琵琶湖を見下ろす隠れ家オーベルジュにて。チェックインからはじまる発酵体験

 京都と滋賀の県境にそびえる、琵琶湖を見守る霊峰・比叡山。深い緑に囲まれたドライブウェイを走ってたどり着いたのは、霊験あらたかな天台宗総本山 比叡山延暦寺の続き地に佇む【星野リゾート ロテルド比叡】だ。“発酵”をテーマに、琵琶湖周辺で発達した食の体験や、滋賀の食材をふんだんに盛り込んだフレンチを堪能できるオーベルジュとして、女性を中心に人気を集めている。

京都の川床から着想を得た【山床カフェ】は、標高650mの森にせり出した天空のくつろぎスペース。空中に浮かぶような感覚で、琵琶湖を見下ろすことができる(15:00~17:00)

 レセプションでチェックインを済ませると、まずは【近江発酵茶サロン】へ。近江ほうじ茶専門店・丸吉にオーダーして、オリジナル発酵で仕上げた「完熟ほうじ茶」「熟成ほうじ茶」「本ほうじ茶」の3種が運ばれ、ウェルカムティを兼ねた利き茶体験ができる。まずは色や香りの違いを確認。飲み比べてみると完全発酵の完熟ほうじ茶は、紅茶のような風味ですっきり後味も爽やか。半発酵の熟成ほうじ茶は、プーアール茶を思わせるふくよかな香りがする。ごく軽い発酵の本ほうじ茶になると、独特の香ばしさがしっかりと感じられ、同じ近江茶でも発酵の度合いで変化する味わいに驚くばかりだ。

利き茶で飲み比べができる3種の発酵ほうじ茶は、滞在中、無料で利用できるサロンでも自由に味わえる。レセプションに隣接したショップでも販売。ロテルド比叡オリジナルなので、お土産にも最適。各702円(税込)

 聞けば、日本茶の栽培は、延暦寺の開祖・最澄が、遣唐使として訪れた唐から茶の種を持ち帰ったことに始まるとか。お茶といえば京都や静岡の印象が強いが、意外にも発祥の地は琵琶湖周辺、「近江茶」が日本最古とされているなど、お茶の歴史に触れられるのも楽しい。

 また、夕暮れ時午後5時からは、ソムリエによるワインテイスティング講座も開催。ディナーを前に、より料理を楽しむべく、発酵の恵みであるワイン選びのポイントを学べる趣向だ。これらの体験が、宿泊者ならすべて無料で参加できるため、少し早めの到着がおすすめ。次から次へと展開する発酵体験に、期待が高まる。

大きな吹き抜けが広がりを与える、ゆったりとした贅沢な設計。白を基調に、朱を効かせたシンプルで優雅な空間。中庭が見える地下のラウンジへと続く、宮殿のようなダブルサーキュラー階段も、ここが日本であることを忘れさせてくれる

発酵を取り入れた上質なフレンチを、日本酒とのペアリングで愉しむ

 【山床カフェ】で琵琶湖を眺めながらのティータイムや、ライブラリーで発酵文化や近江の歴史を綴った本に目を通したりと、日が暮れるまで思い思いのリラックスタイムを過ごしたら、いよいよディナーの時間。昼とは違い、窓の外には煌めく夜景が広がっている。近くは比叡平、天気が良ければ大阪まで見渡せるほど。天空気分を味わえるロマンチックなシチュエーションで味わえるのが、琵琶湖周辺で守られてきた食文化を果敢に取り入れ、フレンチと融合させた「発酵キュイジーヌ」だ。

滋賀県出身の岡 亮佑シェフ。辻調理師専門学校を卒業後、神戸の北野ホテルで3年半、東京のレストランオマージュ、ピエール・ガニエールなどを経て、2017年3月から料理長に就任

 指揮をとる岡 亮佑シェフは、地元の滋賀出身。鮒鮓の記憶は、親戚一同が集まる賑やかな食卓の時に登場する、酒の肴だったという。伝統食として身近に感じながらも、日常的ではなかったからこそ、初めて鮒鮓を口にするゲストの気持ちも分かり、フレンチにどう取り入れるべきかも熟知している。いわば、最も適役の料理人だ。

 鮒鮓を使ったスペシャリテも「ありのままの鮒鮓をダイレクトに取り込めば、インパクトが強すぎる。あくまでもフランス料理としてのフレームは崩さず、さりげない酸味やアクセントで、美味しい発酵を楽しんでいただけたら」と思いを語る。

『フランスと近江の鮮烈な出会い』と題した、シグネチャーディッシュ。濃厚なフォアグラのテリーヌに、四年熟成し甘露漬けにした鮒鮓の卵巣で、ほのかな甘辛味と酸味、干しぶどうで果実味を忍ばせた一品。パスタ状にカットしたインカのめざめは、フリットとボイルで異なる食感も演出
鮒鮓は江戸時代からの伝統製法を今に伝える近江の老舗【四百年鮒寿司 総本家 喜多品老舗】の「四〇〇年鮒寿し 大溝甘露漬」を使用。鮒鮓を酒粗に漬けて熟成させたほのかな甘さが特徴

 コースでは、ほかにも桂剥きにした蕪のピクルスや、麹のショコラムースなど、軽やかに“発酵”を感じさせながら、琵琶鱒や近江牛の熟成肉など、地元の食材を織り交ぜ、近江豊かな食文化を演出。また料理に使われる水は、比叡山の霊水。霊峰に湧く清き水と、古来の食文化を秘めた発酵フレンチという組み合わせも、神秘的なパワーを取り込めるような特別感も気分がいい。

 またお酒を合わせるなら当然ワインも魅力的だが、ここでは近江の水から生まれ醸造された日本酒のペアリングもおすすめだ。希少な地酒から、酒ディプロマを取得したソムリエが、料理に合わせた銘柄を、前菜からデザートまでワイングラスでサーブしてくれる。

一皿ごとに合わせてくれる日本酒は、すべて冨田酒造の七本槍を中心とした地酒。醸造数が少なく、これだけの種類を味わえるのも希少。アミューズは辛口のスパークリング、強い味わいの鮒鮓には、余韻の長い純米酒など、ワイングラスでマリアージュを楽しませてくれる

 “発酵”ではないお皿も洗練されたフレンチのエッセンスが光る。特にメインの牛肉はぜひ頼んでほしい一皿。熟成肉で話題の滋賀県の肉屋【サカエヤ】から地元ブランド牛の近江牛を仕入れ、その香りを生かしてロティに。ペアリングは純米酒「渡船」を熱燗で。温めることで生まれる酒のほのかな苦味がソースにコクを与える一方、料理の温度を合わせることで引き立つ肉の脂の甘みを味わう趣向だ。

【サカエヤ】から仕入れた近江牛のロティ

 とはいえ、“発酵キュイジーヌ”の大トリは、やっぱり発酵で〆。麹でまろやかに仕上げた『ショコラブランのムース』。ふわりとかぶせたココナッツチュイールからほのかに透けるイチゴと一緒にほおばると、イチゴの練乳がけを思い出す、なごみの味わい。スプーンで割ると、パリパリと弾けるような歯ごたえが軽やかさを添えている。

白い世界が美しいデザートの『ショコラブランのムース』。ムースのほのかな甘さが心地良い。

 この「発酵キュイジーヌ」、実は今まで宿泊者限定だったのだが4月から外来客も受け入れることになったそう。夕方、暮れてゆく琵琶湖の遠景を眺めながらアペリティフをして、きらめく夜景を見ながらのディナーはとてもロマンチック。宿泊してゆっくりとすごす休日も、日帰りで尋ねる贅沢ディナーも、パワースポット比叡山でいただく「発酵キュイジーヌ」は心も体もきれいになるに違いない。

シックなインテリアでまとめられたレストラン【ロワゾ・ブルー】。一面に大きくとった窓からは、パノラマの壮大な景色が広がる。緑豊かな比叡山の自然から、遠くは京都タワー、大阪のビル群まで望める。営業時間は17:30~19:30(L.O)、冬期(12月~2月)は17:00~19:00(L.O)
宿泊は比叡山のパワーを感じる「星野リゾート ロテルド比叡」で

琵琶湖の恵みと、近江に伝わる発酵料理を用いた美食のオーベルジュ。山の傾斜地を利用した地下1階、地上2階からなるホテルは、全29室、ゆったりした造りの客室を備えた山上のリゾートだ。全室に精油をセットしたアロマディフューザーや、コーヒー好きにうれしいラッセルホブズのカフェケトルなど、快適なステイのためのアメニティも細やか。体の中から美しくなる発酵食を楽しんだ翌朝は、少し早起きして、比叡山の朝のお勤めへ。早朝6時にロビーに集合し、専用バスでまだ観光客のいない比叡山延暦寺へ。途中、琵琶湖を一望できるスポットで日の出を拝んだりと、ドライブ気分も楽しめる。

星野リゾート ロテルド比叡
電話 0570-073-022(星野リゾート予約センター/9:00~20:00)
住所 京都市左京区比叡山一本杉(MAP
1泊2食付き(一室2名宿泊の1名分)24,000円~(税サ込)

地図

撮影/蛭子 真 取材・文/みやけなお

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