男性より男前。女性シェフの新時代 | ヒトサラ
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知花
- この日の蕎麦粉は信濃1号。季節により、全国から厳選した状態の良いそば粉を使用する
- 自ら蕎麦を打ち、食べ歩いたOL時代から数年、理想とする蕎麦に年々近づきつつあるという
- ランチや夜のコースの〆に選べる『おろし蕎麦』。辛味大根を使用したぶっかけスタイルで専用のかえしを使用する
- 濃厚な鯛の風味が堪らない『煮干し鯛の茶碗蒸し』。料理に使う卵は、四万十から取り寄せるもののみを使用
- OL時代から地道に気に入ったものを集めていたという食器や酒器。女性らしいセンスの良い器が料理を引き立てる
- 爽やかなブンタンの香味と梅ジュレの味わいがホタテを見事に引き立てる『ホタテとブンタンの梅ジュレがけ』
知花(ちはな)
予約専用番号:050-5871-3558 お問い合わせ専用番号:03-3465-0666 住所:東京都渋谷区松濤2-14-5 ヴィラ松濤1F
営業:12:00~14:00/17:00~最終入店20:00
休日:月1度5連休このお店は閉店しました
しなやかで繊細な蕎麦と
多彩な食材のマリアージュ「わたし、蕎麦オタクだったんですよ(笑)」。愛嬌溢れる笑顔で話す女将の知花信枝さんは好きが高じて蕎麦の世界へ飛び込んだ人。OL時代、食べ歩いた蕎麦店は200軒超、蕎麦を打ってから出勤する生活を送っていたという強者だ。そんな彼女が最終的に師事したのは、【朴念仁】、【古拙】などの名店を手掛けてきた石井仁氏。ミシュランで星を獲得する日本橋【仁行】立ち上げの際も石井氏の右腕として尽力したという。
極細なのにコシが強く、するりと喉元をすり抜ける十割蕎麦はここ【知花】でも健在。蕎麦や料理に合わせて十種ほどの醤油を使い分ける繊細な仕事ぶりも師匠譲りだ。さらに、「ベースとなる和食を外さなければ、冒険できるのが蕎麦屋の強み」と、タイ風カレーを合わせた蕎麦をはじめ、自家製シャルキュトリーや和薬膳を取り入れたひと皿など、食膳には斬新な食材の組み合わせや色合いの美しさを備えた肴や料理が緩急自在に登場する。
珠玉の蕎麦と丁寧な仕事が光る料理、そして女将の人柄に惹きつけられたゲストが、今宵も【知花】を訪れる。 -
メッシタ
- 厨房をひとりで切り盛りするにもかかわらず、16時から店を開けるのは「お昼ご飯でもない夕飯でもないこういう時間にお腹がすくから。そんな時間でも気軽に食べられる店にしたかった」とのことから。鈴木シェフは実に男気に富んだ方だ
- 「柔らかないい春ナスが入ったから」とこの日のメニューに登場した『春ナスのカポナータ』
- 豚の背脂を加えることでコクを引き出した『ミートソース』。フィレンツェで食べた一皿をイメージ
- 「自分の目の届く範囲でやれなければ意味がない」と店は12席の小箱空間だ
- メニューは黒板をチェック。その日の食材で献立をひねり出し、鈴木シェフが毎日書き換える
メッシタ
03-3719-8279 住所:東京都目黒区目黒4-12-13
営業:16:00~24:00(L.O.23:30)
休日:日曜このお店は閉店しました
素材の秘めたる魅力を導く
男気に満ちたイタリアン春ナスのカポナータに、野生アスパラのアンチョビソース、さらにはミートソースのパスタ…。運ばれてくる料理はどれも素っ気ないほどにシンプルである。なのに、一口食べた時にこみ上げてくる多幸感はたとえようがない。カポナータは柔らかな春ナスの食感をいかしつつ塩味と酸味、油のバランスが秀逸で、野生アスパラはアンチョビソースで食材の鮮烈な味わいをそのままに。うまさがガツンと脳天を直撃し、食べることの純粋な喜びを呼び覚ましてくれる。
そんな料理の数々を生み出すのが【メッシタ】のシェフ・鈴木美樹さん。毎朝7時には築地へと足を運び、食材を吟味してはその日のメニューをひねり出すのは鈴木さんの毎日の日課でもある。厨房はひとりで仕切るがゆえ、16時の開店に合わせた仕込みも営業中の調理をこなすのもここでは当然鈴木さんひとりだ。体力のある男でも簡単には真似できることじゃない。が、そんな仕事の積み重ねが食べ手に訴えかける料理を生み出すのである。もちろん、そこにはイタリアンの鬼才、澤口知之氏の下で働いた10年と、イタリアで過ごした4年半の修業時代に培われた技術と精神力、そして感性が根底にあってのこと。「女性シェフのイタリアン」。されど、男気は満載である。 -
モルソー
- 一生懸命作った料理でご主人が喜んでくれたことが料理人を志したきっかけ。いまでも「人を喜ばせたい」という思いは、シェフの料理の根幹を支えている。素材選びから仕込み、調理、盛り付けに至るまで、すべてが徹底したゲスト目線
- 『自家製ハンバーグ+フォアグラソテー』。フォンドボーベースのキノコソースの濃厚な旨みが決め手
- 『初ガツオとアボカドのプレッセソーストマト』。藁で炙ったカツオの旨みを、複雑なソースが引き立てる
- 白と木目が基調のインテリアのなかで、生花の瑞々しい存在感が際立つ。シンプルな内装もシェフの意向
- ボトルワインは3,500円から。フランスを中心に、チリ、スペイン、オーストラリアなどの銘品もセレクト
モルソー
予約専用番号:050-5871-3560 お問い合わせ専用番号:03-6550-8761 住所:東京都千代田区有楽町1-1-2-2階
営業:ランチ 11:30~15:00 (L.O.14:00)/ディナー 18:00~23:00 (L.O.22:30)
休日:不定休 お店の詳細情報を見る繊細な盛り付けのなかに
力強さを秘めたフレンチ秋元さくらシェフの花が咲くような笑顔に迎えられてカウンターへ。旬素材たっぷりのアラカルトを選び、オープンキッチンでシェフの技をしばし眺める。登場する料理の華やかな盛り付けに驚きつつ、ソムリエであるご主人が選ぶワインを傾ける。その頃にはきっと、どこか心浮き立つような気分を感じることだろう。「ただお客様の喜ぶ顔が見たい」、そんなシェフの思いが結実した店。この店には人を自然と笑顔にする不思議な磁場が働いている。
もちろん、もてなしの心の根底にはおいしさがある。「女性であることへの期待を、良い意味で裏切りたい」という料理は見た目の繊細さとは裏腹に、キリッとエッジが立つ味わい。スパイスが利いたハンバーグ、ハーブが複雑に絡み合う魚介の前菜、大地の力が凝縮した野菜。料理だけで完結する旨みをたたえながら、ワインと寄り添う深みもまた兼ね備えているのだ。女性らしい美的センスに隠された、職人としての妥協なき技。目に美しく舌に新しい料理は、この穏やかな空間でいっそう輝きを増している。 -
梅香
- 名店【趙楊】仕込みの技に磨きをかけ、自らの個性に昇華した山村シェフ。吟味した食材、丁寧な下ごしらえや火入れ、さまざまなスパイスのバランス。そんな基本をしっかりと積み重ねながら、正統派四川料理で真っ向勝負
- 『牛スネとハチノスの冷菜』。八角、フェンネルなど12種ほどのスパイスの競演。自家製辣油の辛みも秀逸
- 『汁なし担担麺』。四川料理の魅力である異なる香りの調和がポイント。厳選した四川山椒の痺れる辛さも自慢
- 極力無駄を廃したシンプルなインテリア。各テーブルだけに当たるスポットライトで、プライベート感を演出
- 知らなければ見過ごしてしまいそうな店構え。飾り気のない自然体は、山村シェフの姿そのものを表しているよう
梅香
予約専用番号:050-5871-3561 お問い合わせ専用番号:03-3260-2658 住所:東京都新宿区横寺町37-39 中島第一ビル1F
営業:12:00~L.O.13:30、17:30~L.O.21:30
(土・日・祝~L.O.21:00)
休日:月曜、第2火曜、火曜日ランチ お店の詳細情報を見る刺激的な正統派四川料理を
少し優しく、女性らしく「お店は疲れた人を癒す場所。だから料理は普通のもの、自然体のものを」。そんな言葉通り、山村光恵シェフの料理は奇をてらうことがない正統派だ。ただし“普通のもの”のレベルは、予想を軽々と飛び越えてくる。たとえば名物の『汁なし担担麺』なら、箸で混ぜるだけでふわりと立ち上る香りに驚かされるだろう。上質な花椒の、鮮烈でありながら角のない芳香。口から鼻に抜けて弾けた辛みは、柔らかい余韻を残して消えていく。あるいは『牛スネとハチノスの冷菜』の複雑に絡み合うスパイスの妙。ひとつ分量が変われば瓦解してしまうような無数のスパイスが、絶妙なバランスを保って共存している。マイルドな優しさに潜む、力強い辛さと香り。そこには名店で磨いた技とともに、やはり女性らしい繊細さが作用しているのだろう。
修業時代にはワインバーに飛び込み、ソムリエの資格も取得した山村シェフ。その飽くなき探究心もまた、シェフの持ち味だ。四川料理とワインの未知なるマリアージュ、そして“普通”のなかに隠された深い旨みと刺激の余韻。そんな美味の数々に、たしかに心癒される一軒だ。 -
天茂
- 店の中央、コの字形のカウンターに囲まれた揚げ場に立つ高畑粧由里さん。会話中の穏やかな表情から一転、天ぷらの揚がり具合を見極める瞬間は職人の顔になる。サービスは先代の頃と同様、母の倉茂和子さんが担当する
- 『海老』は夜のコースの定番。身は薄く衣をつけてソフトな食感に仕上げる。頭は素揚げにしてカリカリに
- 『しいたけの海老詰め』。肉厚のしいたけを割ると、中から細かく刻んだ海老が登場する。夜のコースより
- ひとりで揚げ場を任されてから約17年。父から受け継いだ【天茂】の味を今もなお頑なに守り続けている
- コースのシメとして人気の『天茶漬け』。緑茶をベースにしたお茶を注ぐことで、さっぱりした味に仕立てる
天茂
予約専用番号:050-5871-3562 お問い合わせ専用番号:03-3584-3746 住所:東京都港区赤坂3-6-10 第3セイコービル2F
営業:11:30~L.O.14:00、18:30~L.O.20:30
休日:土曜、日曜、祝日 お店の詳細情報を見る名人と言われた父の味を
ひとりの職人として頑なに守り続ける白衣を纏った体は小柄で、和帽子から短く切りそろえた黒髪が覗く。創業50年の天ぷら屋【天茂】。その揚げ場に高畑粧由里さんが立つようになってから、20年が経つ。先代の父・倉茂富夫さんは各界の名士から贔屓にされ、赤坂にこの人ありと言われた名職人。粧由里さんは一人娘だが、「店を継ぐなんて考えたこともありませんでした。女性にできる世界ではないと思ってましたから」と言う。
だがある日、働き盛りの父を病が襲う。教師としての道を歩んでいた粧由里さんは、家業を手伝うため夜は父の助手として働くようになる。職人の矜持で揚げ場に立ち続ける倉茂さんだったが、病状は好転しない。
「そのうち、このまま店を閉めてしまうのはもったいない、とお客様から言われるようになりまして。私にできるのなら、やってみようかと。教師は他の人でもできますが、父の後を継げるのは私しかいませんから」 海老はマッチ棒一本分くらい生の状態を残して油から上げる。穴子は中までしっかりと火を通して。名人から天茂流の技を伝授され、やがてひとりで揚げ場に立つように。
「父の味をいかに守るか。それだけを考えています」と粧由里さん。女性ではあるけれど、あくまでもひとりの職人として。受け継ぐことの尊さが、ジンと胸に染みわたる。
※このページのデータは、2014年5月上旬取材時のものです。メニュー、営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。