そしてすぐに感じる座り心地の良さ。高級家具のアルフレックスであることはもちろん、座椅子の高さを少し低めに設定することで長時間座っていても疲れ知らずなのだ。さらにワイングラスもカトラリーも、ゲストが手にするすべては、最高級ブランドのアイテムを揃える。それらを知らずに使うたび、その質の高さがさらなる心地良さを生み出してくれるのだ。
シェフはそんな石井氏の想いに共感した手塚卓良氏。西麻布【ルブルギニオン】やフランス【ジャルダンデサンス】や【アレクサンドル】など、数々の星付き店で腕を磨いた経歴を持つ。香りを巧みに操る氏の料理もまた、当日のお楽しみ。あとは心地よいサービスに身をゆだねる。それだけで極上の刻は約束されているのだ。
※このページのデータは、2016年1月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。