伊勢・志摩の美食店 | ヒトサラ
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とうふや
- 建物は釘を1本も使わずに建てられた。梁や柱、床、ガラス戸、土間など、そこかしこに古き良き時代の日本を感じられる。その見事な造りと眺めから、伊勢景観デザイン賞の大賞も受賞
- サイズにこだわった大振りのあなご天が鎮座する『あなご天重膳』
- 炭火でじっくりと焼き上げた『とうふ田楽』。赤味噌や柚子、胡麻などをブレンドした特製の味噌ダレでいただく
- 入り口にある竈。サービスのお茶も地元の無農薬で栽培された在来種の茶葉を、この竈で湧かした湯で煎れる
- ゆっくりと楽しむなら観光客が少なくなる夜の時間も狙い目。昼とはまた異なる雰囲気も実に趣深い
優雅な五十鈴川の自然を愛で
絶品豆腐料理に歓喜する伊勢神宮のお膝元、歴史的建造物が立ち並ぶおかげ横丁の一角。といっても、ここ【とうふや】があるのは、その外れ。横丁から路地を抜け、五十鈴川の川渕へと出れば、風流な姿で旅人を出迎えてくれる。入口には薪をくべた竈と囲炉裏があり、窓に映るのはのどかな五十鈴川の水面。古材を買い集め、釘を一本も使わずにつくられた木造建築には、横丁の喧騒が嘘のように、寛ぎの時間だけがゆっくりと流れている。
ここで味わえるのは、文字通りの豆腐料理だが、必ず押さえておくべきは名物の寄せ豆腐だろう。地元三重県産の「ふくゆたか」をはじめ厳選した国内産大豆で仕立てる豆腐は、まさに逸品と呼ぶにふさわしい出来。ひと口味わえば、大豆の豊かな香りが鼻を抜け、とろりとした触感とともに口の中に濃厚な甘み、風味が広がっていく。
「大豆を水に浸す時間などにも職人の経験が必要ですが、最も大切なのは熱の入れ方。そのわずかな違いで仕上がりががらりと変わってしまうんです」とは料理長の千原昌也さん。大豆を炊く際は片時も目を離さず付きっ切りで作業を行うのだ。そんなこだわりの味は、一品料理だけでなく御膳などでもしっかりと味わうことができる。伊勢グルメが海の幸だけだと思ったら大間違い。こだわりの豆腐料理が伊勢の新たな魅力を教えてくれる。 -
Bon Vivant
- 『志摩で揚がった巨大ヒラマサの瞬間燻製 海の幸とともに』。このヒラマサも漁師から電話が入り買い付けた食材。3~4日寝かせて旨みを引き出してから軽くスモークしている。ムースに使うトマトもシェフのお気に入りの食材だ
- 『志摩和具漁港の伊勢エビのボイル 甲殻のソース』。伊勢エビをブールブランとアメリケーヌのソースで
- 『松阪牛イチボ肉のロースト ジャガイモのグラタン ドゥ フィノア』絶妙な火入れで旨みを最大限に引き出した
- 建物はかつて逓信省の山田郵便局電話分室として使われていた。ここにも河瀬氏の思いが降り積もっている
- 地元伊勢出身の河瀬氏。外宮前のこの店ではフレンチレストランとブラッスリーを併設
生産者の思い×シェフの感性
伊勢が誇る極上フレンチ「伊勢というと伊勢エビや鮑が注目されがちですが、ここには知られざる美味しい食材がいっぱいあるんです」シェフの河瀬毅氏はそう言ってニッコリと笑う。
伊勢市で最も古い老舗フレンチ【Bon Vivant】。30年以上に渡り、地元はもとより県外からも訪れる数多の食通を魅了してきた店だが、その魅力は何かと問われれば、河瀬氏の食材への飽くなき探求心だと断言したい。実際この日も、河瀬氏は朝一番で地元の漁師から電話が入り、馴染みの魚屋へと足を運んできたばかり。それだけではなく、畑へと足を運んでは農家の話に耳を傾け、ハンターが仕留めるジビエに視線を注ぐ。そうして河瀬氏は生産者と密な信頼関係を築き、その食材の魅力を伝えてきたのである。
例えば、この日、前菜で登場した巨大ヒラマサのスモーク。当然、ヒラマサが主役となるひと皿だが、添えられたトマトがとてつもなく甘く、旨い。真珠貝の貝柱、ムースリーヌになったアオリイカなども同様で、付け合わせひとつにも自慢の食材が並ぶ。そして、それらがさまざまな調理法で互いの美味しさを引き立て合うのだ。鹿肉のカルパッチョが松阪牛とともに同じ皿に並ぶのも、素材に対する自信の現れといっていい。
大正時代築の建物が醸す趣とそのエピソード、気取りない洗練された給仕のサービスなど、確かにこの店の魅力は他にも数多くある。だが、まずはシェフの食材に対する情熱を、ひと皿ひと皿からしかと感じ取ってほしい。 -
和田金
- しぐれ煮や季節のゼリー寄せなどが盛られる前菜3種盛りにはじまり、牛肉の炙り焼き、肉すましが供され、すき焼きへと続いていく『寿き焼コース』。梅から松までの3種が用意される
- すき焼きはすべて部屋付きの仲居が焼いてくれる。ゲストは黙って、その時を待てばいい
- 5階建ての建物に約40の個室を用意。輪島塗の円卓が配された部屋のほか、テーブル席や掘りごたつ式の部屋も
- 『寿き焼コース』に登場する肉すまし。出汁をかけて肉が桜色になったところを見計らいいただく
- 松阪牛との相性を考慮し、ワインはグラスとボトルがあり7種を用意。極上のマリアージュを楽しみたい
自社飼育松阪牛と老舗のノウハウ
至高のすき焼きに心が溶ける日本で一番松阪牛を知り尽くす飲食店とは言えば、大袈裟だろか。何せ【和田金】が創業したのは今から100年以上も前のこと。東京の料亭【和田平】で修業した初代・松田金兵衛が故郷の松阪へと戻り、始めた牛肉店が前身となる店だ。すき焼き店を構えたのはその5年後の明治16年。以来、すき焼きひと筋で老舗の暖簾を守り、【和田金】は今、松阪、いや三重県を代表する名店のひとつとなった。
「松阪牛を知り尽くす」所以はそれだけではない。ここで味わえるすき焼きに使われるのは、自社牧場で大切に育てられた松阪牛なのだ。兵庫県但馬の黒毛和牛の中から雌の未経産牛のみを仕入れ、飼育から出荷まで専門家の目が行き届く環境で徹底管理。「最高の牛肉を心ゆくまで堪能してほしい」。そこには、老舗のそんな想いが込められているのだ。
だからこそ、ここではゲスト自らが肉を焼くことはない。最高の牛肉を最高の状態で味わってもらうべく、すき焼きはすべて部屋付きの仲居が焼いてくれる。牛脂を敷き、炭火にかけられた鉄鍋で焼かれていく松阪牛。溶き卵に潜らせ頬張れば、松阪牛ならではの脂の甘味が口の中で蕩け、力強くも上品な肉の旨みが広がっていく。老舗の矜恃が隅々まで籠もったすき焼き。風流な個室で楽しむその味に、心まで蕩けそうになる。 -
川うめ
- 4代目の山路太一さんが考案した『川うめ丼』。その味の決め手は継ぎ足されてきたタレだろう。地元の2種の醤油に氷砂糖やみりん、酒を加えて仕立てた、さっぱりとした味わいがウナギによく染みる
- 11月~3月中旬まで味わえる『的矢の焼きガキ』。ぷっくりと身の肥えたカキにレモンをギュッと絞ってどうぞ
- 『う天ぷら』は白焼きの天ぷらとレンコンの挟み揚げがひと皿に。他にもウナギの逸品量が豊富に揃う
- 街道の茶屋として創業し、旅館を経て、山路さんが4代目となると同時にウナギ料理専門店となった
- かつては真珠王・御木本幸吉も贔屓にした。弁当のかけ紙の「心術」という文字も御木本幸吉が筆をとったもの
伝統のウナギ料理を深化
老舗4代目が作る新たな名物「ひと昔前までは町内で集まりがあれば、食事は必ずといっていいほどウナギでした。そのくらいこの町にはウナギの文化が根付いていたんですよ」
三重県志摩市磯部町といえば、かつて養鰻でその名を轟かせた町だ。江戸時代の末期から明治時代にはウナギ漁が盛んに行われ、大正から戦前にかけては日本最大級の養鰻場があったことでも知られている。そんな町でウナギが市民権を得たのは当然のこと。店主の山路太一さんの話によれば、かつて伊勢へと続く磯部町の街道筋には50軒以上の茶屋があり、その内の数件の店でウナギ料理が食べられていたそう。創業1830年の老舗【川うめ】も、そうして賑わった店のひとつだった。
「ただ、養鰻で栄えたのも戦後までのこと。今ではウナギを専門で出している店も、磯部では3軒だけですかね」
老舗の名に胡座をかいてるだけではいけない。そう考えた山路さんが、新たな名物をと考案する。それが店名を冠した『川うめ丼』だ。ご飯の上にシソの葉と刻んだウナギの蒲焼きを敷き詰め、ワサビ醤油をかけていただくのだが、これが食べてみると、蒲焼きの旨みにシソとワサビの爽やかさがアクセントになりさっぱりと味わえるのだ。かつて、世界の真珠王として知られ、今なお三重を代表するブランド「ミキモト」の創業者でもある三木本幸吉が贔屓にしたという店。磯部伝統のウナギの味は、新たな名物となって地元に愛されている。 -
漣
- 『海老フライ定食』に使うのは、お刺身で食べられるという天然エビの船凍品にこだわる。船に水揚げされるとともに急速冷凍するため、鮮度は損なわれないまま。さらに大きなエビが付く1日20食限定の『大エビ』もある
- 『旬のお造り盛り合わせ』。この日は鳥羽で揚がったイシダイ、サワラ、アオリイカなどの5種が登場した
- 銀座や六本木など都内の割烹で修業を積んだ料理長の林竜次氏。漁協への仕入れは林氏の日々の日課だ
- 1階はテーブル席、2階は7つの個室からなる店内。個室は1名200円のチャージで2名から利用できる
- 鳥羽とえいば伊勢エビ、アワビ、カキも欠かせない。お造りや汐蒸しなどでさまざまな調理法で楽しめる
ブリッとした食感に旨み弾ける
大迫力の名物エビフライ「鳥羽は伊勢の湾口にあって、黒潮にのった海水と周辺の山々から流れる栄養が混じり合う絶好の漁場なんです。なかでもカキが有名ですが、ここの魚は何を食べたって美味しいんです」
料理長の林竜次氏のそんな言葉を聞けば、期待は高まるばかりだ。ミキモト真珠島にもほど近い運河沿いに暖簾を掲げ、創業78年になる老舗【漣】。県内はもとより県外からも数多くの観光客が訪れる、市内きっての人気魚介料理店とあれば、ここで味わうべきはまず“お刺身”と思われそうだがさにあらず。この店の名物といえば、そう、創業当時から続くエビフライである。
「なぜにエビフライ?」を思った人は、誰もがそのボリュームに驚くだろう。何しろ、定食にして20㎝級の海老がドンと盛られて登場する規格外の迫力なのだ。さらにいえば、むき身に衣をつけてそのまま揚げるのがエビフライのスタンダードだが、その大きさゆえここでは火が入りやすいよう身を開いた状態でフライにするため、その存在感は一層際立つばかり。それでも、ひと口頬張ればブリッと弾ける食感があり、食べ応えは十分。1本でもご飯一膳は軽く平らげられる大きさだが、それが通常3本(大きさにより2本~4本の場合あり)も付くのである。
ところで、この店へ訪れるなら、ぜひ2名以上をオススメしたい。エビフライだけでお腹が満たされたら、せっかくの鳥羽の海の幸が味わえないのだから。
※このページのデータは、2016年3月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。