「最後に食べてもらうからこそ、土鍋で炊いたおいしいごはんを味わってもらいたい」。そのために日本料理屋【らん亭~美日庵】の五十嵐公さんは会津産コシヒカリを使ってきた。それを今年から「福、笑い 」も使うというのだ。いったいどんな料理に新品種の米を合わせて食べさせてくれるのか。祇園で5年修業し、家業の日本料理店を継承。ふくしま指折りの日本料理屋に成長した【らん亭~美日庵】の光彩の一皿を、日本一を目指して開発された「福、笑い」と一緒に味あわせてもらった。

ふくしまで120年続く日本料理屋の4代目、五十嵐公さん

今年から提供するふくしまの新たなブランド米。〆の料理と一緒に新品種「福、笑い」を味わって

住宅街の路地に静かに佇む【らん亭~美日庵】の玄関口

 福島県郡山駅からクルマで15分。閑静な住宅街にひっそりと佇む店舗がある。五十嵐公(いさお)さんが大将をつとめる、ふくしま屈指の日本料理屋【らん亭~美日庵(びびあん)】である。五十嵐さんの料理を食べるために北海道や都内、関西からわざわざ足を運ぶ常連客も多いそうだ。
 五十嵐さんは大学卒業後、京都祇園の割烹【川上】で修業し、ふくしまに戻った。修業先で習得した懐石の技と、ふくしまの食材を融合させた日本料理を供するために五十嵐さんが最も大切にしてきたのが食材である。
 なかでも饗宴の最後を飾るごはんは、口が奢ったどんな客も黙らせる、最上級の米を選んできた。これまで長年五十嵐さんが炊いてきたのは、世界一うまいとされる会津産コシヒカリだ。会津は水が豊かなだけでなく、昼夜の寒暖差がとびきりうまい米を育んできた。
 ところが、今年から「福、笑い」も使うと宣言したのである。

土鍋ごはんが【らん亭~美日庵】の名物料理。そのスペシャリテに「福、笑い」を使う

  「米どころ、ふくしまは米がうまい。そのなかでもとくに農家の方が手塩にかけて育ててきたのが『福、笑い』です。そのまま食べてもおいしいし、アルデンテに炊き、塩をかけて食べたらこれがまたうまい。『福、笑い』は生産量が少なく、大切に栽培しているので飛び抜けて高い。会津米よりも高いんです(笑)。でも、料理全体のなかで考えればけっして高くはない。私が作る料理の〆に、土鍋で炊いた『福、笑い』を食べていただきたいと考えました」

数々の美味と一緒に、炊きたての「福、笑い」を舌で鑑賞させてもらえる

左/食事の〆に、四季折々の食材を使った料理と 右/特製のスッポン鍋で炊きあげた熱々のごはん

 「福、笑い」と一緒に賞味するとおいしい料理の数々を五十嵐さんが用意してくれた。『きんきの煮物』、『大間産マグロのヅケ』、『うねめ牛のわら焼き』の3品である。丁寧に仕事していることが視覚で伝わってくる。

『きんきの煮物』。赤というかオレンジ色のほうが「奥会津金山赤カボチャ」

  料理の説明は、女将の絹枝さんがしてくれた。
「『きんきの煮物』には地元産の小カブをあしらい、芽ネギを添えさせていただきました」
その上に盛られた赤い野菜はニンジンかと思ったが、特別に栽培された奥会津金山赤カボチャだそうだ。
「このカボチャはまるでメロンのような甘みがあり、肉厚でほくほくとした食感があります」
 やわらかくなるまでじっくりと煮込んだきんきと奥会津金山赤カボチャ。ともに味加減が絶妙だ。五十嵐さんが自信を持ってすすめる「福、笑い」と口内調味をすることでよりおいしく感じられた。

左/舌の上でとろけるような『大間産マグロのヅケ』右/一枚一枚切ったマグロに飾り包丁を入れる五十嵐さんの所作が美しい

 醤油などに漬けておいた柵の大間産マグロを切る大将の手さばきは見惚れるほど美しく、見事だった。醤油が程よく効いたマグロのヅケを、大粒の「福、笑い」がしっかりと受けとめてくれる。甘くふくよかな「福、笑い」はマグロのヅケのような刺身との相性がいいことを五十嵐さんの職人技が証明してくれた。

地元郡山のうねめ牛。しっかりとした食感がありつつ、とろけるような味わいの赤身をわらで焼いた秀作

 うねめ牛はふくしまが誇る、郡山のブランド牛だ。郡山市で約20か月肥育した黒毛和種の雌牛で、肉質等級が「4」以上のものにこの名が与えられる。そのうねめ牛の赤身を郡山産のわらで焼いた一皿。わら焼きといえばカツオを思い浮かべるが、牛肉のわら焼きは初体験だ。
 「少し赤味が残っていますが、低温で長時間加熱してあります。奥会津の実山椒と一緒に召し上がってください。この肉は冷めてもやわらかいのが特徴です」
 郡山育ちのうねめ牛を郡山の田んぼでとれたわらで焼くこの一皿は五十嵐さんの定番であり、スペシャリテの一つでもある。うねめ牛の赤身は、くちどけの良い食感で同じくブランド米の「福、笑い」との取り合わせも抜群である。

松茸づくしに供するうねめ牛の肩ロースを用意する五十嵐さん。その脇には下北半島と岩手から運ばれてきた松茸が山のように置かれていた

 じつはこの日の夜、松茸づくしコースの予約が入っていた。下北半島と岩手から届いた松茸を、うねめ牛の肩ロースと一緒に供するすき焼きは【らん亭~美日庵】の人気料理。贅の限りを尽くしたコースの〆には、贅を尽くして育てた「福、笑い」の松茸ごはんが登場する。ふくしまが日本一を目指して育ててきた極上米で作る松茸ごはんは、秋を飾る究極のごはんといっても過言ではない。ただし、この料理を提供できる期間は松茸シーズンのみで極めて短い。興味がある方はぜひ来年お越しを。

五十嵐さんはふくしまで創業した老舗日本料理屋の4代目。だからこそ郷土の食材を探求し続ける

シックでどこか落ち着く内装。少人数から12名まで利用できる部屋が全3室

 土鍋ごはんを半分以上いただいたときに、五十嵐さんが運んできてくれた料理がある。祇園での修業時代から何度も作っていたに違いない”おじゃこ”だ。 「このおじゃこで『福、笑い』を食べてみてください」
 おじゃこで食べるブランド米はまた格別。山椒がきいた、粒粒感のあるおじゃこと「福、笑い」が口のなかいっぱいに広がっていった。
「大学卒業後、料理人だった父のすすめもあり、祇園の割烹【川上】で修業させていただきました」
 父の父も、その父も料理人だった。曾祖父が明治末期、郡山市に隣接する須賀川市で料理屋を創業。京都で修業を終えた五十嵐さんは家業を継いだ。その後、郡山市内で何度か移転。和モダンで洒落た、現在の店舗を2004年に構える。こちらの店舗はまだ新しいが、ふくしまで120年続く料理人一族の4代目なのである。だからこそできる限りふくしまの食材を食べてもらいたいという想いが強い。今年本格デビューする「福、笑い」もまたしかり。

「生産量こそまだ少ないが、『福、笑い』をできる限り通年で使っていきたい」と五十嵐さん

 女将の絹枝さんによると、今年から購入先を改めるつもりだという。
「福、笑い」の生産者は試験栽培だった昨年はわずか13人。本格的な栽培が始まった今年でさえ61人。生産者の数も生産量もコシヒカリと比べるときわめて少ない。けれど、だからこそ相性がいい生産者とめぐりあえれば、【らん亭~美日庵】の〆の料理はこれまで以上に華やかになるに違いない。

ロデオ

【らん亭~美日庵】

電話 024-934-9939(要予約)
住所 〒963-8047 福島県郡山市富田東5-101
営業時間 ランチ 11:30~14:00(LO 14:00)、ディナー 17:30~22:00
定休日 月曜日、不定休

*会員制の【割烹 らん亭】も経営

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