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大班樓 ザ・チェアマン
名家のお抱えシェフの料理をイメージし
伝統の広東の味を徹底的に再現都心にありながら、落ち着いた一軒屋の風情がある【大班樓】。かつては知る人ぞ知る広東料理の名店だったが、創業10年を迎えた今、「アジアのベストレストラン50」2019でも香港のレストラン中最高位の11位、「世界のベストレストラン50」2019では41位に中国料理店として唯一ランクイン。香港外での評判もうなぎ登りに高まっている。
「昔ながらの広東料理というのは、地元の新鮮な食材を使ってつくるものだった。それが今どきの店では、高級感を出すために、トリュフやフォアグラなどを使うようになって来ているなか、広東料理の真髄を守ろうと始めたのがこの【大班樓】」とオーナーシェフのダニー・イップ氏。
別室に設置した大きな水槽に、オーダーが入るまですべての魚介類を泳がせておく。「料理の質を安定させるには、生きた魚介類を使うことが必須。仕入れには引退した漁師を雇って、彼が毎朝6時に漁から戻ってきた漁船から魚を買い上げ、水槽設備のついた車で、店まで運んでくる」
とても珍しいのは、「豚も鶏もすべて地産」ということ。政府の方針で香港内の養豚場・養鶏場はライセンスの更新が難しくなり、今では豚は3カ所、鶏は6カ所のみでしか生産していない。「そのため高価になるが、決して冷凍肉は使いません」とイップ氏。醤油以外のすべてのソースが自家製で、ブロッコリーや生姜などの野菜とハーブは、香港の郊外にある自家農園で育てたものを多く使用している。
「100%中国の食材と調理法を用いて、昔ながらの広東料理を守りつつ、新しいアイデアを加えていく。昔の裕福な大家族では、お抱えシェフが自家農園の食材を使って作る料理を食べるという伝統文化を引き継いでいます」
頑固に伝統を貫き、これ見よがしな高級感はまったく狙わない。「舌が肥えていないと理解できない料理なので、始めたときはいつまで続けられるのか分からなかった」というイップ氏だが、「僕も他のオーナーも、別の事業で資産があるから、レストランでは利益を追求しなくていいんです。趣味としてとことん好きなようにやっています」
たとえばロブスター料理なら、小さな沢ガニの卵を取り出してまぶすというとてつもない手間をかける。ローストグースは、今では高価過ぎて誰も使わない楠を使ってスモークする。中国の山村に素晴らしい菊の花があると聞けば駆けつける。妥協なし、儲けも度外視のこだわりだ。そんな情熱と品質は、多数のゲストの舌と心に響き、クチコミだけで開店以来、昼も夜も常に満席。
代表料理『花蟹の紹興酒とチキンオイル蒸し、腸粉添え』は、香港で多数のシェフが「いちばん好きな料理」に挙げる一品。花蟹の肉にある優しい甘味は「寒暖の両方が混ざり合う、限られた水域で獲れる蟹だからこその味」とイップ氏。これを香りのいい25年ものの紹興酒と、ソースにとろみをつけるための三黄鶏の脂身で蒸す。3点の食材以外には調味料を一切使わない。
「添えている腸粉には、たくさんのレイヤーを付けている。普通の点心では見かけないでしょ。この料理専用にソースをたっぷり吸い込むように、特注でつくってもらっているものなんだ」
極上のこだわりを肩の力を抜いた普段着感覚で堪能する。これこそ究極の贅沢なのかもしれない。ますます知名度が高まっているので、早めの予約をお勧めする。シェフの流儀 ダニー・イップ氏
年に半年は、素晴らしい食材や忘れられた伝統料理を求めて訪ね歩き、学び続けているイップ氏。その原動力にするために、有名新聞にペンネームで毎週料理に関するコラムを書いている。これが【大班樓】のイップ氏だということを最近まで誰も知らなかったとか。
グローバルな食のパラダイスへ
香港の
TOPレストラン
Hitosara special
意欲的な東西融合や伝統復活など、シェフの挑戦を歓迎するダイナーが集まるのが、活気溢れる食い倒れの街・香港。
世界中から集まるシェフも食材も高水準な国際都市で、本場の広東料理はもちろん、
今の香港で食べるべき最先端レストランをご紹介します。
Photographs by Miyuki Kume, Billy Ha, Takuya Suzuki / Text by Miyako Kai, Shinji Yoshida
Coordination by Miyako Kai / Design by form and craft Inc.
※営業時間、定休日などの情報は変更されることもございますので、あらかじめご了承ください。