京都、洋食の底力 | ヒトサラ
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cenci
- 天井が高いレンガ造りの店内。ヨーロッパの雰囲気を醸し出しつつも、地域伝統の工法を使うなど、京都ならではのイタリアンであることを意識している
- 噛みしめると滋味深い味が並ぶ。素材本来の味に、これほどバリエーションがあるのかと驚く客も多いという
- 食材の良さを最大限に引き出すことをモットーに、全国の良質な生産者との多様なネットワークを築く
- 龍泉刃物の特注ステーキナイフなど、良質なメイド・イン・ジャパンが店内に溢れている
- お客様に勧めたいワインを選ぶと、おのずとら自然派が多くなってしまうというラインナップも魅力だ
イタリア料理店として、
日本の食の奥深さを発信2014年12月にオープンしてすぐ、感度の高い層から火が付き、既に京都のトップレストランの仲間入りを果たしている【チェンチ】。それもこれも坂本シェフのなせる業というのが、地元の食通からのもっぱらの評判だ。
伝説の【イル・パッパラルド】時代から笹島保弘シェフとともに働き、彼の右腕となっていたように、料理人としての腕は折り紙付き。さらに、食べ方や飲み方で地球は変わることを謳った「いただきますプロジェクト」にも影響を受け、食べ物を"誰が、どういう考えで、どのようにつくったのか"を、誰でもに分かるようにしようとする「バタフライ・プロジェクト」など、食の意識を変える活動にも積極的に参加。この【チェンチ】で提供される料理も、こういった考えが反映されたものになっている。
「レストランで働く者の役割は、"素材"にひと手間加えることにより、その良さを最大限に引き出し、生産者の想いとともに食べ手に届けることだと思っています」と坂本シェフは自身のテーマを語る。
こだわっているのは食べるものだけではない。器やカトラリー、内装など店内には、国内産のもので溢れている。
「これだけいいものが日本にあるのだから、わざわざ海外のものを使う必要は感じません。むしろ、その日本の良さをメッセージとして発信していきたい」
26席のレストランでも、昼夜合わせて年間にすれば延べ1万人近くの方が訪れる。料理に加えて、その食材、器やカトラリーなどを実際に口にし、手に取り、その良さを体験すれば、メッセージはそれだけの人数に強く伝わる。坂本シェフから、【チェンチ】という店の隅々からは、レストランがとても大きな発信の場だということを思い出させてくれる。 -
Restaurant MOTOI
- たとえフランス料理であろうが「京都の料理でありたい」と言う、生粋の京都っ子である前田シェフ。客をもてなすために準備に走り回る「馳走」という考えを胸に据え、日夜、畑や山に出向き、みずから食材を採取することを厭わない
- コースメインの肉料理『フランス産仔牛のロティ』。海外産でも顔の見える生産者から仕入れるこだわりぶり
- コースメインの魚料理『アラのポワレ』。ハタ系の白身魚を好むところに、中華の影響が垣間見える
- 店のコンセプトは、茶道のもてなしの精神を表す「主客一体」。主と客を、前田シェフのフィルターを通した新しいフレンチが繋ぐ
- タイトルの写真から伺えるように築100年の大正建築を改装した店内は、独特の情緒が醸し出される。個室は、蔵を改装している
前田シェフのフィルターを通して
表現される新感覚のフレンチ三つ子の魂百までも。そう言うと大げさに過ぎるかもしれないが、小学生の時に抱いた「フランス料理のシェフになりたい」という初志を遠回りしながらも貫徹、京都に5店しかないフレンチのミシュラン星獲得店に育て上げたのが【Restaurant MOTOI】の前田元シェフだ。
高校卒業後、ホテルの飲食部門に就職。しかし、フランス料理は人気部署。空きが出るのを待ってられないと、いち早く厨房に入るために志願したのが中華部門だった。厳しさにも10年耐え、一人前になったところで「中華はやり切った」とホテルを退職。1年間渡仏することで、もともとやりたかったフランス料理にモードを切り替え、帰国後は京都【ピトレスク】、大阪【HAJIME】などで研鑽を積む。
そして、オープンした【MOTOI】の料理は新しい感覚のフレンチと評されることが多いが、その細部にはおそらく彼のこれまで歩んできた歴史が詰まっているのだろう。「あくまで全体のイメージはフランス料理でありながら、アクセントとして中華の技を入れることは厭いません」と語るように、どちらの料理にも通じた前田シェフにしかできない料理だということ。
そもそもフランス料理は、懐の広い料理だ。アフリカン、ヴェトナミーズ、中華、和食と文化的に触れ合った地域の食のエッセンスを取り込みながら、発展してきた料理でもある。ならば、中華のテイストが加えられ、主客一体という京伝統のもてなしの空気に満ちたこの【MOTOI】は、京都の地で花開いた独特にして、正統なフランス料理の新たなカタチと言えるかもしれない。 -
Reine des pres
- 「油絵のように色と色を重ねていく華やかさもありますが、むしろ僕は墨絵のような濃淡で表現していく美しさを目指したい」という中原シェフ。器にもこだわり、出身である滋賀の信楽焼や、檜から自作した木の器なども目を楽しませる
- シェフ自らが季節ごとに足を運び、分けて頂く野菜は、京都和束の浦辻農園、福岡の久保田農園ものを中心に
- コンセプトは、素材選び、火入れ。それを付き詰め、導き出されたシンプルさによって新境地を開いてきた
- スペシャリテ『オマール海老のサラダ仕立て』。オマール海老の概念を覆すような繊細な口当たりが特徴
- オブジェが一つかかるのみ、シンプルさを追求した店内。料理と同じく、余計な装飾を剥いだ潔い空間だ
素材、火入れ、シンプルさを
追求するフレンチの小宇宙「ソースって何やろう?と考えたんです」。アーティスティックな料理でゲストを魅了する【レーヌ デ プレ】の中原シェフの現在を導いたのは、フランス料理の根本とも言えるソースに対する真摯な問いだった。
現【ビオグラフィ】の滝本シェフの下で7年間研鑽を積み、フランス・パリで1年を過ごしたのち、独立する際、「少しでも良い食材を使いたい」と料理人としては当然の欲求から生産地を探し歩いた。その中で、現在も使い続けている浦辻農園の野菜など、理想の食材に出会う。冒頭のような問いが生まれたのは、そんなときだ。
ソース本来の目的は、100年も前、保存状態が悪かった食材の臭みを消し、美味しく食べるために生まれた。「そう考えると、現在の食材にソースを付ける必要があるのかと思って。ならば、うちはソースのない料理にしようと決めたんです」と中原シェフ。
例えば、鴨から出たジュを煮詰め、その肉に旨みとして返すように、味を多少補うような手法は使う。けれども、野菜などに関しては、イタリアの魚醤をさっと和えることはあっても、塩胡椒さえ振らないことも多いという。
「もう一つ追求している火入れと、食材へのこだわりは表裏一体のものです。肉や魚など良い食材は、丁寧に火入れをすれば、その素材自体の旨みで、十分美味しくなるんです」
ミニマリズム・アートに、最小の素材から最大の想像力を引き出すという考え方があるが、中原シェフの表現は、まさにその精神をフレンチに昇華させたようにも映る。そして、この控えめな美意識は、日本が本来持っていたものでもあるのではないだろうか。 -
aca 1°
- スペインで食べた『イワシのパエリア』をシェフなりに解釈した『蟹のパエリア』。「一般的なミックスパエリアのごった煮感もいいのですが、具をシンプルにしたほうがストレートな美味しさになるはず」と生まれたスペシャリテだ
- 「大したキャリアはないですから」と謙遜するが、だからこそ、自由な探求心と丁寧な仕事に繋がったようだ
- カイ・フランクの一点物の器や特注のペルスヴァルのナイフなど。設えやカトラリーへのこだわり、センスも光る
- 伝統料理『イカのクロケッタ』も洗練された佇まいに。あくまでスペイン料理を原点としながら独自の表現に
- スペインワインにおいて、「仏や伊にも劣らない良質な醸造家がいることを伝えるのも使命」と東シェフ
抜群のセンスで脚光を浴びる
モダンスパニッシュの新鋭関西圏でスパニッシュをベースとするガストロノミーで評価を得るのは神戸の【カ・セント】だけれども、その次に多くの食通から名前が上がってくるのが、京都・烏丸三条のこの【アカ】。
オーナーの東シェフは、高校卒業後、英語を習得したいとアメリカやカナダに留学。帰国後、セールスマンとして就職するが、モノづくりに興味を持ち、ふと思い立ち25歳のときにスペイン料理店に転職する。そこで、眠っていた料理センスが開眼。そして研修などで訪れた現地スペインで星付きのレストランなどを食べ歩いたときに、コンテンポラリーなスペイン料理に出会う。
「こんな表現があるのかと驚きました。でも、冷静に考えると、例えば、外国人の方が日本料理=寿司や天ぷらというような先入観で見ていたら違和感を感じますが、それと同じ目線でスペイン料理を捉えていたことに気付いたわけです。そこで、自分が本当にやりたい方向性が見えてきました」
ただ、このお店の真骨頂は、東シェフの持つこんなストーリーとはさほど関係ないかもしれない。抜群の塩梅による味付け、丁寧な作業による完璧な火入れと、基礎力が高いことは同業のシェフも認めるところ。それに加え、スペイン料理の基本をリスペクトした上での食材の置き換え、かたちや盛り付けの転換など、自由な発想、応用力がこの上ない。
たとえ有名店でのキャリアがなかったとしても、天賦のセンスと旺盛な探求心があった。それらによって、名店は生まれるという好例だろう。 -
ristorante nakamoto
- 「この場所でうまくいかないのなら、自分の実力不足。東京だろうが京都だろうが、長く続くレストランをできるはずがない」という覚悟で、人口7万の木津川市で本場の名店仕込みのイタリア料理を展開。順調にファンを増やしている
- 前菜『舌平目のフリットと季節の野菜』に代表されるように、木津周辺の良質な野菜を多用
- コースのパスタから『アンニョロッティ』。地方や店により纏め方に個性があるが、仲本シェフは【ピンキオーリ】流を守っている
- メインダイニング。オープンキッチンから店内を一望でき、テーブル席のみながらシェフと客の距離の近さが印象的
- 「郷ポーク」を使ったメイン。地元の人たちのみ知る隠れた逸材を味わえるのも、地域に根を張る店ならでは
わざわざ訪れる価値のある
郊外のガストロノミー例えば、ミシュランのグルメガイドが、人々に車で遠出を促すタイヤメーカーのプロモーションとして企画されたことはよく知られたところ。翻れば、ヨーロッパにはわざわざ遠出して行くべき名店が各地にあったということでもある。
京都の端、奈良との境の木津川市にある【リストランテ ナカモト】を訪れて、まず思い浮かぶのは、そんなヨーロッパのレストラン文化だ。「都市、郊外とあるのだったら、木津川は人口7万人。単なる田舎ですよ」と笑うのは、オーナーシェフの仲本さん。イタリア・フィレンツェの三ツ星【エノテカ・ピンキオーリ】をはじめイタリアで約6年、ニューヨークでも約2年、腕を振るったこの実力派シェフが帰国し、実家のある”田舎”でレストランを開こうと考えたのもイタリアでの生活に原点がある。
「都心から車で1時間くらい行ったところに有名な星付き店があって、お客様もすごく来る。それが格好いいなと思っていましたし、日本でもできるんちゃうか、やらなあかんちゃうか?と考えたんです。イタリアで6年近く学ばせてもらった僕なりの恩返しみたいなものです」
彼の料理に息づく、その真髄とは? コースのみ提供しているお店だけれども、特筆すべきは、パスタになるだろう。一般的に生パスタは、モチモチ感を目指しがちだが、仲本シェフは、歯切れの良さにこだわる。このタイプのパスタでは、少なくとも日本で片手の指に入る実力の持ち主だ。その評判は、奈良や京都にとどまらず、大阪、神戸まで知れ渡りつつあり、わざわざ木津まで訪れるゲストが後を絶たない。
※このページのデータは、2016年2月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。